08.模擬戦闘
「さて、皆さんお疲れ様でした」
周りに安堵の息が漂う。
種目を終えた他グループも息を荒くして汗を垂らしていた。4種目だけなのに、内容が中々にハードだった事が原因だろう。
河田さんは本当にお疲れ様ですと言って話を進めた。
「今回の測定。はっきり言って測定の領域を超えてますよね」
その言葉に皆何度も頷いた。
たしかに、俺の場合だけだと思うが握力が300を測定してたし、共通しているといえば判断力測定、あれは普通ならずっと攻撃を喰らっていてもおかしくない。瞬発力だって、最後のあれは人の領域じゃないし。
河田さんはそんな皆んなを見てうんうんと頷いた。
「ですよね、僕もはじめはそう思いましたよ。あんな無理ゲー誰ができんねんって、もうそれはそれは開発課に訴えに行けるものでした」
河田さんは、ですがと続けた。
「これ、レベルが上がればできてしまう領域なんですよ。そして、その領域を再現できる限界がこれです。大体予測ですが最終レベルを普通にクリアするのにはレベル10になればできると思われます」
ふーん、レベルアップの恩恵はそこまであるのか。だけど、それって返してみれば___
その時、俺が考えていたことを河田さん言った。
「ですが、それを返してみれば、レベルが10でも太刀打ちできない魔物がいると言うことです。今回体験してもらった理由は、軽く皆さんの身体力測定と、そのレベルの違いを感じとってもらいたかったからです。さて、話は以上になります。次が最終種目になりますので、頑張ってください」
そうして案内されたのが、初めに気になっていた武器と軍服の人たちの場所だった。
「では、説明します。ここでは純粋な戦闘能力を測定します。そちらにある武器を使って戦ってください。ただし、こちらからの攻撃は一切ありません」
つまり、ただ案山子を殴れと言うことか。武器の試し斬りとかと同じことだろう。
「ただ、今すぐしろと言っても出来ないのは仕方がありません。逆に扱えたら警察行きですね」
え、なにそれ怖い。
「ということで、今から4グループは4つに分けられた空間内で武器の扱い方について教えてもらってください。こういう事は聞くより慣れろですから……。では、始めて下さい」
河田さんはそういうと、出入り口のドアに行き、体育館から出て行った。
だが、別に何があるというわけでもないので、無視してテープで空間分けされた空いているところに行った。
「お、ようやく来たか。宜しく、俺は佐々木だ。で、右から」
「加藤です」
「白笹です」
「蔵道です」
「円堂です」
気のいいおっさんって感じがする軍服を着用したおっさんと、同じ服装をした4人の男性らが教えてくれるらしい。
「んで、そうだな。そんなかから使いたい武器を選んでくれ」
佐々木さんに言っている武器がある方に目線を横に向けると、5つずつ置かれた武器があった。
「右からサイス・斧・短剣・剣の4つだな。短剣は武器というより護身用に近いが、得意となれば戦闘にも用いれるぞ」
それを耳に挟みながら、皆んな選び出した。
それぞれ、手に取って見たり、光にかざして見たり、と楽しそうでもあった。
そんな光景をすみに、俺なのだがもう決まっているのでさっさと選ぶ。
「ん? もう決まったのか、どれどれ……。ほほう、剣と短剣。無難に攻めたな」
「これに関しては王道で」
と、いうのは建前で、単にサイスと斧が嫌いなだけである。
影宮さんはサイスを手にとって早速教えてもらいに行ったようだ。
たしかにサイスは強い。引っ掛けて自分側に引くだけで刈り取れるからだ。
だが、それには繊細な技術と、力。加えてスピードの三拍子が揃わないといけない。序盤はまだ行けるだろうが、慣れておかないとアレは上で通用しない。山での経験談だ。
あ、川端さんは斧にしたらしい。
斧も斧で強いといえば強い。
力任せに振るだけで真っ二つだからな。
だけど、逆にいえばその力の操作で斧は変わる。それに、純粋な力が足りなければ振り回すだけで体力をかなり消費する。
以上の経験談により結局、強いのは剣と短剣である事に気付いた。
「これでお願いします」
「わかった」
佐々木さんは先ず、剣から教えてくれた。
「剣を扱う時は、重心は真っ直ぐ。足は、攻撃に耐えれるように右脚を右前、左脚を左後ろに置く。脚の広さは肩幅くらい、そうそう」
「剣って、昔は叩き潰すってので考えられてたんだ。今で言うと槌、ハンマーみたいに」
