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二百四十一話 俺達は勇者パーティーだけどなにか?

 一体、いつから…… てか、いつの間にそこに来たんだ?

俺はもちろんパーティーの誰も…… ピリカですら察知できなかったって事だよな?


「えと…… あの、俺に何か用ですか? お姉さん、ものすごい格好ですけど ……その、平気なんですか?」


 いや、もちろんわかっている。

この状況が普通じゃないことは……。

平静を装って話しかけたのは、ズボンの後ろポケットから【プチピリカシールド】の術式を取り出して発動させるための時間稼ぎだ。


「!! マズいっ! ハルトきゅんっ!」


 御者席のアルドの隣に座っていたヴィノンが俺の眼前に突然現れた全裸の女に気付いて、ボル車から飛び降りてこちらに走ってくる。


「土の精霊…… ハルト! 逃げてっ!」


 アルも状況に気付いて、必死に俺に危機を伝えようとしている。

何? このお姉さんは精霊なのか?

ラライエに来て九年以上経過しているが、ピリカ以外の精霊に遭遇した事が無かったからまるで実感が無かった。

何しろ、この精霊には明確な存在感がある。

ピリカとは受ける印象がまるで別物だ。


 アルもヴィノンに続いてボル車から飛び降り、こちらに駆けてくる。

その手には突撃槍が握られている。

ヴィノンも腰のブーメランを手にして、すでに【マリオネット】の詠唱に入っている。

しかし、この精霊が俺に危害を加える意図でここにいるのなら、二人の助けはとても間に合いそうにないな。


 ちょっとマズいかもしれない。

これ…… 【プチピリカシールド】がこの精霊の初手の攻撃を防げない場合は死ぬんじゃないのか?

そんな考えが頭をよぎった次の瞬間、超高速で俺の隣にピリカがすっ飛んできた。

そして、間髪入れずに……。


「シャシャァーーッ!!」


 目前の精霊に【シャシャァッ!】をお見舞いして威嚇する。


 えっと…… 何してんの?

なんでこの状況で【シャシャァッ】なんだよ。

しかし…… 【こうかはばつぐんだ】 ……というやつだった。

目の前にいる褐色のダイナマイトバディの精霊はピリカさんの【シャシャァッ】を見た瞬間、恐怖に(おのの)いた表情を浮かべる。

恐怖のあまり、精霊は半べそをかいて二・三歩後ずさると、サァっと粒子が拡散するように崩れて姿を消した。


「ハルトきゅん! 無事かい?」


 アルとヴィノンが俺とピリカの所までやってきた。


「え? あ、ああ平気だ。ピリカが追い払ってくれたみたいだからな」


「何言ってるの! 油断しないで! まだ、その辺にいるかもしれない」


 ヴィノンとアルは武器を構えたまま全周囲警戒の姿勢を崩さない。


「精霊ちゃんが常時顕現しているから忘れちゃったのかい? 精霊は普通、姿が見えない。それこそが精霊の最も恐ろしい所でもあるんだって」


 ヴィノンの言う通りだ。

ピリカは俺に見えるように常時姿を現しているが、精霊としてのデフォルトは視認不可能な状態のはず……。

俺にとって精霊という存在はピリカしか知らなかったから、全く認識していなかった。


「ピリカ、さっきの精霊はまだこの辺にいるのか?」


「うん、あそこに……」


 ピリカは王都入りの順番待ちをしている行列の方向を指さした。

アルとヴィノンがピリカの指さす方向に武器を構えて精霊の襲撃に備える。


「ま、待ってくれぇ! 武器を収めてくれないかぁ!」


 行列の方から男が一人、そんなこと叫びながら走ってくるのが見えた。

誰だ? あれは俺達に向かって言ってるよな?


 男との距離が短くなってきて、男の風体がはっきり分かるようになってきた。

ローブを着たやせ型のちょっと冴えない感じ ……二十台前半ぐらいの若い人間の男だな。

魔術師かと思ったが首から俺と同じ精霊術師を示すメダルをぶら下げている。

ヴィノンもそれを確認したのか武器を腰のベルトに戻した。


「さっきの土の精霊は彼の契約精霊かな? どうやら敵じゃ無さそうだね」


「はぁはぁ…… すまない。俺の契約精霊が驚かせてしまって…… 今までこんなことは無かったんだけど……」


 息を切らせながら、精霊術師が俺達にそう言って詫びてくる。


「気を付けてよ。今のは僕たちに君の契約精霊が討伐されても文句は言えない状況だったからね。契約精霊の管理はしっかりとね」


 ヴィノンがそう精霊術師を(たしな)めた。


「ああ、わかっている。だけど……」


 精霊術師が俺とピリカの方に視線を向けて言葉を続ける。


「言わせてもらうが、それはお互い様じゃないのか? 常時、光の精霊を顕現させるとか…… これは君の契約精霊なんだろ?」


「ああ、そうだけど……」


「服を着ている精霊なんて初めて見たよ。こんな珍しい精霊を顕現させっぱなしなんて、他の精霊の興味を引いてしまっても仕方がないだろ?」


 えっと、そういうものなのか?

