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二百二十話 フラグ建築してなかったと思うんだが……

 ボボオォォーン!


 背後で【クリメイション】の炸裂音が聞こえる。


 どうだ!


 なんで自分がいきなり攻撃魔法の直撃を食らっているのか……。

理解できずに驚愕の表情を浮かべているシュルクの様子が目に浮かぶようだ。

もっとも、吹き出る(けが)れた魔力(マナ)のおかげで顔は分からないし、俺はガル爺に覆いかぶさっているから奴のツラなんて見えないんだけどな。

1000℃まで加熱されて極限まで圧縮された火山ガス弾が二発……。

こんなものが密着状態で炸裂したんだ。

ペポゥの時のように泥団子の内部で密閉状態で破裂したわけではない。

だからあの時ほどの威力は出ていない。

それでもその威力は地球で使われている榴弾に比肩するはず……。

奴の耐久力が桁違いに高かろうが無傷で済むはずがないだろう。

何ならこのまま砕け散って、くたばってくれても全然OKだぞ。


 シュルクがどうなったのかすぐに確かめたい衝動を抑えながら、なんで俺が瀕死の重傷を負っているガル爺の上にかぶさっているかというと……。

俺達がいるこの場所がギリギリ【クリメイション】の影響範囲内だからだ。

こんな状態のガル爺が【クリメイション】の余波を受ければ命の保証はない。

とはいえ、今の俺はただの無力な日本人に過ぎない。

さらにリミッター全解除で格ゲードライバを使ったせいでボロボロ…… しかも全裸ときた。

俺だって実際の所、命の保証はないかもしれない。


 俺は肺一杯に空気を吸い込んで息を止める。

そしてガル爺の折れていない右腕でガル爺自身の鼻と口を覆わせる。

もちろん、有毒のガスを吸い込みにくくするためだ。


 その直後、耐えがたい程の熱風が俺の背中を通り抜けた。


 ぐああぁぁっ! 熱いっ! ……というかもうこれは激痛だ。

死ぬ…… マジで死ぬって……。


 俺がかぶさっているので、ガル爺は直撃を免れているとは思うが、これはそんなにもたないぞ……。


 程なく、冷たい強風が俺の背を焼いている熱を押し流す心地いい感覚が来た。

きっとピリカの風魔法が火山ガスと熱を拡散させたのだろう。

俺達が【クリメイション】の余波に(さら)されていた時間はきっと1~2秒程度のものだろうとは思うが、体感数分ぐらいはあった気がする。


 きっと俺の体の背面側は重度の火傷を負っているはずだ。

それこそ、地球の医療技術だと助からないレベルのものかもしれない。


「お爺ちゃんっ! ハルトぉ!」


 アルが【ファランクス】を解除してこっちに駆け寄ってくるのが見えた。

まず、自分の安全確保を優先しろと言いたいのはやまやまだが、仕方がないか。

たった一人の肉親がこんな目に遭うのを目の当たりにしてはな……。

激痛で全く動けない状態で、体を起こすことが出来ない俺の視界にピリカの姿は確認できないが、アルがここに来ているということは……。

きっとピリカも来ているはず。


 そんなことを考えていると、頭上から無数の光が降り注いできているのが視界に入った。

これは多分ピリカの治癒魔法だろうな。


 下手に動かずに十秒ほどおとなしくしていると、背中一面を覆っていた激痛が収まってきた。

治癒魔法は途中だったが、ガル爺の上から体を起こして立ち上がる。

今は体が動けばそれでいい。

ここで俺が全回復したところで、もはや大して役に立たない。


「ありがとうピリカ、今はこれで十分だ。俺よりガル爺の治療を優先してくれ」


 事実、倒れているガル爺の状態は素人の俺が見てもかなり深刻だ。

このままだと絶対に助からないだろう。


「や、やだぁ…… お爺ちゃん! こんなのって……」


 アルはガル爺の傍らで膝をついて取り乱している。

いつもなら俺の頼みならすぐに取りかかってくれるピリカがすぐに動いてくれない。


「ピリカ、急いでくれ。きっと一刻を争う事態だ」


「あのね、ハルト…… 傷を治してもクソ勇者はもう……」


 ピリカが何かを言いかけた時……。

対面側からアルドが叫んでいるのが聞こえる。


「ハルトぉ! シュルクはまだ倒せていないっ! 気を抜くなっ!」


 !!


 アルドが叫びながらこちらに走ってきている。

すぐ後ろにヴィノンも続いているのが見えた。

俺がシュルクの方に意識を向けると、ガクガクと言いようのない不自然な挙動で起き上がろうとしているのが見えた。


 まじかぁ……。


 別に【やったか?】とかフラグ建築してなかったと思うんだが……。

いや、それはいいんだが…… 倒せてないにしてもこんなすぐに起き上がってくるか?

アルドとヴィノンが加勢に加わるべく懸命にこちらに向かってきているが、間に合いそうにない。


 立ち上がったシュルクは左肩から胸にかけて広範囲に(えぐ)れている。

腹には直径15cm程の風穴が開いていて、背中のトゲトゲ甲羅もどきをも貫通している。

人間ならとても生きていられるようなダメージではないのは見た瞬間にわかる。

それでもこうして起き上がり、ガル爺に止めを刺すべく向かってくるとは……。

やはり肉体的な痛覚は無さそうだ。


 これはヤバい……。

シュルクは依然として俺の存在は認識していないはずだ。

だが瀕死のガル爺、ここに来てしまったピリカとアルのことは普通に認識している。

きっとガル爺諸共、まとめて片付けるつもりだろうな。


 ここはシュルクが認識できない状態の俺が戦うべきなのだろうが、今の俺は素っ裸でしかも魔法は一切使えない。

格ゲードライバをフル稼働して格闘戦を挑んだところでシュルクに毛程のダメージさえ与えられないだろう。

現状、この中で一番の役立たずだ。


【クリメイション】を二発受けたせいでシュルクの動きは確実にさっきより鈍い。

なら、ピリカに奴を倒してもらうか?

