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二百三十四話 ぐふぇえぇーっ!

 南阿蘇村の役場とその前の駐車場に復旧活動のため、集まってきた各組織がそれぞれ拠点を形成していた。


 自衛隊・警察・消防・電力会社・マスコミのメディア各社等……。

俺達の携帯電話会社も駐車場の片隅に関係車両が集まっている。

ミーティングには今回の現場指揮を執るべく、大阪から来た父犬モバイルの白河センター長が檄を飛ばしている。


「普段の俺達は協力会社のあんた達に安い金払って、顎で使い倒すヤクザな事やってるけどよぉ!」


「あっ、あんた達ってその自覚有ったんだ」


 藤村がボソっと、そんなことを小声で呟く。

おい! バカヤロっ! 聞こえたらどうすんだ?

さすがに(かば)えんぞ……。

まぁ、俺も同じこと思ったけどさ……。


「こんな状況だからな。とにかく、必要な資材はどんどん使って一刻も早い復旧を最優先してくれ。金に糸目はつけねえからな! 経費も工費もどんどん請求上げてくれていい! それじゃ、頼むぞ!」


 はぁ…… もうため息しか出ない。

誰だよ…… こんな奴に現場指揮任せたのは……。

言われなくても会社は経費も人工代も全部満額請求するよ。

でも、だから何? って話だ。


 ここに集まっている奴ら全員、手に職を持つ技術者ではあるが、会社員 ……つまり、サラリーマンだ。

アンタが何を言ったところで既定の出張手当・時間外手当・危険手当の範囲でしか給料は貰えないんだって。

つまり、いつも通りの給料が振り込まれてそれでおしまいだ。

言い値で金がもらえて一時的に売り上げが出るのは会社だけ。

被災地の最前線で仕事する俺達には何も響くものはない。

ここで申し訳程度に増える手当が、これから俺達が直面する危険に引き合うとはとても思えない。


 まぁ、そんなことは面と向かって言うやつは誰もいないんだけどな。

こんな寝言で士気高揚が成せると思っているあたり、このセンター長が俺達を見下しているのが見え見えなわけだ。


 これから被災地の最前線に向かう連中の士気高揚を狙っての事だったら…… こう、なんかもう少し別の言葉を選びなよって言いたいな。


「とにかく行くか……。 俺達の担当現場の資料は貰ったな?」


「……っす」


 俺たちは追加の資材補給を受けて、機材が満載になったライトバンに乗り込んで出発する。




 10月15日 AM 5:30



 俺にだけ聞こえる脳内PCのアラーム音で目が覚めた。

久しぶりに我が家のベッドと布団で眠れたおかげか、感覚的にはしっかり休めた感じがある。

しかし、ここまで鮮明な夢を見るということは、睡眠自体は浅かったのだろうか?

その辺はよくわからないが、もう起きる時間だな。

時差を考えると拠点(ホーム)はもう8:30を回っているはずだ。


「おはよう、ハルト!」


 目を開けると、ピリカさんがゆるふわスマイルで俺の上に乗っかっている。

この分だと一晩中、俺にくっついていたのかもしれない。


「ああ、おはよう。久しぶりに我が家でゆっくり眠れて全快した気分だ」


「そうなんだ、よかったね」


 ピリカが心底嬉しそうな【はなまるの笑顔】を見せてくれる。

はい、朝から可愛い。


「とりあえず当初の目標は達成だ。着替えて拠点(ホーム)戻るか」


「そうだね」


 ベッドから起き上がって、一階に降りる。

裏庭の物干し台に干してある服を取り込んでそのまま着る。

昨日、洗濯機に放り込んで洗っておいたやつだ。

使ったのは日本でも有名な【アタッカー】という洗剤だ

服から香る日本の洗剤の芳香が懐かしく心地いい。


「忘れ物は無いな。ピリカ」


 俺が手を伸ばすと、ピリカが俺の手を取ってすぐ隣に来る。

それを確認して拠点(ホーム)向けの【ポータル】を発動させた。


 目の前の景色が我が家の天然芝の裏庭から、殺風景な地下倉庫に変わった。

問題なく拠点(ホーム)に戻ってこられたようだな。

梯子(はしご)を登り地下から倉庫内に出てくる。


「あれ? アルドが戻って来てるよ」


 ピリカが予想外の事を伝えてくる。


「え? マジで?」


「マジで…… だってアルドの気配がするもん」


 マジかぁ…… なんか早くね?

