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【作品打ち切り 改訂版に移行しました】ニートな俺が山でスキルを習得させられて強くなったし、お金が必要なのでダンジョンで働きたいと思う  作者: 鍵ネコ
冒険者

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09.冒険者の宿

「じゃあ、これで終わりかな」


 模擬戦相手が聞いてきたので皆んな頷いた。


「わかった。ならこれで測定は終わりだ。体育館入り口横でまとまって待っててくれ」



 俺たちは、指示に従い待っていた。



「それにしても、山田さん大丈夫ですか? 結構マジ蹴りされてましたけど」


 影宮さんは、立って待っている山田さんを見上げて心配していた。

 それに山田さんは「大丈夫です、多分」と、曖昧なコメントを残した。


「と、言いますか。何気に重症なのは僕じゃなくて川端さんに思えるのですが……」


 今も腰をさすっている川端さん。

 あれから察するに、結構マジで腰をやってしまったようだ。

 俺は一度スポーツやっていて、腰をやってしまったことがある。あれは歩くだけで痛いし力が抜けるという鬼仕様だ。

 川端さんの姿は、その時の俺の感じと似ている。


「あ、いえ。大丈夫です」


 川端さんは、山田さんの声が聞こえたのかボーッと前を見つめるのをやめ、こっちに向いて言った。

 そんな川端さんを咎めたのは狭山さんだった。


「川端さん、腰は下手すれば治らないんで無茶だけはしないで下さいね」


 狭山さんは怒ると言うより心配している面持ちだった。


「すいません……。でも、今は大丈夫なので、無理はしないようにします」


 川端さんはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。


 俺は特にすることも無いので他の人たちの模擬戦を見ていた。


 だが、このグループが抜きん出て強いわけでも無いことがわかった。

 例えば斧の扱いだと、斧に伴った筋力で柄を短く持って超近接法を用いて戦っていたり、サイスだと軽快なステップ移動で翻弄しながら強襲している。驚いたのは短剣か。短剣を戦闘に用いる、まぁアニメやラノベの見過ぎでだろうが、それでも腕捌きは驚きのものだった。


 そうして眺めていたが、気付けば全員揃っており、河田さんが話していた。一つ気になるとすれば後ろのスーツケースは何なのだろうか。


「皆さんお疲れ様です。初めて武器を使った感じはどうでしたか? 明日は、ダンジョンで実践的に戦闘を行ってもらいます」


 おいおい、早速なのか。


 周りの人も同意見なのか、文句を言っていた。

 そんな言葉を聞いて、河田さんは頬を掻きながら話した。


「いえ、取り敢えずは明日だけです」


 ? どう言うことだ?


「ダンジョンで実践的に戦闘を行ってもらい、その場の雰囲気を知ってほしいからです。勿論、危なくなれば助けに入ります」


 雰囲気か……。実際どんなものかと場慣れしてもらう事が狙いか。それで感じた魔物との差をどうやって縮めればいいか。その魔物の倒し方とかを考えさせたいわけか。


 河田さんは、一息ついてから後ろにあったスーツケースを開けた。


「今日はお疲れでしょう。それに、時間をかけて明日の準備していただきたいので今日はここで解散となります」


 河田さんはスーツケースの中から20枚の札のようなものを取り出して、全員に一枚回すように指示した。


「これは、皆様に泊まって頂く宿、冒険者の宿で宿泊して頂くための許可証のようなものです。くれぐれも無くさないでください」


 手に持つ106いう数字の書かれた札を見る。この札は木で出来ており、風情があると言えばいいのか雰囲気のある札だった。

 これ、無くしたらどうなるのだろうか?


