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二百十三話 ほとんど魔王だから……

「……で、先方は何だって?」


「ああ、状況は相当に悪いみたいです。ここから車で移動していたら、一日じゃ無理かもなんで、持てるだけ機材持って鉄道で九州入りしろ ……だそうです」


「まじかぁ」


 災害復旧ともなれば必要となる機材や道具も多岐にわたる。

キャリーケースに限界まで詰め込んだところで全然足りない。

こんなんじゃ、どんな優秀な技術者(エンジニア)が向かったところで役に立ちそうにない。


「鉄道で行けるところまで行って、現地でレンタカー借りるようにって指示っす。それで熊本入りして拠点(ベース)に集合だそうです。足りない機材なんかはここで段取りつけて渡すって言ってます」


 現地拠点(ベース)である程度の機材が支給されるのなら最低限の仕事は出来るかもしれない。

だったら、一刻も早く現地入りする道筋をつけることにするか。

俺はスマホで被災地の熊本に最も近いレンタカーを手配できそうなところを検索する。


会社(うち)と提携してるレンタカー会社の支店が久留米にあるな。ここで車両を手配してもらおうか」


 俺は業務提携しているレンタカー会社に電話して久留米支店で車両を受け取れるように話をつけた。

そのまま、本社の総務に電話して新幹線のチケットを手配してもらう。


「現地の状況が読めんから、現着時間の予想が立たんな。準備出来たらすぐに行くぞ」


 俺は藤村を伴って急遽、地震に見舞われたばかりの熊本に向かうことになった。


  ……。


    ……。


「おおっ! 見ろよ! オヴァ壱号機仕様の新幹線! オタクの魂が高まるな! おい!」


 偶然、福岡駅に停車していた有名アニメのコラボ仕様の新幹線を見てテンションが上がる。


「もう、そんな場合じゃないでしょ。行きますよ」


「どうせならアレに乗って福岡まで来たかった……」


「きっと特別料金でしょ? 経費で落ちるわけないじゃないですか」


 全く、ロマンの分からん面白みのない奴だ。

まぁ、藤村から見ればこれを見て目をキラキラさせているキモオタのおっさんの思考こそ理解不能なのだろうけどな。

きっと、世間一般的にはそんな藤村の方こそ、まともな思考を持っているとされるのはもちろん理解している。


「そこは嘘でも次来るときはアレに乗ってきましょうね ……ぐらい言えよ。つまらん奴だな」


「……」


 こいつ、無視かよ。


「まぁ、いいや。ここから久留米までは在来線で行くしかないな」


「……ですね。早く行きましょう。荷物が重いっす」


 俺達は在来線に乗り換えて久留米に向かうことにした。




「……!! ……トぉ! ハルトぉ! 起きて!」


「う~ん…… ピリカぁ…… 次はオヴァ新幹線に乗って来ようなぁ……」


「?? もう、オヴァはいいから起きってってば! そんなに余裕ないよ!」


!!


 そうか…… 休みなしでここまで来たから、オルタンシアさんとその護衛の馬車を送り出してすぐ全員仮眠を取ることにしたんだった。

シュルクへの警戒はピリカに丸投げしていた。

なんせピリカは精霊だから睡眠を必要としない。

いま何時だ?


 8月3日 AM 07:43


 脳内PCはそう表示されている。

二時間弱ほど、仮眠を取れたか。

ピリカが俺達を起こしにきたということは……。


「シュルクが来たのか?」


「うん、さっき目一杯拡げたピリカの索敵範囲に引っかかったばかりだよ。だからすぐに遭遇ってわけじゃないけど……」


 さすがピリカ…… わかってるじゃないか。

起きてすぐに命がけの戦闘なんてしたくない。

最低限の心の準備も仕込みもしておきたい。


 他の皆はすでに起きて支度に取り掛かり始めている。

どうやら、今回は俺の寝起きが一番悪かったみたいだ。

生きるか死ぬかの決戦前だというのに、俺が一番神経図太いのだろうか?

