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二百六話 そこはかとなく嫌な予感がしないでもない……

 思わぬトラブルのせいで午後の出発になってしまったが、地脈を追って湖畔を西に進む。

調査が始まった当初と比べると、ピリカが(けが)れの流れを追う速度はかなり早くなっている。

(けが)れの流出元が近くなってきているので、ここまでくれば複雑に枝分かれしている(けが)れを見誤ることはまずないらしい。


 さっきからアルがチラチラと俺の方を気にしているようだ。


「…………」


「おい、さっきからどうしたんだ? 挙動が不審過ぎるぞ」


「えっ!? ……だって ……やっぱり変だよ」


「何が? ヘンなのはアルの方だろ」


 それはそうだろう。

自分の記憶とアル自身の状況がかみ合わないのだから……。

しかし、ここは強引に捻じ伏せにかかる。

何としてもこれはアルの夢だったということにしてしまう。


「ぷむくくっ……」


 ヴィノンが笑いをかみ殺して肩を震わせている。


「むっ!? ヴィノンさん…… さては何か知ってるんじゃ……」


「うなっ!? そ、そんな事ないよ」


 アルは猜疑心に満ちた目でヴィノンを睨みつけている。

このチャラ男…… いきなりボロ出してるんじゃない!


「おい、遊んでる場合じゃない。お客さんが来たぞ」


 アルドが警告を発する。

アルド、ナイス!


 視界の先にオークが三匹現れた。


「ヴィノン、移動中の遊びは程々にしておけ。これがオークではなくて魔獣だったら俺達は全滅していたかもしれないぞ」


「アルドの言う通りだぞ。お前、斥候役兼任だろ? ここまで魔物の接近を許すなんて気を抜き過ぎだ。」


「ううっ、ハルトきゅん ……それはあんまりだよ」


「アルもあまりヴィノンに絡むんじゃない。斥候役が仕事しないのは命とりになる」


「うっ…… でも……」


「デモもストもない! すぐに態勢を整えろ! 魔物は待ってくれないぞ!」


 いつものピリカならとっくに敵を補足しているのだが、ピリカも今は地脈の追跡に意識を割かれているからな。

以前からずっと思っているのだが、現状ピリカ(ついでにヴィノン)頼みの索敵は何とかしたいところだ。

しかし、現状これはどうにもなりそうにない。

とにかく今は目の前のこいつらを、片付けないとな。


 俺達は武器を取り、突っ込んでくるオークたちに向かい合う。




 7月10日


 あれから三日……。

散発的に魔物と遭遇するものの、俺達の脅威になるような凶悪なやつが現れる事は無かった。

今、俺達の目前にあるのはモルス山脈に入るための登山道の入り口だ。


「やっぱりこうなったか」


 もうこれは確定的だろうな。


「ハルトきゅん、どうするつもりだい?」


「今回の調査はここまでだ。一度エーレに戻ってガル爺にありのまま話す」


「そうするしかないだろう。モルス山脈に入る時はガル爺に相談するという約束だったからな」


 アルドが俺の判断に同意する。

もっとも、ガル爺もこっそりついてきているだろうから、もう気付いているだろうけどな。


「ね、ピリカ…… 本当に(けが)れはこっちから流れて来てるの?」


「そうだよ。ここまではっきり捕捉できれば間違いようがないね」


 もうこれは偶然なんかじゃないだろう。

(けが)れの流出元はほぼ確実にシュルクの封印だと思っている。

俺達は今来た道を引き返して、そのままエーレまで戻ることにした。



 7月19日


 今回はパーティーメンバー全員揃ってガル爺の工房に来ている。

もちろん、ガル爺を交えて今後のことを話し合うためだ。


「さて、もう分ってると思うけどな。俺達が追っている(けが)れの流出元だが……モルス山脈で確定だ」


「……そうか」


「もっと言えば、俺はこの(けが)れの出所はシュルクの封印だと思っている」


「……だろうね。僕もそんな気がしているよ」


「あそこには封印以外に何かめぼしいものはあるのか?」


 アルドがガル爺に問いかける。

さすがはアルド、そこを確認しておくのは大事だ。

封印以外に何かめぼしいものがあるのだったら、(けが)れの原因が封印ではなくそっちにある可能性だって考えられるからだ。


「あるわけなかろう…… 【セントールの系譜】の許可なく、何人も近づくことは認められないのだからな」


「だろうな」


「それで…… 封印をどうするつもりだ?」


 ガル爺が一番大事な内容を問いかけてくる。

ここは素直に俺の考えを伝える方がいいだろう。


「わからん…… 出来れば封印を確認だけはしておきたいと思ってる。どうするのかはそれを見てから決めても遅くないだろ」


「ふむ……」


 ガル爺は腕を組んで考えている。


「ガル爺、僕も一度封印の様子は見ておいてもいいんじゃないかと思う」


 ヴィノンが俺の考えを後押ししてくる。


「そうだな…… アルも自分の魂を縛っているものがどういった物なのか…… 一度その目で見るいい機会かもしれん」


 アルもシュルクの封印を直接見た事はなかったのか。


「それじゃ、モルス山脈に入っても?」


「ただし、わしも同行する。小僧の言うようにその(けが)れとかいうものが封印から流出しているとして、何とかできるものなのか…… どうにもならんものなのか…… それくらいは確かめておいてもいいだろう」


