二百四十四話 本当に何者だ?
ひと際、豪華な門をくぐり、本部の入り口にボル車を横付けすると連盟の職員が三人ほど駆け寄ってくる。
ボル車からシアさんが降りて来て、職員たちと二言三言、言葉を交わす。
そういえばこの人は一時、連盟を抜けていたけど今は俺達⦅というかアル⦆のパーティー専属の職員として復職していたんだっけ……。
連盟職員の定型の挨拶にアルは、淡白に返答してやり過ごす。
そのあたりは事前にシアさんからレクチャーがあったのでその通りの対応だ。
取ってつけたような職員の対応にはさらっと流してOKみたいなことを言われていた。
アルドの方にも別の職員が同じような挨拶をしている。
こっちもさらっと流そうとしているのだが、少し手間取っている感じがする。
あいつは根が真面目だからな。
わかってはいても、悪意のない相手をバッサリと塩対応であしらうのは気が咎めるのかもしれない。
新しい勇者に気さくに話をしてもらったと思われたのか、次々と職員がアルドのところに群がってきている。
このままだと、ここで長時間足止めを食らいかねない。
助け舟を出してやった方がよさそうだな。
とはいえ、俺が割って入っても若造だと舐められるかもしれない。
「ヴィノン、ちょっと助けてやってくれないか?」
ここは素直にヴィノンに何とかしてもらうことにした。
ヴィノンは何も言わず、にこやかに頷いてアルドの方に向かう。
「ああ、すまないけど、そろそろ案内を頼めるかな? 君たちの仕事は勇者を足止めする事じゃないだろ?」
ヴィノンにそう言われた連盟の職員達は、蜘蛛の子を散らすように各々の持ち場へと戻っていく。
「失礼いたしました。ボル車は我々の方で厩に回しておきますので、皆さまはこちらへ……。応接室へご案内いたします」
「モテモテだな、アルド」
冗談交じりにそう声を掛ける。
「そういえば、セラスが勇者になった時もこんな感じだったと聞いたことがあるな。ああいう連中は、自分の顔と名前を憶えてもらって少しでもコネを持つきっかけにしたいんだとか ……そんなことを言っていた」
「勇者から専属職員の指名を受けられれば、この上ない名誉だからね。新しい勇者任命というのは彼らにとっても一気に出世できる大きなチャンスなのさ。でも、すでに僕らにはシアさんという超優秀な専属職員がいるから…… 申し訳ないけどお呼びじゃないんだよね」
ヴィノンがそうアルドの言葉を捕捉した。
なるほどな…… そういうものなのかもしれない。
「ん? シアさんの家計って代々、二つ名持ち勇者であるガル爺の専属だったよな? 何気にこの人、連盟内部で相当偉い立場だったり?」
「ハルトきゅん…… いまさら気付いたのかい?」
マジかぁ……。
今、この世界にいる勇者の総数は400人強……。
勇者とそのパーティーメンバーが日輪級の冒険者の扱いになるが、複数の勇者がいるパーティーもあるし、全員勇者で構成されるパーティーなんかもあるらしい。
ヴィノンやシアさんの話では序列が上の勇者ほど、勇者同士でパーティを編成したがる傾向は強いらしい。
冒険者パーティーメンバーに明確な人数制限は特にない。
平均して勇者一人当たり4人のパーティーを構成していると想定しても全世界で日輪級は2000人にも満たない計算だ。
連盟は彼らを助け全面的に支援する組織……。
国やギルドからの支援や助成…… 人々が治める税の一部も勇者や連盟に充てられているって話だ。
そんなレベルで世界中の人類から担ぎ上げられている勇者という存在を一手に擁する勇者連盟……。
やはり連盟こそがラライエで最高の武力と権力を持つ組織なのは間違いないだろうな。
あ~、やだやだ。
Fラン大卒 ⇒ 社畜エンジニア ⇒ ヒキニートのこどおじ
どう考えたって、こんな経歴の俺が関わって良い組織じゃないんだけどな。
俺達を案内する職員の後に続いて、城と殆ど変わらない大きさの屋敷を進む。
……。
……。
ギャグみたいに広い屋敷の廊下を進むこと、数分……。
「こちらです」
これまた広くてシンプルながら上品で広い部屋に通された。
俺達全員が部屋に入って1分もしないうちにメイド服を着た女性が二人、ティーカートを押して入って来た。
えっと、この人たちはどこに居たんだ?
