03.好奇心、猫を殺すとはよく言う
「ふぅ……」
俺はあの時ホッとした。
だが、それはホッとして良いものだったのか。今でも分かっていない。
あの心が落ち着いた瞬間は一体なんだったのか。
何故、信用に値するわけでもないのに喋ることにしたのか。俺の悩んだ末にでた答えであるのに、イマイチ分からない。
でも、そう。結果的に効率が良くなった。
魔法とか派手なスキルじゃないが、補助的なスキル___アリージメントサーチもその部類___が役に立つためだ。戦法も変わり、昔の感覚で戦えるようになってきた。
そこに唯一違う所といえば、一応仲間がいること。ある程度は信頼できる。
甲高く、迫合い、火花を散らす。
そんな心境と現状が今もこの共闘作業において、一役買ってる。
「氷柱針」
冷気が降りる幾つもの氷の針。それは微細ながら、確実な殺傷能力があった。
幾度にも降り注ぐ氷の雨達は標的に風穴を開ける。
俺なりに、班である限りやはり信頼しなければならない事は薄々感じ取っていた。
だから、その始めとしてあの時スキルの存在を話した。何気に三ヶ月も共に過ごしてきたんだ。もうそろそろ話をつけとかないといけない時期でもあったし。
剣と爪は幾度も交じり合う。
でもそれはただの口約束だ。といっても3ヶ月、微妙な期間ではあるが確かな三ヶ月。たかが3ヶ月でありされど三ヶ月。
決して無視できない期間を共に過ごしてきたんだ。
「狭山さん! お願いします!」
剣戟を交える中、背後から槍で心臓を貫く。
そうして、勢いよく吹き出た返り血が顔に塗られる。
でも本当に微妙な期間である。
血ぶりをし、囲まれている現状を打破するために突出する。
<撃貫>
剣術スキルで、前方2匹を貫く。俺はその貫く勢いのまま木に2匹を押し込み、剣を抜き去って再び振り返る。
迷った末に出た答えだ。その中に、俺の事を他の人に話せば班の空気が悪くなる事を可能性に含めた時、心理状況として黙り込むという選択を取るというものに掛けている。だが、全員グルだった場合も想定している。
「影宮さん、交撃で行きましょう」
「……了解です!」
だけど、そこまで人間不信にならなくてもいい気がする。いや、慎重に事を運ぶ上で仕方ない事だから、そこは妥協か。
いつまでも神経を尖らせていても、ボロが出るだけ。
そもそも、ダンジョン探索初日でボロを出してるんだから、これ以上イザコザは作りたくないというのが本性だ。
魔物を前に、影宮さんは右へ左へ飛び回り、知覚を錯乱させて背後に立つ。そうして鎌が振り下ろされようとした時、魔物は振り返った。
カキンッ
という、その表現し難い甲高い音が聞こえた瞬間、俺は動く。
草を一蹴りし、その身を縦に切り裂いた。
妥協の線で歩くのは綱渡りだ。だから、何処かで確かな決断をするべきであった。
それが、あの時。
「ぐふぁ……っ!」
腹に頭突きをくらい地に伏せるのは山田さん。
そこに、魔物は爪を尖らせる飛来した。
間近に迫った鋭爪は心臓目掛けて落下する。
やばい、死ぬっ! そう思い___
___助けに行こう___
その一瞬を考えて足を一歩踏み出したが、直ぐに視線も身体も向きを変えた。
「でいやぁ!!」
すぐに来るはずの死は訪れなかった。
斧がその飛来する身体を断ち切ったから。
「あ、ありがとう……ござい、すいません……」
「気にしないで下さい。さ、まだまだ今からですよ! 反省は物事の最後です!」
「は、はい」
少しずつ、班としても纏まってきてる。
そんな三ヶ月。
「狭山さん! 交撃!」
「了解___ですっ!」
信頼も少しばかり。少なからず。
信用できる数量は分子量であろうと、たしかにそれは存在しているもの。
人間というものは面白いもので、物事次第で感情が何億倍に膨れ上がる可能性を持っている。
信頼然り。
不信然り。
「スペルが完了しました! 皆さん! 僕の周りに集まって下さい!!」
そういえば、今回も危機に陥りかけている。
「真空大龍豪風!」
1秒……。
敵達は襲いくる。
2秒………。
残り20m。
3秒…………。
残り9m。
すると、突然。風が悠夜を中心に纏わりつくようにして発生する。それは1秒の中でどんどんと勢力を高める。
そんな中、瞬間で魔物達は何事だと、脚を止めた。
それが、命取りだった。
2秒が過ぎる頃には他の音が聞こえない程に風が吹き荒れていた。轟々と辺りに鳴り響き、風は刃となり、悠夜達3mから外の世界はその風に全てが刈り取られて___
破滅した。
