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二百四十話 ラライエの摂理というやつの一面なのだろうか?

「それじゃ次、大山班。この計画表にある基地局から可能そうなものを選定して優先的に復旧を試みてくれ」


 白河センター長の言葉と同時に、隣に立っていた犬父モバイルの担当者が俺に計画表のレジュメを手渡してきた。


 どれどれ……

ざっと斜め読みで俺と藤村のペアが割り振られている基地局のリストに目を通す。


「うわ」


 後ろから資料を覗き込んできていた藤村が小さく不満の声を漏らす。

気持ちはわかるけど、声を上げるんじゃない。


「藤村、行くぞ」


 こいつの態度を見咎(みとが)められないうちにさっさとこの場を離れて出発してしまおう。


「大山さん、これって……」


 助手席で資料を見直して、藤村がある種の怨嗟(えんさ)めいた不満を垂れ流している。

もうやめろ。

何度見直しても書かれている内容が変わることは無い。

そもそも俺達の担当エリアは南阿蘇村だから、震源に最も近い危険な最前線なわけだが……。

担当する基地局がほぼ全て阿蘇山エリア内にある。

マジでこれ、大丈夫なのか? ……と言いたくなるな。


 こういった見るからに危険そうなエリアに割り振られているのは、ほぼほぼ俺達のような、下請けの連中ばかりだ。

犬父モバイル直属の社員は大体、安全な後方拠点の資材管理や博多のセンター対応などだ。

まぁ同軸コネクタを成端したり、スペアナ使ってVSWRの測定さえ満足にできないような連中が前線の現場にしゃしゃり出て来てもな。

何の役にも立たないどころかむしろ邪魔でしかない。


 連中は後方でピーチクパーチク(さえず)って、なんかあった時に責任だけ取ってくれさえすればそれでいいさ。

なんだかんだ言っても、奴らが俺達の会社に仕事の対価を支払うことで俺達の給料が(まかな)われているのは間違いないのだ。

これも適材適所だと割り切るしかないな。

ここに来た以上、俺達は与えられた仕事をこなさなければいけない。


「藤村、リストの一番上はどこだ?」


 リストの一番上に書かれているということは、最優先で復旧を求められている基地局だ。

とにかく、センターから遠隔で監視できない以上、直接見てくるしかないからな。

どんな状態になっているのか様子だけでも確認しておきたい。

もっとも、地震で完全にアンテナや設備が倒壊していたりしたら始末に負えないので諦めるしかない。

諦めるという判断をするにしても、なぜ諦める結論に至ったのかの報告は求められる。

最低でも状況の写真画像くらいは持ち帰りたい。


「えっと、阿蘇ファーマー王国にある屋外局3局ですね」


「わかった」


 カーナビに場所を入力し、改めて車を走らせる。

現場は阿蘇の火口から直線距離で10km圏内だった。

ちょっとだけため息が出た。

多分、俺達が犬父モバイル災害復旧部隊の中で一番危険な場所に向かわされているような気がした。


 俺は敢えて何も言わずに車のアクセルを踏み込んだ。




  1月16日



 屋敷を出てエーレに二日滞在。

そこから王都に向けて再出発して街道を進むこと、今日で4日目だ。


 ボル車のあまりの寝心地の悪さに不意に目が覚めた。

はぁ、こんな所で二度寝なんてするもんじゃないな。

おかげでまた変な夢を見てしまった。


 後方から飛び降りて、ボル車の後ろをしばらく歩くことにする。

俺がボル車から降りたのを確認すると、ピリカさんは幌からふわりと飛び出し、そのまま指定席のボルロスの背に着地して腰を下ろす。


 道程はすこぶる順調。


 ここはエーレ経由で王都と港町ラソルトを結ぶ重要な流通経路だ。

冒険者や軍によって積極的に魔物の討伐も行われている。

おかげで今回は出発してからこの方、一度も魔物に遭遇していない。

それどころか、王都の方からやってくる商隊や冒険者などと時折すれ違うこともある。

その際、ここまで魔物との遭遇が無かったかとか、状況の情報交換を軽く行ったりする。


 その辺の作法はシアさんやヴィノンが心得ているので特に問題は無い。

アルドの話ではミエント大陸と中央大陸では、所々違うところがあるみたいだが、概ねその辺の作法は同じっぽい。


 中央大陸での所作がアルドの国ではケンカを吹っ掛ける動作に相当するとか、そこまでの決定的な風習的差分は無さそうだった。


 今時点で問題があるとすれば……。

俺はボル車の中でそわそわと挙動不審になっているアルの様子に視線を向けた。


「気にしすぎだ。絶対大丈夫だから、もっと落ち着いて構えていろって」


 見てわかるレベルで落ち着きのないアルにそう声を掛ける。


「でも…… 私、今までエーレからこんなに離れた事なんて無いし…… もし、封印の効果がまだ残っていたら……」


 まぁ、無理もない……。

【セントールの系譜】は封印から離れる事が出来なかったのだから……。

離れ過ぎると命を落とすとか…… ある意味タチの悪い呪いだよな。

しかし、今のアルにはその制約はもはや存在しない。

ピリカが大丈夫と言っている以上、俺の中では5000%大丈夫なわけだが、アル本人にしてみれば、そう簡単な話ではないんだろう。

何しろ、自分の命が掛かっているわけなのだから……。


「アルエット様、本当に大丈夫なのですか? もし、何かお体に不調がお有りなのでしたら……」


 シアさんがアルの隣に寄り添って心配そうにしている。

御者席に座っているアルドも何かあればすぐにボル車を止められるように、幌の中の様子を気にしているようだ。


「ありがとうシアさん。大丈夫…… 大丈夫だから…… うん、多分平気…… なんだかすごくドキドキしている感じがするけど、これはきっと私自身の気持ちの問題だと思う。封印から離れ過ぎた時に感じる魂を締め付けられるような…… 独特の苦しい感覚自体は無いもの」


