部屋
『若葉』、それは俺の妹の名前である。
「おどろいた、あんたはなんで私の名前をしってるんだ? 確かに私はワカバだけど…あんたとは初対面だよね」
初対面? じゃあこいつは俺の知る若葉じゃないのか?
ああ…そうか、この世界は現実世界のパラレルワールド的世界、俺と同じ名前と容姿を持った勇者モミジがいたように、俺の妹若葉にもそういった存在がいてもおかしいことでは無いのである。
「ああそうだな初対面だ。じゃあ何でお前は俺の名前を知ってるんだ?」
「東の国でもう君は有名人だよ。下級勇者が素手でA級モンスターを圧倒したとか、世界に三人しかいない超級勇者ハルカに弟子入りしたとか…」
なるほど…じゃあこいつも俺たちと同じく東から来たのか。
「それにしても、最近の勇者制度に私は納得がいかないね」
いきなり何の話をしているんだ、コイツは…。
「だってさっき君と戦ったあの勇者、どう考えてもランク7のレベルじゃあない。いいところランク4くらいだ。今の勇者制度は一定のお金を納めることでその勇者の強さや権力まで決定されてしまう。そうなると王族の無能なお坊ちゃまが上位ランカーになることもあるわけだ…さっきのバカみたいにね」
確かに、もしさっきのようなヤツがいれば、戦場でそれは命取りである。
自分のランクにうぬぼれて、過信しているようでは、死はまぬがれないのだ。
たとえば、何かしらのゲームを買ったとして、
買ったゲームをすぐにデータ改造して、最強装備を揃える奴に会ったことはないだろうか。
そういう奴に限って、普通のデータでゲームをやると、全然クリアできないのと同じ理屈である。
「そういう奴らとあんたは、まさに逆なんだよ。地位もお金もないけど圧倒的な実力がある。でも今の制度はそんなあんたには不利と言わざるをえないかな…」
勇者ワカバは自分の時計に目を向ける。
「おっと、じゃあ私はこれで…See you again」
…何だったんだ? あいつ
「先輩、何ボーッとしてるんすか? ほらほら今日はもう休んで明日に備えましょうぜ」
僕を呼びに来たのはリリムとチルだった。
チルが背中の羽をゆっくり羽ばたかせ、ふよふよとこちらに飛んでくる。そして自分の指定席であるところの俺のワイシャツの胸ポケットに入る。
「少し寝すぎたので頭がボーッとするのです、お部屋に着いたらお風呂に入ってゆっくりしたいのです」
俺もここのところまともに睡眠をとっていない、あと風呂にも入っていない。
「はー、なんか急に疲れたな…俺も風呂に入って寝るか」
「師匠は先に部屋に行きました。私たちも早く部屋に行きましょうよ」
ニヤニヤと笑うリリムの姿が、俺には見えた。…なぜ?
俺たち勇者は王のはからいで四人一組で部屋を用意されている。
ということで、俺は必然的にハルカ、リリム、俺の組み合わせとなった。
四人一組といったが、そこには妖精であるチルも入っているだろうか…?
部屋に鍵はついていなかった。
リリムの言っていた通りハルカが先に来て開けたのだろう。
部屋に入ってハルカの姿をまず確認、そしてもう一人の姿も確認した。
それは、先ほど廊下でバッタリ出会った妹というか、妹のそっくりさんというか、今のところ頭の中で整理しきれていない存在の勇者ワカバであった。
「ワカバ、なんでここにいるんだよ」
「なんでって、私の部屋がここだからだからに決まってるじゃないか」
今思い出せば、部屋は『勇者』のために開放されているのだ、つまりチルは勇者四人一組には該当しないのである。
「まあなんにせよ、これからの二日間私たちはルームメイトなんだ。仲良くしようぜモミジ!」
このどこまでも明るい性格、性格までも俺の妹にそっくりだな。
入浴を済ませ、俺たちはそれぞれ自分のベットを確保しその上に座っていた。
ちなみに俺は今バスローブ姿である。
ハルカの話によると、俺が風呂に入っている間に、召使が洗い物の回収に来たのだとか、その時リリムが俺の服を『間違えて』渡してしまったそうだ。
だがおれに言わせれば、リリムのその行為はイタズラでしかない。
リリムは俺が替えの服を持っていないことくらい知っていたはずである。
もう一つ、それを知っていたのはハルカも同様である、なぜリリムのイタズラを止めなかったのだろうか?
それとも、最初からリリムとハルカは共犯者で、俺にこんなはずかしめを受けさせるのが目的だったのだろうか?
まったく、もうすぐ戦争だというのに気の抜けた師匠と後輩である。
「それにしても先輩、こんなハーレム状態めったにないッスよ!!」
「…は?」
「バスローブ姿の先輩と4人の美少女が一つ屋根の下なんスよ。これはもうグへへな展開を想像せずにはいられないっスよ!!」
リリムがこちらに歩みより、耳元でそうつぶやく。
「今まで気づかなかったけど、お前って…変態だったのか?」
「変態じゃないッス! 先輩は女の子に『全く興味がない』というんスか!?」
やわらかいリリムの体が俺の肌に吸い付く感触があった。 …それに少しいい香りもする。
それはまあ俺も男である、興味がないわけではない。
俺は部屋にいる女性陣を見る。
今までは思わなかった、全員顔も整っていてすごくカワイイ。
かわいらしい容姿のハルカ、青いきれいな瞳のリリム、スレンダーなハルカとプロポーションのいいリリム。
小さくて美しい妖精のチル、シスコンではないので何とも言えないがワカバも十分カワイイほうだろう。
「…確かにカワイイな、お前らみんな」
俺は隣に座るリリムの方を見てそう言う。
それを聞いて、なぜか頬を赤くしたリリムは、俺のから目をそむける。
「声が大きいッスよ先輩」
意識していなかったが、思いのほか大きな声で言っていたようだ。
パジャマ姿のハルカは、まくらを抱えてチラチラとこちらを見ている、リリム同様頬を赤く染めて。
ワカバとチルもあからさまな動揺を見せる。
そんな彼女らを見ていると、こちらまでなんだかドキドキしてくる。
…なんか、すごくカワイイぞこいつら!!
「そんなことより、俺はもう寝るからそこをどいてくれないか?」
「そんなのだめッス先輩!」
リリムはさらに体を寄せてくる。
「ちょッ! リリムちゃんはくっつきすぎだよ!」
なぜかハルカも、俺のベットの上にくる。
それにつられるかのようにワカバとチルも。
リリム「ちょっと離れてください! ここは私と先輩の愛の巣なんです」
ハルカ「紅葉くんと会ってまだ数時間の人間が何を言ってるんだ! 僕と紅葉くんはもう一週間以上も一緒にいるんだよ!」
チル「ちなみに、葉隠くんと一番付き合いが長いのは私なのです~!」
どうでもいいが、なぜ俺は寝せてもらえないのだろうか…
こんな口論、べつに俺のベットでやる必要はないのでは?
この後も口論は続き、俺が眠らせてもらえたのは1時間後だった。




