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二百二十六話 何それ? 世界には神はいない?

 8月9日


 モルス湖畔にあるセントールの屋敷まで戻ってきた。

脳内PCの時計は13:00を少し過ぎている。

早く屋敷に戻って昼食にありつきたいのだが、ちょっと雲行きが怪しい。

屋敷の前に複数の馬車が停まっているのが見えるからな。

これは結構な人数がここまで来ているんじゃないか?


 やれやれ……。

これはゆっくり食事って雰囲気じゃ無さそうだ。

そんなことを考えると、なんだか余計に変な疲れが出てきた気がする。


 ……。


   ……。


 屋敷から俺達の姿が見えたのだろうな。

屋敷の扉が開いて数人の人影がこちらに向かってくるのが見える。

先頭に居るのは……。

予想通りオルタンシアさんだ。

すぐ後ろの二人はいつもの護衛役の冒険者たちだな。

あとは…… はじめてみる顔ばかりだ。

多分、王国の騎士や魔法使い達かな?


「みなさん、おかえりなさいませ。置手紙を拝見いたしました。 ……なので、そろそろお戻りになる頃合いと思ってお待ちしておりました」


「ただいま、シアさん。状況はあれにしたためた通りだよ。シュルクは何とか討ち取ることに成功したから、そこは安心してくれていいよ」


 ヴィノンは(つと)めて冷静にオルタンシアさんに声を掛けた。


「わかっています。まずはお疲れさまでした。 でも……」


 オルタンシアさんが暗く沈んで声を詰まらせる。


「そうだね…… そのための代償は高くつきすぎちゃったけどね……」


 ヴィノンの言う代償はもちろん、ガル爺の戦死の事を言っているのだろう。


「あのさ…… 立ち話でするような内容じゃないと思うし、長くもなるだろうから、続きは中に入ってからにしないか?」


 俺は横から話に割り込んでそう提案した。

オルタンシアさん達が早く状況を確認したくて気が(はや)るのも分かる。

だからこそ、落ち着いて話が出来る環境を準備するべきだろう。


「え? あ、そ、そうよね…… ごめんなさい。すぐにお茶の準備をします。共に来てくれている王国騎士団の方にも聞いていただかないと…… こちらへどうぞ」


 やっぱり一緒に来ている連中は王国の騎士か……。

ペポゥと遭遇したときに戦っていた騎兵たちと服装が似ていたから、そうじゃないかとは思ったよ。

俺達はオルタンシアさんの後に続いて屋敷に戻る。


 ……。


  ……。



「……という感じで、シュルクを討つことが出来たわけだよ。実質、奴と対等に戦えたのは最初から最後までガル爺だけだった…… 悔しいことにね」


 ヴィノンが任せろというので、状況の説明は丸投げで任せた。

事前の打ち合わせをする暇もなかったというのに、こいつはうまい具合に話をまとめてくれたようだ。


 ヴィノンがここに来た連中にした説明の内容をざっくりまとめるとこんな感じだ。


 1・シュルクを倒したのはガル爺必殺の裂空剛拳であり、俺達は最低限の援護しかできなかった。


 2・この数百年、この森で魔物や魔獣が特に多く発生していたのはシュルクが魔物を引き寄せる術式を仕込んでいたせい。


 3・この術式は勇者ガルバノの孫でセントール直系のアルエットによって破壊された。

これで、今後は魔物増加傾向に歯止めがかかるはず。


 4・シュルクはアンデッド化して復活していてこの数百年、ずっと人類への復讐の機会を(うかが)ってモルス山脈に潜伏していた。


 5・勇者セルヴォディーナとガシャルのパーティーはシュルクとの戦闘で先陣を引き受けて戦死した。


 咄嗟にそう言った筋書きを作って王国の騎士達に説明した。

真実は二千年前、シュルクは勇者セントールによって封印されており、討伐されたわけではない。

このことは限られた人間にしか知らされていない機密のため、ここにいる騎士たちには話せない。

ついでに俺やピリカのことは出来うる限り勘繰られたくない。

この辺りをうまくはぐらかしたうまい説明だ。


「そうか…… 話は分かったが、その肝心のシュルクが蘇っていたという証拠になるような物はなにか無いのか?」


 騎士としてはヴィノンの説明だけで、はいそうですかとはいかないよな。


「ああ、それなら……」


 俺はシュルクが消え去った時に残されていた、魔石に似た石をポーチから取りだそうとしたが  ……その時……。

ピリカがそっと俺の手を押さえてそれを止める。

ふわりと微笑んで軽く首を振った。

これを連中に渡すなということか……。


「ん? どうした?」


 反応しかけた俺に、騎士が問いかけてくる。


「ん? いや、何でもないよ」


「そうか……」


