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二百十五話 このままシュルクと戦っても大丈夫なのか?

 手甲を装備したガル爺を中央に左翼を俺とピリカ、そしてアル、右翼をアルドとヴィノンが固める。

戦場は予定通り湖畔の広い場所に陣取っている。


 俺は再びドローンをシュルクのいる方角に飛ばすことにした。

バッテリーの残量的に、これがドローンの最後のフライトになるな。

これ以上ドローンを飛ばすためには、充電済みのバッテリーをさらに召喚しないといけない。


 俺はドローンを無線LANの有効範囲ギリギリの160m先でホバリング停止させた。

ドローンは最大望遠でシュルクがいる方向を撮影し、映像データを俺の脳内PCに送り続ける。


 ……


    ……


 いた! シュルクだ。

今ドローンが居るところからさらに70m先だ。

噴き上がる(けが)れた魔力(マナ)のおかげで森の中でも見つけやすい。

ひとまず奴はおおよその場所と、俺達がいる場所への到達時間さえ把握できればそれでいい。

今、俺が一番知りたいのは後続の魔物達の数とその位置情報。

俺達の役目は魔物を倒し、ガル爺の戦闘の邪魔をさせないことだからな。


「シュルクを見つけた。まだ200m以上先にいる」


 シュルクの現在位置を聞いてガル爺は真剣な表情で頷いている。

続いて、俺はポーチから【クリメイション】の術式を取りだして発動の準備に入る。

やがて後続の魔物達の姿も木々の隙間からチラチラとカメラに写り始めてきた。


「木が邪魔で魔物の総数はちょっとわからないな。見える範囲からの推測になるけど100は確実に超えていると思う」


「やれやれ……。数の上では最低でもこちらの20倍以上というわけだね」


 ヴィノンがため息交じりにそうこぼす。


「愚痴っても仕方がないだろう。魔物が何匹いても俺達のやることは変わらん」


 アルドは全く動じていない。

追躡竜(ついじょうりゅう)の囮を引き受けた時もそうだったけど、こういう時の度胸は本当に()わっている。

根っからの前衛向きだよな。


「まぁ、今からできるだけ数を減らしてみる。できれば、ここに来るまでに全滅させておきたいところだけどな」


 脳内PCはドローンから送られてくる魔物の情報をもとに弾道計算を開始している。

今回は森の中を進む魔物の群れが目標だ。

200m以上離れた障害物だらけの森の中にいる相手に直接魔法を命中させるのは精密な弾道計算を行っても難しい。

しかし【クリメイション】は範囲攻撃魔法の側面を併せ持つ魔法だ。

別に敵に直接命中させなくても、炸裂時に拡散する猛毒の火山ガスが敵を倒してくれる。

今回は火山ガスで敵の数を減らすことが主目的だから、弾道計算にそこまでの精度を求めてはいない。

敵がいる範囲内にうまくばらまくことが出来れば上出来だ。


 一応、弾道計算アプリはデボロニャを見つけた場合、最優先の攻撃目標とするように設定してある。

160m先の上空で魔物を観測しているドローンは先制攻撃の(かなめ)を担うスポッターだ。

こいつが撃墜されたら俺たち自身の手で魔物と直接戦うしかなくなる。

もし、ドローンが襲われるとすれば、飛行能力を持つデボロニャにやられる可能性が一番高いと考えたからだ。

あと、俺が個人的にこいつは嫌いだからな。


 簡易的な弾道計算なので、ものの数秒で脳内PCはロックオンの表示を返してくる。


「よし、行くぞ」


 俺は次々と表示される弾道データ通りの軌道に乗せて【クリメイション】を発動させた。

同時にピリカが風魔法を森の方角に発動させてくれる。

それ程強い風ではない。

