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二百十二話 まったく勝てる気がしない

 ガル爺達が意識を失ってから何があったのか…… 今わかっている事を交えながら、ガル爺、アル、そしてオルタンシアさん達にありのまま話した。


「ガシャルさん…… なんてことを…… 【セントールの系譜】を支え、封印を守る護人の一族でありながら……」


 オルタンシアさんが奥歯を噛みしめてそう口にした。

そうは言っても、肝心の【セントールの系譜】がアルの代で断絶するかもしれない状況じゃあな……。

ガシャルの気持ちも分からないでもない。

だからと言って、やった事はあまりにも悪手過ぎる。

とても同情する気にはなれない。


「ところでだ。二人は二千年以上の間、一族の魂を縛ってきた封印から解放されている状態なわけだが…… どうだ? おかしなところは無いか?」


「そうね……。 うまく言えないけど、なんか体の内側でずっと着込んでいた鎧を脱いだような…… ふわっとした軽さを感じる…… そんな感覚があるわ」


 うん、その例えは全然わからんな。


「二人共、魂の魔力(マナ)リソースの六割以上を封印の維持に持ってかれていたわけだから…… それも当然と思うな」


 ピリカにはアルの言っている感覚が分かるみたいだ。

あっ、もしかして……。


『ピリカがアルの言う感覚がわかるのって、ピリカも魂のリソースを俺の【MPタンク】のために使っているせいか?』


 日本語でピリカに尋ねてみた。


『ん? まぁ、そうだね』


 ピリカはさらっと答えた。

まあ、ピリカは俺に対して嘘を言うという思考を持ち合わせていないからな。

しかし ……やはりそうか。

二人が封印に持っていかれていた魔力(マナ)リソースは6割以上だとするなら……。


『なぁ、ピリカ…… それで俺の【MPタンク】のためにピリカはどのくらいの魂のリソースを持っていかれているんだ?』


 今更だが、ピリカの魂にとってあまりにも大きい負荷をかけているのなら、申し訳ないことをしてしまっていたのかもしれない。


『う~ん…… これってどのくらいなんだろう…… 術式のリソース負荷の大きさ自体は気にしたことなかったよ。ピリカにとって大切なのはいつでもハルトの魂と繋がっていられることだから……』


 ピリカは表情を緩めて嬉しそうにクネクネしている。

常時プラチナに光っているのでピリカの顔色は良く分からない。

だが、なんとなくリアクションというか雰囲気からして、人間に置き換えたら頬を赤らめているような気がする。

これは…… 物理的な相互接触が出来ない精霊にとって、魂の魔力(マナ)的な繋がりはとても高いレベルのスキンシップ的なものじゃないのか?

それこそ、恋人同士が常時べったりくっついて歩いているような……。


 まぁ、別にいいか……。

地球人である俺にはピリカと魂が繋がっている感覚は全く認識できない。

アルド達の反応を見る限り、ラライエの人類から見ても俺とピリカのこの状態が変に写っている気配もなさそうだ。

なら、ピリカの気の済むように好きにさせておいて問題ない。


「?? ……また堂々とピリカと内緒話してる! なんかズルい!」


 アルがぷくっと頬を膨らませて不満を漏らす。


「ん? ああ、すまない。話を元に戻そう…… セルヴォディーナ達が頑張ってこの時間を稼いでくれているわけだが、これからどうするのか考えないとだな」


「ハルトきゅんはどう考えているんだい?」


「封印から出てきたシュルクは長く生きられない……。これを踏まえて取れる手は二つだ。このまま逃げに徹してヤツを死ぬまで放置する…… そして、もう一つは奴に挑んで止めを刺す ……だな」