さっきの精霊はピリカではなく俺の前に現れたような気が……。


「まぁ、僕達もそこは否定しないけどね。でもさ ……君、文句を言う相手が悪いよ」


 ヴィノンからそう指摘されて、精霊術師はハッとする。

今、俺達が向いているのは王都入りの順番待ちをしている行列がある道とは別の方向。

つまり、あっちの門から行列に並ばなくても王都に入れるということだ。

これは俺達がこの世界における特権階級に属することを意味する。

この精霊術師からすれば、シアさんを除く四人は明らかに冒険者に見えるはず。


 俺達は勇者パーティーだけどなにか? 


 ヴィノンは、この男に暗にそう言って引か下がらせようとしているわけだ。

あまりそういうのをひけらかすのはどうかとは思う。

……が、これで他の冒険者とのつまらないいざこざをスパッと終わらせることが出来るのなら、今後そういった選択肢を取ることも頭の片隅に入れておいた方が良いのかもしれない。


「も、申し訳ございませんっ! 別に俺はあんた達に難癖(なんくせ)付けようと思ったわけじゃなくって…… その、この方の契約制精霊が【最上威嚇態勢】を取っているのに、全く制止する素振りさえなかったからつい……」


 え?

なにそれ?

初めて聞くワードが出てきたぞ。

ここは【聞くは一時の恥】の精神で確認しておいた方が良いかもしれない。


「えっと、すまない。その【最上威嚇態勢】ってのは?」


「あんた、何言ってるんだよ! あ、いや、言ってるんですか! さっき光の精霊が両手を耳より高い位置まで振り上げて声を上げて威嚇していたじゃないですか! さすがに見間違いなんかじゃ……」


 ああ、ピリカがたまにやってる例の【シャシャァッ!】か。

アレに【最上威嚇態勢】なんて名前があったのか。

全然知らなかったな。


「精霊にとっては最大級の威嚇行動で、特に精霊の間では【相手を討滅する事も辞さない】という意思表示の意味が込められていると言われているって、精霊術師として冒険者登録したときにギルドから教えられたでしょう! 忘れたんですか?」


「えっと ……いやぁ……」


 忘れたも何も初めて聞いた話だった。

なので、適当に笑ってごまかしておいた。

アルもヴィノンも知らなかったみたいだから、これは精霊術師の中での常識ってところか……。


「こっちも、危うく自分の契約精霊が殺されるかもしれなくて、ちょっと焦ってしまったもので…… ここはなんとか穏便に収めてもらえると…… ほら、お前もこっちに出て来て謝るんだよ!」


 精霊術師にそう言われて、彼の後方数メートルの位置にさっきの精霊が再び姿を現した。

さっき消えた時と同様に、その表情は恐怖に支配され半ベソをかいている。

そして、音はしていないが歯をカチカチと鳴らしているような感じだ。

その視線はずっとピリカに釘付けで、恐怖の対象がピリカであることは誰の目からも明白だ。


「いつまでそんなところに突っ立っているんだよ! このウスノロが! さっさとしろ!」


 精霊術師にまくし立てられて、恐怖に震えていうことを聞かない足を無理やり動かし、こちらに歩いて来ているように見える。

精霊なのでホントのところは分からないけど、そんな感じに見えた。


 なんだコイツ……。


 ハッキリ言ってこの男の自分の契約精霊への接し方は気に入らない。

この精霊は自分の相棒なんだろう?

一体何様のつもりなんだ?

文句を言ってやりたい気持ちで一杯だが、精霊は何も言わずに従っている。

何の事情も知らない俺がこの男と契約精霊の関係に自分の感情と価値観を押し付けるのも違う気がする。

その言葉通り、契約精霊と精霊術師がお互い納得の上での関係なら、この二人に干渉するべきではないのだろう。


 精霊術師の男の隣まで進んできたその精霊は、俺に向かって深々と頭を下げて……

さっきと同じように粒子が拡散するようになって姿が消えた。


「もういいよ。お互い怪我も無かったわけだしさ」


 そう返して、この男の謝罪を受け入れることにした。


「ありがとう、助かるよ。どんな野良精霊にもひるんだことがないコイツがここまで怯えるのを初めて見たよ。きっとあんたの契約精霊の方が相当に格上なんだろう。こいつが殺されたら、大損もいい所だった」


 まるで精霊をモノ扱いしているようなこの男の態度はいちいち俺の(かん)に障る。

まるで、【自慢の高級車が事故って廃車になってしまうところだった】……と言ってる日本のDQNとかぶって見えた。


 これ以上、関わっていてもイライラが募るだけだし、もともと俺も問題を大きくするつもりもない。

ヴィノンとアルも納得しているようなので、これでこの話は終わりにすることにした。

男はもう一度、俺達に軽く頭を下げると王都入りの行列の方に戻っていった。


「何事もなく問題解決したことだし、さっさと王都に入ってしまおうか」


 ヴィノンがそう言ってボル車に向けて歩き始める。


「ハルト、どうしたの? 早く行こ」


「ああ、そうだな。ピリカ、行くぞ」


「はーい」


 後ろから掴まってくっ付いているピリカさんをぶら下げて、俺も二人の後に続いて王都に入る門に向かって歩き始める。

 なんとか、土日の間に一話投稿できました。

明日からまた本格的に社畜ライフが始まってしまう。

ああ、イキタクナイ…… ハタラキタクナイ。


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 引き続きよろしくお願いします。

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