「あのすいません。もしこの札を無くしてしまったらどうしたらいいのでしょうか?」


 ふと疑問に思い聞くと答えてくれた。


「これを無くした場合は5万円の鍵の買取です。そのまま宿泊する場合は、新たに手続きをして下さい」


 各々この札を見てこう思っているのだろう。これ、5万もするのか、と。

 スーツケースを閉じた河田さんはそれを持ち、宿まで案内すると俺たちを先導した。


 冒険者の宿とやらは別棟にあるようだった。

 冒険者の宿というものだから、ちょっとファンタジーチックなものを想像するが、どうなのだろうか。


 少し楽しみな悠夜であった。


 冒険者協会本部を出て左突き当たりまで行き、そこから右の突き当たりにそれはあった。


「ここになります。外見は少々遊び心でのつくりですが、中には最先端技術を詰めまして、ベッドはフカフカです」


 そう紹介されて目にする建物。


 ただ、俺はこう思う。


 いや、違うんだ。その説明はきっと間違ってる。

 だってこれ……。


「もう外見から中身が醸し出されてるよ」


 下手な旅館よりもでかいかもしれない。それに、この丸太や木で作られた外見。この一角。どうあがいても安くは見えない。


 いや、すでにあの札の値段を聞かされた時から思ってたのだが。


「今回は特別に1ヶ月だけ無料で体験していただきます。期限が過ぎた場合そこからは金銭が発生します」


 その言葉に、見覚えのある女性が食いついた。


「あの……具体的には?」


 9番の女性だ。

 そんな彼女と同じように気になっているのは変わらないが……。


 そして、無慈悲に放たれた言葉が全員を呆然とさせた。


「一泊30万円です」


『さっ、さんじゅうまん!?』


 河田さんは、そのリアクションにあははと苦笑いだった。まぁ、紹介する側としても驚きの額だろうから、なんとも言えないのだろう。


「ここは、冒険者協会本部が管理していますので、冒険者として働く上で契約を結びたいと言う方は、協会本部の窓口から手続きをお願いします。では、僕の案内はここで終わりになります。困った時は宿内のスタッフに相談してください。明日は、10時からです。お疲れ様でした」


 河田さんは最後にそう言って来た道を戻って行った。そんな彼の背を見送ると、全員目の前の玄関口に目線を注ぐ。誰も歩こうとしない。

 確かに、一泊30万の宿。行くという考えさえはばかられるだろう。


 しかし、誰かが歩みを進めると一斉にゆっくりとだが中に入り始めた。


 そうして、俺たちも中に入った瞬間、感嘆の息が漏れた。


 この内装。木を使った自然と豪華さがありながらも、落ち着いた雰囲気が優越感を感じさせてくれる。この時点で30万は仕方ないなと思うくらいだ。

 無駄に着飾らないのに豪華というのは、中々になく、この感じが俺は好きである。


「ここでの1ヶ月900万円分をタダで……」


 目に映るもの全てが気になる。しかし、疲れたと言う気分も相まって、エントランスにある柔らかな革のソファーに深々と座る事にした。


 適度な硬さ、全てが良質な設計が施されている。

 いや、そもそもの冒険者の宿という設計が綿密な建築計画の上で成り立っている。天井の快適な空調を維持する設計もそうだ。

 装飾品の配置も邪魔に感じさせず、一つ一つがこの宿という事を感じさせる。


「……ああ、当選して良かった」


 極楽に浸る。


 この場所以外にも良いものがあるんだよなぁ。もとの生活に戻る時が怖いな。山でのベッドがまさにそれだったし。


 考えていると、背中がムズ痒くなった。


 さて、ここで満喫していても仕方がない。チェックインを済ませるか。

 他の人はもう既に部屋へ行ったぽいし。


 馬鹿みたいに広いエントランスを見渡すが、居るのは受付カウンターに3人と、ベルボーイが2人。清掃員が5人といったところ。


 他の人たちに部屋があてがわれている中、俺一人、エントランスに居座るのもなんか違う気がするのでさっさとチェックインを済ます。


「すいません、これでチェックインお願いします」


「承りました。こちらにお名前とご住所を記載してお待ち下さい」


 出されたボールペンとクリップファイルで留められた紙。

 それを受け取りさっと書き、カウンターに置いた。


 カウンタースタッフのお姉さんは、木の札を預って直ぐ後ろの機械に入れた。暫くすると、その隣にある電子パネルの日付の欄に今日の日付が記載され、部屋とかかれた所に106と記載された。それを確認すると、こちらに振り返り「お預かりいたします」といってクリップファイルを取った。

