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二百十話 俺が敵ロボットのパイロットなら絶対にしない

「おい! 二人共起きろっ! 気絶している場合じゃないぞ!」


「魂のリンクが繋がっている封印が外的要因でいきなり破壊されたからね。その衝撃が二人の魂に直接伝わっちゃたんだよ。例えるなら無防備・無警戒な状態でスタンガン食らったみたいなものだね」


 ピリカが二人の状態を俺にも理解できるように解説してくれた。


「なるほどな…… これはしばらく意識戻りそうにないな」


「だね」


「……あのさ、その例えの方が僕にはさっぱりなんだけど……」


「そんなことを言ってる場合なのか? 封印が破られたって事は…… マズくないのか?」


 アルドが今なお崩れ続ける壁面の術式から目を離すことなく問いかけてくる。

そりゃマズいに決まっているだろうさ。

マズくない要素があるのなら是非教えて欲しい。


「それで、あの封印が解かれたことでどうなるんだ? 中にいたシュルクはもう生きちゃぁいないんだろ?」


「それがこの術式の本当の目的だね。シュルクは封印の中で朽ちて失われた部分の肉体を、この術式で餌食になった人間の血肉で補って肉体を再構成するつもりなんだよ」


「すると、精霊ちゃんはこのままシュルクが復活するって言うのかい?」


「こんなものは復活なんて言わないよ。ラライエで定まっている摂理に反しているからね。【どこでもない世界】で創世の力を行使して、それが許された摂理の上でやるのならギリギリセーフだけど……」


 ピリカが俺の方をチラリと見てそんな答えをヴィノンに返している。

そういえば俺も一度、PCに頭潰されたところをピリカの力で肉体を再構成されていたな。

ピリカがギリギリセーフと言ってるということは、死からの復活に関しては何かセーフとアウトの明確な線引きがあるのだろう。


「どんどん嫌な予感が膨らんでくるな。復活じゃないのなら、これから起こることは何なんだ? 術式の全容は判明したんだろ?」


 ピリカは頷いてこれから何が起きるのか説明する。


「そもそも2000年以上の時間を掛けて風化した肉体を異種族である人間の肉体を依り代にして再構成できるわけがないんだよね。しかも、こんなに(けが)れで汚染された魔力(マナ)を使って、許容量を大きく超えて(けが)れを吸い込んだ魂を定着させようなんて…… これからここに現れるのは魔族どころか人類ですらないナニかだというのは間違いないよ」


 あ、これは俺のオタク知識的にもかなりマズい。

こんな話をしている間にも、崖の前にぶちまけられている四人分の血肉がデロデロと封印が施されていたはずの崖の穴に吸い寄せられていく。


 じゅるじゅると崖に開いた穴に血肉が引き寄せられる光景は地球でプレイしていた下手なホラーゲームよりおぞましい。

まぁ、当然か…… こっちはゲームではなくリアルな状況だからな。


「そんなものに成り果てて封印の外に出てシュルクはどうしようっていうんだ?」


「簡単だよ。ずっと封印の中にいたシュルクにとって戦争はまだ続いているんだ。魔族であることを辞めてでも戦いを続けるつもりなんだと思うよ」


 アルドの問いヴィノンが即答で返す。

……だろうな。

俺もそう思うよ。


「魔族は肉体、魂共に(けが)れにとても強い耐性を持つけど、これ程(けが)れに汚染されたらさすがに持たないよ……。もう、これの本質はとても【魔王】に近いものになっているね」


 ピリカがさらっと聞き捨てならないパワーワードを口走る。

その言葉の持つ意味は正直よく分からないが、かつてない程に危険なニュアンスを持つことは地球のオタク同志なら誰にでも理解できるものだ。


 この状況を絶対に放置してはいけない!

