05.挑めレベリング!
それぞれの戦闘シーンです。
右
左
右上
左下
股下
上
そして後ろ
「狭山さん! 構えて下さい!」
「はい!」
私は、今、窮地にたっている。
いや、自ら立っている。
嶋崎さん達は走る。私の方に魔物を連れて。
そして散開する。
魔物達は一瞬、猛スピードで散開した獲物に気を取られるも、目の前に佇む獲物___私を標的として捉えた。
背筋に感じる鳥肌。ゾワゾワと駆り立てるからこそわかる感覚。
臆する事なく、気色を変えずに闘う!!
「せいやぁああああ!!」
襲いくるのはほぼ同じ。だが、飛び掛かるもの。走るもの。こっそり近づくもの。それぞれミリ単位のズレがある。
そこに集中して___
余計な事は考えない。必要なのは、今に必要な考えを持って、行動に記すだけ。
ゆっくりと迫り来る魔物達。ゆっくりと突き上げる私の槍突。それぞれ違う魔物。大体はゴブリンだが、スライムもいる。大きなカエルもいる。総勢14匹。
それぞれ、脈が違う。
攻撃パターンも、思考速度も。レベルも。
私の方が格は上。自信を持て。勝てる闘いだ。余計な事は要らない。
心を鎮めろ。
思考が体感の速度を0に等しい感覚に持っていっている今なら、できるはず。
落ち着いて、捉えて、刺して。
先ずは___
「せいゃあ!!」
右上から確実に!
槍で突き刺し、直ぐに地に放り投げる。槍に返しは付いてないから、スルリと吹き飛ぶ。
そして、その僅かに空いた隙間に向かって飛び込む。
振り返れ! 今すぐ! もっと早く身体を動かして!
視線をダルマの如く積み上がった魔物達に合わせる。
そして踵を返してから右脚を繰り出す。
今がチャンス。思考を常に持って、意識して、考えて、把握する。それが一人で勝つ方法。
少しずつ景色の色が無くなっていく。否。染められていた、認識していた色は白と黒のように変色していく。視界はその二色。
これが所謂「ゾーン」なのだろうか。視界がとってもゆっくり。違う、殆ど止まってる。それでいて、動く瞬間だけは速い。
左脚を右側面に回り込む為に、左前に叩きつけ、足を右に傾ける。今なら細やかな修正も効く。もう少しずらして___
飛ぶ!
「……ふっ」
身体が軽い。すごく軽い。動きにもキレがある感じ。
緩急がある。
鋭い。
重くない。
そんなことを感じつつも意識は変わらない。
槍を突き出し、抜き去る。
滞空時間にまだ余裕がある。もう一度!
ゴブリンは振り返る。
その顔に槍を貫き立てる。そして抜く。
つくづくレベルの異常性に目が飛び出る。自分の身体だけど、普通は秒間に二撃も突けない。
右足が着く。
そしてその右足をバネに、次は左に回り込む。
次はもっと早く身体から力を捻り出す。
一撃。
二撃。
三撃。
今で6匹、後8匹。
その頃には魔物達が立ち上がり出す。
だけどまだいける! 後二匹。
まるでそれは爪楊枝でクッキーを砕く様。それでいて下手な所を突いてしまったのか、ひび割れたところから返り血が噴き出る。
だが気にしてられない。汚れても関係ない。
槍を一回しし、もう1匹の首筋を鋭利に貫く。
これでボーナスタイムはお終い。残り6匹。
柄を瞬時に短く持ち、近接戦闘に持ち込む。
槍先は手元から50cm程。
魔物達が立ち上がる。臨戦態勢に変わり、目線が私を貫く。だが、怖気付かない。
怖気ついたら負けだ。
飛び掛かれ!
飛び出でて、その輪の中に飛び込む。
それは、槍という武器が棍に変化したから出来ること。槍先が爪で弾かれ背後から攻撃が迫ろうとも、槍を背後に引き、突き返す。そうして叩きつける様に槍先をひと回しすれば形勢逆転。勢いよく首を刺し、残り5匹。
「はぁあ!!」
腹を刺し、蹴り飛ばす。
斜めから飛びかかってくる魔物を叩き落とす。
背後からよじり登ってきたスライムを掴み投げる。
「……っぐ」
だが、こちらばかり上手いこと行くだけじゃない。
相手だって、魔物だって強いんだ。
肺から空気が抜ける感覚を覚えてたたらを踏みつつ、背後に振り返る。
そこにはニヤリと口角を上げながら飛びかかってくるゴブリンの姿が___
___顎から上に、脳天をぶち抜かれていた。
残り4匹。後少し!
