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【作品打ち切り 改訂版に移行しました】ニートな俺が山でスキルを習得させられて強くなったし、お金が必要なのでダンジョンで働きたいと思う  作者: MRプロジェクト
第3難 高難度ダンジョン【東京ダンジョン】

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02.信頼は時間に比例する

 救急車特有のサイレン。

 ガタゴトと車酔いを誘発しそうな揺れに揺られながら病院まで搬送されているなか、俺は漸くにして気づいたことがあった。


「あの、お金がないので下ろして下さい」


 唐突な俺の物言いに、治療の手を止める救急隊員の人達。機械も作動し始め、いよいよ緊急搬送的な面でそんな事を言われたんだ。

 手を止めずにはいられないだろ。


 だが、直ぐに手を動き出させたのは、その道の人だからなのだろうか。馬鹿なこと言わないでみたいな雰囲気がこの中に広まる。


「それはダメですよ。肺や肝臓部が傷つけられてるんですから、最悪死にますよ」


 そんな業務的な面と心配的面を併せ持つ発言だが、俺にしては余計なお世話である。

 俺は思う。支払えるモノがないのなら無理に医療を受けることもないと。

 遅かれ早かれ連れていかれていたとはいえ、資金というそのもの、お金がないというのはとても重要だ。うちは既に一般家庭から外れた輪にあり、もう借金ができない。もし、新しく借金をしたのなら、火の車が爆発炎上車になって破産するくらい実はヤバイ立ち位置にいる。だからこそ、層を上がるごとに増える高給職冒険者をやってんだ。


 それなのに、病院自体に連れていかれるのもそうだが、今回、医療関係のカードとかもないからMRIとかレントゲンとかで撮られたり、麻酔手術なんかも受けたのなら莫大な費用がかかる。

 それだけでも阻止しなければならない。


 そんな俺の意と反する意地の悪い隊員な事で。


「状況が状況ですから、簡単に言える話ではないことは理解しています。ですが、死んだら元も子もないでしょ?」

「僕は死にません」


 だからすぐ様に意地の悪い言葉を返す。燕が身を翻すように、素早い発言で。


「えぇ……」


 動揺の声が漏れる。

 それは、烏兎匆匆うとそうそうとはいかずも、それなりに速い静かな時が過ぎて行く。


 そんな中でも、開口一番に速く虚無を切り裂いたのはさっきから俺と話す救急隊員の人である。


「医療は受けるべきです」

「受けません。下ろして下さい」


 譲れない。二人の意地。

 悠夜は金が。

 救急隊員は善意と良心が。


 ここで確かに悠夜と救急隊員は対立岸に立った。だからと言って、これら双方の意見は意見で通っており、また、外れている。だけど、この場合優先すべきは医療である。

 理由は何より、市民の命だからだ。


 これをマニュアル通りともいう。


 ガタガタと、そして救急車特有のサイレンがこの再びの沈黙を阻害する。


 あー、くそっ。咳き込んで血反吐なんて出さなければ……。


 そんな事を思いながら悔いていると救急車は動きを止めた。担架も組み立てられて、バックドアも開けられる。白い内外装とは正反対に火照ったアスファルトは、視界の向きが反転し、過ぎ行く道にしか見えなかった。


 颯爽と目の横を過ぎて行く煉瓦積みの花壇。

 どんどんと大きくなる病院の文字。


 これはマジでヤバイ。


 そう思って身体を起こすが、再び血反吐を吐くのはなんとも言えない気持ちになった。


「起き上がらないで下さい」


 無理しなきゃよかったぁ……。


 後悔が後追いで追随する。


 この先に入って仕舞えば、俺の日常はザ・エンドってね。強制的に金が、出費が半端ないことになる。


 そして遂には病院の自動ドアとの距離が縮まる。


 ___だがここでまたしても閃く。


 っ! そうだ、アクションを起こして近くの花壇の陰に隠れるとしよう。それで隠れられたなら、インビジブルを使ってから無理にでも回復魔法を使って、最後にフライで逃げる。


 それならイケルッ!



