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超魔導剣士の逃避行  作者: ジグ
第2章 亡国の魔神
8/10

迷いは消えた

インスグリースへ向かう道すがら、隊商を襲う伝説の魔獣と遭遇する。

アイコとの偶然の再会を経て・・・

インスグリースへの道を駆ける。


結構な距離を”風王の外套”を用いて飛行したが、冷気にやられて危うく凍傷になるところだった。


魔神イントミーク。恐らく私が首都に近づくまでは事を起こすことはないはず。

かといって長く待たせると何をするかわからない。

だから出来る限り急いで到着したい。


雪原を吹き抜ける北風のごとく街道を疾走する。


「?」


地響きのような重低音が響く。続いて地面がかすかに振動を。

・・・止まった。先ほどから何回か発生しているようだが、発生源に近づいているのだろうか。

徐々に音も揺れも大きくなっているように見受けられる。

偶発的な雪崩が頻発しているのだろうか。


遠くで煙が上がっているのが見えた。

さらに物凄い勢いで雪が巻き上げられているのと、いくつもの閃光が放たれている。


さらに急いで駆け寄る。隊商がモンスターに襲われているようだった。

かなり大規模な隊商だ。馬車だけでも200以上ある。


本隊から少し離れた場所で、護衛に雇われたと思われるハンターの軍勢が何者かに立ち向かっているが、

私からはその敵の正体が見えなかった。


大きな振動。突如、ハンター達の軍勢の中心に大樹の如き太く鋭いものが突き出る。

まるで鯨が水面から飛び出すように、雪面が大きく巻き上げられ、現れる巨大な生物。


四足歩行で、体には硬い氷がまとわりついている。

最初に地面から突き出たものは頭部に生えた巨大なツノのようだった。


まさか、こんな強大な生物が実在していたなんて。

それは伝説で語られることしかない幻想上の生き物と思われたベヒモスそのものだった。


曰くその生物は長い年月をかけて地殻の中で成長し、その寿命は100万年を優に超えているという。

地殻変動にさえ耐えうる超常的な防御力、地殻を割って進むことができる超越的な攻撃力、

そして過酷な大深度の環境でいくら傷ついても即時再生する脅威的な再生能力を持つ地上最強の生物であるらしい。

”ベヒモスの伝承”という古文書には何かの拍子に地表に現出した際には文明が滅びるとさえ記載されている。


砂埃を蹴散らすようにベヒモスがハンター達を雪とともに弾き飛ばす。圧倒的な戦力差だ。


「さっすがにこれは無理じゃないかなぁ・・・」


だが逃亡中とはいえ、この国の最高戦力としてこのまま見過ごすわけにはいかない。

隊商の先頭まで飛び、声をかける。


「おい!立ち止まるな!」


呆気にとられている隊商の元締に声をかける。


「私はイミル国のレオンハルトという者だ。」


元締は目を見開いて驚いた様子を見せた。


『かのレオンハルト卿か。頼む、助けてくれ!』


「私があいつを足止めするからその間に隊商を動かして逃げるんだ、急げ!」


『りょ、了解した!』


元締は他の馬車に連絡を開始する。

私はあのベヒモスの気を引こう。


“風王の外套”を起動して、隊商と反対の方角に飛び立つ。


熔却(プロミネンス)を発動し、獄炎の柱を出現させも、ベヒモスは痛痒も感じていない様子で、

次の獲物を探しているようだった。


ならば向きだけは変えてみる。


“太陽の残光”を起動する。西の空に一瞬だけ強烈な閃光を放つ球が出現する。直視したら失明するレベルだ。

強烈な光に当てられたベヒモスは西側に転身する。よし、このまま進行方向を固定する。


超能力(アーツ)圧倒的な存在感(アトラクト)”。極彩色に煌めくオーラが全身を包む。

威圧(プレッシャー)の上位互換であるこの超能力(アーツ)を受けて無視できる者はいない。


もちろんそれはベヒモスも例外ではないようで、こちらを視認した瞬間に飛びかかる。

その鯨の如きの巨体に似合わない高速の突進に驚嘆し、足を取られて転倒する。


「ま、まずった・・・。」


すでにベヒモスは眼前に迫っている。

この巨体で押しつぶされたら私であってもひとたまりもないだろう。


『あっぶなーい!!』


何者かが私の目の前に着地する。

ベヒモスは何かに縛られたように動きを止めた。


『”超能力(アーツ)影縫い(シャドウステッチ)”。』


「アイコ!こんなところで何を!」


それはアイコだった。

丈の短い忍び装束に身を包んだメガネの少女。ちょっと露出が多いのではないか。

そのスタイルの良さもあってやや扇情的だ。


アイコは長い黒髪をなびかせて立ち上がる。


『”超能力(アーツ)煙玉(スモークスクリーン)!”』


一寸先も見えなくなるほどの煙をベヒモスの顔面に放出する。


『さあハルトちゃん、逃げますよ!』


アイコに抱えられて少し遠くまで運ばれた。


『ハルトちゃん、なんか暗いけど大丈夫?』


暗い、そんな顔をしていたのか。

なんとか心の奥から元気を引き出してみる・・・失敗した。


「うん。とりあえずあいつをなんとかしないと・・・。」


アイコ、随分鍛えられたようだ。

1年足らずで超能力(アーツ)を使いこなすなんて、さすがオリアクの血が入っているといったところか。


『そろそろ影縫いが切れて動き出すよ。』


「多分アレに勝つのは不可能だ、なんとか地下に帰ってもらうしかない。」


『じゃあ嫌がらせをすればいいんだね!』


嫌がらせ、そうか。

地上に出てきてはならないと理解させればいい。


力押ししか頭になかった自分を恥じる。


「考えがある。私は魔法であいつを窒息させるから、アイコは撹乱してくれ。」


『まっかせぇ!』


アイコは目の横にピースマークを作る。


『”超能力(アーツ):土遁”!』


アイコは地面の中に消え去った。

全く見たことのない超能力(アーツ)だ。アイコの世界にはそのような術があるのだろうか。


さて、アイコの活躍に目を奪われていたが仕事を始めよう。


マジック・エク(魔法効果)ステンションX(極限増強)”、”マジック・ブースト(魔法射程距離増強)


