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二百十四話 死んだ後の話だけどね

 映像を見た瞬間にシュルクの存在はすぐにわかった。

それ程にそのインパクトは強烈だった。


「なんだ? こいつがシュルクなのか?」


「ハルトきゅん! 自分だけで見ていないで僕達にも!」


「これに写せるんだよね? 早く!」


 ヴィノンとアルがグイグイと迫ってきてせっついてくる。

アルがピリカから受け取ったスマホを押し付けてくる。


「小僧、もたもたするな!」


 ガル爺までもがこんな調子だ。

まぁ、アルとガル爺の二人がこうなるのは分からないでもない。

【セントールの系譜】はこいつを封じ続けるためにずっとその魂を縛られ続けてきたのだから……。

勇者セントール以来、子々孫々と向かい合ってきた宿敵の姿をその目で確かめておきたいのは当然だろう。

しかも、これから互いの命を懸けて戦う相手だからな。

脳内PCが再生している映像データをスマホの液晶画面にも同期させてやる。

小さなスマホの画面にもその姿が映し出された。

皆の視線が食い入るようにスマホに釘付けになっている。


 シュルクの外見はペポゥのように巨大なわけではない。

ドローンの測定データは全高165cmと算出している。

ただ、その背中になんか黒いトゲトゲの半球体を背負っている。

直径100cm程のイガグリかウニのようなものを半分に割ったような……。

これは何だ?

亀の甲羅的な物なのか?


 これだけでも相当なインパクトなのだが、それ以上に俺の視線を引き付けて離さないのはシュルク自身の姿だ。

全身が赤黒い炎で燃えていて、火だるまになって炎上しているようにしか見えない。

胴体に頭が一つ、両手足がついていて姿形自体は人間のそれと大差ない。

しかし全身から噴出している不気味な炎のせいで、その顔どころか性別すら分からない。

ドローンが撮影してきた映像でしかないはずなのに、立ち上っている赤黒い炎からは何かものすごく嫌な気配を感じる。

何というか…… とにかくすごい存在感だ。

勿論悪い意味で……。


「おい、これが魔族なのか?」


 魔族の姿を見たことがない俺は素直な質問を投げかけてみた。


「……な訳無いでしょ。僕だってこんなバケモノ初めて見るよ」


「外見で判断するのは良くないのだろう…… だか、こいつをこのまま野放しにしてはダメだと強く感じる気がする」


 いつもクールなアルドが第一印象だけでそんな言葉を口にした。

だが、気持ちはわかるよ。

何となく俺もそんな印象を受ける。

ピリカの評価ではこいつは二週間でこの国を滅ぼす程の存在だ。

きっと俺達が受けるこの予感は正いのだと思う。

そして、こいつがここにいるということは、最初に戦ったセルヴォディーナ達はやられてしまったんだろうな。


 序列(カレッジ)100番台の勇者パーティーではシュルクを止めるのは不可能ということか。

ペポゥと戦った時、ヴィノンは俺とアルド二人なら二つ名持ち勇者(ネームド)二人分に相当する戦力と評価していたが、実際の所、俺達にそこまでのポテンシャルは無いと思っている。

とにかく、今はここから分かる範囲の情報を集めることに専念しよう。


「なぁ、シュルクから出ているやつ…… ただの炎じゃないよな?」


 何しろこれ程の勢いで噴出しているというのに、周りの草木に燃え移ったりしていないし、シュルクが踏んだ落ち葉にも焦げ目一つついていない。


「あれは火じゃなくて、(けが)れた魔力(マナ)だよ。ピリカもここまで汚染度の高い魔力(マナ)を見たのは魔王出現時以来だね」


 さっきからピリカの口から出る言葉に安心できる要素が何一つ見つからない。


「炎じゃないということは、俺達があれに触れても平気なのか?」


 アルドが俺達の一番知りたい質問の一つを投げかけた。


「そんなわけないじゃない。あれほどの(けが)れに触れたらあっという間に魂が取り返しつかない程に(けが)れるよ」


 ピリカが【こいつ何言ってんの?】と言わんばかりに即答する。


「それは、あの気味の悪い炎のような魔力(マナ)に触れたらあっという間に死んじゃうって事かい?」


 ヴィノンがピリカの言っている内容を確認する。

ピリカが言っていることの意味を少しでも正確に理解しようとしているんだろう。

この(けが)れという概念は俺も今一つ理解できていない部分だ。

ピリカは精霊を除くラライエの生命は全て魔力(マナ)を能力や魔法と言った力に変えて行使するたびに少しずつ魂が(けが)れていくと言っている。

それは魔力(マナ)を事象変換する際に発生する避けがたいロスのようなものと俺は理解している。

電球に電気を通すと光と熱エネルギーに代わる。

本来必要としているのが電球の光でこれが魔法の効果、熱エネルギーに代わってしまう電気抵抗によるロスが必要としていない(けが)れに該当するものだろう。

この(けが)れが取り除くことが出来ない堆積物になって魂に蓄積されていく。

そして、この(けが)れはラライエという世界にとっても害悪になりうるもの……。

多分、地球人の思考ではこれが一番正解に近い解釈だと思う。

残念ながら、俺ごとき凡人の頭ではこれ以上のことは分からない。


「別に魂が(けが)れきってしまったからって、すぐに死ぬことは無いし、気が触れたりすることも無いね。病気にもならないし特にどうにもならないよ。……()()()()()()()()……」