「ええっ? お爺ちゃんも来るの? 別に来なくても……」


「馬鹿な事を言うな! お前たちが封印に何かやらかしたりしないか、監視は必要じゃろ。 いいか、わしの許可なく封印に勝手なことはするなよ!」


「ああ、わかってる」


「……ならいい。次の出発はいつだ?」


「物資の補充に必要な時間は最短で三日ってところだね」


 俺が聞く前にヴィノンが俺の知りたいことを教えてくれる。

こいつとの付き合いも、もうすぐ八か月か。

すっかりパーティーとしての連携もさまになってきた気がする。


「わかった。なら少し余裕を見て五日後の出発にしよう」


「よかろう。なら、わしもそのつもりで準備をしておく。アルもそれでいいな?」


「わかったわよ」


「それじゃ、五日後に迎えに来るよ」


 俺達は工房を出て、それぞれ次の出発に向けた準備に取り掛かる。



 ……。


    ……。



 7月24日


 工房でガル爺とアルを拾ってボル車はのんびりと街道を北に向かう。

おそらく今回が最後の(けが)れの地脈調査のなるだろうな。

最長二年と踏んでいたが、半年ちょっとでひとまずの調査に区切りをつけられそうだ。

ただ、(けが)れの原因がシュルクの封印だとすると、そこはかとなく嫌な予感がしないでもない……。


 ガル爺の装備は軽装の皮鎧に赤と青の手甲 ……いつもの装備だ。

この装備と格闘のみで魔物どころか魔獣とも対等以上に戦って見せるこのジジイはもはや人間の領域の強さではない。

とはいえ、俺は調査中に魔物に遭遇してもガル爺を戦闘に参加させるつもりは無い。

こういう超戦力をあまり当てにし過ぎるのも良くない。

俺達が培ってきたいつもの戦闘勘とか連携とか ……そういったものが狂う原因になる。

それにこのジジイは一応引退した勇者という扱いらしいからな。

あくまでも同行者として割り切っておくことにした。



 ……。


  ……。



 7月29日



 前回の調査の時に訪れたモルス湖畔にある屋敷が見えてきた。


「今日はあそこで休んで、モルス山脈には明日向かうことにするぞ」


 ガル爺が俺達にそう指示を出してきた。


「了解だ…… って、また馬車が停まってるぞ。オルタンシアさん達が来てるんじゃないのか?」


「ああ、わしが連盟に早馬を出しておいた。封印を確認するために山に入るとな」


 なるほど。

オルタンシアさん達はガル爺や俺達が屋敷を使うと知って、わざわざここまで来ていたわけか。

ボル車が屋敷の敷地内に入ったところで、玄関からオルタンシアさん達が出迎えに出て来た。

顔ぶれは前回ここに来たときと同じようだ。


「お待ちしておりました、ガルバノ様」


「いきなりですまんな。手紙で知らせた通りだ。山に入って封印の様子を確認してくる。この機会にアルにも封印を見せておきたい」


「承知いたしました。ご滞在の間は私共がお世話せていただきます」


 たしか【セントールの系譜】の真実はガル爺とアル ……あとは村長の一族と連盟の一部、限られた人間しか知らないはず……。

オルタンシアさんはその【限られた人間】側の人間というわけだ。

連盟でも【セントールの系譜】の主任担当だって話だったからそれも当然か。

そんな、真実を知る人間の中でも明らかに例外に見えるのがヴィノンだ。

このチャラ男がなんでこんなことを知っているのか…… それは今なお謎だ……。


「この前来たばかりなのにごめんね、シアさん」


 ヴィノンがフランクリーにオルタンシアさんに声を掛ける。


「いえ、これが私たちの仕事ですから。お気遣いは無用です」


「今日はここで休んで明日の朝に出発する。それでいいな?」


 ガル爺の問いかけに全員が頷いて返す。


「山に入る前に一晩ゆっくりベッドで休めるのは大きいな」


「でしょ? 勇者セントールもそのあたりを考えてここに屋敷を構えのかもしれないね。危険な封印に近付き過ぎず、監視するのに離れ過ぎず……」


 ヴィノンがアルドの言葉にそんなうんちくを披露し見せる。

だが確かにそれはあるのかもしれない……。

俺はそのシュルクとか言う魔族がどの水準で危険なのか、まだ評価判断を保留にしている。

だからこの屋敷の場所が適正な安全距離を保っているのかは分からない。

ただ俺個人の心情としては、もうシュルクは生存していない方にオールベットしたいところだ。


 シュルクの封印とのご対面はすぐそこまで迫ってきている。

はてさて、何が出てくるのやら……。

 更新が滞り気味ですいません。

4月1日で投稿一周年となりました。

おかげさまで、なんとか一年続けることが出来ました。


 これから本当に三章のクライマックスです!

これをどうしようか迷ってます。


 すいません。

全然更新できていません。

母に続いて妹までも、ちょっと重い病気にかかっちゃって、執筆の優先順位を下げざるを得ませんでした。


 今日、手術です。

無事に終われば少し落ち着くので投稿再開します。


 と、いうわけで次回の投稿まで間が空くかもですが気長に

お待ちいただければと思います。


 今後ともよろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[一言] 比較的きちんと投稿がされていたのに急に途絶えて不安でしたが、そんなことが起こってたんですね。 無事を祈ることくらいしかできませんが……。 ともあれ生存確認ができて良かったです。
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