俺の計算だと、三人が戻って来るまで早くてもあと二日ほど掛かると踏んでいたんだけどな。

何か予想外の事態でも起きたのだろうか……。

とにかく、三人に会ってからだな。

倉庫から出て屋敷の入り口の方に回ってみる。

屋敷の入り口が開いてアルドが飛び出してきた。


「ハルト! お前…… 一体どこに行っていたんだ?」


「ああ、ちょっと倉庫の地下室に(こも)ってた ……それより、戻りが早くね? 戻って来るのは早くても明後日……」


「馬鹿野郎! 何の痕跡も残さずにいなくなってるから、みんな心配したんだぞ!」


 しまった……。

これはマズったな……。

屋敷のどこにもいないとなればそりゃ心配もするか……。


「それは済まなかった……。書置きぐらいしておくべきだった…… それで、アルとヴィノンは?」


「お前を探しに森に入ったよ。二人共、夜通しでお前たちを探している…… 屋敷を覆うピリカの結界が効いていたから無事だとは思っていたが……」


 マジかぁ……。

さらにちょっと気まずい気分になってきたな。


「さっき急にお前の気配が屋敷の外に現れたが、お前…… 本当にずっと倉庫の地下にいたのか?」


 流石アルド…… 中々に鋭いな。

まぁ、アルドにだけは本当の事を離してもいいとは思うが……。


「悪いけど、そういうことにしておいてくれ…… そのうちアルドにだけは話すよ」


「……わかった。お前が二人を誤魔化し切れるのならそういうことにしておく」


「すまんな」


「……ピリカ、悪いがアレに火をつけてくれないか」


 そう言ってアルドが指差す先には、木が組んである。

ちょうど野営時の焚火をつける時のようなやつだ。


「ん? これでいいの?」


 ピリカが指先から極小の火球を放つ。

火球は木に命中するとパッと燃え上がり着火した。


「ああ、ありがとう」


 アルドは懐から水色のピンポン玉大の球を火に放り込んだ。

すると火から球と同じ色の煙がほぼ垂直に立ち昇っていく。

なぜか風の影響をほとんど受けていない。


「これは狼煙(のろし)か?」


「ああ、ハルトは知らないか…… これは冒険者達共通の連絡用の狼煙(のろし)だ。この色は【任務達成、帰投せよ】だな。一番いい結果で作戦や依頼が完了したときに使うものだ」


 なるほど、森に入っている二人に【俺とピリカ、無事発見】を伝えるものか。


「今回はさすがに大目玉を覚悟した方が良いぞ。二人共すごく心配していたからな……」


 アルドが少し意地悪い笑みを浮かべてそんなことを言ってくる。

コイツがこんなことを言うなんてな……。

アルドにも同じように心配をかけてしまったようだな。

これは素直にゴメンナサイして、大人しく二人の気が済むまで説教を食らってやることになりそうだ。


 いつまでもこんな所にいても仕方がないので、部屋に戻って二人が戻って来るのを待とうと思った矢先、街道側の道から物凄い勢いでアルが走ってくるのが見えた。


狼煙(のろし)が上がったばかりなのに、戻って来るのが随分……」


 早かったな ……って言おうと思ったが、言葉が途中で止まってしまうほどに何かヤバい予感がした。

まず、アルの目が据わっている。

若干、涙も溜まっているがそれ以上に怒りの感情が目から溢れすぎている。

むぅ、これはなんとなく、このまま問答無用でフルスイングのビンタをくらわされるパターンと見た。


 仕方がない…… ここは甘んじて強烈なビンタを受けることに……。

そう思った瞬間、脳内PCがけたたましく警告を発する。

疑似的な視界に危機を知らせる【Caution!】の表示が赤い字でデカデカと表示されている。

アルを注意してみるとその手はビンタではなく、力強く握られている。


え? お前…… グーパンで来る気だったのか!?

