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二百一話 それはそれでかわいらしい仕草じゃないか……

 4月28日



 エーレに戻って来て二日が経った。

夕食を終えて宿の部屋でくつろいでいると、天井すれすれの高さで何やら術式をこねくり回していいたピリカが唐突に声を上げる。


「やったー! 完成だよぅ! これがあれば…… ぐふふふっ」


「うおっ! びっくりした…… どうしたんだ突然……」


「新しい魔法が完成したんだよ! きっとハルトもこういうの好きなんじゃないかって思って…… ずっと実現できないか、前から考えていたの」


「そ、そうか…… で、それはどんな魔法なんだ?」


「うふふっ…… ひ・み・つ…… だよ! 見てのお楽しみ!」


 珍しくピリカにしては勿体つけるな。

まぁ、それならお披露目を楽しみに待つことにしようか……。

俺が好きなんじゃないかって思って考えたものなら、俺達の害になるようなものじゃないだろう。


「そうか、だったら見られるその時を楽しみに待ってることにするよ。ああ、あと……」


「ん? なぁに?」


「……あ、いや、何でもない」


 その【ぐふふふっ】って笑いは自重しような  ……って声を掛けようと思ったのだが、やめた。

折角のかわいい顔が台無しになりかねないが、それもまたピリカの感情表現だ。

特に俺と二人だけの時は、俺もピリカも隠し事無しで全部さらけ出している。

そんな笑いが込み上げるほどに、新しい魔法の完成が嬉しかったのだろう。

それはそれでかわいらしい仕草じゃないか……。

そう思うことにした。




 5月22日


 それからさらに一度、調査に出てエーレに戻って来ている。

既に季節は夏がすぐそこに迫ってきている。

俺が着ていた防寒着は、邪魔になるだけなので下取りに出して売却してしまった。

それに、どう考えても次の冬にはサイズ的に着られそうにない。

肉体年齢的にはすでに15歳に到達しているはずだ。

身長も順調に伸びて来ていて、すでに甥っ子の着衣は全然入らなくなっている。

下着は俺がかつて地球で着用していたものだが、服自体はエーレで調達した一般的な衣服を身に付けている。

もちろん、地球の服の方が質も着心地も優れているが、少し浮いてしまうからな。

モンテスにいた頃みたいに貴族の子弟と思われかねない。

俺はラライエの人類から見れば、異世界からやってきた外来種だという認識はある。

できる限りつつましく、ヒキオタライフを送りつつ天寿を全うさせてもらえればそれに越したことは無い。


  ……。


    ……。


 今、俺達はガル爺の工房に向かうために、村内を歩いている。

今日はこの前の調査でちょっと気になることがあったから、そのことについてガル爺の意見を聞きに行くことになっている。


「もうすぐ夏だからね。これからどんどん暑くなっていくよ。次の調査で積んでいく燃料は前回よりもっと少なくてもよさそうだね」


 隣を歩くヴィノンが照り付ける日差しを見てそんなことを言う。


「そうか、その辺のさじ加減はヴィノンが調整してくれていい」


 今日はピリカだけでなく、ヴィノンもついてきている。

パーティーの斥候を担うものとして、今日の話には自分も参加しておきたいと言われれば、来るなとは言えない。


「そこは僕に任せてくれていいよ。もう、お店には話はしてあるからね。二、三日の内に次の調査に必要な資材は全部揃うから」


 ヴィノンの顔の広さはこういうところで助かる。

エーレでの取引やギルドに対する交渉事は、ヴィノンが前面に立つ方が話が早い。

ガル爺やアルは二つ名持ち勇者(ネームド)としての知名度や信用はあるものの、交渉事や情報収集に必要な立ち回りという点ではやはりヴィノンの方が頼りになる。

ラソルトでもそうだったし、元々王都を拠点にしていたなんてことも言っていたから、この男 ……案外この国中に人脈を広げている可能性もありそうだな。



 ……。


    ……。



 ガル爺の工房に到着すると、すでに二人共俺達が来るのを待っていた。


「ハルト、いらっしゃい! 今日は別に急ぎの用事もないんでしょ? お昼ご飯も準備してあるから」


 窓から俺達の姿を見つけたアルが笑顔を浮かべて、俺たちを出迎えるために出てきた。


「あれ? いらっしゃいはハルトだけかい? 僕もいるんだけどね」


「もちろん、ヴィノンさんもピリカも歓迎してるわよ。ヴィノンさんのお昼ご飯もちゃんとあるから。さ、早く入ってね」