そんなことは無いはず……。

こんな時に限って地球にいた頃の変な夢を見たせいに違いない。

時々見るこのリアルな回想の夢……。

何なんだろうな。


「来たみたいだな。どこで迎え撃つ?」


 俺が起きたのを見てアルドがこちらにやってきた。


「相手の力はこちらを大きく上回っていると想定して、湖畔の広い所にしよう。森の中は俺達にとっては視界や射線を切る障害物だらけだ。しかし奴にとっては障害物にすらならないかもしれない」


「湖畔なら最低でも相手と同じ条件の戦場にはなるということか」


「ああ。魔法や飛び道具だって射線を通すのも森の中では手間がかかる。だったら、いっそのこと何もない方が一瞬で相手に狙いをつけられる」


「確かにそうかもね。何も作戦が無いって言っておきながら、さすがハルトきゅん!」


「こんなのは作戦なんて言えるようなものじゃないぞ。正面切って小細工抜きでぶつかってみようってだけだからな」


 まぁ、障害物が必要そうならピリカに【ストーンウォール】を使ってもらうつもりではいる。

こっちの方が木より強度があるし、必要な大きさでこちらの思惑通りの配置が出来るはずだ。


「さてと…… アルド、シュルクの後ろを取れた前提で煽り台詞を一発ここで頼む」


「?? なんでだ? そんなことしたら後ろを取った意味が無くなるだろ」


「いいから…… 本番でそんなことする必要ない。初見の敵が相手なんだ。何が役に立つのかわからん。やれることはやっておかないとな」


「そ、そうか。じゃぁ…… 【はっ! どこを見ていやがる! こっちだ、ウスノロが!】 ……こんな感じでいいのか?」


「ああ、なんか取ってつけたようなベタな言い回しだけど、この際これでもいいか」


 俺は、アルドのセリフを脳内PCで音声データに変換して記録しておいた。


「それでシュルクがここまで来るまで、あとどのくらいなんだい?」


 装備を整えてヴィノン達がやってきた。


「ピリカ、どうなんだ?」


「ゆっくり歩いてきてるから多分、2~30分はかかるんじゃないかな」


「まだ余裕がありそうに聞こえるが、実際はそんなに余裕は無いぞ。急げ!」


 ガル爺はそう言って俺達を急かす。

たしかに、少しでも俺達に有利な位置取りを決めて、敵の様子や来る方角なんかを確認することを考えると、ギリギリかもしれないな。


「わかった。いこう」


 俺達は屋敷を出て、十分な広さを確保できそうなモルス湖畔を決戦の場所にするべく行動を開始する。


  ……。


    ……。



「ピリカ、これを……」


 俺はピリカに電源の入ったスマホを手渡した。

次にドローンを起動して、スマホから出ているBluetoothの信号に追従するように設定する。

 今回は無線LANが届く範囲の外側まで偵察させる必要がある。

ピリカを危険に晒すことになるかもしれないが、これが一番安全で確実な偵察手段と判断した。


「敵の確認はドローンがするから、ピリカはスマホ持って先導だけを頼む。あとは自分の身を守るのを最優先にしてくれ。最悪、ドローンは撃墜されても構わない」


「はーい!」


 ピリカはふわりと浮かんで、シュルクを感知している方向に向けて飛ぶ。

ドローンがピリカのスマホに誘導されてあとに続く。


「目標を確認したら、危険を冒さずにドローンを残して引き返してくれ。ドローンは二分間、目標を撮影したら来た飛行コースをそのまま引き返してくるように設定してある」


 ピリカは振り返ることなく了解の意で手を振って合図を返す。

すぐにピリカもドローンも視界の外まで飛んで行って見えなくなった。


 ピリカが戻ってくる間に俺は、周囲の岩や木に保険の術式を貼り付けておく。


「ハルトきゅん、それは何だい?」


「敵の全容がわからんからな。あまり手の込んだ仕込みは逆に策に溺れて裏目に出るかもしれない。……基本的にこいつは使うつもりは無い。あくまでも保険だから気にしないでくれ」