そこに、嘆きも、叫びも、乞いも、怒りも、悲しみも。例えあったとしても、全て真空の元に呑み込まれ消えゆく。
今も吹き荒れる風は高音を叫ぶ。絶叫を叫ぶ。命を叫ぶ。
そして大地を穿つ。
土塊は抹っされ砂の粒子となり、この嵐の中を飛び回る。
「すっ、すげぇ。蹂躙だよ蹂躙」
影宮さんは感嘆の息を漏らしながら、少しふらりと態勢を崩した。
「まさか。僕も二階層に上がって直ぐに、こんな魔法を使うとは思いも見ませんでしたよ」
所でだ。
そう、俺たちは危機に陥っていた。
二回層に上がってからの話。
ある種の偶然にして見つかった次層。その奥の位100段はありそうな階段を目の前に、気になるという気持ちが身体を動かしたというか、今のままで、どこまで通用するのかが気になった。
そうした俺たちは、全会一致で見つけたその階段を上って行ってしまった。
そして直ぐ後悔した。
広がるのは一階層の草原をベースに、森の毛量を増やしたぐらい。そして多分、一階層よりも広いと思う広さの草原帯。
そんな広大な草原が広がる中、森には行かずに草原を来た道を真っ直ぐ歩いた。それが何よりもの安全だし、2階層の力を調べやすい。
だがしかし___
この数は想定していなかった。
「ウォォオオン!!!」
見かけた狼は、俺たちと目線が合うと直ぐにエンカウントした。
その遠吠えが辺りに響けば森から草原から、洪水のように襲ってくる。この魔物の名前は分からないが、種別は狼で間違い無いだろう。犬のような体躯。口からはみ出た八重歯と下顎から胸元まで長く伸びる白い毛。そして、身体全体を覆う銀色の毛。
強く狙いを定めるその目に、心拍数が微かに上がった。
<威嚇>
対象の魔力の波長を、ある程度離れた距離からでも少し歪ませる事ができる。
つまりは、キラーフォールドの下位互換というよりも、リーチの長い同列下位互換だ。
因みにだが、上位互換は<威迫>で、それを俺は持っている。
ただし、ここでは使えない。何故なら、キラーフォールドと違って範囲内全域を自身中心に歪ませるからだ。そして、近ければ近いほど歪む波は高くなる。最悪長期間の気絶。そんなスキル。
狼は唸り、吠える。そして、飛び掛かる。
それだけの行動の筈なのに、俺は少し見逃してしまった。
だからこの時、俺は殆ど出し惜しみのできる戦闘ではないと悟った。
最悪、俺以外死ぬとも悟った。
「<熱光線>」
掌から打ち出された太い熱光線は飛び掛かる狼に直撃し、破裂した。肉片が辺りに堕ち、焦げ臭い。
それを目撃した狼達は威嚇と唸り声を続けながら一歩後ずさる。
「……皆さん、これはレベル上げが足りませんでしたね」
俺はそう、苦笑い気味に言った。
「え、ええ。あれは速すぎます。まるで、B.B弾が鉄砲から出た時みたいでした」
「え? 見えたんですか」
そんな俺の驚きに川端さんは「うんー」と唸る。
「私めがけて出したので、ギリギリ物体として捉えられたんですけどね……。先程はありがとうございます」
「あ、いえいえ」
さて、この状況どうするか。アリージメントサーチでざっと見ても50匹は居る。ほんと、一体どんな状況だよ、これって感じだ。
これは、もう仕方ないな。
「皆さん、僕が魔法を使って殲滅します。ただ、スペルを今から構築しますが、魔物は待ってくれそうもありません。完了次第声を掛けますが、それまでは今からの戦闘に集中して下さい」
「ワフゥウゥゥ!!!」
遠吠えが再び反響する。野太くずっしりと腹に来るくらい。そして、狼達が飛びかかってきた___
「ゴー!」
……本当にまさかの襲撃だった。
なんであんなに魔物がいるのか、群れていた。と考えればギリギリ理解できるが……どちらかと言えばリーダー格に呼び出されたが正しい。だから、やはりリーダー格によるものだと考えるのが妥当。
だが、魔物。たかが5人に50以上の仲間は必要だったのか。5に対し10なら分からないことは無いが、流石にオーバーキルと言うものだ。
もしかしたら、それが戦術なのかもしれないけど。
今もまだ白透明の刃が壁の如く空間を切り裂く中、俺はそう独りごちる。
「ま、魔法って凄いんですねぇ……」
そんな中、山田さんは「あはは」と腰が抜けたのか堕ちながら言った。
「まぁ、ええ。破壊力は折り紙つきですね」
俺はそんな彼の肩を持ちながら返事を返す。
ガチャガチャとしたその一式甲冑は少し鬱陶しい。
さてと。さっさと撤退しよう。
「まだ僕達の手に負える敵じゃなかったようです。目標レベルを20に変更して出直しましょう」
そういうことで嵐が止んだ後、事は片付いた。各々1匹狼を引きずって。