可能性は一番ありそうだが、奴の攻撃を一撃でも受けると命が無いかもしれないと思うと、この選択はどうしても躊躇(ためら)われる。

アルは…… だめだ、論外だな…… とても戦えるような精神状態じゃない。

ガル爺は瀕死状態だ ……し?


「こ…… 小僧…… あれは、お前が…… やったのか? ごふっ」


 ガル爺が両足をブルブルと震わせながら立ち上がる。


「お爺ちゃんっ! 駄目だよぅ! 無理しちゃ死んじゃうよぉ……」


 アルが(すが)るようにガル爺が無理に動こうとするのを制する。


「あ、ああ…… 一発逆転を狙った秘策だったんだがな…… 決めきれなかった」


「ふっ、その…… ふざけた格好が ……秘策なのか?」


「そこは聞かないでくれ…… こうする必要があった…… それだけだ」


「まぁいい…… よくやってくれた。ここまで奴の動きが鈍れば…… こっちの物だ。あとは…… わしに…… 任せろ」


 フラフラと足を引きずりながら、ガル爺がシュルクに向かっていく。


「や、やだ…… お爺ちゃん……」


 ガル爺が俺の横を抜けて四歩、五歩と進んでシュルクに向かう。

そしてまだ動く右拳を引いて構えを取るも、そのまま膝をついてしまう。


「ぐっ…… ごほぅ」


 血の塊を吐き出して、苦しそうに(むせ)ている。


「ガル爺! 無理だ」


「あと…… 少し…… 体が動いてくれたら……」


 ガル爺…… これ程の無理をして何をするつもりだったんだ?

もしかして、この状態でもそれ程の勝算があったのか?

だったら……


「ピリカ! ガル爺の回復を! 頼む!」


『ハルト…… 肉体を治してもクソ勇者はもう助からないよ』


 ピリカは日本語で俺にそう言った。

ガル爺やアルに聞かれないように配慮したのだろうか?

ピリカの真意はわからないが、他の人間に知られるべきではないと思ったのだろう。

俺の頼みに対して歯切れが悪かったのはそのせいか。


『どういうことなんだ? もうちょっとわかりやすく頼む』


『もう限界なんだよ。元々いつ死んでもおかしくない状況だったの。あの肉体には魂を繋ぎ止める力が残ってないんだよ。そんな状態でシュルクと限界を超えて戦ったから…… だから、肉体の物理的ダメージを回復させてもあのクソ勇者はすぐに死んじゃう』


 前にピリカと心当たりのある話をした記憶がある。

ラライエに来て四年ぐらい経った頃だったな。

確か肉体が年を取り始める話をしたときだったか……。

【俺の命脈に繋がるラライエの摂理が変えられない】とかなんとか言っていたな。

要はガル爺自身が元来持っている寿命的なものがすでに尽きている。

だから、肉体のダメージが回復しても…… そういう理解でいいのか?


『わかった。駄目でも構わないから回復を頼む。最期にガル爺が成そうとしていることをさせてやってくれ』


 ピリカは静かに頷いてガル爺に治癒魔法を発動させた。

魔力(マナ)の光がガル爺に降り注ぎ、傷を癒す。


「ガル爺、大丈夫か? 治癒魔法をかけた。言いにくいがこいつは一時しのぎに過ぎない」


 命に関わる危機的なダメージが癒えたガル爺は、しっかりとした力強い所作で立ち上がった。


「助かったぞ…… 今、この時動ければ十分だ。これでわしはアルをセントールの(ごう)から解き放ってやることが出来る」


 さっきとは全く違う洗練された隙の無い動きで、再び構えを取る。


「シュルクの動きと反応が鋭すぎて、今までこいつを使うチャンスが全くなかった。だが、小僧のおかげで奴の動きが鈍っている。今なら絶対に外さん!」


 地球ではこれでも古流拳法の黒帯持ちだったからな。

ガル爺が右拳に力を集中しているのがわかる。

気合とか ……発勁(はっけい)と言えばいいのか、そういう類の力の集中だ。

俺には認識できないが、きっとありったけの魔力(マナ)も同時に集中しているに違いない。

ここまでの溜めを作る技は確かにあの超バトルの中で使うのは無理だな。


  ……。


    ……。


 ガル爺はまだ微動だにせず力を集中させている。

シュルクはもうそこまで迫っている。

これ以上接近されると奴の攻撃範囲に入ってしまう。

仕方がない…… 俺もダメージは完全回復していないが、いよいよとなれば俺が奴の足止めを……

格ゲードライバを起動しようとしたところでガル爺が動いた。


「これですべてが終わる……。 わしの宿命も、貴様の妄執もな!」


 ガル爺がシュルクに向けて渾身の拳を繰り出した。


「裂空うう剛おおぉ拳んんっ!」


 拳から凄まじい光と共に破壊の力の奔流がシュルクに襲い掛かった。

 前回の投稿以降で評価ポイントつけていただけました!

つけてくださった方、ありがとうございます。

ごちそうさまでした!とても嬉しかったです。


 読んでくださる方々がこうして反響入れてくださることが

心の支えです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなかに面白くてブクマさせて頂きました。 誤字脱字も無く、文章の構成も良いですね。 序盤のヌコ娘の死は賛否両論ありそうですが私的には、なろうにはない話の書き方なので良いと思いますよ思…
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