“アクアスフィア”を発動する。大きな水の球体が出現。

それを精密に操作し、ベヒモスの顔面に押し付ける。


ベヒモスが呼吸した瞬間、水球がみるみる小さくなり、ベヒモスはむせ返える。


地中に戻らなければ窒息する。

アイコの言葉がなければ絶対に思い浮かばなかった作戦だ。


ベヒモスは苦しみもがき、体の向きを変える。


『そっちには行かせないよ!』


『”超能力(アーツ)極彩色の終楽章(グランド・フィナーレ)”!』


アイコが決めポーズをとった瞬間、轟音と共に、その上空に色とりどりの爆発が起こる。

それは花びらに似たような形に炸裂し、空を彩る。


威力は低そうだが、その派手な視覚効果と爆音でベヒモスは怯み、再び逆方向に転身する。

意外と臆病なようだ。


やがて窒息で体力を失いつつあるベヒモスは地面に突っ伏す。


『まだ引かないねー。じゃあ凄いニンジュツいっちゃおうかな!』


『”超能力(アーツ)彼我の幻影(ミラージ・ミミック)”』


アイコはみるみる巨大化し、やがてベヒモスの姿に変身してしまった。

しかし、実体のない幻影のようで、私はアイコの変身したベヒモスの脚にめり込んでいた。


ベヒモスの幻影は咆哮する。本物のベヒモスは衰弱した体で地面に大穴を開けて地殻に帰っていった。


「アイコ、伝説のベヒモス相手に大活躍だったね。」


『いえーい!ピースピース!』


こんなにハイテンションな娘だっただろうか、それともコンバットハイでアガッてしまっているのか。

ともかく、アイコとハイタッチをする。


商隊はすでに遠くに逃げているようだった。

ベヒモスにやられたハンター達を弔い、アイコと共にインスグリースへ進む。


「アイコ、どうしてここに?」


『オリアクさんが言ってたよ、ハルトちゃんがここにいるって。』

『で、この超寒い国で迷ってるうちに、凄い騒ぎがあったから、駆けつけてみたらハルトちゃんがいたわけ。』

『もう運命だよね。」


こんな広大な国で偶然巡り会うなんて早々ありえることではないが、この再会を素直に喜ぶとしよう。


アイコのマシンガントークは続く。

彼女はオリアクと共に、東の国で超能力(アーツ)と戦闘術について1年間みっちり修行を受けたらしい。

オリアクの血を引きながら、魔法の適性には乏しかったようだが、その超能力(アーツ)には微かに魔法的な力が込められていた。


東の国は、正々堂々と戦う戦法もあるが、どちらかといえば影に潜み、一気に暗殺を仕掛けるゲリラ戦を得意としており、

彼女の動きや、扱っているアーツに遁術や相手の気を惹く技が多いことも頷ける。


モンスター相手より対人でこそ輝く技術が多いが、先ほどの戦いを見る限り、使い手側の工夫次第と言ったところだろう。


『私、ハルトちゃんと一緒に冒険するために頑張ったんだ。』

『オリアクさんは削り合いはハルトちゃんに任せて、私は撹乱や支援に回るといいって言ってたけど本当だったね!』


なるほど、昔オリアクが魔法でやっていたことをアイコに教え込んだというわけか。

動きはまだまだ荒いし不安なところがあるが、一年の鍛錬でこのクラスに行くなら最高ランクのハンターになるのも夢ではないだろう。


「じゃあ、私の用事が片ついたらハンター試験だね。」


『あー・・・ダイアウルフ2頭殺さなないといけないんだっけ・・・』


アイコの顔が暗くなる。


「今のアイコなら余裕だと思うけど。」


『いやぁ・・・実は生き物を殺すのって罪悪感とかすごくて苦手なんだよねー・・・あはは。』


これも昔オリアクが自分で公言していたような気がする・・・。

異世界人はモンスターを自分で殺したりという経験はないのだろうか。


「私がハンター試験受けたときは、確か”移動不能以上のダメージを与えたら勝利”だったよ。」


アイコの顔がパァっと明るくなる。


『それ本当!?それくらいなら超能力(アーツ):麻痺矢で一発だぁ!』


「一体いくつ超能力(アーツ)使えるの?」


『50くらいは使えるかな?』


とんでもない逸材が生まれた、そんな気がした。


『なんていうのかな、型を覚えるんじゃなくて感覚で超能力(アーツ)を作れるから、派生していけば結構なことができると思う!』


「えぇ・・・。」