俺の直感的なものがそう判断している。

俺はポーチから【クリメイション】の術式を3枚取り出すと同時に、脳内PCに封印の向こう側で(うごめ)いている血肉の塊に向けて弾道計算を開始させる。


 今なら標的は動いていない、距離も比較的近い、射線上に障害物もない。

おかげで脳内PCが弾道計算を終えてロックオンを終えるのに二秒も掛からなかった。

俺は脳内PCがロックオンのメッセージ表示させるのと同時に三枚すべての【クリメイション】を発動させる。

このままだと確実に俺達の安全を脅かすものが出現すると分かっていながら、指を(くわ)えて待っているなんて……。

あり得んな!


 俺はアニメでスーパーロボットの合体シーンや、魔法少女の変身バンクをボーっと待っている敵の気持ちだけはついぞ理解できなかった。

こんな千載一遇の攻撃機会を逃すなんて、俺が敵ロボットのパイロットなら絶対にしないっていつも思っていた。


【クリメイション】は今の俺が持ちうる最大火力だ。

炸裂時に高温の有毒ガスが拡散するため、この距離じゃ3発以上の射出は危険だから出来ない。

これであの血肉を焼き払って、奴の復活? を阻止できれば儲けものだ。


 ……。


  ……。


 単純な威力だけなら地球のちょっとした榴弾(りゅうだん)並みだ。

これでビクともしないのなら……。

無色透明の高温ガス弾が三発同時に目標に命中してボンッ! と、鈍い炸裂音が響く。


 ……。


    ……。


 マジかぁ。

血肉の塊は何事も無かったかのように、ウゾウゾと集結を続けている。


「ワアルミコワハガルワイヲタシズイノバガマクルヤタハル!」


 ヴィノンは俺がやろうとしてきたことの意図を察して、呪文を詠唱してブーメランを二本とも抜いて投擲する。

魔法による高温ガスの炸裂が無理なら純粋な武器による物理攻撃なら……。

ブーメランは正確に何かの形を形成しつつある物体に襲い掛かる。

ブーメランが目標に命中したかに見えたその瞬間……。


 チュイイィン!


 どこかで聞いた事のあるような音が響く。

その瞬間、赤黒い光の幕が出現してブーメランを阻んだ。

不気味な光に弾き飛ばされたブーメランがそのまま、ヴィノンの手元に戻ってきた。


「まじかぁ……」


「……だと思ったよ。あの手の外法術式は発動中が一番無防備になるからね。普通は邪魔されないように十分な備えはしているよ。発動完了するまで外部の干渉を強力に拒絶する記述が一瞬見えたから……」


 ピリカさん…… それは早く言ってほしかった。

ここは素直にピリカに頼ってみるか。


「【ピリカビーム】でもあれは破れないか?」


「ちょっと無理と思うけど……」


 そう言ってピリカは【ピリカビーム】を二度発射する。


 チュイン!

  チュイィィン!


