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二百四十六話 は? 何言ってんの? こいつ……

「さて、それじゃこれからの事を軽く話しておこうか」


 グランツがそう言うと、シアさんがメモを取り出した。


「ヴィノンとオルタンシアはもう知っていると思うけど今期、新たに勇者になるのは君たち二人を含めて9人だ。そのうち、中央大陸、連盟本部で叙任となる勇者は4名。なかなか豊作かもな」


 確かに…… 勇者任命が連盟にとって大きな行事だとしても、わざわざ海を越えて別大陸から本部まで呼びつけていてはあまりにも非効率だよな。

地球のように飛行機でひとっ飛びとはいかない。

俺達だって拠点(ホーム)からここまで来るのに、のんびり移動したとはいえ、ボル車で二週間ほど掛かっている。


「君たちが一番乗りだから他の二組が来るまで待ってもらうことになるんだが…… 道すがら、依頼こなしながら来てるパーティーが居るみたいでな。まだ一週間以上かかりそうだ。どうする? 本部の客室を使うか?」


 おい、それはいいのか?

大事な式典の開催を一週間以上遅延させるとか……。

日本の社会だと、もうそれだけで勇者任命取り消しだぞ。

これが許されるほど勇者の存在は大きいのか…… やはり、この世界の社会インフラがこれを許容しないと成り立たない程に脆弱なのか……。


 なんか、その両方っぽい気がする。


「いや、王都で宿を取るよ。こんな息が詰まりそうなところは皆、肌が合わないと思うしさ」


 ヴィノンが俺の言おうとしたことを先に言ってくれた。


「そうか…… それじゃ、滞在先が決まったら知らせてくれ」


 グランツはシアさんの方に視線を送ってそう言うと、シアさんは黙って頷いた。

その辺の連盟とのやり取りはシアさんが引き受けてくれそうだ。


「日程が決まったら使いの者を出す。ハルト君とアルエットは王都初めでだろ? それまで王都を満喫するといい」



  ……。


    ……。



 連盟を出て、ボル車で大通りを進む。

ヴィノンお勧めの宿に向かっている。

一応、富裕層区画にある宿らしいからまぁまぁの滞在費になりそうな感じがする。

まぁ、ここでコスパ気にしても仕方がないか……。


「ね、アレだよね? なんだか立派そうな宿だね」


「普段だと、もっと安宿にするんだけどね。今回は荷物も多いし、少し見栄も張っておいた方が良いでしょ」


  ……。


    ……。


 宿の食堂で夕食にありつきながら、今後の事を話し合う。

食堂が俺達だけの貸し切り個室なので結構なVIP待遇かも知れない。

多分、日輪級パーティー特典っぽいな。


「基本、日程決まるまで自由行動でいいけどさ…… ハルトきゅんは明日、僕とギルドに付き合ってもらうよ」


「別にかまわんけど、なんでだ?」


「ギルド証変更の準備しておかないとね。アルド達は最初から日輪級だから問題ないけど、僕らは変更必要だしさ、式典終わってから手続していたら、滞在時間長くなっちゃうだろ?」


「そういうことか。わかった」


「私も一緒に行くわ。王都のギルドも見ておきたいし」


「別に来てもいいけど、そんなに面白いものでもないかもよ。エーレのギルドよりデカいだけで雰囲気はそんなに変わらないし…… シアさんと市場に買い物でも行った方が……」


