敗走?
コロナより少し離れた森の中、紅葉と天夜叉の戦いは続いていた。
天夜叉の圧倒的なチカラで殴り飛ばされた紅葉は、第三宇宙速度に達しようかという勢いで飛ばされる。
「ッッぐ!!」
体にはしる激痛をかみ殺し、地面に足をつきたて、体勢を整える。
しかし、天夜叉は一瞬のうちに紅葉の懐に入り一撃をくらわす。
「ッッッかは!!」
口から大量の血を吐き、紅葉は後方へ吹っ飛んだ。
ズドォォォォーーーーン!!
紅葉の体が地面に激突すると同時に、あたり一帯には激しい爆音がひろがる。
薄暗い森の中に濃い土煙が立ち込める。
「どうでしょうか、私が顕現させた天夜叉のチカラは!!」
両手を大きく広げ、高らかに声をあげる。
天夜叉のチカラは言うまでもなく圧倒的だった。
天地を凌駕する紅葉をも軽く凌駕してしまう程に。
紅葉の体はすでに限界を迎えていた。
破壊神が如き天夜叉の一撃を受け続けた紅葉の体はボロボロだ。
(視界がぼやける、全身の骨がきしむ。血も流し過ぎた)
ボロボロになった体に鞭打って、フラフラと立ち上がる。
(さーてどうする? 正直ここまで歯が立たないとは思わなかった。スキルを使うか? いやいや、この体じゃあそれは自殺行為だ)
自問自答を繰り返し、考えを模索する紅葉。
そのうち、ある一つの考えにたどり着いた。
(おそろしく気乗りしないが、仕方ない…よな。これ以上の案がないんだし、それにいろいろと考える時間も欲しい)
負傷した腹部に手を当て、紅葉はイサラと天夜叉に背を向ける。
『何をやっている少年? 戦いのさなか敵に背を向けるなど…バカなのか?』
天夜叉はキョトンとした様子でそう口にする。
「…帰る。正直今の俺じゃああんたには勝てない…それに」
紅葉は何かを言いかけて口を詰まらせる。
「それに…何なのです?」
「お前の目的は最初から『俺を殺す事』ではなく『俺をこの国から追い出す事』だったんじゃないか?」
フッと、イサラは笑った。
「…なぜ、そう思うのかしら?」
「結論から言ってしまえば、お前と天夜叉に俺を『殺す意思が無い』からだ。天夜叉のチカラを持ってすれば、今の俺を殺すのなんて朝飯前だったはずだ。認めたくはないが…俺と天夜叉には、それだけの実力差がある」
再びイサラは笑う。まるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のように。
「…なるほど、まあ概ね正解ですわね。ではどうして私が貴方を追い出そうとしていたかはわかります?」
「そこまでは知らない、俺はべつに超能力者じゃないからな。推理はできてもお前の気持ちまではわからない。人の気持ちというものは、推理でどうこうできるほど単純な物でもないだろう?」
クスッと、小さく笑うイサラは先ほどまでの険しい形相ではなくなり、可愛らしい少女の顔になっていた。
「フフッおもしろい事を言いますね。…気に入りましたわ紅葉さん」
(コイツ…こんな可愛い顔もできるんだな)
笑ったイサラの顔に、少しドキッとする紅葉。
「それじゃあ今日はここでおひらきだ。この続きはまたいつかの機会ということで」
紅葉は、町の方へと体を向け両足に力を溜める。
「じゃあなイサラ、天夜叉。結構楽しかったぜ!!」
そう言って、勇者紅葉は町のある西方へと消えていった。