まとまった数の【クリメイション】を打ち込む以上、風上の利は押さえておきたい。

大丈夫だとは思うが、毒ガスがここまで流入してきて自分たちの魔法で自滅する事態は避けないといけない。

念のための保険だ。


 一応、風上を取った状況で【クリメイション】を一発使用した場合の最低安全ラインは計算上、40mぐらいだ。

これ以上近い場所を狙うのは、自分達も火山ガスの影響範囲に入る可能性が出てくるので危険になってくる。

ゲームと違って魔法攻撃は敵味方を区別してくれない。

しかも今回は20発以上の【クリメイション】を使うつもりだ。

森の中という地形的要因もあるし、ガスが安全濃度まで拡散するのにも時間がかかるかもしれない。

風魔法までは必要なかったかもしれないが、自分たちの安全確保は充分にしておいた方がいい。


 ドローンから、【クリメイション】の影響範囲にいる魔物達がバタバタと倒れていく映像が送られてくる。

ひとまず、思惑通りの結果が得られているように見えた。

デボロニャがドローンめがけて飛んでくる様子もなさそうだ。

先頭を進むシュルクが森の端部に到着するまであと70mを切ってきている。

後続の魔物の大半を失ったシュルクがどう出るのか分からない。

これ以上、【クリメイション】による爆撃は危険だろう。


 俺は【クリメイション】の使用はここまでにして、全員に【プチピリカシールド】を発動させた。

シュルクと直接戦うガル爺には気休めにもならないかもしれないが、無いよりはましだろう。

やれることはなんでもやっておかないとな。

それにガル爺以外のメンバーたちはこれで万一、魔物の攻撃を受けたとしても、これから30分間は即座にやられることは無い。

見た感じだと一撃で【プチピリカシールド】を破る可能性がありそうな魔物はオーガぐらいだ。

そのオーガもうまく行けば【クリメイション】の爆撃で全滅してくれているかもしれない。


「敵の大多数は片付いているはずだ。残りをさっさと始末して、ガル爺の援護に入ろう」


「了解だよ!」


「ふんっ! 余計な心配は無用じゃ。封印が無くなったおかげで、魔力(マナ)がかつてない程に沸き上がる感じだ。今のわしの力は全盛の頃以上かもしれん。これなら相手が何者であってもやれる」


 マジかぁ…… だが、嘘を言ってるようには見えない。

10匹以上のミノタウロス相手に一人で互角以上に戦うトンデモ老人がさらにパワーアップしてるとか。


 だが……。


【あれほどの(けが)れに触れたらあっという間に魂が取り返しつかない程に(けが)れるよ】


 ……ピリカの言葉が頭から離れない。

本当にこのままシュルクと戦っても大丈夫なのか?

これが正解なのか?


「なぁガル爺、やっぱりあんたがシュルクと戦うのは……」


「迷うな小僧! お前の精霊が言ったことを気にしておるんだろう。確かにあの魔力(マナ)に触れれば何か恐ろしいことがわしの身に降りかかるのかもしれん。だが、すぐに死ぬようなものでもないとも言っておっただろう。だったら何も問題はない。問題はわしが奴と対等の条件で戦うことが出来るかどうかだけだ。光の精霊! そこはどうなんだ?」


「今のシュルクはあの身体を依り代にこの世にしがみついているだけの存在だね。魔法や固有特性は使ってくると思うけど、本質的にはゾンビやグールと変わらないと言ってもいいよ。クソ勇者があの仮初めの肉体を物理的に砕けるというのなら…… シュルクは倒せるよ。……確実にね」


「だったら、問題ない。全てわしに任せておけ。二千年以上にわたる【セントールの系譜】の悲願をわしの手で果たすことが出来るとはな。この巡り合わせにはむしろ感謝すべきかもしれん」