「せいっ___ごふっ」



 結果から言うのであればインビジブルで巧く隠れられて……要するに巧くいった。血反吐も出ることがなくなったので、これで治ったと判断する。

 そうした後、俺は何をするのかと言うのであればそれは、フライを使ってダンジョンに戻ること。


 だから今も空を飛んでいる。


 禿げた大地。少しずつ再復興する建物。そして物々しい出で立ちの黄土色の塔。行き交う人ですら小粒で、昔のような混雑のある蟻の行進のようなスクランブル交差点はここにない。唯一見える大量の人と言えば、ダンジョン前でたむろするマスコミの人達だけ。


 俺は、降り立つ時に班の人達を探してからにしようと考えた。ダンジョン手前から入ったら面倒くさそうだからだ。


 人気のないダンジョンの裏側にサッと降り立てば、砂が巻き上がり空気中に散布する。また、砂埃が俺の視界を支配していた。

 そして、俺が降り立ったところだが___


「ここまで話しましたが、誰のメリットでも無いのでは? 隠すことにしたとして、どんな働きを?」

「メリットって、狭山さん。嶋崎さんに助けてもらったんです、メリット思考で行くのも酷い話でしょ」


 そこは川端さんが狭山さんに説得しているところである。


 上空からでも察していたが、どうやら上手くいかなかったらしい。話が拗れるというか、狭山さんのメリットを天秤に掛ける所が垣間見えていた。


「確かに、木を隠すなら森の中とも言いますし、時間さえ経てば幾らでも力に関して誤魔化しがききます。でも、それはそれです。前提として、そこに欠かせないのは私たちが口外をしないことです」


「それで」と狭山さんは正論を立てる議員みたいに文章量のある発言をゆっくりとしっかりと、黒双眸で相手を覗きながら発言する。


「話は戻りますがだれのメリットになるかって言えば嶋崎さんだけです。班にとってのメリットは? そもそも、隠すことにですら意味を感じられません」


 一瞬、川端は表情を顰める。


「中々痛いところ突かれますね……。ですが狭山さん。あなたはメリットを求め過ぎだと私は思うのですが……」


 俺はその発言に不安をままに見守る。


 するとその状況は硬直状態に陥り、川端さんは愛想笑いを。狭山さんは変わらない見る目顔で間を過ごしていた。


「……はぁ。そうですね、私の意見を全面的に言ってからの方が話は進みそうなので言いますね」


 停滞的な空気に割り入る狭山さん。


「川端さん、あなたはお人好し過ぎます。見てるだけでしんどいです」


 はっきりとそう物申す狭山さんは、確かな瞳で川端さんその人を見据えていた。

 そんな彼女の言葉だが、負けじと声を返す川端さん。


「そ、それは、あなたの感情でしょ___」


 だが声は遮られる。


「だから言わせてもらいますが、私達は即興パーティーにしか過ぎません。そこに信頼を求めるのだとしたら、ふざけていると思いませんか? たった1日2日の人の何を信じるんですか? 他の人はどうか知りませんが、私はなんでもかんでも信頼できるほどのお人好しじゃあ無いんですよ」


 言葉の応酬が、川端さんの小さな言葉を搔き消す。


「わ、私だってお人好しじゃないですよ」

「いいえ、あなたはお人好し「過ぎる」んです。簡単に人を信じる所なんて、嶋崎さんの例でもう出てます。といっても、別に信じる事が悪いわけじゃありませんが」


 雲が上を漂う。影は光を遮り、闇がその場にいる各々を染め上げた。


「例えば、嶋崎さんが化け物地味た力の発端を見せた時ですかね。川端さん、あなたは悪魔の証明は知っていますか?」


 狭山さんはとことん説明するようだ。


「い、いいえ」


「そうですか」と狭山さんは乾いた目をパチクリさせて口を動かす。


「端的に言いますと、私たちは悪魔が居ると立証できません。ですが、それをまた逆転させれば人間は人間という証明が出来ない。そういう事です。嶋崎さんが人間なのか真性の化け物なのか分かるはずがないんですよ。だからあれは所謂……カマかけ程度の言葉にしか過ぎないんです。まぁ、性質の悪い事をしてしまいましたが……」