スライムを踏み潰す。パチャンと激しい音を鳴らせば、水が地面に流れる。後3匹。
カエルは高く飛び上がる。
だから上へ槍を構えた。だがその瞬間、視界からカエルの影が消えて腹に、重みが、鈍い痛みが、胃から逆流しそうな不快感が、息苦しさが腹を身体を襲った。
何横転したのか、視界がぐるぐる変わる。
その間、景色は点滅する。白黒の世界と、鮮やかな色の世界が。
ゾーンが切れかけているのだろう。
「ゴホッ、ゴホッ、ぐ…っ……」
後3匹。この数ならやれる。
「はぁあ!」
怖じけるな。昔も今までも怖気ついたら負けだった。狼狽えるな、攻めろ。やるんだ、自分を強くするために。
腹に穴を開けたゴブリンの首を勢いよく突き刺すと、ぐちゃりと湿った音が耳を撫でた。飛散する血飛沫。背後から迫り来るゴブリンの頬にぶつかり、微かな音を立てた。
槍を回し、突く。
残り1匹、カエルのみ。
そう思い見渡すが近くにカエルは居なかった。
いや、逃げていた。だけど逃がさない。
瞬発力に掛けて、駆ける。そしてあっという間に縮まった距離、見下し、地面にその槍を___
「んっ!」
突き立てた。
「川端さん! 良いですか!!」
「大丈夫です!」
僕はこの班の中でレベルだけは一番高い。戦闘技術は兎も角、レベルだけは高い。それがたかが1レベルだろうと、それでも大きな差だ。
だから、効率のいい今の様な戦い方をする。
その1レベルで、全てが変わるからだ。
敵は12匹。
散開した嶋崎さん達。目線を僕に合わせる魔物達。
さぁ、やるぞ。
斧はレベルが変わればどんどんと軽くなっていく。初めて使った時の重たすぎる重量感は、今はない。今の感覚ならダンボールくらい軽い。
ただ、重心はしっかりしてる。つまりは、鉄の部分は重心として変わらず重たい。全体的に軽いが、一点においては重たいんだ。
だから、レベルが上がっても使い方は変わらない。
スピードと筋力のままに、叩きつけて、蹴り飛ばして、切り裂いて。遠心力に任せて近寄る魔物を粉砕する。
たった数秒。
それだけで殆どを屠る。
残り3匹。
だが、ここからが本番。
斧というのは攻めに向いていなかったりする。
守りつつ反撃する感じ。
だが、魔物というのは頭が良くて、この数秒後には間合いを取り出す。ここからが油断できない。戦闘に油断する時間なんてないんだけども。
三対一
圧倒的に不利な形。数の暴力だ。レベルが上がっても、その脅威は変わらない。だが、この不利性を応用するのが斧の特性でもある。
それは、実に簡単な事。
皆んなでやれば怖くないというやつ。
1匹飛べば、2匹目も来る。何なら3匹目も。
斧というのは鈍足。そして守りながら反撃。つまりは単体だけ。振り回すというのも出来るが、1匹ずつ……えーと、反映遅延現象……た、タグだったかな、確かそんな現象が起きる。
そう。僕はずっとそのタグに気を配らなければならない。
そして、何度も言うが斧は守りからの反撃。
それが体に染み付いている。
だが今回は一つ違うやり方でやるんだ。攻めるやり方で。
自分に説明をして、覚えさせて行動する。
さぁ、やるんだ。
前方三方向。その内、目の前の魔物へ飛び出る。
斧の刃は平らな方を向けて、ハエを叩く様に叩きつける。
バンと鈍い音。
それに続く潰れた顔と共に倒れるゴブリンの身体。
そして、その勢いのまま、振り抜く様に斧を遠心力にに任せる。
それで最後の2匹は胴体と下半身を切断された。
「山田さん! 行けますね!」
「は、はいぃ!!」
あー、めっちゃ緊張する……。
ガチャリガチャリと小さな身体の振動が、鎧に伝わる。ビビってる。
西洋鎧の目を隠すアレを軽く上げると、鮮明な景色が見える。ただそれだけで怖い。
魔物達が僕を、僕だけを……。
考えるだけで身の毛がよだつ。いや、これは今からの現実だ。やばい。めちゃくちゃに怖い。
それでも着々と魔物達が走ってくる。
怖い……。
だけど、もう既に散開している。助けてはくれるといっても、それは余程の緊急事態。僕は、強くならなきゃならないんだ。
怖気付かない。冒険者だ、いつだって襲い襲われる立場。怖気付くぐらいなら辞めちまえ。
「や、やるぞぉ!」
俺は、死なない。
僕は、負けない!
鎌を少しずつ引いていく。それは力を溜めるように思いっきり。
「こいやぁ!!」
ドクンッ
心臓が脈打つ、この感覚。最近、酷くアイツが出ようとしてくる。正直辛い……。
堪えないと。
……違う。堪えなくていいだろ。暴れて、己を解き放つんだ。自分自身を押さえつけるな。
今までもそうだったんだ。物事に、只管に、頑張るだけ!