「なぁピリカ。あの(けが)れの魔力(マナ)の影響を防ぐ手立ては無いのか?」


「触れない・吸わない・取り込まない。これ以外に無いね。あれに触れても影響を受けずにいられるのはラライエには一人しかいないよ」


「えっ! いるのか? そんな奴が……」


「ハルトだよ。出会ったときに言ったでしょ?【ハルトの魂は精霊じゃないのに、どんなことがあっても絶対に魔力(マナ)(けが)れることが無いって断言できるよ】って」


 マジかぁ……。

俺の魂には魔力(マナ)の受容体が無い。

それゆえに魔力(マナ)(けが)れの影響を一切受けないと言いうわけか……。

そういうことなら確かにラライエでただ一人、(けが)れの影響を受けない人類かも知れない。


 でもなぁ。

これ絶対、地球人は全員そういう特性だぞ。

下手したら【ぬこ】や【イッヌ】なんかもだ。

いやいや、ミミズだってオケラだってアメンボだって……。

地球に生きる命は全て(けが)れの影響を受けることのない生命体の可能性すらあるな。


「精霊ちゃん…… それ、本当なのかい? ハルトきゅんはその(けが)れとかいうものに対して無敵だっていうのは……」


「ピリカがそういうのなら本当なんだろう」


 アルドはピリカが俺に絶対に嘘を言わないのを理解している。

ピリカの言葉を素直に信じてくれるが素直にうれしい。


「……わかった。(けが)れの影響を受けないのなら、俺がシュルクとたたか……」


 俺が(はら)を決めてそう言いかけた瞬間……。


「絶対ダメ! いくらハルトの望みでもそれはさせないから!」


 ピリカがガシッっと俺にしがみついて、俺がシュルクと戦うことに反対してきた。


「おい! ピリカ……」


「ハルトはシュルクの力をわかってない! ハルトがあのシュルクと戦えば秒で死ぬよ!」


 おっふ……。

それ程の力の差があったか。

(けが)れが効かなくても、シュルクの攻撃は普通に俺を粉々に打ち砕く……。

シュルクの力や能力を無効化するわけでも何でもないということだな。

まぁ俺のオタク知識でも、総じて能力の無効化的なスキルは、主人公が保有していることが多いチートスキルだったりするもんだ。

俺ごときが持っていていいものじゃないか……。

結局のところ【(けが)れ無効】は地球の全生命体が保有しているコモンスキルに過ぎないわけだ。


「そういうことだ、小僧。お前がその(けが)れとかいうものに対する絶対耐性の固有特性があったとしても、戦いの役には立たん。おとなしくわしに任せておけ」


「お爺ちゃん……」


「アル、心配するな。わしはお前の両親を死なせてしまった駄目なジジイだが、ここで必ずシュルクを倒してやるからの。それでお前は【セントールの系譜】のくびきから解き放たれて自由だ。わしがお前を自由な人生を送ることが出来るようにしてやる」


「ハルトきゅん、ここはガル爺に任せよう」


 シュルクの位置を追跡していたドローンから、シュルクの接近を知らせる警告メッセージが送信されてきた。

どちらにしてももう時間が無い。

もう当初の作戦通りに動くしかなさそうだ。


「来るぞ! あと20秒だ」


「わかっている」


 アルドはすでにシュルクの気配を捉えていて、抜剣している。

ヴィノンもいつの間にか腰のブーメランの安全金具を外していた。

この二人はさすがだな。

俺もポーチから【フルメタルジャケット】の術式を引っ張り出すと同時に、四節棍の術式を発動させる。

ミスリルでコーティングされた四節棍が一瞬で組み上がる。


 やがて、木々の間からシュルクが姿を現す。

やはり、映像で見た通り決して大柄ではない。

だが、直接目の当たりにすると言いようのない存在感と不気味な気配は全身を突き抜けていくようにはっきりと感じる。


「フフフっ…… 二千年以上、小細工を積み重ねて封印から抜け出してきたようじゃがな……。ここで、お前は終わりじゃよ! セノソチセナカウイーモトノニルノンケノヨカトホイフラノ!」


 ガル爺が初めて聞く呪文を詠唱する。

次の瞬間、ガル爺の纏う空気が変わったのを感じた。


「始まるよ。序列(カレッジ)22番【裂空剛拳】ガルバノの戦いが……」


 ヴィノンは知っているんだろうな…… この爺さんの本当の実力を。

その目にはガル爺に対する信頼の色がこもっているように見えた。

 前回の投稿から一晩でブックマークふたつ頂きました!

とても嬉しいです。ありがとうございます。


 あと、いいねつけてくださった方もありがとうございます。

今週は週末までちょっと外せない用事が入っているので、

今の段階で一話投稿いたします。


 次回、可能そうなら土日使って一話投稿するつもりでいますが

無理だったらごめんなさいです。


 ブックマーク・評価・いいね お待ちしています。

引き続きよろしくお願いいたします。

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