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二百十八話 これはいよいよ俺の役立たず度が爆上がりだな

 ひりつく緊張感の中、ガル爺とシュルクが対峙している。

数秒の沈黙の後、双方が同時に動いた。


 ガル爺はシュルクの鋭い突きを最小限の動きで(かわ)すと、そのままカウンターの右ストレートを打ち込む。

シュルクは攻撃に反応して左の掌でガル爺の拳を受け止める。


 マジかぁ……。

あの切り返しを見てから防御が間に合うのか?

いや…… これは読んでいたのか?


 パアァァーン!


 ガル爺の拳を受け止めたシュルクの掌から乾いた衝撃音が響く。

次の瞬間には二人の姿が視界から消えた。


 ……。


  ……。


 今、俺の目に写っている光景は一体なんなのだろうか?

冗談のような凄まじい格闘戦が繰り広げられている。

まるで下手なパラパラ漫画を見ているかのように、断片的にしか二人の動きを追うことが出来ない。

もはや願いが叶う七つの竜玉のアニメに出てくる超バトルシーンを見ているような錯覚さえ覚える。


 なんとかガル爺の援護を…… と、数分前の俺は考えていたが、これは無理だな。

この戦闘について行ける要素が全く見いだせない。


今の俺の立ち位置は、戦闘民族襲来時に真っ先にやられてしまった無茶夫(ムチャお)や決死の自爆攻撃を仕掛けたのにキズ一つつけられなかった餃子小僧(ぎょうざボーイ)以下だ。


 ガル爺やシュルクの攻撃の余波で砕けた岩や(えぐ)れた地面の状態から脳内PCが二人の繰り出している攻撃のおおよその威力と速度を算出する。


 その結果は……。


 俺が格ゲードライバを起動してリミッター全解除で戦闘に参加しても、シュルクと打ち合えるのは最初の一合だけという非情な結果だった。


 意外にも武器の四節棍は打ち合い方次第では、このトンデモバトルでも壊れることなく使えるぽい。

しかし、俺の肉体が【ブレイクスルー】で強化した状態でも全然耐えられない。

脳内PCのシミュレーションでは最初に一合目で武器を持つ手が手首から砕ける。

そして、すさまじい速度で飛んでくる第二撃に反応できず、そのまま即死する確率が97%だってさ……。

戦闘に参加した場合、生存時間は1秒未満…… 三撃目までに死亡する確率は100%と来たか。


 このまま肉弾戦で戦闘に加わっても、勝敗の行方に毛程の影響を与えることさえ出来そうにない。

無理なものは無理…… ここは切り替えろ。

今の俺が勝利に貢献するにはどうすればいい?

何かやれることは無いのか……。

必死に思考を回転させる。


  ガッ、バシッ!


 すでに、ガル爺とシュルクが打ち合い始めて五分以上の時間が経過してしまった。

アルドとヴィノンも魔物達を全て片付けて、二人の激闘に巻き込まれないように距離を取っている。

何とかガル爺の援護が出来そうなタイミングを探っている…… そんな感じに見える。

ヴィノンはいつでも投擲できるようにブーメランを手にしている。

アルドも遠隔斬撃の【プロパゲイション】を打ち込めるように身構えている。


 チラチラと二人の姿が散発的に見えることもあるが、俺の目は基本、この超バトルの動きが全く追えていない。

しかし、隣にいるアルは真剣な表情で戦場から視線を逸らすことなく凝視している。

それは対面側にいるアルドとヴィノンも同じだ。


 つまり俺以外の全員、ついて行けないにしてもこのあり得ないバトルの動きが見えているのか?

これってもしかして、俺と他のみんなとでは強化魔法の効果に違いがあるんじゃないのか?

俺にかかっている強化魔法【ブレイクスルー】は格ゲードライバによる身体負荷を(かえり)みない動きに耐えられるよう、筋力や骨格の強度等を底上げするものだ。

強化する方向性は違えども、アルド達が使っているバフ魔法も基本は同じものだとずっと思っていた。

これは、その認識がそもそも間違いかも知れない。

ラライエの冒険者たちが使っているバフ魔法は俺の【ブレイクスルー】とは何か根本的に違うものである可能性を考えた方がよさそうだ。

まぁ、それはこの状況を生き延びてからの話だな。

ここでシュルクに敗れて死ねばすべては無意味なものになる。


 俺だけがシュルクの動き自体が見えていないとなると……。

これはいよいよ俺の役立たず度が爆上がりだな。


 それにしても、シュルクは確かに強い。

そこに疑いの余地は無い。

しかしこのシュルクの強さは何か違うくないか?


