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二百三話 せっかくの優良物件だけど……

 30分後……。

アルと合流した俺とピリカは、屋敷の周囲を軽く見て回っている。

屋敷の建設、維持管理のためだろうな。

そこそこの面積で森が切り開かれている。

すぐ裏手にモルス湖が拡がっていて湖畔の景色は抜群に美しい。

エーレからかなり北上しているため、もはや単純な距離だけなら北の中継都市トランの方が近そうだ。

ラソルトで購入した国内地図の精度は少々微妙で脳内PCで自動作成され続けているMAPの足元にも及ばない。

それでも行ったことのない各都市の位置関係や街道の確認のためにはこの地図は必要だ。

無いよりもずっとましではある。

脳内PCのMAPデータと突き合わせて、ここからトランまでのおおよその距離を推測すると約220kmだ。

ちなみにエーレまでの距離は260km ……ボル車で5日かかる。

トランまではうまく行けば3~4日程度といったところだろうな。


 つまり街や村までは程々の距離があり、モルス湖という水源もある。

屋敷の広さは申し分が無い程に広い……。


「いいな…… ここは……」


「そうかな? 何にもない所だよ」


「だからこそ ……だ。必要なときは、少しの手間で町や村に行ける。必要最低限の社会との接点と経済活動の維持はできる」


「えっと…… なんの話?」


「これだけ辺鄙だと、特別な用事が無い限り、外部の人間が訪れることもなさそうだ」


「うん…… まぁ、そうだよね」


 この異世界で俺がピリカとヒキオタライフを送るにあたってここは最高の立地と言ってもよさそうだ。

ただし、俺がここでヒキオタライフを送るにあたっては大きい問題が一つと、あまりにも大きすぎる問題が一つある。


 まず一つ目…… 大きい問題。

そもそもこの屋敷は俺の所有物ではない。

しかも維持管理をしているのは連盟ときている。

つまり、俺がここに居住する権利は毛程もない。


 そして、どうしようもなく大きい問題。

この森は(けが)れの影響でピリカが定住するのに適さないということだ。

ピリカが快適かつ心穏やかに暮らせない場所は最初から選択肢に入ってこない。

立地だけは申し分ないのに……。


「せっかくの優良物件だけど…… 仕方がないよな」


「ハルトはここが気に入ったの?」


 前を歩いていたアルが振り返って上目遣いにそんなことを聞いてくる。


「ああ、俺達が住むには理想的な環境だと思う。(けが)れさえなければ…… だけどな」


「ふーん…… そう、なんだ」


 アルは少し考え込むような、歯切れの悪い反応を見せる。



  ……。


    ……。


 屋敷の裏側に回ると湖畔が切り開かれてちょっとしたビーチのようになっている。

ここから湖に小舟を出したり、水を汲んだりするためと思われる。


「おっと、プライベートビーチまであるのか…… 今の季節だと、ここでひと泳ぎしたりするのも……」


「何言ってるの? 危なすぎてそんなことできないわよ。ここが魔物や魔獣が出る森だって忘れたの?」


「……っと、そうだったな。確かに……」


 これは残念だ。

丸腰で水浴びの最中に、カニやスライムに襲われたらひとたまりもない。

それにしても、この環境でここで泳いだりできないのは惜しい。

なんとかならないのか?


「ピリカ…… 結界で屋敷とビーチの安全を確保できないか?」


「ちょっと難しいかも……。高低差のある湖底に直接術式を拡げるのは案外手間がかかるんだよ」


「そっか…… だったら、前に船で使ったミスリルの拡張術式を使うのはどうだ? あれって、甲板から高低差のある船底までカバーできていただろ?」


「そうだね、あれならいけると思うよ」


 おっ! 期待通りの回答がピリカから帰ってきた。


「だったら頼む。小さいの方のミスリル板があと一枚残っていたはずだ」


「うん、いいよ」


「えっと…… どういうこと?」


 話について行けていないアルが、解説を求めてくる。


「ああ、ビーチ込みでピリカの結界を拡げる方法があるということだ。明日になればここで泳いでも平気だぞ」


「うそ……。ここで泳げるようになるの?」


「ああ、準備が必要だから結界の設置は夜だな。明日の朝には泳げるようになってるぞ」


「へぇ…… そうなんだ。やっぱりすごいね、ハルトは……」



「すごいのは俺じゃなくてピリカだけどな」


 一通り屋敷周辺の探検を終えた俺達は、屋敷に戻ることにした。

もう日が傾いてきていている。

もう少ししたら夕食時だ。



 ……。


    ……。


 オルタンシアさん達が用意してくれた夕食を終えて、部屋に戻ってきた。

ピリカは床に座り込んで、結界の拡張術式を刻んでいる。


「すまんなピリカ…… 二度手間になってしまって……」


「全然平気だよ。ハルトのためだもん」


 まさか、また使うことになるとは思ってなかったから、前の拡張術式のミスリル板は鋳潰して棍の素材にしてしまったっからな。

こんなことなら、あの時ガル爺に新品のミスリル板を渡しておけばよかった。


「ハルト、終わったよ」


「そうか、ありがとう。早速、結界を頼めるか」


「もちろん!」


 ピリカを連れて屋敷の裏に回る。

辺りはすっかり暗くなっているが、ピリカさん自身が光っているので明かりは不要だ。


「この辺でいいと思うよ。建物全体と湖も岸から60mぐらいまで結界の範囲に入るから」


「そうか…… 結界範囲内に魔物は?」


「…………。大丈夫、今は魔物の気配はないよ」


「わかった。それじゃ頼む」


「はーい」


 ピリカが地面に直径10m程度の結界を展開する。

普段、野営時に設置してもらっているものと同規模のものだ。

俺は結界の真ん中に拡張術式を置く。

瞬時に術式が起動して、薄い光が一気に広がっていく。

俺に魔力(マナ)を知覚することは出来ないが、この場所を中心にピリカが言った通りの広さで結界が拡がったようだ。


「結界の内側に魔物は?」


「…………。 大丈夫だよ」


 結界内部に最初から魔物が入り込んていたら本末転倒だ。

命に関わる大事な事だから、絶対に万一があってはいけない。

だからこそ、結界を拡張する前と後、ピリカに確認してもらったわけだ。


「それなら、OKだ。明日は気持のいい水浴びが出来そうだな」


「そうなの? なんだかハルト嬉しそうだね。ハルトが嬉しいならピリカも嬉しい」


 俺達は結界で屋敷の安全が確保されていることを皆に伝えてから部屋に戻った。

 連投二話目です。区切り的に少し短めです。

すぐに三話目投稿します。

 次からが本命の箸休め回です。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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