二百三十七話 デメリットしかないと思っている
12月14日
拠点に移ってきて3カ月が過ぎようとしている。
外はうっすらと雪景色だ。
標高の低い所なら、この国の積雪は深い所でも10cmを越えることは無い。
無理に山脈に入りさえしなければ冒険者活動も出来なくはないが、積極的に行うには不向きな季節柄になってきた。
今、俺は自室に籠って魔石の正体についてピリカさんに教わっている。
なんとか自助努力で解明したいと思ったが、普通に無理だと悟った。
そもそも魔力の存在を知覚できていない時点で、地球人である俺は研究の土俵に立つことさえできていない。
こんな状態で俺如き凡人が魔法の深淵に僅かでも触れようなんて、一生かかっても無理な話だったわけだ。
ピリカが知識の開示を少しでも渋ったり、躊躇ったりする素振りがあれば無理に聞くつもりは無かったのだが……。
「ん? いいよ。ハルトになら教えちゃう!」
普通に快諾だったのでお言葉に甘えることにした。
……。
……。
「つまり、俺が魔石と認識しているこれは、ほぼ100%穢れに汚染された不純物の塊ということか?」
「だね。これに染み込んでいる微量の穢れた魔力が魔道具や儀式の術式の原動力として使われている感じかな」
ということは、人類が行使する魔法の大部分はその程度の魔力で賄えてしまうということか……。
薄々そうじゃないかとは思っていたけど、魔力とエーテルによって発現する魔法と呼ばれるこの力、地球の核以上のエネルギー効率なんじゃないのか?
まぁ、穢れの事を考えると、核と同様に決してクリーンエネルギーってわけでもなさそうだが……。
『そもそもなんだけど、地球人が魔力を知覚するのはきっと不可能じゃないのかな。魂の在り方がラライエの人類とは違うし、魔力の本質を表現できる言葉が日本語に無いっぽいから』
ピリカさんが俺にとって死刑宣告に近い言葉を日本語で被せてきた。
『マジかぁ……。ってこれはむしろ、やっぱりそうか ……って言うべきだな』
『200年、300年先はわかんないけど……。地球だと形而上学的思考からのアプローチが一番魔力の本質への近道の気がするけど、これも正解には至れないかもね』
これは、もう無理だな。
結局のところ魔力とは何ぞや?
このことを理解して魔法を行使する。
これについてはここらへんがスパッと諦め時なのだろう。
口惜しくはあるが、俺如きの頭では無理なのは確実のようだ。
『よしっ! 俺が魔法の深淵に至るのは無理だって事はわかったよ。だったらさっくりと答えを教えてもらっちゃおうか』
ピリカはふわりと微笑んで頷いた。
俺は【ブレイクスルー】の術式を取り出す。
『ここが術者からの魔力供給を受けるための記述だから、こいつを魔石から魔力を吸い上げて発動するように書き換えればいいのか?』
俺が術式の記述で理解できる範囲で俺の見解を伝える。
『そうだね。ここの記述をこんな感じに変えてやれば魔力の供給元を魔石にすることが出来るよ。魔石に発動に必要な魔力が含まれていれば ……だけどね』
ピリカか空中に光で描き出した術式の記述を正確に脳内PCへと記録していく。
きっと俺が記述してもどんな術式にも応用が利くように、工夫してくれているのだろう。
詳細内容はさっぱり分からないが、魔力を術式に送り込む経路が最終的に一本に集約されるようになっているようだ。
そこだけはなんとなく理解できた。
『OK、記録した。ありがとうな。落ち着いたら後で実践してみるよ』
脳内PCが術式の記述をデータ化して保存完了したのでピリカに合図する。
ピリカはふわりと微笑んで浮かんでいるサンプル術式を消失させた。
「ね、今日の研究は終わったんでしょ? だったら外で私の修練に付き合ってよ」
さっきから俺のベッドに転がって書物を読んでいたアルがそんな事を言ってくる。
こいつはこのところ、暇さえあれば用も無く俺の部屋にやってくる。
途中から俺達が日本語で話していたのは、こいつがいるからだ。
何がラライエの人類にとっての禁忌に触れるのか分からない以上、慎重にならざるを得ない。
このところ雪も降って冷え込みも厳しくなってきたからな。
この時期は冒険者の活動も少なくなる。
そのせいで少しヒマなのも分からないでもない。
だからと言って、ここにいてもそれはそれでヒマだろうに……。
そんなことを思いながらも、邪魔にならない限りはアルの好きにさせている。
「まぁ、体も動かさないとこの先、メタボまっしぐらの未来が確定するのは体験済みだしな…… 少し付き合うか」
「メタボ? なんだか分からないけど、そうこなくっちゃ! すぐに着替えてくるからっ!」
アルはベッドから身軽に飛び起きるとパタパタと足音を響かせて部屋から出て行った。
俺も部屋着から防寒着に着替える。
クローゼットから四節棍とサイを取り出して屋敷の外に向かう。
