10.死ぬ気で
タイトル変更。
ちょっと今の技量で2時間かけてどこまでこの話の線をなぞったまま修正できるのか挑戦してみました。
ーー
また、よろしければ現在新改訂版として投稿中の ーまる天ー の方もお願いします。
リンクは小説最後の部分、広告より下の方に貼っています。
俺はあれから無言で15分くらい走った。
そこに、山田さん引いては、川端さんまでも付いてきていた。想像通り、言い換えれば悪い意味で期待通り。
(まぁ、置いてけぼりにしてきたけども)
それにしても、ああ俺が言ったのにここへ帰ってきたと言うことは俺の邪魔をするつもりだったのかな、なんて思ってしまうがそれは悪趣味だと首を横に振る。
多分これは結構単純な話で、個々の気持ちがばらばら過ぎているから起きた違い合い。ただそれだけなのだろうと考えた。
そしてその結論が出た瞬間、俺は考える事を放棄した。こんな事、今考えたところで関係ない。今後の改善策にはなるだろうが、現状思考の邪魔になる障壁でしかなかった。
そうして走って漸く見えてきたのは大きく開けた空間。その空間には舗装された道路があり、計画的に造られたのだろう木造建築の家々が立ち並んでいた。
これが河田さんの言っていた集落なのだろうが、集落にしては、本当に静かだ。静かすぎる。いや、待て。違うーー
瞬間、空気の流れが荒れた感触と、視界の端で立っていた家が粉砕されるという光景が入ってきた。そして、迫ってきているのは巨大な岩。
俺はいきせきひっぱり魔力を回して前方へと大きく跳び上がる。そうしてすぐ後ろで巨岩が回転しながら地面を抉っていっていた。
(えぐーい)
これはアリージメントサーチを使うまでもなく分かる。これは、間違い無く俺に矢を放った馬怪力のゴブリンの仕業だ。
俺は武器を構え直し、死角を縫うように家々の壁を使って岩が飛んできた方向へ歩みを進めていく。
(透明化)
そうして、全身を見えないようにして壁から顔をちょこんと外へ覗かせる。
「え…」
(でっか)
そう声を少しだけ漏らして、すぐに身を隠した。
風が戦ぎ、髪を撫でる。少し冷めた顔の熱。
多分強いと、心の底から思わせるほどの威圧感。
胡座をかいて座っているだけなのにひしひしと伝わってくるその強さ。
兎に角あの鎮座するゴブリンの大きさはヒュージゴブリンとは比にならない。それだけは分かってしまう。
(でも、怖がってられないよな)
さっきの攻撃をみても分かる通り、あのゴブリンは俺を認識している。逃げようにも多分ーー
(ここまで来たら逃げられない)
なら。いくしかない。
俺は飛行を使い、地面を歩く音でバレないようにして接近を試みる。
そうして見えてきたのは今までのゴブリン種とは似ても似つかない容貌。
体躯は体感ヒュージゴブリンの3倍はあるが、実際のところどうなのだろう。
口に生えている牙は異常な発達を遂げていて、目に見えて浮き出る豪快な筋肉も更に恐怖心を駆り立てる様相に仕立てていた。
そしてなにより分厚い何かの毛皮を何枚も縫い合わせて作ったのだろう腰巻きと、心臓部を守る為にあるのだろう、綺麗な曲線のある木板が革紐で身体に付けられていた。
よくよく見れば手にはメリケンサックのような嵌め輪が。そこから読み取れるに、小規模の文明を築き、道具を作成、用いる事が出来る言うことはやっぱり。
(賢いんだろうな、こいつ)
その時、ゴブリンが煌めかせる黄金色の双眼が俺のいる位置に向き、そして凝視した。
俺は慌てて動きを止め、本格的な戦闘の準備をする。
「グゥゥォオオオオオ!!!」
魔力を練る。怯むなと言い聞かせて、地の底から突き上げられるような重たい咆哮に、歯を噛み合わせる。
堪える。
そうやって堪えて、歯を食いしばってーー
(ーー先手必勝!!)