 やっぱり、そういう答えか。

今になって、ちょっと思い至ることが一つ出てきた。

俺のお気に入りのアニメに闇サイトで請け負った依頼で恨みを晴らす地獄からやってきた少女のアニメがあった。

そこで、恨みを晴らす代償について依頼人に説明するときにヒロインの少女が言っていた言葉が引っかかった。


【死んだ後の話だけどね】


 もしかして、ピリカが言っている事ってそういうことなんじゃないのか?

だとすれば、このままシュルクと戦ってたとえ勝ったとしても俺達は……。

なんかマズい気がしてきた。


「なんだかよく分からない言い回しだね。ちょっと身構えちゃったけど、あの魔力(マナ)は触れても問題なさそうかな。だったら……」


「おい、ちょっと待て! これは一体……」


 ずっとスマホの画面から目を離していなかったアルドがヴィノンの言葉を遮ってきた。

俺も脳内PCが再生を続けている映像に意識を戻す。


!!


「まじかぁ」


 シュルクの背後に少し距離を開けて多数の魔物がぞろぞろと付いて来ているのが映り込んだ。

デカネズミやコボルトなどの弱小の魔物が大半だが、オーガやカルキノスなどのやや強力な魔物の姿もちらほら見える。

さらにあれは……


「この森ってこいつもいたのか」


 映像の端の方に体調2mを越えるとてつもなくデカいカナブンのような甲殻を持つ虫が数匹混ざっているのが見えた。

個人的にはこれには一生遭遇したくなかった。


「ん? こいつは……」


 驚いたそぶりすら見せていないから、アルドもこいつのことは知っているみたいだ。


「【デボロニャ】だよね。 ……そりゃ、森だからたまには出くわすこともあるよ。でも私はちょっと苦手だな。見た目がやっぱりあれだしね」


 このキモい虫は【デボロニャ】というのか。

このままラライエの呼称に従ってデボロニャと呼称しておこう。


「ん? ハルトきゅん、どうしたんだい?」


「俺はあの虫にいい思い出が無くてな…… アルド達と出会う少し前にあいつに(かじ)り殺されかけた事があるんだよ」


「え? それはちょっと意外だね…… 硬いし飛ばれちゃうと捉えにくいから、並みの冒険者には強敵だけど…… ハルトきゅんの敵じゃないでしょ?」


「大丈夫だよ! そのうちピリカがこの世界からあいつらは絶滅させるから」


 ピリカさんならほんとにやりかねないような気がしてちょっと怖い。

それよりもだ。


「それで、なんでこんなに魔物が集まって来てるわけ?」


「シュルクの魂が魔王に近いものになってるからだよ。魔物は魔王から垂れ流される(けが)れた魔力(マナ)に引き寄せられるからね。まだ魔獣が集まって来ていないだけマシじゃないかな」


「……と、いうことはこのままだと森にいる魔物や魔獣が次々と集まってくるということか?」


「そういうことだね」


「それはマズいね。ハルトきゅん、これは本当にここでシュルクを倒した方がよさそうだよ」


「そうだな。シュルクが無敵だったのは封印の場所から一歩も動かないことが条件だったな。だったら、今の奴は俺達の攻撃が通用するということいいんだな?」


「うん、アルドの言う通りだよ。ただし、全身から出ている(けが)れた魔力(マナ)が魔法の作用を阻害するから、魔法の効果は弱体化すると思った方がいいよ」


 まじかぁ……

まぁでも、弱体化ということは全く効かないということは無さそうだな。


「剣が普通に届くのならやりようはあるだろう。俺がシュルクを抑える」


 アルドがシュルクの相手を買って出る。


「まったく、何を言っとるんだ…… お前如き小童(こわっぱ)にシュルクの相手がつとまるわけなかろう。奴と正面切って戦う役はわしに決まっておろうが!」


 ガル爺がアルドを制してそう宣言する。


「こいつは【セントールの系譜】のケジメだ。最初からこの役は誰にも譲るつもりは無い。お前たちは後ろの魔物どもを何とかしろ。あんな奴らにわしの戦いの邪魔をさせるな。いいな?」


「敵の最大戦力にこっちの最大戦力である二つ名持ち勇者(ネームド)をぶつける…… シンプルだけど今のところ一番の作戦じゃないのかい?」


 たしかにヴィノンの言う通りではある。

俺達の作戦はガル爺の一言で決まったようだ。

 すいません。少し間が空いてしまいました。

新たにブックマーク・評価つけてくださった方ありがとうございます。

こうして読んて下さる方がいる事が目に見える形で確認できることが

何よりの励みとなります。


今後とも引き続きよろしくお願いいたします。


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