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マスターへの報告

ご覧いただきありがとうございます。

かなり日が空きましたが、できましたので投稿いたします。

よろしくお願いします。

 ギルドの扉を開け、一直線に受付へ向かう。

 こちらに気がついた受付嬢が、素早くカウンターから出てきた。


「お帰りなさいませ。エマ様。報告はすでに受けております。詳しくはマスターに直接お話いただけますか。」


 そう言いながら、上階へ上がるための階段を指し示した。


「あぁ、分かった。」


 ある程度の報告は、国境付近にいた時に既に済ませている。

 なんせ、片道1週間もかかるのだから、事前に連絡を入れて然るべきだろう。

 冒険者ギルドは至る所にあり、国境付近にももちろんある。

 ギルド内の情報は素早く集約され、それぞれ必要に応じて、支部へ伝達される仕組みになっているため、調査を行なっていた時からしばしばギルドに行き、調査報告をあげていたのだ。

 魔物の集落が見つからなかったことから、別の視点からの調査をすべく既に人材の確保に当たっていることだろう。

 そんなことを考えながら、マスター室の扉をノックする。


「入れ」


 簡潔な答えが帰ってきた。

 既にマスターへエマが帰ってきたと連絡があったようだ。

 中へ入ると、筋骨隆々とした巨漢がいた。

 眉根を寄せ、口をへの字にしている様は子供が見れば泣き出すほどだ。


「マスター、ただでさえ怖い顔がさらに凄いことになってるよ」


 どうやら、対応に追われているらしく、目の下にはクマができており、無精髭まで生えている。


「はぁ、オレだって休みたいよ。でもしょうがないだろ。集落がないんじゃ、人為的な可能性もある。そうなったら、魔法士に出て貰うしかないからな。国との交渉はめんどくさいんだ。」


 はぁ、と盛大にため息を吐き、愚痴めいた言葉が返ってくる。

 見た目は熊のようで怖いが中身は苦労人そのものである。


「それはご苦労なことだ。一応、国境から報告したことでほとんど変わりはないけど、人為的な可能性?あれだけ大規模になると、それも考えにくいと思うんだが…。」


 ギルドマスターの疲れように労いの言葉をかけつつその言葉の中に不穏なものを見つけ、思わず言い返した。


「まぁ、それはあくまで可能性としてだが、魔法士の連中はすぐには出てくれないんでな。色々と手続きがいるんだよ。念の為、対応できるようにしておく方がいいだろ。」


 そう言いながら、椅子の背もたれに体を預けると、ギシッという音がして、少し慌てたようにそっと背もたれから背中を離した。

 その光景に思わず口元が緩み、ふと口から溢れでた。


「相変わらずだな。」


「何がだ。」


 面白く無さそうな声が仏頂面から返ってくる。


「そういうところだよ。」


 クツクツと笑うと、益々眉間にシワが寄り不機嫌そうな顔のまま話始めた。


「とりあえず、話を戻すぞ。さっき言ってた人為的な可能性についてだが、魔法士に出てもらうためにも手続きは早くしておくに越したことはないが、正直本当に人為的な可能性も十分あると踏んでる。」


「国境一帯だぞ。かなりの広さがある。難しいだろう。」


 驚きを隠せずこちらも剣呑な表情になる。

 それをまぁまぁと宥めるように右手が上げられる。


「そうだな。でも、お前の索敵能力はこの国でもトップクラスだ。それだけの実力があるお前が2週間もかけて辺り一帯をくまなく探したんだろう。それでもみつからないとくりゃぁ…。そういう可能性は十分あると思うぜ。」


「確かに、私自身の力を過信しているわけではないが、それなりに索敵には秀でているとは思う。思うけど、あれだけの広さで被害が出てる。現状は報告しただろう。マスターも知ってるはずだ。あんな範囲でどうやって人為的にやるんだ…。」


 マスターの返答に納得がいかず、詰め寄るように問いかけると、両手を上げ首を左右に振りながらあっけらかんと分からんと答える。


「それは残念ながらオレには分からん。はっきり言って全くの専門外だ。だが、ここ最近の帝国のきな臭さはお前も感じているだろう。」


 最後の一言はグッとトーンを落とし、眉間に皺を寄せながら呟いた。

 ここ最近の帝国はきな臭さを感じるのは確かだ。

 王国とは停戦協定が結ばれているとはいえ、小競り合いは黙認されているような状態だった。しかし、ここ最近はその小競り合いすらない。

 まさに嵐の前の静けさとでも言うように…。


「確かに。不安になる程何もないからな。」


 マスターの言葉を肯定する。

 するとマスターからも衝撃的な内容が飛び出した。


「それにな、最近じゃどうも冒険者ギルド内でも情報が規制されてる感じがある。帝国の情報が支部長の俺にも入ってこねぇ。帝国側が帝国内のギルドに圧力かけてるとしか思えんほどにな。」


「マスタークラスでも情報がないのか!?」


 驚き、思わず声が大きくなると、慌ててマスターが声を上げた。


「ちょっ、あんまり大きな声で言うな!」


「す、すまん、つい、びっくりして…。」


 しかし、エマが驚くのも無理からぬことだ。

 ギルド内の情報はギルドマスターいわゆる支部長までは殆どの内容が開示されることになっており、知らないことの方が珍しい。

 もちろん、支部長よりももっと上の上層部のみしか知らないこともあるが、一部しか知らない情報は役に立たない。

 冒険者ギルドの強みはどこの国にも属していないことから、さまざまな国の情報を持っていることだ。

 情報とはとても重要なもので、たとえ戦力差があったとしても情報によって戦力の劣っている方が勝つなんてこともザラにある。

 よって、ギルドが持っている情報のほとんどを支部長は閲覧でき、その支部で判断ができるような仕組みになっている。

 支部内での閲覧についてはある程度の規約はあるものの、支部長に一任されており、支部長が認めれば国家機密であっても閲覧が可能となる。

 これについてはもちろん制約はあるが、支部長でさえも情報が掴めていない、ということはそれだけで一大事なのである。


「しかし、本当に情報が規制されてるとなると、怖いな…。」


「あぁ、一応今こっちからも探りを入れてる状態だが、どれくらい情報が掴めるか…。」


 はぁ、と重苦しいため息を吐くマスターに同情しつつ、考える。


「そう考えると、国規模で動いてるなら、国境付近の魔物の大量発生はありあるかもな。」


「そういうことだ。」


 苦渋の表情を浮かべながらマスター肯定した。

 これで漸く、マスターが最初に言った言葉に納得できた。

 魔物の大量発生を人為的に起こすにはそれなりの対価が必要になる。

 しかし、裏を返せば対価さえあればできるのだ。

 問題はあまりにも大規模すぎて人為的とするには非現実的であるという考えが先に立ったが、国ぐるみで犠牲を厭わず行なっているとするならば、あり得ない話ではない。

 一体どれ程の犠牲を払っているのか。

 考えるだけでも恐ろしい。

 しかし、帝国の考えは全くもって読めない。

 それほど犠牲を払ったところで、王国を揺るがすほどの被害は与えられない。

 どう考えても、対価に結果が見合っていないのだ。

 今のところ多少の被害は出ているものの、王国からしてみれば被害はほぼないと言っても良い。


「帝国は何を考えてるんだ?」


 思わずどちらからともなく口をついて出たのはそんな疑問だった。

ありがとうございます。

感想、評価等いただけましたら、幸いです。

今回は少しシリアスな展開でしたが、次回からはおそらく普通に戻ります。

次の更新もいつになるか分からないので、気長にお待ちください。

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