実際はもう見つかってるのだろうが、そうでも言っとかないと、優勢だと思っていないとちょっとばかし挫けそうだった。
高速で接近し、抜いた剣を空に掲げる。段々と縮まる距離、巨大過ぎるこのゴブリンはしっかり俺の動きに目を合わせ、そして腕の可動範囲に入った瞬間なのであろうその時に左から掌が迫った。
音圧が凄い、と。
初めにそう思った。
そして次に、ワンチャン死ぬな、なんて陽気に考えていた。
(……いや、まだ死なねぇぞ俺はっ)
思考力をフル回転させ、魔力をもっと回し、限界に近い所まで瞬時に加速させて、そうして俺は駆け抜ける。
先手を掛けて突っ走った顔面行きのコースを変える事はない。
そして、駆け抜けた先にあった顔面。
迫る巨大な鬼のツラは仰々しい。
(氷雨!!)
そこからもっと肉薄し、剣で斬りつける。
のは予定している通りで、そうやって俺に気を惹きつさせる、と言うのも予定通り。
ここまでで成功はしている。
そして俺が目論んでいた事というのは、コイツが俺に気を取られている間に顔面へ魔法を打ち込み、最悪片方だけでも失明させて戦闘を少しでも有利に持っていこうとする事。
そう。普通にやって、こんなバカデカいやつ相手にその程度の刃渡りでやり合って倒せるはずがない。
だから奇策…いやある意味の最善策で。
そうして生み出す氷塊、膨張し鋭利になっていく氷の槍はーーしかし、背後で音が破裂したと共に霧散した。
「うぁっ!?」
それは何が起きたのだろうか、理解する事ができなかった。くるくると身体が回転する、視界が回り回る。視覚からの情報がどうもまとまらない。
その上、身体中にとんでもない寒気を感じた。急激に変化する気温、この感じ、この予兆のような震え。
(まさか、魔法っ……)
けれど、理解できても動けない。
何故だ、身体が麻痺してる。……そういえば、耳が聞こえない。
(と、兎に角、守らないと…)
そう察した次の瞬間に見えたのは、地面から大きく空へ伸びようとしている、悪魔のような、白い冷気を放つ、氷柱、だった。
(これは、やばいっ)
身体の自由が効かない今、スキルでなんとかするしかない。
スキル <硬化魔力>
スキル <爆破>
全身にまとわりつくようにして不可視のプロテクターが身体を覆う。硬度レベルは分からないがそこそこ体は守れるはず。
後は今足りない回避するのに使うべき力。斜め下から放った爆破の勢いで範囲外へ、いやこの際範囲外じゃなくていい。上へ、少しでも地面から離れられれば、少しでも飛べればなんだっていい。
だから、お願いだ。
(飛べっ……)
そんな一抹の期待を不安と共に掻き混ぜて魔法の接近に全集中していると。
「ぅ"っ"……ーーー」
途端に身体が悲鳴をあげた。急な事でこれもまた何にも直ぐにはわからなかった。
でも、意識が薄れる中で俺は理解した。豁然と迫ったのは、巨大なゴブリンの剛腕だった事。
氷の柱が俺を貫くよりも早く拳が飛び出して俺に襲いかかった事。つまり氷の魔法はブラフで、本命はその腕力から解き放つ高威力の暴威。
(そうだ、こいつは賢いんだった)
目の前をよくよく見れば、メリケンサックのようなものを嵌めた手の方だ。
(じゃあ、今の俺の腹にはーー)
ーー俺は加速した勢いのまま何かにぶつかっていく。しかしそれだけでは勢いが殺されず、どんどんとどんどんと何かを豪快に折りながら突き進んでいく。
痛みは、まだない。ただ、飛んでいるなぁと、感じた。ただそれだけだった。
そうして少し、意識が途切れる間際、漸くその勢いは落ちた。
土煙が上がり、身体中に緑色の草が舞い落ちる。
「う"っーーガハッゴボッ…」
赤い水が、口から垂れ溢れる。喉がイガイガして、咳き込む毎にお腹の底から飛んでいく。