瞬間。軽い嘔吐感覚。
過度な緊張をする時によくなることが多い。だから、堪えるために言葉を発した。
「よ、よっしゃぁ! ばっちこーい! う___」
んぐっ、き、気持ち悪い……。
くらりとする意識に目を閉じる。そうして次に目を開けた瞬間には、魔物との距離が50mから残り10mまでに縮まっていた。
ドクン
「あ、だめだ……。無理」
僕の意識は、朦朧とした後プツリと綺麗に途切れた。そして次に目を開けた時には、魔物の斬屍体だけが残っていた。
班のみなさんがやってくれたのだろう。死ななくてよかった。うん。
「影宮さん! 大丈夫ですか!」
「はい! いけます!」
さーて、俺の時間だ。
「両手が疼くぜ」
革のグローブが、強める握力にメリメリと音を鳴らす。次第に体の態勢も低くなり、足の角度も飛び出でるだけの力を溜め込んでいた。
俺は単体即死スピードアタッカー。
こんな全域に達する標的量は相手にしたことがない。でも、一人で魔物を倒す事が効率がいいと言う事だからなぁ、我慢か。
「ふぅ……」
よし。
取り敢えず、息を整えて、相手の歩調を見て、目線を見て、音を感じて、影を見る。全てに神経を研ぎ澄ませる!
「爆速ぅ!」
加速度的に、また、瞬間的に変化する景色。目もそれに慣れてきたころ。戸惑う事はない。むしろ、これぐらいが丁度いい!
"魂大晩餐廻"
黒き一つの刃が、独楽のような回転描写で魔物達の首を刈り取って行く。
血はその刃が通過した後に弾け飛び、噴水となった。
よっしゃぁ! 残り30匹くらい……多くないか?
今までよりも多い魔物の数に小首を傾げるも、その判断は後にすることにし、目の前のものを片付けることにした。
"死神ノ火葬曲"
鎌先を横から突き立て、遠心力に任せて次の魔物に突き立てる。そうして3匹が連れ重なった所で、4匹目の頭に叩きつける。
次!
"死神ノ狂想曲"
一歩一歩軽やかに、それこそ、上がった身体能力に身を任せながら空中セブンアクセルを決めながら、地面を滑るようにして魔物の身体を断罪する。
お前達の罪は生きてる事だ。なんつって……。
め、目が痛い。
目、開けすぎた。
三、四年当たり前から目を開ける時間が多くなって、よく乾くようになった。だから、いつも注意してるんだけど、高揚感というものかな。
ま、いいけど。
"魂血天"
鎌は地面を滑らせる。そして、魔物の前に立った時下から上へ突き上げるようにして切り裂く。
肉体は半壊し、血は雨のように降り注いだ。
「残り1匹」
とうとう残り1匹、この段階で一回のレベルアップを感じていた。つまり、もしかしたら何か新しい事ができるかもしれない。
"死神ノ神判"
最高速で突撃するその速度。さっきまでと比べ物にならない速度。
いい、実にいい!
鎌を横に持ち、振りかぶる。
「チェストォオオ!!!」
腹に一刺し。後は勢いに任せて___
___木にぶつけるだけ!
深々と刺さる鎌。半分になった身体は木からずり落ちながら地に伏した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
よ、よし。傷だらけだけど勝った。
俺、やっぱり……いや、流石死神!
「嶋崎さん!」
「了解です!」
さて。さっさとケリをつけよう。どうせそこら辺の雑魚じゃレベル効率が良くても意味がない。
経験値が10000必要なのに、2の所で只管狩り続けるようなもの。無意味だ。
"長" 級、または以上の魔物じゃないとレベルは上がらない。
魔物達との距離は後10m。
俺は動かない。
これ以上動かない。
唯一した動きは剣を掲げただけ。
俺のレベルは1。
だが、それだけで前よりも数倍は強くなった。
だからこの際、いっちょ本気で叩いてみようと思う。
魔物達は俺に向かって飛びかかってきた。そしてそれを俺は待ち望んでいた。
20匹の魔物。それは___
膝を横に少し傾けて、剣をスナップさせながら振り放つ。
一撃の粉砕で、悉く血の雨と化した。
肉片はそこにはない。
俺たちはこんな感じでレベリングを始めた。
レベル効率に気づいたのは極最近3日前。
パーティーでレベル上げをしていたのだが、ある時影宮さんが一人で魔物を2匹倒した。その時にレベルが上がった。
次に班で協力して6匹山田さんが魔物を倒した。それで漸くレベルが上がった。
レベルアップ間近とはいえ、偶然かなにかか。でも、そらは検証に値する事だった。
そしてそれは、確かだった。
続々とレベルが上がっていく。
俺たちは、この一ヶ月程鍛え上げた。
結果___
予想レベル
影宮さん lv28
川端さん lv32
狭山さん lv30
山田さん lv27
俺)嶋崎 lv1