「なぁ、ピリカさんや」


「ん? なぁに?」


「シュルクは二週間でこの国を滅亡させるほどの強さだと言ったよな?」


「うん、言ったね」


「あれが二週間で国を滅亡させる強さか?」


「え? どういうこと?」


 アルが俺とピリカの会話に割って入ってきた。

この小娘はまだ理解が及んでいないみたいだな。


「確かに強い。俺じゃ手が付けられない程にな。だが、この国の国土がどれだけあると思っているんだ? この国の人口は何万人だ?」


「え? そんなの私、気にした事ない」


 そう、普通に暮らしている国民はそんな事は気にしない。

俺だってそうだ。

学校に通っていた頃は社会科の勉強で教わることだから当然知っていたが、もう細かい数字までは覚えちゃいない。

ラライエに至っては子供の就学率は地球の足元にも及ばないから、言わずもがなだ。


「それだよ、アル。普通の人間たちが気にしない程に広い国土と多い人口……。これを目の前にいるシュルクが二週間で根絶やしにできると思うか?」


「それは……」


「セルヴォディーナ達の足止めがあったとはいえ、シュルクがここまで来るのに二日弱かかっている。奴が次に向かうのはエーレか北の中継都市トランのどちらかだ。奴が不眠不休で活動できるとしても、そこに到着するまでに何日かかる?」


 ちなみに俺達がボル車でここまで来るのに一週間ほどかかっている。


「オルタンシアさん達が伝令として先行している。おかげでこの事態はいち早く知らされる。今後のシュルクの進路には勇者や冒険者、王国の兵士たちが待ち構えているだろう。その数はどのくらいだ? 一万か? 五万か? シュルクの前に立ちふさがる連中をあの調子で一人ずつ叩き潰していたら、次の町に着くまでに二週間以上は掛かると思うぞ」


「確かにそうよね……」


 アルも俺が言わんとすることを理解してくれたようだな。

シュルクは歩いているだけで周囲の魔物や魔獣が集まってくる。

それを数に入れたところで、組織的に動く人間たちが準備の上で待ち構えているとなると誤差の範囲だろう。


「シュルクがいくら強くても物理的な白兵戦主体の戦いしかできないのなら…… この国を滅ぼす前にピリカの言う活動限界が来るんじゃないのか? これだったら、まだペポゥの方が二週間でこの国を滅ぼせる可能性があるように思えるぞ」


あの圧倒的な質量で転がりまわって、都市を踏み潰して回った方が人類へのダメージはデカそうだよな。


「それじゃシュルクをこのまま放置しておいても、国が滅亡するまでに勝手に死ぬって事なの?」


「ピリカ、どうなんだ? あいつが二週間でこの国を滅亡させられるって思う理由はどの辺だ?」


「シュルクが今保有している魔力(マナ)の総量はこの大陸を滅亡させられるほどだよ。でもね……。それ程の力を解き放つ破壊の魔法の出力に摩耗したシュルクの魂と仮初めの肉体が何度も耐えられるはずがないと思うの。一発きりなのか…… 何発かいけるのか…… そこまでは分からないけどね。だから、シュルクはそれを使うべき場所に着くまでは肉体も魂も極力温存するつもりなんだと思う」


 やっぱりか…… 何となくそんな気はした。

今の奴は無双キャラでありながら、歩く核爆弾というわけだ。


「【仮初めの肉体を物理的に砕けるのならシュルクは確実に倒せる】ってピリカは最初にこう言ったな?」


「うん、言ったね」


「ここで奴を倒しても、その溜め込んでいる魔力(マナ)が暴発して爆発するなんてことは無いのか?」


魔力(マナ)は火薬なんかの爆発物とは違うんだから問題ないね。魔力(マナ)は純粋に世界を構成する始原の力の一部に過ぎないよ。それを抱え込んでいるシュルクが死ねば、ただ世界に拡散して還元されるだけ。それ自体は無害だね。魔力(マナ)(けが)れるのはシュルクの魂とそれを行使する術式が魔力(マナ)を汚染するから…… むしろシュルクがあの状態で存在すること自体が危険なんだよ」