ーーピチャリ
悪寒がすごい。
ーーピチャ
感覚のない腕がダラリと落ちる。
(ちょっと様子見とかしなきゃよかった…)
流石、馬怪力。見事に後悔させてくれる。
けれど、何だかそれが嬉しくてフッと口角が微妙に上がった。
口の端からはボトボトと、赤い汁がこぼれていく。
(…ぁー…こんな簡単に、死ぬくらいなら…)
そして悠夜は溜息を、ゆっくりとゆっくりと垂らして、光の消えかける瞳に、無理やり光を呼び起こさせた。
(全力を…まだ、出してないんだ)
また勢いよく吐き出された真っ黒な血反吐。
そしてまた一段と見えなくなる景色。
朦朧とする意識。
(…ぁ急がないと精神より身体が先に死ぬな)
だから俺は急ぎ呼吸を整えて、スキルを発動させる。頭の中に思い浮かべる、その術を。
(生灯煌火)
そうして発動した魔法、その効果はすぐに現れる。
霧散したスペルが俺の身体に纏わりつくと強く発光しはじめる。それは何度も何度も、発光を繰り返すたびに強く眩しく、そして輝かしく。
「ぅ"……」
身体の冷えが、少しずつ無くなっていく。全くもって感覚のなかった感覚が少しずつ甦り始め、痛みという感覚を全面に押し出し始めた。
「ぅぁ"…って"ぇ………」
拡大していく痛み。
しかし、その痛みを代償にしているかのように、俺が呻く声に合わせて腹に空いた穴が見る見ると塞っていた。
次いで、激痛という表現では収まりきらない腕が癒やされているのだろう。感じていた痛みは徐々に緩和されていく。
そう。このスキルはつまるところ回復スキルである。
朦朧とした意識は覚醒し、失われていた感覚が息を吹き返す。痛みは続いているが治った手を使って口に付いた生温い血を拭った。
「ぶっ…」
そして最後に口の中に残った血を吐き出して、飛ばされてきた痕跡と言う名の、開拓された道を俺は目を細めながら見つめた。
半分ほど魔力が持ってかれた。だがまぁ、死ぬよかましだ。
(それにしても)
これはほんと、甘く見過ぎてた。本能的に怖がっていた癖に無計画に猛進して突き進み、このザマ。笑えない。一歩どころか普通なら死んでた。
そう。普通のやつなら。
口角が釣り上がる、そんな感覚をまた感じた。
(よくもやってくれたなぁ、ほんと)
アイツは、ほぼ間違い無くこの集落の村長だ。
そう俺は睨んで、回復し続ける身体の調子に飛び跳ねる。
所謂長と言う立ち位置のモンスターは、集団や集落などの中に一定確率で存在すると言うのは、少し前に聞いた。
長はただのリーダーではないらしい。リーダーの上の決定者とも言うべきか。人間とはまた違う権威がその文明には発芽する。この魔物の世界なら特に強さという基準を勝ち取ったモノが長となるのだろうと。
ダンジョンを研究する学者達は色んな情報サンプルーー戦闘報告書や死体解剖などから得られるサンプルーーから推測しているそうだ。
(ほんと、逃してくれよ…)
そう思うのは、遠目ながらもその長と推測できる魔物が、また。そうまた巨岩を持ち上げて立っているからだ。
(力の差は分かってるから、そんなに追い詰めようとしなくていいんだって)
そう思うが、まぁ言葉にしたとしても聞いてくれなさそうだ。
(俺、これを避けたんだな…ほんと凄い)
グルグルと物凄い速さで回転しながら落ちてくる巨岩。それを理解し、よく見て、惹きつけて。
俺は、スキルの段階を一時的に引き上げて唱えた。
(超加速ーー真超加速)
瞬間、世界の流れが止まった。
自身が体を動かそうとすると世界は動き出すが、考えている間はまた止まったままになるーー否、ほんの少しずつ動いてはいるのだろうが、見て分からない位には止まって見える。