「いいの! ハルトは本人確認だけ済ませたら、あとはシアさんとヴィノンさんでやってくれるでしょ?」


 目を輝かせながら、アルがシアさんの方を見てそう言っている。


「承知いたしました。お任せください」


 シアさんがそう返答を返す。


「お願いね。 ……と、いうわけでさっさと用事済ませて王都の市場に行くわよ!」


「え? 俺?」


「そうよ! ハルトも初めてなんでしょ? 王都、初めて同志で見て回りましょ。あ、アルドさんも一緒にどう?」


「いや、俺はいい。ヴィノン達といるからピリカと三人で行ってくるといい」


「あれ? 俺の意思は?」


「何よぅ! 私一人で行かせる気? ハルトがいないと迷子になっちゃうかもしれないじゃない。どうせ、ピリカは無理矢理でも付いてくるに決まってるんでしょ?」


 横からむぎゅーっと俺にしがみついているピリカにそう声をかける。

ピリカは何も言わずにアルの方を見ている。

声に出さずともその目が【こいつは何を当たり前のことをいってるんだ?】そう言っているような気がした。

 俺は固有特性があるから一度通った道は忘れないし間違えない設定になってる。

実は脳内PCのオートマッピング機能なんだけどな。

そんなわけで俺が一緒なら道に迷わないし、ピリカが一緒なら護衛も申し分ないだろう。

アル自身もそれなりに腕の立つ冒険者ではある。

王都から出るわけでもないし、大丈夫そうか。


「まぁ、いいか。俺とピリカでアルに付き合うよ」


「やった! それじゃそういうことで…… 楽しみだね」



  1月22日



 朝から宿を出て全員で王都のギルドに向かう。

宿からギルドまではそれほど遠くないらしいので、徒歩での移動となった。

ゆっくりと王都の街並みを眺めながらあるくには丁度いい。


「見えてきました。あそこです。王都の冒険者ギルド」


 シアさんの案内 ……というか、ほぼ大通りに沿って進んできただけだが…… 大きな建造物が見えてきた。

規模的には俺達が宿泊している宿と同じくらいか。

そういうと小さく感じるけど、それは宿がデカすぎるけど、今までに見てきたどのギルド支部よりも大きいのは間違いない。



  ……。


    ……。



 ギルドに足を踏み入れると、訪れている冒険者達の視線が一斉にこちらに向けられる。

このシチュエーションもなんか慣れっこになってきたな。

なんでそんなことになるのか ……当然、ピリカさんの存在のせいだ。

俺と手を繋いで歩く服を着た光の精霊 ……やはり珍しいのだろうな。

冒険者のマナー的には精霊術師が精霊を顕現させているのは、剣士が鞘から剣を抜いて歩いているのに等しいらしい。

初見では周囲の視線が痛くなるのは仕方が無いな。


 今日は俺達と共に歩いているシアさんが連盟の制服を着ている。

この時点で俺達のパーティーに最低でも日輪級以上がいることが確定している。

連盟が直接支援するのは勇者とそのパーティーメンバーである日輪級冒険者だけだからな。

さすがにガシャル達みたいに絡んでくるのはいない。


 そして、意外というかやはりというか…… 王都ではヴィノンがいる事が大きい。

序列(カレッジ)1の勇者相手に軽口叩ける人脈を築いているチャラ男だ。

元々王都の冒険者だったらしいから、当然このギルドでも……。


「おい、ヴィノンだ……」


「……って事は、あの娘が【裂空剛拳】の……」


「だろうな。向こうの剣士がペポゥ討伐者の……」


「だろうな…… くそっ、ヴィノンの奴、うまい事日輪級に取入りやがって…… これでヤツも日輪級かよ」


 そんな話し声がそこかしこから聞こえてくる。

なまじ交友関係が広いとこういう時は、羨望の対象にもなりやすいか……。

顔が広いのも考えものだな。

ガシャル達にも嫌がらせを受けていたみたいだし……。

当のヴィノン本人は一切、気にする素振りを見せることなく、真っすぐにギルドの受付カウンターに進む。

ヴィノンが近づいてくることに気付いて、カウンターにいるギルド職員の女性はにこりと笑顔をヴィノンに向けた。


「あら、ヴィノンさん…… お久しぶりですね。あなたがいらっしゃったということは、こちらの方々が?」


「そゆこと…… もう、僕らの用件はわかるよね?」


「ええ。日輪級への切り替えだと時間がかかりますものね。新しい勇者、アルエット様とアルド様ですね。お会いできて光栄です」


 二人に挨拶すると、受付嬢は手続きの準備を始める。


「これで、ヴィノンさんも勇者パーティーの日輪級冒険者ですね。次に合うときはもう気軽にヴィノンさん ……なんて呼べなくなってしまいますね」


「はは、よしてくれ。別に僕が勇者になるわけじゃないんだし…… 今まで通りでいいよ」


「そうですか? そちらの精霊術師がハルトさんですね。ギルド証を確認させてもらってもよろしいですか?」


 受付嬢にそう言われ、ポケットから木製のギルド証を手渡した。

