死闘続く
能力を発動したクロトラだが、外見的特徴に変化はない。
クロトラを踏み潰すつもりなのだろうか、魔獣ベヒモスは片足を上げる。
ガアアアァァァアアァァァ!!
奇声を上げ、上げた片足をクロトラめがけて振り下ろす。
「そんなことしてええんか、『片足が潰されても』!?」
ベヒモスの足裏があと数センチと迫ったところで、クロトラは己の拳をめり込ませる。
グシャッッッッ!!
まるで何が潰れたような、壊れたような、とても嫌な音をワカバは耳にした。
ワカバはベヒモスがクロトラを踏み潰そうとした寸前目を背けていた。
どんなスキルを使おうと、数千トンはあろう巨体から踏み潰されてしまえばそれに抗うすべがないと思ったからだ。
クロトラが死んだと、ベヒモスに踏み潰され死んだのだと、ワカバはそう確信し涙を流した。
「はは…なんだよ、最後に私を褒めてくれたのに、嬉しかったのにどうして…。死んでしまったら、恩返しもできないじゃないか!!」
ワカバはその場で泣き崩れた。
「恩返しか…ほな今度飯でもおごって貰おかワカちゃん」
「……………え!?」
ワカバは死んだと思っていたクロトラの声が聞こえた。
「クロトラ、生きてるの!?」
ワカバが目を向けると、そこには涼しい顔で立つクロトラの姿と、膝上までグシャグシャに折れ曲がり悲痛に顔を歪ませる魔獣ベヒモスの姿があった。
「あんだけ格好つけて能力発動したのに、あっさり踏み潰されて死んだなんて咬ませ犬もいいところやろ。なんのための能力やねん」
ボランスを崩し、魔獣は横転した。
「ワシの能力は『破壊』、対象の物体が鉄だろうが金剛石だろうが触れたものを破壊する必殺の能力。まあ、生け捕りには向かんけどな」
「さすが世界に三人しかいない超級勇者、実力はだてじゃないな」
「さて、ここにもう用はない。他の場所に助力しに行こか」
「魔獣にとどめは刺さないのか。片足はなくしたが奴はまだ生きているぞ」
「こいつはもう何もできん、立つのも一苦労やろ。ワシは生き物を痛ぶる趣味はないからしそれに…」
「…それに、なんだ?」
クロトラは西の方角を見ると、顔をしかめて言った。
「モミジくんが相手してるので一体、リリムちゃんで一体。それともう一体、西から近づく悪魔が一体」
「西からもう一体!? バカな、気配など感じないぞ」
「まだ距離がかなりあるから気配を感じられんのも仕方ない、ワシが敏感すぎるだけやからな。でも、かなり凶悪な魔力を感じる。しかも魔力の大きさは他の二体よりも上や」
「わかった。ひとまず街に戻ってこのことを知らせて避難を急いでもらおう」
〜〜〜〜〜〜〜〜
風の悪魔ウィネ、コイツは本当に二日前と同じ悪魔なのか?
打撃、斬撃、風の能力、全て二日前のそれとは次元が違う、まるで別の生き物みたいだ。
「どうしたモミジ、防戦一方じゃあないか。この前はもっと強かったと思ったんだが」
「お前こそ、この2日でまるでべつじんじゃあねえか。ドーピングでもしたのか、それともそれもお前の能力なのか?」
「そんなことはどうでもいいだろう。それを知ったところで君が強くなるわけでも、私が弱くなるわけでもないんだからさ。ただ…クスッ」
ただ…、そういいかけようとしてウィネは笑った。
「今は私の方が、お前より強いことは事実かな」
「…ッハ、図に乗りやがって」
俺は体から力を抜き、だらんと両手を垂らしたままウィネに近づく。
「お前…なんのつもりだ、隙だらけだぞ」
「隙だらけなら攻撃すりゃいい。ほらどうした、無防備な相手に攻撃の一つもできねえのかよ」
俺はあえてウィネを挑発する、こうすればこいつは大技を繰り出すと予想したからだ。
大技を出せば数秒だが奴の反応が遅れる、そこで一気に勝負を決める。
一歩一歩間合いを詰め、ウィネとの距離はすでに5メートルほどのところまできた。
「どおした…こいよ!!」
「ふん、そんなに死にたいならお望み通り殺してやる!!」
読み通り、この単細胞が…
《風切り:鎌鼬》
ウィネは風を操り、高圧高速で圧縮した空気で刃物を形成し、それを俺に向けて飛ばした。
これは二日前にも一度食らった技だが、あの時よりも威力、スピードともに上だ。
あの時のように殴り潰すのは簡単ではないだろう。
一撃に俺の全力を込める。
完璧なタイミングで上から叩き潰す!!
俺は目を閉じ耳を澄ませる。
ビュンビュンと鋭い風の音が近ずいてくる。
わずかコンマ数秒の間に鎌鼬が迫ってくる
3…2…1今だ!!
「ハッしゃらくせえぜオラァ!!」
渾身の力で鎌鼬を叩き潰す。
手に当たった硬い感触を確かめながら、確かに鎌鼬を捉えたと確信しつつ地面に叩きつけた。
鎌鼬は地面を割り、衝撃で小規模のクレーターを作る。
「俺の方が一枚上手だったみたいだなウィネ!!」
俺は勝利を確信し、ウィネに殴りかかろうとしたその時である。
ザシュッ!!
肉の引き裂かれる音とともに左足ふくらはぎに激痛が走る。
「ふふっ読み通り、二つ目の鎌鼬は警戒していなかったみたいね。鎌鼬を二つ同時に出せないとでも思ったのこの単細胞が」
ウィネの顔は、してやったりと言わんばかりの笑顔である。
足の傷はかなり深く、まずいことに腱が切られていた。
これでは思い通りの動きはできない。
「さあて、この勝負一気に決めさせてもらおうか!!」
まずいな…これは………。