「ゆっくりって…… そんな久しぶりに会った友達じゃあるまいし…… たったの二日振りじゃないか」


「むぅ…… アルドさんとヴィノンさんは宿で毎日会ってるし、ピリカなんてそれこそずっと一緒にいるんでしょ?」


「いや、調査中はアルだって毎日一緒だし、お前は自分の家がここにあるんだ。たった二日やそこいらは誤差の範囲だろ」


「そ、そんなことないもん……」


 やれやれ…… 地球にいる甥っ子が幼い頃の駄々っ子っぷりを思い出すな。


「いつまでもそんなどうでもいい話をしとらんで本題に入ったらどうだ? 何か話があるのだろ?」


「ああ、そうだったな」


 俺達は各々席に着いた。

今日のピリカさんはなぜか俺の膝の上に座っているが……。


「またピリカはそうやってハルトに……」


 アルがなんかゴニョゴニョ言ってるが聞こえないふりをしておく。


「それで…… 今日は何の話をしに来た?」


「ああ、実は…… この前の調査から俺達の動向を嗅ぎまわってる奴が現れた…… らしい」


「らしい?」


「俺は全く気付かなかったらな。ただ、ヴィノンとピリカがそう言ってる」


「あの感じだと素人ではないね。 ……多分だけど、正規の斥候職冒険者だと思う。銅等級の上位ぐらいかな」


「……そうか ……小僧達に心当たりは……」


「余所者の俺達にあるわけないだろ。 ……無理やり心当たりを探すなら ……ガシャルの差し金じゃないのか?」


「……だろうね……。 僕もそうじゃないかと思うよ」


「今の話を聞く限り…… わしも同意見だ。ミノタウロスの一件でガシャルの面目は丸つぶれだからな」


「あのさ、今更なんだけど村長の一族は何で【セントールの系譜】の真実を知っているわけ?」


「簡単なことだよ。村長の一族は勇者セントールの仲間の末裔だからさ。封印に魂を縛られることになった勇者セントールとその子孫をこのエーレで助け、支えることが彼らに課せられた掟なんだよ」


 俺がすでに【セントールの系譜】の真実を知ってしまっているからだろう。

ヴィノンはいともあっさりと質問の答えを返してきた。


 そうか……。

ガシャルは掟で【セントールの系譜】であるアルを支援しなくてはいけなかった。

にもかかわらず、アルを見捨てて自分たちの身の安全を取ってしまった。

それは確かに一族の中でも面目丸つぶれだわな。


「なるほどな…… それで、ギルドの冒険者を使って俺達の動向を探り始めた。そういうことか……」


 別にこの調査を極秘裏にやっているわけでもないし、俺達のところに直接、聞きに来れば隠さず全部教えてやるんだけどな。

とはいえ、友達にはなれそうにないけど……。


「それでだ。この連中…… どうするのが良いと思う?」


「小僧はどうしたいんじゃ?」


「別にどうもしなくていいと思ってる。直接、何か調査の妨害されたわけでもなし……。そもそもピリカとヴィノン以外は感知すらできていないんだ。ただ、念のための答え合わせとガル爺の考えを聞いておきたくてね」


「僕も気にしなくてもいいと思うよ。ガシャルも他のパーティー、しかも日輪級が二人いるパーティーにちょっかいを出させるような事はしないでしょ」


「そうじゃな。わしもそう思う。もし、何かしてくるときはガシャル本人が直接出張ってくるはずじゃ」


「あれでも金等級冒険者だし、そんな露骨なことはしてこないとは思うけどね。大方、僕たちに堂々と絡むための口実を探らせているってところかな。今まで通り普通にしていたら平気さ」


 ガル爺も異論を挟んでこないということは……。

おそらく、ヴィノンの言う通りなのだろうな。

なら、俺達の様子を伺っている冒険者はこのまま泳がせておくか。


「わかった。なら、この話はこれで終わりだ」


「それじゃ、お昼にしましょ! この前、いいお肉が入って来てたのよ」


 アルは席を立ってキッチンにパタパタと駆けていった。

 前回の投稿からブックマークと評価、さらに頂きました。

ありがとうございます。


 もちろん、いいね!もありがとうございます!


 次回こそちょっと、箸休め回になります。

次は少し、表現の境界を探りながら言葉を選ぶ必要が

ありそうなので、時間かかるかもです。

できれば週末には投稿したいと思いますが。


引き続きよろしくお願いいたします。

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