外の廊下は見通しの良い一直線だったはず…… 1分以内に熱々のティーセットを運び込むにはすぐ近くで準備を整えておかないと無理だろ。
なんか奇術めいたギミックでも仕込んであるのかもしれない。
ピリカさんが全く気にしている素振りも見せていないので、ピリカの索敵には早い段階で引っ掛かっていたのは間違いない。
この人たちがどこに居たのか後でピリカに教えてもらおう。
二人の女性が俺達のお茶の準備に取り掛かろうとした時、シアさんがそれを制する。
「ご苦労様。あとは私がやります」
シアさんがそう声を掛けると、二人は何も言わずシアさんに軽く頭を下げるとそのまま部屋を出て行った。
どうやらこの人はマジで連盟の職員の中ではそこそこ偉いみたいだ。
シアさんはいつもの慣れた手つきで、人数分のお茶をカップに注いでテーブルに並べていく。
「あのさ、これいつも拠点で淹れてもらっているお茶と同じ気がするんだけど」
出されたお茶を一口飲んだ素直な感想を言ってみる。
「そうでしょうね。同じものですから」
この人、さらっと言ってのけたけど、俺達が日常的に口にしていた茶葉が連盟から調達されていたとはね……。
そんな他愛のない話をしていると入口が開いて、一人の男が入ってきた。
なんか上品そうな三十代前半の中肉中背のナイスミドル ……というには少し若い印象だ。
ピシッとした白を基調をとした、上品そうなスーツを着こなしている。
一見優男のような雰囲気に見えるが、体格的には相当に鍛えられている感じがする。
ピリカさんの目つきが一瞬だけ鋭くなったような気がした。
この男…… 連盟職員ではなく勇者かも知れない。
連盟の制服も着ていないしな。
そして、ピリカさんの刹那の反応はこの男は要注意と認識させるのに充分だった。
「やぁ、待たせたね」
右手をしゅっと軽く上げて気さくな笑顔を浮かべてこちらに向かってくる。
「あれぇ? どうして君が出てくるのさ。叙任はまだ先だろうし、今日の出迎えはレイあたりが来るものだと思っていたのにさ」
ヴィノンが、ほんの少しだけ毒を混ぜたような物言いで入ってきた男に言葉を投げかける。
シアさんはこの男の進路を妨げないように、一歩下がって開けて深々と頭を下げて控える。
本当に何者だ?
彼女の態度から察するにやはり勇者…… しかも二つ名持ち勇者以上と思われる。
ヴィノンはやはりというべきか…… 当然のようにこの男とも知り合いか……。
「何言ってるんだか…… 人類初のペポゥ討伐者にして、封印を破って復活してきたシュルクを討ち、大陸滅亡の危機を救った英雄達だぞ。こんな偉業を成した勇者の登場なんて何百年ぶりだ? 当然、俺が最初から出るに決まってるだろ」
そう言って、男が俺達の前までやってきた。
アルドは当然、アルもこの男が何者かわかっていなさそうな感じだ。
ピリカさんはツーンとして、この男に視線を向けようともしていない。
この男の素性が分かっているのはヴィノンとシアさんだけか。
「ようこそ、勇者連盟本部へ。君たちのような新しい勇者の仲間が増えることを心から歓迎するよ。まず、名乗らせてもらおうかな。俺の名はグランツ、一応、肩書は勇者で勇者リデルの直系だ。」
アルドとアルの二人の表情に驚愕の表情が浮かぶ。
二人がほぼ同時にソファーから立ち上がって男に頭を下げた。
これは、この男は相当な有名人だったらしいな。
グランツという名前か、それとも勇者リデルの直系…… どちらに重みがあるのか分からないが……。
とりあえず、よくわからないが俺も二人のマネをしておいた方がよさそうだ。
二人に続いて俺も立ち上がって、頭を下げておくことにした。
「ああ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。そこでのほほんとしているヴィノンと同じように楽にしてくれ」
グランツは柔らかい笑顔でそう言って俺達に座るように勧める。
グランツの言葉に従って、全員が再びソファーに腰を下ろした。
それを確認して、向かいのソファーにグランツも腰を下ろす。
シアさんだけは席につかずに、俺達の少し後ろに控えている。
多分、彼女本来の職務的なポジションがそういった立ち位置なのだろう。
グランツが軽く俺達全員の顔を確認して口を開く。
「なるほど、彼が報告にあった秘境集落出身の精霊術師ハルト君か。彼にはもう少し俺の説明が必要かな」
俺だけがこの男が何者なのか理解できていないと察したようだ。
「改めて、俺の名はグランツ…… 勇者連盟所属の勇者で、始まりの勇者リデルの直系…… 序列は1だ」
………… ………… マジかぁ。
前話投稿時、あとがきと前書きを間違ってました。
格好の悪いことになってしまっていて失礼しました。
しれっと修正させていただきました。
一週間の長期休暇も、もう折り返しです。時間の経過が早すぎる。
すぐに次の原稿をまとめにかかります。
なんとか今日明日中に投稿したいところです。
ブックマーク付けてくださった方、ありがとうございます。
とても嬉しかったです。
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