……。
……。
屋敷の外でアルと軽く組手をしたり、連携の立ち回りの確認等…… 修練に勤しんだ。
途中からアルドとヴィノンも加わってきたこともあって、最終的には案外ハードな訓練色の強い修練になってしまった。
脳内PCは気温が0℃前後と表示していたが、体は充分に温まっていたので寒さは感じない。
「もう夕方近くになってきたぞ。日が落ちると一気に冷え込んでくるからな。今日はこの辺りで切り上げよう」
アルドがそう声を掛けてきたところで今日の修練はお開きになった。
「この寒さだからな。汗だくのままでいたらすぐに風邪ひくぞ。ピリカ、水瓶に満タンでお湯張って来てくれ」
「はーい」
ピリカがぴゅーんと屋敷の裏手に向かって飛んで行く。
「アル、今ならピリカに追いつくだろ。ピリカに温水で背中流してもらえばいい」
「そう? だったらお言葉に甘えようかな」
アルが俺達を残して、ピリカを追って駆けていった。
なんだかんだ言っても年頃の娘だしな。
温水シャワーでしっかり汗を流してさっぱりするほうがいいだろう。
俺たちムサい男三匹はピリカが貯めてくれているお湯でごしごし洗って済ませればいい。
身体が冷えて風邪をひく前にお湯で汗を流してさっぱりできれば問題ない。
「ハルトきゅん、そういうところだよ」
「ん? 何がだ?」
「わからないのかい? まぁ、別にいいんだけどね。冷え切ってしまう前に僕達も湯浴みを済ませてしまおう」
ピリカがお湯を張ってくれている水瓶があるはずの屋敷の裏手に向かって男三人で向かう。
……。
……。
12月15日
朝食を済ませて一息ついたところで、シアさんがやってきた。
ここに来てそれなりに時間が経ち、お互い打ち解けてきたこともあって、今では俺とアルドも彼女の事を愛称で呼ぶようになった。
俺達の希望もあって、彼女の方も俺達の事を敬称呼びしなくなっている。
「ハルトさん、行商が来ましたよ」
「ありがとう、シアさん。すぐに行くよ」
机の引き出しから小さな箱を一つ取り出して、応接室に向かう。
……。
……。
部屋には数名の商人と護衛と思われる一団が通されていた。
すでに全員集まっており、俺とピリカが最後のようだ。
「どうも初めまして。精霊術師のハルトさんですね? この商隊の取りまとめておりますロイと申します。お噂はかねがね…… お会いできて光栄です」
ロイと名乗った身なりの整った中年の優男はそう言って手を差し出してくる。
若造に過ぎない俺相手でも、礼節をもって接してくれるようだ。
俺も相手の手を取り挨拶する。
「初めまして、ハルトと言います。こっちが精霊のピリカ。等級無しの若輩者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ。次回の勇者叙勲でこのパーティからお二人、勇者様になられるとの噂で国内は持ちきりですよ。そうなればハルトさんも日輪級です。今から最大限の敬意もって接するのは当然かと存じますが?」
マジかぁ……。
もう何か月もここに引きこもっているからな。
もう半分以上世捨て人になってしまっているみたいだ。
勇者になるのは当然、アルドとアルのアルアルコンビなわけだが、そんなに騒がれているのか。
ここまでの功績の大半がパーティーリーダーのアルドのものになっている。
これについては俺の目論見通りではあるんだが、それにしても勇者か……。
パーティーメンバー二人が勇者となれば、残った俺とヴィノンも自動的に日輪級になってしまう。
諦めて受け入れるしかないのだろうが、こんなことで連盟との繋がりが強くなるのはどうなんだ?
個人的にはデメリットしかないと思っている。
なんといっても、俺とアルドは【勇者殺し】の十字架を背負っている。
絶対に連盟はその真実を知っていながらアルドを勇者に仕立てるつもりだ。
勇者にすることで俺達に首輪をつけるつもりなのかもしれない。
しかも俺はラライエの摂理の外側にいる地球人だ。
連盟と関わるリスクはアルドより高いと思っておいた方が良いな。
「それで、ヴィノンさんから我々に見て欲しいものがあると聞いておりますが?」
「そうですね。早速ですけど見てもらっていいですか? これです」
俺は部屋から持ってきた小箱を取り出した。
全然更新できないですいません。3月一杯で異動となり、
勤務する事業所が変わることになったため、引継ぎや身辺整理で時間が……
そんな言い訳をさせていただきたく……。
にもかかわらず、ブックマーク・評価を入れていただいた方
ありがとうございます!
メッチャ嬉しかったです。
明日から新しい職場になるので、慣れるまで更新鈍いかもですが
引き続きよろしくお願いいたします。
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