 俺個人としては後者の選択はしたくない。

まったく勝てる気がしない。


「【セントールの系譜】としての使命を果たせなかった者としては、前者は却下じゃ。そもそもシュルクが力尽きるまでの時間が分からんのなら話にならん」


 この爺さんはそう言うと思ったよ。


「そうだね。僕もガル爺の意見に賛成だよ。ハルトきゅんの見立てだとシュルクが死なずに活動を続けた場合、一週間で国土の半分が更地になるんだろ?」


 それは俺の見立てではなくてピリカ…… なのだが、こいつはあくまでも精霊を下に見ているところがある。

ピリカの意見は契約主である俺の意見 ……と、いうことなんだろう。

精霊は本来人類の敵……。

だから、契約精霊のピリカ自身には人権は無い……。

生まれた時からそういう教えを叩き込まれてきたんだろうな。

ガル爺なんかもそうだけど、今更その価値観は簡単には変えられない。

そういうことなんだろう。


 むしろ、教育機会に恵まれなかった孤児院出身のアルドやリコの方が、そういった先入観が少なく、ピリカのことが受け入れやすい心のゆとりがあったということか……。

アルは…… あいつは二つ名持ち勇者(ネームド)の孫という特権階級のサラブレッドでありながら、ピリカのことを受け入れている感じがする。

案外、こいつのような奴こそ特殊なケースなのかもしれない。

そんな思考が頭をよぎって、ヴィノンの言葉に突っ込みを入れたい気持ちをグッと堪えて答えを返す。


「ああ、もし二週間以上シュルクが生存する場合は、この国の全土を捨てる覚悟が必要になるな。それ以上生き延びようものなら……」


「いや、もういい。俺もシュルクが力尽きるまで放置する案にはとても乗れない」


 アルドが俺の言葉を(さえぎ)ってきた。

まぁ、こいつはなんだかんだ言っても正義感の強い良い奴だからな。

たとえ自分が生れた国のことでなくても、放っておけなくなるような気はしていた。


「そうか…… なら、シュルクに引導を渡すためにアレに挑む一択になるわけだ。……となると、次に考えるのはアレとどう戦うのか ……だな」


「ハルトきゅんに何か妙案はないのかい?」


 あるわけがない。

そもそも、封印から放たれたシュルクがどういった存在なのか……

その全容すらわからないのに、どう対策しろって言うんだって話だ。

大体、一週間で国土の半分が失われるほどの力って何なんだよ。

意味不明過ぎる。


「普通にお手上げなわけだが、ここでこうしているわけにいかないのは間違いない。とにかく、今は少しでも奴との距離を稼ぎながら、対策を考えよう」


「そう…… だね」


 満場一致で俺達は来た道を全力で引き返す。



 ……。


  ……。



 夜の闇の中、ピリカ自身が発する光が森を照らしている。

おかげで(つまず)いたり道に迷ったりする心配は少ない。

すっかり真夜中になった森を夜通し駆け続けた。

非戦闘員のオルタンシアさんは護衛の冒険者二人とガル爺を抱える必要のなくなったアルドが交代でお姫様抱っこして走っている。

彼女は何とも言えない複雑な表情で抱えられていたが、非常事態だ。

特に文句を言うことは無かった。

休みなく森を駆け抜けて、俺達は湖畔の屋敷まで戻ってきた。

脳内PCの時計は8月3日のAM4:00を少し過ぎている。

もうすぐ夜が明ける。


 行きは3日かけて進んだ森を身体強化魔法でバフを掛け続け、休みなしで突っ切り、たったの一晩で戻ってきた計算だ。

皆、疲労はピークに達しているが、あまり休んでいる余裕はなさそうだ。

いつシュルクが追いついてきてもおかしくない状況だ。

時間は全く無駄にできない。


「何とかここまで戻ってこられたが、これからどうする?」


 アルドが席に着くなり全員を見渡して問いかける。


「それじゃぁ、僕の考えを聞いてもらっても良いかい? 今回はハルトきゅんもまだ作戦が無さそうだし……」


 そうだな……。

土地勘やこの国の事情に明るいヴィノンの意見はこの状況で次の一手を考える助けになるかもしれない。

俺は黙って頷いた。

ガル爺達やオルタンシアさんも問題なさそうだ。


「まず、シアさん達は伝令としてギルドと連盟にこの状況を伝えて欲しい。距離的にはトランのギルドの方が近いけど、あっちはまだ魔物の間引きがあまり進んでないかもしれない。魔物に邪魔されて足止めを食らう可能性を考えれば、エーレのギルドの方が確実かもね。どちらに行くかはシアさんの判断に任せるよ」


「……承知いたしました。それで、皆さんはどうするおつもりですか?」


「もちろん、僕らはシュルクを迎え撃つよ」


 ファッ!?


 このチャラ男…… 躊躇(ためら)いなくさらっとぶっ込んできたな。


「おい、それは勝算あっての言葉なんだろうな?」


 ここは超大事。

絶対に確認しておかなければならない。


「いや、どうなんだろうね……。 残念ながら僕たちの足は一頭立てのボル車だからね。下手したら歩いた方が早いかもしれないような速度しか出ない。絶対に追いつかれるよ。かといって、不眠不休で何日も森を走るわけにもいかないし…… 選択の余地は無いんじゃないかな?」


 確かにな……。

なりふり構わなければ【ポータル】を使ってここにいる全員を緑の泥にある俺の家に離脱させることも出来る。

しかし、これを選択肢には入れたく無いな。


「シアさんは戦闘要員じゃないし、足は二頭立ての軍用馬車だからね……。これは決まりでしょ?」


「わかった、それでいこう。」


 アルド…… お前ちょっと物わかり良過ぎでしょ?

良い奴過ぎるって……。


「まぁ…… あれだ。どのみち封印はアルの代で限界かもしれんかった。こんな形で封印が破られたのは不本意じゃがな……。わしの代で【セントールの系譜】の悲願を果たす機会が巡ってきたと思うしかなかろうて」


 ガル爺が手甲を装備しながらそんなことを言ってる。

このジジイもヴィノンに乗ってシュルクと戦う気満々のようだ。


「シア、馬車はアルを乗せても問題ないな?」


 ガル爺の問いかけにオルタンシアさんが頷いた。


「問題ございません。アルエット様、こちらに……」


 馬車に案内しようとしたオルタンシアさんの言葉をアルが遮る。


「必要ないわ…… 私だって【セントールの系譜】よ。私も残って一族最後の使命 ……全うして見せるわ」


「アル! お前程度では……」


「足手まといだとでも? 心配いらないわ! 今の私はただの突撃バカじゃない! それに【ファランクス】だってあるんだから……」


「……むぅ ……仕方がない。絶対に小僧のそばを離れるなよ」


「お爺ちゃん…… うん! わかった!」


「小僧、すまんがアルの援護は任せたぞ」


 あれ? 俺の意思確認は?

当然のように戦闘参加メンバーにカウントされてないか?

もうシュルクと一戦交えるのは確定なのか?

これは大急ぎでなんか対策を考えないとマズそうだ。


 本当は土日の間に一話投稿したかったのですが、ちょっと無理でした。

相変わらずスローな展開ですが、次回からいよいよ三章のボスバトルです。


 なんとか土日の間に一話投稿したいところですが……。

駄目だったらごめんなさいです。


ブックマーク、評価増えてました!

入れてくださった方、ありがとうございます。

とても嬉しいです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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