冒険者としては最低ランクの無等級のものだ。


「等級無しだと? そんな噂はあったけどよぉ…… 本当だったのか……」


 チラチラと横目でこちらの様子を伺っていた周囲の冒険者達から一瞬、ざわっと声が上がった。


「無等級からいきなり日輪級の切り替えの手続きなんて、私も初めてです」


「すごいでしょ? 長い連盟の歴史の中でも初事例かもよ?」


 ヴィノンが自慢げにそんな事を言っている。

よしてくれ、そんな形で悪目立ちはしたくない。


「……確認しました。こちらはお返しします。切り替え時まではこちらを持っていてくださいね」


 そう言って、受付嬢がヴィノンの銀等級と俺の等級無しのギルド証を返却してきた。

返されたギルド証を受け取る。


「確認は終わったわよね? あとの手続きはヴィノンさんと彼女に任せても?」


「えっ? あ、はい大丈夫です」


 後ろからアルに声を掛けられて、受付嬢が少し緊張気味に答える。


「だってさ、行きましょう! ハルト! シアさん、あとはお願いね」


「かしこまりました。お任せください。夕方にはお戻りくださいね。ハルトさん、アルエット様の事、お願いします」


「了解! 任された…… ピリカが……」


「またそんな言い方…… そこは嘘でもハルトさんが任されてください」


 そんな軽口が言えるくらいには、シアさんとも打ち解けてきた気がする。

ここの事は彼女たちに任せて、俺達は王都のギルドを後にする。



 ……。


    ……。



 ギルドを出て程なく大通りを歩いたところに屋外にテーブルを並べているカフェが視界に入った。


「ね、あそこよくない? ちょっとお茶していきましょ」


 足取りも軽く、アルがカフェの席に向かっていく。

もうルンルンだな。

大学生ぐらいの頃にウチで買っていたワンコがうれしい時、あんな足取りで歩いていたな。

実にわかりやすい。


 適当に店のおすすめを頼んで、街の雑沓を眺める。


「私がこうして王都に来られる日が来るなんてね…… ホントに思いもしなかったな……。って、あら? あそこ ……精霊じゃない? 流石王都よね。案外精霊術師もいるみたいじゃない」


 アルが指差す先、大通りの反対側に透き通った人型の何かが浮かんでいる。

その隣に長髪の身なりいい男が立っている。

あの男が精霊術師だろうな……。

周りに数人の冒険者風の男女が居るみたいだから、冒険者パーティーだろうな。


 あ…… こっちに向かってくる。

精霊と精霊術師と思しき男だけがこちらに向かって歩いてくるのがわかる。


「なんかこっちに向かってくるね」


 まぁ、ピリカさんが常時顕現してるし ……そりゃ目立つよな。

ピリカさんがこちらに近付いてくる精霊をめっちゃ警戒してる。

これはまた【シャシャァッ】が出るかもな。


 向こうとの距離が近くなってきて、精霊の容姿が判別できる様になってきた。

全身が水で構成された全裸で肩上までの髪の美人の精霊だ。

昨日見かけた土の精霊のようなダイナマイトバディではないが、この精霊も中々いいプロポーションだ。


「水の精霊だね…… って、ハルト、精霊の事ジロジロ見すぎだよ!」


 ちょっとアルの機嫌が悪くなった。

しかし、あれを見るなというのは無理だろ。

ピリカさんもあの精霊が視界に入ってから機嫌が悪い。

ってか、あの精霊術師もなんでこっちに来るかな。


 そんな事を考えていると、精霊術師の男とその推定契約精霊が俺達の前までやってきた。

はぁ、やっぱり、俺達が目的か……。


 精霊術師がじっとピリカの事をじっと見ている。



  ……。


    ……。


 えっと、何?


 何なのこの男?

こいつの契約精霊もじっと俺の方を見ているだけで微動だにしない。

ピリカさんもめっちゃ身構えている。

これは【シャシャァッ】五秒前かな?


「す…… すごいぞ! こいつはっ! ハハハハッ! 素晴らしいいぃっ!」


 えっと、なんだコイツ ……壊れたのか?

ピリカをしばらく見つめていたかと思ったら、突然笑い始めたりして……。


「あーっ、いや、すまない……。 これ程の精霊は見た事が無かったからつい ……ね。君がこれの契約主だね?」


「えっと…… 突然、何なんでしょうか?」


「その君の精霊だけどね。僕に譲ってくれたまえ」


 は?

何言ってんの? こいつ……。


 9月一杯休めると思っていたのに、明日から仕事になってしまいました。

しかも、異動が取り消しになってしまい、同じところに出勤です。

 イキタクナイ……ハタラキタクナイ……。


 ブックマークありがとうございます!とても嬉しかったです。


 明日から投稿頻度下がるかもですができる限り頑張ります。

ブックマーク・評価ポイント・いいねなど反響いただければ嬉しいです。


引き続きよろしくお願いします。

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