「ふ~ん、わかったよ。だったら、それは無いものと思っておくね」


 ヴィノンは俺の言葉にひとまず納得してくれたようだ。


「おい、ピリカが戻ってきたぞ」


 ピリカが飛んでいった方向を見ていたアルドがピリカの帰還を知らせてくれる。

視界にプラチナ色のシルエットが見えたと思ったら、数秒で俺の隣にピリカが降りてきた。

地球の最新型戦闘機に迫るスピードだった。

もし、ピリカに物理的質量があったらソニックブームが発生していたかも知れない。

ドローンを置き去りにしていいと言っていたから、かなり飛ばして戻ってきたんだろうな。


「お帰りピリカ、大丈夫か? シュルクに襲われたりしなかったか?」


「うん、ピリカは平気…… でも、ちょっとシュルクの様子はピリカの想定外だったよ」


 俺に抱きつきながら、そんなことを言ってくる。

ピリカの表情や反応が悪い方向に想定外であることを物語っている。


「そっか…… ピリカが無傷で戻ってくれたからな。それだけで俺にとって最悪の事態はまず回避だ」


 これは本当に心からそう思っている。

もはやピリカは俺の半身だ。

出来る事ならピリカに単独行動はとらせたくないのだが、今回はこれ以外の名案が思い浮かばなかったから実の所、苦肉の策だった。


「それで、ピリカ…… どう想定外だったんだ?」


 皆、やはりそこは気になるよな。

アルドが少し食い気味にピリカに問いかけた。


「まず、シュルクは完全に魔族 ……というか、人類(ひと)であることを辞めちゃってるよ、あれはもう生前のシュルクとは別の存在だね」


「そ、そうか……」


 そうは言われても、そもそも俺は魔族の風体を知らない。

どう変貌しているのかは、あまり気にしても仕方がないかな。


「あとは、シュルクの魂はかなり魔王の側に寄っているよ。完全な魔王じゃないけど、ほとんど魔王だから…… ここで決めちゃった方がいいかもしれない」


 かなり状況が悪いのは確実のようだ。


「ほとんど魔王ってどういうこと? 魔王って魔族たちの王様だから魔王って呼ばれるんじゃないの?」


 アルがピリカに質問する。

それは俺も聞きたかった内容だ。

【セントールの系譜】のアルがそんな質問をするということは、他の連中もピリカの言葉の真意を理解していないということだろう。


「……今の勇者はそんなことも知らないで勇者をやっているんだね。 ……だからあんなバカな真似が出来たんだろうけど……」


 ピリカが少し悲しそうな表情を浮かべた。

同時にヴィノンの表情が気持ち厳しいものに変わったような気がした。

やはりこいつは俺達の…… というか、【セントールの系譜】直系のガル爺さえ知らない何かを知っているんじゃないのか?

ピリカの言う魔王という存在がどういったものなのか、それはそれでとても気になるがそれを聞いている時間は無さそうだ。

というのも、ドローンが戻ってきたからだ。


 ドローンが無線LANの有効範囲に入るのと同時に、脳内PCで直接コントロールして足元に着陸させた。

すぐにドローンが持ち帰ってきたデータを吸い上げる。

さて、お前は何を見てきたんだ?

はやる気持ちを抑えながら、映像データの再生を開始する。

そこに写っていたものは確かに想定外の光景だった。

 今回からシュルクとの決戦と言っておきながら、戦闘開始まで行きませんでした。

次回こそ戦闘開始です。

相変わらずの遅い展開ですいません。


 ブックマークが1剥がれて、へこんでいましたが

1回復して心を持ち直しました。

ブックマーク・いいねつけてくれた方、ありがとうございます。

これでまたモチベーションアップで投稿できます!

なんとか、お盆休み中に三章は書き切りたいところです。

引き続きよろしくお願いいたします。

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