「つまり、俺達はシュルクを攻めまくってその大陸を滅ぼす程の破壊魔法を使う前に倒すしか生き残る方法がないというわけか」


「生き残るなら、今【ポータル】を使う方が確実だけどね」


 ピリカには悪いが、事ここに至ってしまったらそれは却下だ。

とはいえ状況は依然として悪い。

むしろ、どんどん悪い方に転がり始めていると言っていい。

シュルク相手に一歩も引かずに善戦していたガル爺だったが、ここに来て動きに精彩を欠き始めてきた。

相変わらずの超バトルが繰り広げられているため、はっきりとは分からないがジリジリと押され始めているように見える。


 それはまぁ、そうか。

オタク的な思考で見るなら、残された命が殆どないシュルクは何もしていなくても時間経過でHPがどんどん減っていっている。

それを回復させる手段は無い。

しかしゾンビ状態のため、奴自身は全然疲れを感じないし物理的には痛くもない。

ピリカ曰く、魂は凄まじい苦痛に(さいな)まれているはずらしいが、そこは今考えなくていいだろう。


 一方、ガル爺は人間の身一つでシュルクと超バトルを続けているんだからな。

普通に疲れるし、攻撃をガードしたってそれなりには痛いだろう。

大半の格ゲーでも敵の必殺技やコンボをガードしても、ちょっぴりHPが削られる仕様の物は多い。

それと同じようなものと考えてよさそうだ。

このままだと時間の問題だろう。

ガル爺は削り切られて負ける。

何か状況をひっくり返す起死回生の一手が必要だ。


「うぐっ!」


「!! お爺ちゃん!」


 シュルクの攻撃がついにガル爺を捉えた。

決定打にはなっていないようだが、後方に押し戻されたガル爺が片膝をついた。

ここで一気に決めにかかろうとしたシュルクだったが、そこに二本のブーメランが飛んでくる。

そうはさせじとヴィノンが攻撃したようだ。

しかし、シュルクはとっくにブーメランの存在に気付いていたようで、一瞥しただけでブーメランを拳ではじき返した。

だが、おかげでガル爺への追い討ちの機会を逸してしまい、その間にガル爺は立ち上がり態勢を立て直して構え直している。


「目障りな奴め…… 邪魔をするな!」


 シュルクが拳圧をヴィノンとアルドに向けて放つ。

その衝撃波が二人を捉える。

二人にかけてあった【プチピリカシールド】がパリンとあっけなく砕けた。

その直後に二人は数メートル後方に吹き飛ばされて、茂みの中に消えた。


 !!


おい、二人は大丈夫なのか?

【プチピリカシールド】が紙同然のあの威力……。

俺ならあの一撃で命が無いかもしれない。


「いててっ…… これはキツイね」


 ヴィノンがすぐに茂みから戻ってきた。


「拳圧だけでこれ程か…… 気をつけろ。奴の攻撃を簡単にもらうのは命取りになるぞ」


 続いてアルドの姿も確認できた。

盾を装備している前衛のアルドはともかく、ヴィノンがあれを食らって思ったよりもケロッとしているのはちょっと意外だった。

俺が思っている以上にヴィノンは頑丈なのかもしれない。


 それはそうとして、ほぼ生命活動をしていないあの肉体でシュルクはどうやってあれほどの反応速度を出しているんだ?

死体と変わらない肉体は硬直して動かすのだってそれなりに大変だろう?

痛くないし疲れないということは、神経細胞だってきっとまともに機能していないはず……。

だったら、目や耳だって……。


 あれ?


 あいつ…… きっとあの肉体の目で物が見えていないし、耳も聞こえていないよな?

なら、シュルクはどうやって物を見てる? 音を聞き分けてる? 話をしている?


 もしかして……。


気が付いてしまったかもしれない。

この状況を打開できるかもしれない手を……。


『なぁピリカ、俺にかかっている【MPタンク】を一時的に解除できないか?』


 俺は日本語でピリカにそう切り出した。

 前回の投稿からまた一つブックマーク頂きました。

つけてくださった方、ありがとうございました!


 さて、三章ラストバトルもいよいよクライマックスぽい

所まで来ました。

ここまで見てくださっている方は、シュルク攻略の展開もう

見えちゃってる人多いですかね?

 そこはそれでこれからも読んでいただけると嬉しいです。

ついでに、ブックマークとか評価等…… 反響いただけると

もっと嬉しいです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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