「そうだ、肩の力を抜いて、振れ。硬すぎると思った通りに動かせないからな___」
そうして、武器について体勢や動かし方、武器の歴史なども教えてもらった。いつもは我流なので、こうしてちゃんとしたことを教えてもらえて、我流と基本の違いがわかった気がする。
厳しい訓練。短時間で粗方の使い方を教え込むなら致し方がないこと。しかし、面白いのはそんな短時間の間で普通に扱えるようになっていること。教え方と言うものはとても大切なのだと気付かされた。
「さて、このグループで他にまだ訓練したいと言うやつ」
そこで手をあげるものはいなかった。
3時間の訓練をし、基礎的な事もだいたいできるようになったので挙げなくていいだろうというのが、統一して考えられている事だった。
佐々木さんは、誰も手をあげないことに納得したのか腰に手を当てて言った。
「よし、訓練は終わりだ。で、次は、それを活かす模擬戦闘だ。頑張ってこい」
ニコッとした笑顔で発破をかけてくれた。
さっき手に取った武器を持ったまま、模擬戦闘を行う場所に着く。
そこには、5人の軍服を着用した人達がいた。この模擬戦の相手だろう。全員持っているのは剣だ。
その中から、一人が出てきて、説明をこの模擬戦の説明をしてくれた。
「この戦闘能力測定は、A〜Fの評価で測定される。まぁA〜Cが大変良くて、DとEが良い。Fは悪いという事で覚えておいてくれ。じゃ、その中から一人ずつきてくれ」
先ずは誰から行くかとなった。
それに手を挙げたのは川端さんだった。
「私、1番目でもよろしいでしょうか」
その意見に異論を出すものはおらず、1番目が川端さんからになった。
川端さんは斧を使う。
体力的に貧弱ではあるが、何処で力を入れればいいのかとか、遠心力とか、そう言う技術を直ぐ習得していた。低い結果で終わることはないだろう。
「はぁー!!」
ブオン
模擬戦相手に向かって徐々に速度を上げ走り、斧で横薙ぐ。
空を切る音と、振り切った時の風圧音が威力の強さを物語っている。
だが、やっぱり普通の攻撃だ。
技術があっても速度がない。避けられることは目に見えていた。
川端さんは、横薙ぎの攻撃を避けられると遠心力を機動力に変換して、下から上へと切り上げた。
勢いのあるその攻撃は、相手の剣で受け流される。
カインッ スー
ここで受け流したのは、その斧の特性、デメリットを理解させることと、身体に負荷をかけるためだろう。
斧は基本遠心力など、自身の力以外のものも加えて攻撃する。故に、その力を受け止められれば、他の力が分散し、斧を動かすには自身の力でしなければならない。
そして、完全に力が分散された時、振り上げると言う行動に負荷がかかり、体力がかなり削られ威力も半減する。
川端さんは攻撃を流された事に直ぐ疲労を見せるも、直ぐに反応して振り上げた姿勢から、肩を使って右上に腕を回し斧を左下に斬った。
「ふっ!」
ガキン
その攻撃の届く距離から相手は後ろに避け、振り切られる斧をわざと受け止めた。
避けられると考えていたのであろう。川端さんは、虚を突かれたような顔をしていた。
「うわっ、うぐっ」
それがダメだった。
受け止められた斧は、直ぐに相手に力で返された。それも、かなりの力で。
分散しきれない力は運動エネルギーに変わり、川端さんは吹き飛ばされてしまった。
背中を強く打ち、痛みに悶える川端さん。
それを見た相手は攻撃姿勢をやめた。
「んーと、悪くは無かった。だけど、力が伴ってないな。Cだ」
「ありがとうございました」
川端さんは、そう言って暫く腰を抑えていた。
「次、僕行かせてもらっていいですか?」
次に挑みたいというのは、サイスの影宮さんだった。
周りの人と顔を見合わせ確認を取る。
「大丈夫ですよ」
「よしっ」
サイスは、基本体勢が防御である。そして、攻撃を受ける中での隙を狙って首を刈り取る。まさしく暗殺者、死神のように手数少なく仕留める戦法なのだ。
だが、今回は攻撃されない模擬戦闘なので、攻撃に特化している。
サイスは独特で難しい。
その微妙なカーブが当たらない。だから引くのだが、何より大きいため扱いが場によって変わる。
今の影宮さんだと、近接化して戦っているな。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
所謂クロスアタック。右から左に薙いで、自身に引き、左から右に薙いで、自身に引くを繰り返すと言うものだ。
ただ、体力の消費が多いのも否めない。また、やり過ぎると単調となり、攻撃されてしまう。