魔法の攻撃以前に死んでいた奴が20といたから頂戴した。そういう事で今から一階層にて解体作業だ。
取り敢えず開けた草原地帯にバッグパックと腰を下ろして各々持参のナイフ、水、タオル等を取り出した。が、誰も手をつけようとしなかった。
「あの、嶋崎さん。恥ずかしながらどう解体すればいいか、お教えいただけないでしょうか」
狭山さんはナイフを片手にコテンと小首を傾げる。
いや、ここに座り込む全員が分かっていない。
だって、講習で一階層の魔物の捌き方しか教わっていないから。
「あー、そうですね。えー、実は僕、狼系の解体の仕方わからないんですよね……。猪なら行けるんですけど」
あの山での感覚は少しずつ戻ってきたいる。解体もそのひとつ。あの虎猪の乱獲で猪の解体はマスターしたが、犬のような体躯の奴とは出逢っていない。逆にゴリラやら鳥やら、動く食虫植物やらばかりでそっちのスキルの方がカンストしてたりする。
でだ、そうなるとどうしようかなという事になる。
やっぱり妥協線で猪のやり方で良いかな。
間違えても熊の開き方じゃ無いのは分かる。
「えーとですね、先ずは___」
稚拙な教え方であった。講習で教わった方が百倍は分かりやすい教え方。寧ろこれは見て学んでくれという方式で成り立っている話だった。
だからだろう。
殆どが巧く切れなかった。体皮が異常に硬かったという点を置いて言えば、やはり解体スキルが問題だった。各々所用時間で言えば1時間だ。
そして剥ぎ取れたものは6つ。
・大耳 ×10
・毛付き皮 ×5
・八重歯 ×10
・鋭い爪 ×40
・生肉 ×6
・金平糖のような紫色の石 ×2
収穫として六つもあった。
だが、その中でまさか食べられそうな生肉が取れるなんて思っていなかった。だから、肉を包む物を持っていない為今皮で包んでいる。
いつもなら捨てる肉だが、今回の肉はゴブリンの肉と違って柔らかく、脂が乗っていた。
これは素材になる。
その可能性を目論んでパンパンの素材袋を背負いながら帰還した。
<=== 冒険者協会本部にて ===>
時間は既に18時。
夜の空にしてはヤケに明るいが時計はしっかりと18時を指している。朝9時から潜って帰りが18時。
監視がなく、長く潜れるというのはとても良い。
俺は、班の人から受け取った素材袋を、冒険者カードの提出と同時に素材の換金も頼んで出した。
それからすぐの事である。
「あ、れ? これはシルバーウルフ。……もしかしてじゃなくても二階、早速行っちゃったんですか?」
気迫が強まる。それは、驚き顔で近づけられる事となり、それは、童帝にとって弱いものであった。
「は、はい。全々敵わなかったですけど」
顔をそっと背ける。
が、今になって思い返せば、受付嬢の顔は好意的な表情ではなく些か怒っている表情だった。
そしてそれは、当たっていたようで___
「そりゃそうですって。あれはlv30台の化け物ですよ。まだ4回しか潜っていないのでlv10未満でしょ? RPGなら確実に死んでましたよ! と言いますか、事前に注意されてないんですか!!」
「あ、えぇと。されてました……」
言い吃りながら、はっきりと言う。
ただし、つい好奇心でーー。なんて、言い訳がましい事だけは口走らないでおく。注意勧告はされていていたが、lvまでは聞かされてなかったとも。
今度、階層ごとのlv差を聞いておこう。
すると、受付嬢は「はぁ……」と溜息を吐いた。
「でも良かったです。寧ろ、無傷で生還のみならず討伐なんて奇跡を超えてもう実力なんじゃないですか?」
呟かれた言葉は少しどきりとさせる。が、それは杞憂のようだった。
「……ま、そんな事有り得ないんですけど。奇跡に恵まれてますよ、貴方達は」
受付嬢は少し遠い目をした。虚ろを見るように、過去を思い出すように。はぁ、と、溜息がまた溢れて。
「さて、鑑定ですね。総量20kgオーバーですので3時間程、22時になり次第取りに来てください」
中々に長いようで短かった1日。
帰ったら風呂に入ろう。
そういう事で、22時集合で一時解散となった。
更新が途絶えてしまい申し訳ないです。
実は、モチベがどうとか馬鹿みたいな格闘を自分一人でしていまして、今日漸く筆を持つ気になった所です。お恥ずかしながらそういう事ですが、本当にすいませんでした。
やはり、一人でも読んでいただけている読者様の為に頑張る事にしました。
お読みいただきありがとうございました。不肖鍵ネコ、頑張ります。