 そして、カウンタースタッフさんは名前の欄をタップし、俺の名前を打ち込んだ。


 恐ろしいくらいに手際がいい。凄いな。流石900万円。


「確認が取れました。朝食は朝7時、昼食は昼の12時、夕食は夜18時からです。ごゆっくりとお泊りください」


「分かりました」


 札を受け取ると、ベルボーイと思われる人が来た。


「お部屋へご案内いたします。部屋番号を承ります」


「えと、106です」


「承りました」


 俺は、ベルボーイが進むままに進んだ。


 その途中の廊下の装飾もさる事ながら、廊下自体の豪華さが素晴らしかった。


 そうして歩いているとベルボーイが足を止めた。

 着いたようだ。


「こちらがお部屋になります。お持ちの札がカードキーになっておりまして、入室の際はこちらのタッチパネルに翳してください」


 俺は言われた通り、壁にあるタッチパネルに翳した。すると、電子音がなりドアが勝手に開いた。


 すごいオートマチックだ。この設備、二か月で建ったものとはおもえないな。


「ご案内は以上になります。ご用件があれば、室内電話を通じてお申し付けくださいませ」


 ベルボーイはこれで仕事を終えたのか、お辞儀をして帰っていった。


 さて、部屋に入りますか。


 ドアが閉じてしまったので、もう一度木の板をタッチパネルに翳した。


 この木の板が高い理由は、この木自体にも価値があるとは思うが、木に施された電磁機能があるからだろう。

 再び開いたドアから入りながら、室内を眺め見た。


 これは……。


 漆喰壁と焦げ茶色に近いフローリング。その内装の雰囲気にあった様々な家具。

 そのどれもが高級感を放ち、豪華にしている。


「ヤバイ、これ絶対ヤバイ」


 この生活の味を知ってしまえばもう昔には戻れないだろう。


 靴を脱ぎ、部屋に上がる。


 ふあー、広いな……。


 玄関からの廊下を通りすぐに開放的な空間に出た。

 家具はシンプルに、ソファーと観葉植物や本の置かれた棚。時計、そして大きなテレビ。

 窓に関しては、外に人通りがあるからか小窓で小さな日光だけを差し入れるっぽい。まぁ、この電気の光だけでも十分だが。


 悠夜はこの部屋を散策し、個室を見つけた。

 個室にはダブルサイズのベッドが設置されていた。枕は一つだけ置かれているので、一人だけの場所だ。


 見つけた個室に背負って来た荷物を降ろし、今朝作ってもらった弁当をとり、リビングに行くと、直ぐソファーに座りこんだ。


 だめだ。気持ち良すぎるよこれ……。

 離れたくない……。


 気付けば俺は眠り込んでしまっていた。



 プルルルルル



 プルルルルル



 んあ?


 電話の鳴る音に目を覚ました。


 音のなる方を見ると、着信が来ていた。フロントからの電話だ。


「はい、嶋崎です」


 欠伸を噛み殺しながら名前を言うと、それにフロントのスタッフさんは丁寧な言葉で話した。


「嶋崎様、夕食の準備が整いましたので宴会の間にお越し下さい」


 そう言われて時計を見ると19時を過ぎていた。かなり寝てしまってたのだろう。それに、夕食の時間か。昼の弁当、もうだめか……ショックだ。


「宴会の間って何処にありますか?」


 気を取り直して夕食を。

 と思ったが、宴会の間と言われても分かるわけがなく、聞いてみた。


 どうやらベルボーイを寄越してくれるらしい。


 それに「分かりました。態々ありがとうございます」と御礼をして電話を切った。


 じゃ、玄関前で待っときますか。


 靴を履き、外に出る。出る時は木を翳して、部屋側のドアにだけ付いている取っ手を押すと開いた。


「宴会の間までご案内いたします」


 は、はえぇ。もう少しかかると予想してたんだけど……。


 外に出ると、既に部屋の前で立っていた素早い対応のベルボーイに感心しながら、宴会の間まで連れて言ってもらった。


「こちらになります」


 そこには両開きの扉があった。


 その奥からはガヤガヤとした声と食器音が聞こえることから、もう食事が始まっているであろうことが聞いて取れた。


「案内ありがとうございます」


「ごゆっくりと」


 両開きの扉を開け中に入ると、やはり全員が食事を始めていた。まぁでも、そりゃそうだ。20分も遅刻だもんな。


 白い壁に丸い天井。そこに付けられている天井照明はとても明るい光を放っており、部屋全体が照らされている。床に敷き詰められた黒と白の花模様のカーペット。茶色の巾木(はばき)といい感じにマッチしている。


 そんな部屋の真ん中には大きく長い机があった。そこに料理を持ってくるのだろう。

 先に関しては何となくグループ分けがされていたようで、昼のグループの所の席が空いていたのでそこに座った。


「すいません、遅くなりました」


「あ、漸くきました嶋崎さん」


 川端さんは、ローストビーフを切っていた。


「呼びに行きましたけど返事がなくて心配しましたよ」


「え、そうなんですか?」


 まじか、気がつかなかったな……。

 申し訳ない事したなぁ。


「すいませんありがとうございます。ちょっと寝すぎてしまって」


 そんな俺の言葉に「ははは」と川端さんは笑った。


「そうなんですか。まぁ、でも疲れましたもんね今日の訓練。こんな動くなんて久々ですし、私も風呂に入ったら寝ますかね……。あ、嶋崎さん。来ましたよ」


「うわっ」


 川端さんの話を聞いていると食事を出された。


「夏野菜のテリーヌで御座います」


 透明で綺麗な宝石のようなテリーヌ。バジルソースが皿の枠にかけられている。


 フォークで刺し、ナイフを入れるとスーッと入った。


 そして口に運ぶ。

 すると、口の熱で溶けて行った。旨味が口の中で広がり、その旨味と噛むごとに野菜の甘みが頬を落としに来ている。


 溶けるぅ、うまいぃ。


 この味を感じていたいと食べ進める。


 口に広がる旨味と、野菜の甘み。


 美味い。


 前菜のテリーヌはあっという間に完食した。


 それから暫くして運ばれて来たのはホカホカのパンと飴色のスープだ。


 食欲は、それの前に増幅して行く。


 先ずはスープを一口。スプーンですくい、喉に通す。


 濃厚なコンソメスープだ。だが、口に残る事なく鼻から抜けて行く。


 それをお供にパンをちぎる。熱々のパンは、より美味そうだった。


 塩気があるけど微かに甘さがある。でもそれが丁度いいな。


 パンとスープを食べ一息つく。


「ほんと、美味いわ……」

お読みいただきありがとうございました。

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