影宮さんは、クロスアタックはダメだと判断し、少し距離をとった。
遠距離、サイスの本領を発揮する攻撃を仕掛けるつもりだろう。
足を止めず、お互い睨み合って歩く。
そして影宮さんは、ここだと突っ込んだ。サイスを振り上げた体勢のまま。
相手は身構える。
15m……10m…6m……3mと近づいた影宮さんは、消えるように動いた。
真正面から振り下されるかに思えた攻撃は、手前での回り込むステップで横から迫ったのだ。
「これは上手いな」
そう感嘆の声を漏らす。
完璧に捉えた首。そして、サイスを引きつけようとした時、攻撃が止まった。止められた。
「君すごいね。まさか、フェイントをかけて来るとは。でも、もう少し攻撃のバリエーションを増やした方がいいね。Bだ」
「ありがとうございます」
「私、次行行かせてもらってもいいですか?」
周りの人を見ると頷いていた。
それを見た狭山さん「ありがとうございます」と言って向かった。
帯剣して歩く狭山さん。
何というか様になってる気がする。
凛とした雰囲気を醸し出して、狭山さんは剣を構えた。
「はっ!」
少し睨み合った後、狭山さんは駆けた。
カキンカンカンカンカンカン
剣と剣が交じり合い、鉄の響く音がスピードと合わさってより戦闘を形にする。
カキンカキンカンカンカンカンカン
うん、やっぱりテクニックがある。
たった3時間やそこらでの技術とは思えないな。無駄というものを省き、全てを繋いでいる。只者じゃない。
耳が痛くなるほどの攻防。そのまま停滞するかに見えた攻防に、狭山さんが動いた。
「体術……」
剣を左上に切り上げたと同時に、右足と左足の二段回し蹴りをかました。
タタンと決まる攻撃は身体能力の差だから塞がれてしまったが、あれが同じレベルだと、綺麗に決まっていただろう。
受け止められた攻撃蹴りは、初めから受け止められるつもりでの行動だったのか直ぐに体勢を立て直された。
素早く態勢を立て直した狭山さんは、相手の懐に一閃した。
そして、腹を切り裂く。
ガイーン
「……うん、お疲れ様。凄いな、A。上げられるならAプラスだね。だけど、守りだからといって攻めすぎるのもダメだな。魔物の素材使ってるから刃が持っているけど、鉄とかだと直ぐ刃毀れするから気をつけて」
「ありがとうございました」
そう言って、剣を鞘に戻した。
狭山さんも模擬戦闘を終え残りは山田さんと俺だけになった。
どうしようかと山田さんに顔を向けた。
「えーと、嶋崎さんお先にどうぞ」
山田さんは、俺を見ると顔をヒクつかせながら了承した。
「ありがとうございます……」
少々戦ってるのを見て、うずうずしてしまっていたところだ。いつから戦闘狂になったのやら……。
それに、こう言うので最後の締めくくり役は嫌だし。
鞘走らないよう手をかけて歩み進め、場に立つ。
「行きます」
瞬時に鞘から剣を引き抜き、駆ける。
スピードを出しすぎないように、他の人達くらいの速度を維持しながら。
相手との距離が3mに迫る。
そして、剣を振り上げ、ポケットに入れてた短剣で喉元を狙う。
シュ
「うあ、あ……」
剣を振った後に短剣を突きつけられるとは思わなかったのか、少し相手は硬直してから手を挙げ、降参の意を記した。
「Aです……」
案外早く終わってしまった。
そう思っていると、戦闘相手はひょろひょろと腰を抜かした。
心配に思い駆け寄るが「大丈夫です」と言って体育館を出て行った。
「じゃあ後は山田さんですね」
「え? あ、そうですね。ついにきちゃいましたね」
このグループ最後は山田さんになった。
嫌そうに模擬戦相手の所まで歩く。
山田さんが使うのはサイスらしい。
なんか、根暗感が様になってると言うか何というか……。
「いっ、行きまーす」
そう叫びながら走る山田さん。
山田さんは、初めから決めに行くらしい。
腹の辺りで横に持って走っていた。
あの持ち方は機動力を上げるための、非戦闘時の構えだ。
そして、相手との距離が近づくとサイスを振り上げ……。
「ひっ!?」
小さな悲鳴と共に山田さんは吹き飛ばされた。
「あ……いや、すまん。えと、Bね」
そう謝りながら評価する模擬戦相手。一体何があったのだろうか。
「一発けいおー。これぞ山田の真骨頂。あーいたい」
山田さんは、大の字に寝そべり息をついた。
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