東の国の超能力(アーツ)研究はその域にまで達しているのか。

それともアイコに異常な才能があるのか、私は正直わからなかった。


『イミルってハルトちゃんの住んでる国なんだってね。』


「どう?イミルの感想は。」


『雪が綺麗だよね〜。雪国って一度は行ってみたかったんだー。』


「もともとこの国は寒いけど雪は降らない場所だったんだ。その時はとても綺麗な国だった。」


『えっ、昔から雪国だったわけじゃないの?』


「そう。」


詳しく言うべきか思案する。


「私が昔、魔神を倒すために究極魔法を撃った。でも魔神は倒せなかったし国中を氷漬けにしちゃった。」

「それで、魔神を倒した後にね、罪滅ぼしのためにイミルで働いてたんだ。」


アイコは気まずい顔をしている。


『・・・でも最終的に魔神を倒したんでしょう?お釣りがくるくらいだよ。』


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。」


『でもハルトちゃんはまだ苦しんでるんだよね。よし、私も手伝うよ!名誉挽回だよ!』


アイコに軽くハグをする。

1年前からこういう関わりはご無沙汰だったな。


何を一人で悩んでたんだろうなぁ。ヘルミナだっていつでも会いに来てと言ってくれたのに。


愚痴を言ってもいいじゃないか。力を借りたっていいじゃないか。


世界を滅ぼせる力を持っていたとしても、自分の視野には限界がある。

自分の視野の限界は世界の視野の限界ではないのだ。


それをアイコから痛いほど学んだ。


「ふふ・・・ふふふ・・・」


『ハルトちゃんどうしたの・・・?』


「ふはははははは!!」


『えっ、えっ?』


アイコはハグされながら困惑の声を上げている。

さらに強く抱き寄せる。


「なんにも解決してないけどすっごいスッキリした!!!」


アイコを解放する。


『う、うん。元気になってくれてよかった・・・よ?』


「じゃあアイコ、力を貸して欲しいんだ。」


アイコに話す。

私の中に魔神がいること。

魔神の過去のこと。

インスグリースで魔神が現れて大混乱が起きるかもしれないこと。


『神話?みたいなことになってるんだねぇ。』


『その魔神を倒せばいいんだよね。』


「うん、でもそれは私がやる。アイコには街の人が安全に逃げられるように避難誘導をして欲しいんだ。」


『オッケー、やれることはやってみるよ。』


私はイントミークを街の外に叩き出して戦わなければならない。

魔神同士が戦えば街など3分と持たずに廃墟と化すだろう。


「見えて来たよ。首都インスグリースだ。」


二人の視界に、大きな山と立派な都市の影が現れる。


インスグリースの人口はイミルの40%を占め、極めて大規模な都市となっており、究極魔法の影響も少ない土地柄、様々な人種が共存している。

陸運に関しては究極魔法の発動後、商魂逞しい隊商を除けば撤退してしまったが、

海に近い臨海都市としての面もあるため、海運は盛んに行われており、メインストリートでは様々な国の商品が売られている。

永遠の冬が訪れてからイミル全体では人口流出が問題視されているが、比較的影響が少ないインスグリースに関しては移住制限が設けられるほどに人口が増え続けている。

いわゆる人口が一極集中してしまった人口過密都市だ。これも究極魔法の生み出した弊害であるが、集中した人間が生み出す熱気や情報の速さは他の国では味わえない特色となっている。


都市はバロック様式の建築物が多く、その屋根はボーチカという半円の尖塔屋根になっている。

コーブロチク山を背にしているインスグリース王城を護るように都市が設計されており、一見すると複雑怪奇な迷路のような都市構造になっている。

しかし、分かる人には分かる抜け道や隠し通路がいたるところに設けられており、外敵はインスグリース市街では奇襲に対する警戒を厳にしなければ瞬く間に囲まれてしまう。


城塞都市といってもいい、王城を護るためだけに作られた城塞としての機能を持つ都市だ。


その北限の大都会は今、魔神の危機に晒されていた。


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