そして俺は翔んだ。力強く跳躍し、高速で回転しているのであろう岩の体表に飛び乗り立つ。そして、そのまま身体を低く下げて、また力一杯地面をダンッと蹴り飛ばす。
そうして、刹那の時間。悠久とも取れるこの長い道のりを切り破り、俺は長の前に躍り出た。
地面が暴力的に砕かれ、宙に抉れた土々が舞う。
体から少し煙が出ているのか、これ以上滑らないように足を突き刺し、速度を落としながら目の前にいる長を睨んでいると、視界に白いモヤが飛んで居た。
(やぁ、どうも)
次いで炊飯器から飛び出る水蒸気のような音が聞こえてきた。そして多分自分から出ているモノなのだと予測する。が、それもまた今はどうでもいい。
不敵に微笑み、俺はそして長へと飛び込んだ。
その際自身でも速すぎて認識できず、その間の記憶が飛んでしまっていたのだが、それを補うだけの時間が今の状態だと多くあった。
(いやぁそれにしてもまさかの1層目にして、こんなのがいるとは。普通は居ないと思うんだけど…)
いや違うな。
(普通に居ないのか…)
じゃあ何が原因か。
そんな事、ダンジョンに詳しく無い俺たちのみならず、多分ダンジョンの研究者であっても理解できない話だろう。
「ふぅ…」
俺は息を吐き、目を見開く。
そのちょっとした動きの間であっても長は俺に反応し、目の瞳孔を開かせた。
反応速度が化け物じみている、正に長たる所以か。
(でもさ)
俺は口角が上がる感覚を抑えるために下唇を噛む。気持ちの悪い笑みだけは作りたくなかった。
でも、筋肉が勝手に反応する。
(これは避けれないだろ)
俺は手と手を目の前で叩き合わせ、一つのスキルを思い浮かべながら手を横に引き離していく。
歪む景色。
それに纏う少量の稲光。
「高位スキルーー」
俺の腕の中で生まれた小さな歪みは瞬刻の間で膨張し、肥大化し、目の前で解き放つと見せて爆破と羽、そして飛行を使って空高く舞い上がり、直下にいる巨大な化け物めがけて解き放つ。
「ウ"ォオオォオァアアアア!!!」
その今から降り注ぐのであろう一撃になにかを悟ってか、長は自身を守るように氷の壁を幾重にも重ね、土の魔法で更に固めて、そこから俺の魔法を止めようとしてか焔と氷の魔法を断続的に飛ばし出す。
それを見て、俺は思った。
本当にまともにやり合ったらやってらんないな、と。もう凄いの一言につきるのだ。
俺はまだ一度に2個か3個、同時に魔法を発動できさえすれば上々。その際のクオリティはそこまで高くない。
だが見てみろ目の前のやつの動きを。
氷を何枚張っている?
土壁で何枚覆っている?
見るからにやばそうな攻撃魔法を何回放っている?
そういうことだと。
なんなら見えてない所ーー長自身にかかる、例えば防御系の魔法とかも使っているかもしれないし、そう考えれば余計に破格と言うか異常というか、化け物というか。
生物として、スキルを扱うものとして。
そのどちらもにおいても見上げるしかない圧倒的差。
「ーー喰べる者」
じゃあどうやってその差を埋めるのか、埋めた上で生き残るのか。俺は目の前にある球形の巨大な歪みを前に突き出して当然のように笑って言う。
「死ぬ気にさせたのは、お前だからな」
圧倒的な力を覆すにはそれ以上に、死ぬ気で理不尽な力を振りかざせばいい。そして今の俺にはその選択をする権利があった。
全てを飲み込み、吸い込み、粉砕する。
魔法も、壁も何もかも。例えそれが強固な肉体であってもーー
「ゥ"ウァアアアーーー」
断末魔が途中で掻き消える。それはこのスキルの力によるものなのか。真っ暗な視界のせいで、全てを遮断された感覚のせいで何も、俺には何も分からなかった。
ただ俺は、意識という真っ暗な海の中へと落下して、何も分からないまま気絶したのだ。
お読みいただきありがとうございました。




