宿敵 2
場所は変わって俺たちは今、三階の校舎に来ていた。
「ぐぁぎゃァイおおォッ!」
荒ぶるゾンビ。それは無慈悲にも俺たちのレベリングの糧でしかない。
――グシャッ!
「ふぃ〜、っとそろそろ休憩するか」
言って廊下の壁に寄りかかった。
「おい、セージ……無理しすぎるなよ? スキルなんてそう簡単に手に入るものじゃあるまいし」
「それじゃあお前は何なんだよ……レベル20の時点で習得してるんだろ?」
「うっ……」
純粋に顔を顰める。それについて触れてほしくないように見え、触れてほしそうな顔。
「まあ何があったのかは聞かないが……」
「助かる……」
曇らせ、そっと隣に腰掛ける凛子。そしてその隣には能天気な後輩が腰を下ろした。
「ふぅ〜……なかなかハードなレベル上げ……先輩マジ鬼畜です」
どさっと胡座をかく天霧。彼女の額からは少量の汗が滲み出ていた。
「鬼畜、か……」
そう言われても仕方がない。己のステータスを遙かに上回る存在がいてジッとしていられるわけがない。しかもそれが凛子と知ってしまったからには――
ゆえに、かれこれ数時間。俺と天霧は学校内のゾンビを殺しまわっていた。その間のレベルは右肩上がり。気づけば二桁の域に到達している。
「つ、疲れたぁ~。せんぱい、わたしもうギブ……」
ぐでっと横になるやんちゃな後輩。手に持つ包丁は切っ先からアゴにかけて、ベットリとゾンビの血液が付着していた。
「……お前ら二人は、そうだな。お茶でいいか?」
ここはひとつ、先輩らしいところを見せねば。ハードなレベリングに付き合ってくれた天霧には感謝のしるしとして。凛子には冷めかけた闘志を再び燃え上がらせるための起爆剤として。お礼の気持ちを表そうと思う。
「へ? あ、じゃあお言葉に甘えて……いただきます」
不意に見せる俺の優しさに肝を抜かれたのか、アホ面を堂々と晒していた。
「それ、ちゃんと拭いとけよ……?」
指差すのは天霧の包丁。使い込み過ぎて血が黒く変色している。
「え~、めんどくさ」
「そう言うな、つくね。武器の手入れをするのは意外と楽しいものだぞ? っと、ああ、セージ。すまないな。ありがとう、頂くよ」
「おーう。行ってくるわ」
それは凛子も同じ。俺を付きまとう癖が無ければ基本的に良い奴。一緒にいて楽しいし何よりも美人で気が利く。不本意だが完璧の美少女と言っても過言ではない。
その場から立ち上がり、一つ下の階にあった自販機でお茶を三つほど買ってくる。そのとき感じたのは流石は日本人だなという感想。緊急時の対策もきちんとできていると無駄に感心してしまった。
「ん、俺もお茶でいいか……」
――ガコンッ。
自販機の取っ手口から吐き出される清涼飲料水。手に持った瞬間、ひんやりとした感覚が全身に伝わってくる。
「ふぃ~……っと。おーい、買って来たぞ~」
少し大きな声で二人に声をかけた。
その瞬間――
「なッ!?」
辺りの雰囲気が一変する。
湧き出すのは大量のゾンビ。そして、ひしひしと伝わってくるは明確な殺意。――気がつけば俺はゾンビたちに囲まれていた。
「チッ、くそっ!」
その様を一言で表すなら、嫌悪感。どこからともなく湧き出すゾンビたち。そしてよく見るとその体には透明な糸が何重にも巻かれており――
「あれは……スキル?」
否応もない。それは突如として現れた第三者による攻撃。
「あれ? 聖じゃないか。ああ、君も不幸な事に生き残ってしまったんだね……可哀想に」
耳の奥底にへばりつくかのような悪魔の声が響き渡る。
「な……どうして……」
対するのは親友。そして俺が唯一心を開いた人間。
そう、こいつの名前は――
「白哉。お前……生きてたのか」
興梠白哉。
その存在を簡潔に表すなら――最強最悪の狂人。
「人を勝手に殺すのは良くないと思うよ? まあ、僕は――人を殺すけど」
刹那。俺は全力でゾンビの海を断ち切っていた。
「――――」
まだだ、落ち着け。冷静になれ、過去のことなんて関係ない。アイツが強い? 勝てない? 馬鹿を言え。俺はあいつに負けてしまうほど、落ちぶれたつもりはない!
「くくく……あははははッ!」
嗤う嗤う。蔑むように。
「ははっ、随分と愉しそうだね。どうしたんだい? 聖。まさか……この僕と戦う気なのかな?」
ご名答。流石は秀才、頭は良く回る。
「そっか……だとしたら、いくら君だろうと容赦はしないよ――」
そして俺たちは予期せぬ戦いに巻き込まれる。これは神の悪戯なのか、それとも逃れることのできない運命なのか。……それを知るころには、俺はもう既に死んでいるだろう。
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