「あのさ、シュルクは最後に勇者ガルバノの裂空剛拳をまともに食らったんだよ? 君も王国騎士なら知らないはずないよね? 裂空剛拳の威力を……」


「それはもちろん…… その名の通り空を裂く一撃…… さしものシュルクも跡形もなく砕けたか」


「そゆこと」


 このチャラ男…… とっさに空気読むか。

このコミュ力や交渉術とはまた違った、場の流れを読む感覚というか……。

何とも言葉にしにくい適応力のようなものがこいつのやたら広い交友関係を実現しているのだろうな。

ヴィノンの機転のおかげでこいつを渡さずに済んだ。

ピリカが引き止めるということは、これを連中に渡すと何かマズいことがあるんだろうな。

後でピリカに聞いてみようか。


  ……。


    ……。


「いや、戻ったばかりで長い時間、話をさせてすまなかった。今日の所はこれで終了にしよう」


「ま、あんた達も任務だろうからね。じゃあ、僕たちはこれで休ませてもらうよ。明日にはガル爺の埋葬を済ませないとだし……」


 ひとまず騎士たちによる状況の聞き取りは終わったが、すでに夕方近くになっている。

結局、昼食は食べ損なってしまった。



 8月10 日



 シュルクとの戦場になった湖畔の片隅に穴を掘ってガル爺の遺体を埋葬した。

墓標は即席の木製だが、改めてギルドと連盟で立派なものを建てるとのことだ。

墓前には俺達の他、様子を見に来た王国の騎士達、オルタンシアさん以下連盟の関係者達が集まっている。


 皆、胸の前で掌を合わせて握るような動作をしている。

キリスト教の祈りに似ているがラライエの宗教はよくわからんな。

とりあえず俺も皆に(なら)って同じようにしておく。


「勇者ガルバノの御霊(みたま)が我ら人類の(しるべ)となりますように…… 神に()らず、人が自らの足で道を切り開く世界のため…… その思いは我らと共に……」


 オルタンシアさんが何やら祈りの言葉のようなものを唱えている。


「神様に頼りませんって…… なんか独特な信仰なんだな……」


 これってあれかな? 国のために殉死したものの魂はすなわち神である的な?

日本の信仰にも似たような思想の宗教があったような気はする。


「‼ ハルトきゅん、君は秘境集落出身だから知らないんだね。ラライエに神はいないんだよ。だから、神を信仰する事は異端…… 罪に問われることもあるから気を付けてね」


 ヴィノンがなんかすごい威力のある事実をぶっ込んできた。


 え?

何それ? 世界には神はいない?


 マジかぁ……。


 俺も地球じゃ全然信心深く無かったし、神様の存在を信じているわけじゃないけど……。

神を信仰したら異端って…… 意味不明過ぎる。

ピリカもラライエの神について話をしていた事はあったし、この世界の人類に神様の概念自体はあるように見える。


にもかかわらず、神の存在を否定して信仰する者は罪に問われかねないとはな。

俺自身、基本的に宗教なんてものは胡散臭いものだとは思っている口だが、それでもこれはさすがにこの異世界の在り方が(いびつ)なものなのじゃないのかと思わずにはいられない。


「そうなのか…… わかった。気を付けるよ」


 とりあえずヴィノンの言葉にはそう返しておいた。

この件はあまり食い下がると、ややこしいことになりそうな気がする。

ここは大人しくしたがって引き下がっておこう。


 そういえばこの世界の文明圏に来てからこっち、教会とか神父様とかシスターとかそういった宗教じみたものを目にしたことも耳にしたことも無い。


 孤児院も異世界アニメやラノベなんかじゃ、教会のような宗教関連組織が運営していることが多い。

だけど、俺が見たケルトナ王国の孤児院の運営者は勇者セラスだったな。

地球の先進国レベルまで科学が発達しているのならまだしも、この文化レベルなら絶対に人類は心の拠り所を信仰に求めると思うんだけどな……。

神様がその対象ではないとすれば、その役割を担っているのは……。

俺はオルタンシアさんの祈りの言葉で確信することになった。



 この世界の神様に成り代わって、人々の信仰を一身に集めているのは ……【勇者】だ。


 ブックマーク1と評価、いただきました!

どうもありがとうございます。


 目に見えた形で反響がある。

嬉しい嬉しい! ……です!


 プロットと付き合わせた感じだと、あと二話で

三章完結できないかもです。

もうちょっとだけ、三章にお付き合いください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 世界観に深みがでてきた感じがしていいですねー
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