 何度目の沈黙か。話は続かず五十歩百歩、だけど、時間が経てばまた誰かが口を開く。


「……あのその、もし、嶋崎さんが襲うような人だったらどうしたんですか」


 俺が透明人間になって壁にもたれていると、またまた出来上がった沈黙の空間が、川端さんの「もし」という言葉から始まった。


 そんな質問に、抜かりはないようで狭山さんは言う。


「川端さん。抵抗の手段が無いのにカマをかけたりする事が出来るとお思いですか? それはよっぽどの「死にたがり」か「()無し」ですよ」


 と。

 それは辛辣であった。


「そもそも、川端さん。あなたは「借り」を即日で返すという荒業をしましたが、それって嶋崎さんの邪魔でしかなかったんじゃないですか?」

「……」

「悪魔の証明に続く話ですが、人間は結局信頼を築かないと何も信じられません。だから、信じなさ過ぎるのも人として意地が悪過ぎですし、信じ過ぎるのもお人好し過ぎます」


 まだまだ捲し立てられる言葉の絨毯。


「そもそも、信頼というのは両者とも砂時計のように時間をかけて貯めるしかないものなんです。だから信じない人の方がまだ余地はあります。ですけど、お互い顔見知り程度でしかないのに何でもかんでもやろうという考えはちょっと理解できませんね」

「いや、班です、仲間ですよ! ……協力する事は当たり前でしょ」


 ギラリ


 いつの日か、今日のいつの時か。そんな極最近と同じように眼光が見つめるものを貫いた。

 それは鋭くて。

 威圧が思考を遅くさせる。


 そして彼女は、その眼光に強いハイライトを輝かせて、強く言った。


「それを嫌ったのは何でもなく嶋崎さんだと」


 俺は見習うべきなのかもしれない。時として、人に強く言えるように。

 狭山さんは続ける。


「嶋崎さんは、あの目に留められない速度でほんの少しの力と言ってました。貴方が居ては、所謂本気が出せなかったでしょうね。逃げろと何度も連呼していたらしいですし」

「っ……」

「貴方は感情的過ぎる。故に、逃げましょうと2度目に声を掛けても聞かないだろうと諦めたんです」


 そこまで言って、狭山さんは話を変えるようにして態とらしく咳き込む。


「ごほん。さっきからの本筋をそれた話ですが、あと二つだけ聞かせてください。あなたは、あそこに残って何をしたかったんですか? もしかして、この力を隠すというのは、あの場で後悔したための罪の償いですか?」


 狭山さんのマシンガントークはグサリと川端さんの心を抉っていった。

 そして、川端さんはそれにポツリポツリ呟いた。


「そ、それは……。助けたかった……。自分でできる事はしたかったんです……。えと、それと。その……力については、嶋崎さんは面倒ごとを嫌っているので___」

「___川端さん。それじゃあまるで、馬鹿ですよ。信頼とかの次元じゃないです」


 川端さんは一歩足を下げる。


「じゃ、じゃあ、なんですか。あなたは信頼さえ築ければなんて事ないと?」

「場合によりますが。でも、あなたもそんなものでしょ? 相手を信じられればなんて事ないというのは、生物共通ですし。私だって、信頼関係さえあれば嶋崎さんでも信じます、信頼は時間に比例するんですから多少は」


 そして狭山さんは流石のマシンガントークに疲れたのか、ふぅと息を吐く。


「……川端さん。あなたの言いたい事はわかりました。ですが、今回に関しては嶋崎さんの力は隠すのではなくて広めた方が、誰よりも、人の為になると思います」


 これがとどめとなったのか、川端さんは無言になった。だから俺は、さり気なく歩いてきた風を装って川端さん達の元へ向かった。

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