 ピリカの指先から伸びる光の筋は、ヴィノンのブーメランの時と同じく、ラライエワニが攻撃を弾くときと酷似した音と共に明後日の方向に消え去っていった。

これは、大元の原理はラライエワニの防御能力と同じということなのだろうな。


「ピリカ、あれを破って奴の復活 ……いや、顕現かな? 阻止できないか?」


「う~ん…… 多分あれ、核ミサイルが命中しても平気だよ。ハルトが【ポータル】で脱出してくれたら、この山ごと吹き飛ばして何とかできるかもだけど……」


「まじかぁ…… どうやら詰んだぽいな。シュルクはずっと攻撃無効の無敵状態なのか?」


「まさか…… あれは、あそこから一歩も動かないことを条件に実現している防壁だから…… 肉体の再構成が完了して動き出せば、どんな攻撃も普通に通るはずだよ」


 つまり、不本意ながら奴の合体シーン・もしくは変身バンクを黙ってみているしかないわけか……。


「なら、次どうするのか即決しないとだね」


 ヴィノンはそう言うと、予想外の出来事に俺達の後ろで棒立ちになっている勇者セルヴォディーナ達に声を掛ける。


「勇者セルヴォディーナ! 僕達は一旦引いて態勢を立て直す! 君たちはここで戦って、一秒でも長く奴を食い止めるんだ!」


「!! な…… 何を! 何で私たちがそんなことを! もしあそこから出てくるのが本当にシュルクだというのなら…… そんなのと戦えば私たちは……」


「聞こえなかったかい? 僕は奴を倒せなんて言ってないよ。一秒でも長く奴を食い止めろと言ってるんだよ。君たちの命を引き換えにしてね」


「ふ、ふざけるなぁ! 貴様、誰に口を利いているんだい! 一介の銀等級冒険者如きが勇者である私にそんなことを!」


 いきなり、ヴィノンに捨て駒になって死ねと言われた勇者セルヴォディーナが激昂して詰め寄ってくる。

ヴィノンはそんな勇者を前に、柔らかい微笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄る。

そして、セルヴォディーナに何か耳打ちした。

その瞬間、彼女の顔色が目に見えて豹変した。


「そ…… そんな……。 何で…… 私は何も聞かされていないっ!」


「だから、今言ったでしょ? そういうわけで…… ここは頼んだよ?」


 俺から角度的に背中越しだったためにヴィノンがセルヴォディーナに何を囁いたのかは全く分からない。

だが、ヴィノンの言葉を突っぱねることが出来なくなるような決定的な何かであったことは間違いなさそうだ。


「私たちがここであれを食い止めれば勇者としての名声は……」


「もちろん、人類の脅威に臆することなく最期まで勇者として立派に戦った…… そう伝えられることになる。君たちに汚名は一切残らないと約束するよ」


「私たちが奴を倒してしまっても?」


「もちろん構わない。そうなるのが最良の結果だよ」


「そうなったら序列(カレッジ)は……」


「勇者セントールにさえ、成し得なかった歴史的偉業だよ? 二つ名持ち(ネームド)どころか序列一桁(シングル)が約束されるよ……」


「…………わ、わかった…… いや、承知しました。ここは私たちが引き受けます。裂空剛拳と仲間の皆様は後退を……」


 悲壮感に満ちた表情でセルヴォディーナはそう言葉を絞り出した。

彼女のパーティーメンバーも皆、死地に臨む覚悟を決めたように見える。

このチャラ男…… セルヴォディーナ達に何を吹き込んだ?


「……というわけで、この場は勇者セルヴォディーナのパーティーがあれを引き受けてくれるからさ。僕たちは今のうちに山を降りて態勢を立て直そう」


 ヴィノンがにこやかに俺達に言ってくる。

気を失ったアルとガル爺と庇いながら、得体のしれない怪物と戦うことは出来ない。

俺は黙って頷いて、ヴィノンの決断を支持することにする。


「アルド、ガル爺を……」


「キムウガハサウンソウョハノモゴトリキレノムガトネワ」


 アルドは身体強化の詠唱を唱えると気絶したガル爺を軽々と担ぎ上げる。

俺も【ブレイクスルー】の術式を発動させてアルを右肩に担ぐ。

ピリカがアルの突撃槍を抱えてふわりと浮かび上がった。


「急ごう、ハルトきゅん。どれだけの時間が残っているのかもわからないんだからね」


 次々と強化魔法の詠唱を開始して、武器を抜き放つ勇者セルヴォディーナ達をその場に残し、俺達は一斉に山を駆け下り始めた。

 土曜日は劇場版ゆるキャン△見たかったので

それに一日使っちゃいました。

それでも三連休あったので、何とか一話書くことが

出来ました。


 三章もかなり大詰めです。

本当は一気に書き上げて投稿したいところですが、そこは

ご容赦願います。


 よければ、ブックマーク・評価・いいね等、いただければ

とても嬉しいです。

引き続きよろしくお願いいたします。

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