しかも、脳内PCが警告を発しているから気付いたが……。

アルとヴィノンは夜通し森を捜索しているとアルドは言っていた。

となると当然、身体強化魔法を使って森を駆けまわっていた可能性もあるよな。

こっちに走ってくるアルのスピードと動きのキレは、絶対に強化魔法の効果によるものだ。


 ヤバい…… これはヤバいっ!


 これでもこの小娘はバリバリの前衛の戦闘職だ。

強化状態のアルのパンチをまともに食らったら最悪、死ぬかもしれない。

さすがに大人しくこれを無抵抗に食らってやるわけにいかないな。


 即座にポケットから【プチピリカシールド】の術式を取り出して発動させた。


 くっ、間に合えっ!


 術式が描かれた紙が虚空に消える。


「一体、どこをほっつき歩いていたのよぉ!! こんのぉ、ブアァカァァっ!」


「おいっ! ちょっと待て、まずは話をっ!」


 問答無用でアルが拳を振りぬく。

凄まじいスピードでパンチが俺の顔面を捉える ……その直前で【プチピリカシールド】の発動が間に合った。


 水晶の障壁がアルの拳を阻み、パンチを止め……


 パキッ……


 え?


 パンチを止めたと思ったが、次の瞬間、障壁にひびが入って、そのまま【プチピリカシールド】がパリンと割れた。


 んな、ばかな?


 絶対的な防御力までの信頼性は無いとはいえ、素手で魔物を引きちぎるテゴ族の攻撃を何発食らっても、ビクともしないぐらいの防御力はあるんだぞ…… これ……。


 重大な危機を察知した脳内PCが即座に格ゲードライバの緊急回避モードを強制的に起動。

アルのパンチが俺の頬を捉えた瞬間、威力を少しでも受け流すべく、強引に態勢を後方へスウェーさせる。

それでも凄まじい衝撃と痛みが俺の顔面から全身に突き抜ける。


「ぐふぇえぇーっ!」


 今まで発した事の無いような情けない声が出てしまった。

そのまま、ギャグマンガみたいな縦回転で俺の身体が数回回って、地面に叩きつけられて止まった。


 冗談抜きで痛すぎる…… 意識が飛ぶかと思った。

【プチピリカシールド】と緊急回避モード ……どちらか片方でも発動が間に合わなかったら、マジで死んでいたかも知れない。


「ハルトォー!」


 ピリカさんがすぐに俺のところに飛んできて、治癒術式を発動してくれた。

ものの数秒で痛みが引いて来てダメージが回復したことがわかる。


「ハルトに何してんだ! 殺すぞっ! シャシャァッ!」


 ピリカがアルに【シャシャァッ】のポーズで威嚇している。

ピリカは俺の事になると見境が無くなりかねない。

すぐに止めないと……。


「待つんだピリカ。いいんだ……」


「でもっ!」


「黙って拠点(ホーム)を留守にした俺たちも悪かったんだ」


「むぅ…… ハルトがそう言うんなら……」


 ピリカが威嚇の体勢を解いた。

それにしても…… アルはちょっと、直情的かつ感情の沸点が低くなってないか?

出会った最初の頃はこんなでもなかった気がするんだけどな。

これはガル爺が死んだせいか、それとも俺達の心の距離が近くなってしまったせいなのか……。

多分、その両方な気がする。


「もぅっ…… 本当にっ! どこに行ってたのよぉ。ハルトのバカァ! えぐっ…… もう、誰もいなくなっちゃやだぁ……」


 アルはグズグズと泣きべそをかきながら、何とかそれだけ言葉を紡ぎ出した。

ああ、これはまいったね…… どんな言い訳をしたものかな。



 土日が社員研修のため吹き飛んでくれたので、現在で9連勤中です。

後三日、働かないと休みが無い……。つらたんです。


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