「わかりました。くれぐれもご無理をなさいませんように。アルドさん、申し訳ありませんがいつでも止まれるよう、このままゆっくり目でお願いします」


 シアさんの言葉に片手を軽く上げて御者席のアルドが了解の意を返す。


 アルが封印からここまで離れた前例がないため、アルとシアさんが少し神経質になっている。

そのせいもあって、ここに来て少しペースダウンとなってしまった。

まぁ、俺にとっては別に先を急ぐものでもない。

ここはのんびりと王都への旅路を満喫させてもらうことにしよう。


  ……。


    ……。


 1月21日


 予定より二日遅れで、王都に到着となりそうだ。

街道もかなり整備されたものになってきて、地面もいつの間にか石畳の道になっていた。

アルも封印の影響がないことが確信できたようで、数日前の挙動不審は無くなり、それとは別の挙動不審が出てきている。


「ね、ハルトも見てよ! まだ王都まで二時間以上かかるはずなのに、道がもう石畳だわ。すごいわね」


「うん、まぁ、そうだな」


 エーレでは村の大通ですら石畳が引かれている場所は限定的だったからな。

アルが田舎娘っぽく、初めての王都が近づいてくる実感に目をキラキラさせるのも無理からぬことなんだろう。


 しかし、ラソルトやモンテスなど、俺が今まで訪れた街の中心部はほぼ全域が石畳だったり、何らかの(多分魔法的な)技術で舗装に近い処理がされていた。

王都ともなれば、中はきっと全面舗装に近い状態だろうとの予想は容易に立つ。


 そもそも、俺が生きてきた日本では舗装されてない道の方が少ないくらいだった。

むしろこんな石畳だと、ボル車の車輪が早く傷んでしまいそうで逆に心配になってくる。

日本製の自動車でもこんな道は長時間走りたくないものだ。


 ラライエでは流通インフラでさえここまで未成熟なのは、やはり魔物や魔獣なんかの存在によるところが大きいんだろうな。

道を整備して国土を切り(ひら)く努力するにしても、少し都市から離れるだけで魔物や魔獣による襲撃という意味不明の妨害を容易く受ける。

しかも魔物たちは際限なく次々出現するわけだしな。

そのため、これらを常時防ぐことは事実上不可能ときた。

魔法というトンデモ要素が存在するにもかかわらず、これでは文明の発達に大きなブレーキがかかってしまうのも仕方がないのかもしれない。


 もしや、このラライエという世界は地球とは違うベクトルで、人類はおろか、どんな種族や生物も世界の支配者になれないように出来ているんじゃないのか?


 これがラライエの摂理というやつの一面なのだろうか?


 だとするなら、別の視点から見ればこれはピリカの言うような不完全で歪な世界ではなく、そういった形で調和がとられるように出来ていた世界ということにならないか?


 でも、その調和もなんだが少しずつ崩れて来ているような…… そんな漠然とした予感めいたものはなんとなく感じる気がする。


 ……。


    ……。


 視界に王都の正門と思しきものが入ってきた。

ずっと先に王都入りの順番待ちと思われる行列が出来ている。

見た感じだと、これは王都に入るのに結構時間かかりそうだな。


「アルド、僕らはその先の分岐を左だよ。連盟からの招集状があるから優先的に入れる」


 アルドの隣に座っていたヴィノンが行列の最後尾手前から左に伸びているY字路の先を指さした。

確かにヴィノンの指し示す先にも正門と似た造りの別の門が見える。

そっちには行列は殆ど出来ていない。


「ま、アルドが最初から日輪級だからさ。アルドがいれば別に連盟の招集なしでもあっちから入れるんだけどね」


 さすがは勇者至上主義の世界。

勇者特権が強すぎるな。


 ヴィノンの言葉にアルドが頷いてボル車を左の道に向かわせる。

行列の様子を眺めながら隣をのんびり歩いていた俺も、ボル車に続いて左の道に続こうと視線を動かしたその瞬間だった。


「うなっ!!」


 思わず、変な声が出てしまった。

視線の先…… というかすぐ目の前…… それこそ眼前30㎝程の距離に見知らぬ女が突然出現したのだ。

全身褐色でボンッキュッボンっ! のダイナマイトバディの物凄い美人のお姉さんだ。

しかもこのお姉さん…… 全裸だった。


 昨日に引き続き、出来ている一話分を投稿します。

つぎの土日の間にあともう一話……

なんとか投稿したいところですが、無理だったらごめんなさいです。


 出来るかできり投稿する努力をします。


 ブックマーク・評価ポイント・いいねなど、

反響を頂けるととても嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いします。


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