第十四話 鉄槌作戦
サピエス連合・最高軍司令部。
巨大な作戦室では無数の通信機が鳴り続けていた。
壁一面の地図には赤い駒が並び、その一つ一つが部隊を示している。
「第一戦車軍、出撃準備完了。」
「特殊公軍第一師団、配置完了。」
「航空艦隊、離陸待機。」
将校たちの報告が次々と飛び交う。
その中央に立つヴォルコフは、静かに地図を見つめていた。
自由戦線の本拠地と推定される山岳地帯。
その周囲を赤い駒が包囲していく。
「包囲は十二時間以内に完了します。」
副官が報告する。
ヴォルコフは短く頷いた。
「民間人の避難は。」
「終了しております。」
「よし。」
その時だった。
胸ポケットに入っていた古い懐中時計が、微かに震えた。
ヴォルコフは誰にも気付かれないように蓋を開く。
時計の針は止まっている。
だが文字盤の中央に、小さな青い光が灯った。
《計画進行率 二十八・九パーセント》
ほんの一瞬。
ヴォルコフは目を細める。
そして静かに蓋を閉じた。
「……まだか。」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
副官は不思議そうに顔を上げた。
「何か仰いましたか?」
「いや。」
「作戦を続行する。」
一方。
自由戦線基地。
イヴァンは作戦室へ飛び込んできた通信兵を見る。
「報告します!」
「サピエス軍が大規模な部隊移動を開始!」
「確認できただけで戦車四百両以上!」
部屋が静まり返る。
「……始まったか。」
イヴァンはゆっくり地図へ近付いた。
「予想より早い。」
「こちらの情報が漏れている。」
隊長が尋ねる。
「裏切り者ですか?」
イヴァンは首を横に振る。
「違う。」
「もっと嫌な予感がする。」
その頃。
山田は基地の片隅で一人、空を見上げていた。
異世界へ来てから数日。
それでも未だに現実感がない。
帰りたい。
家族に会いたい。
学校へ戻りたい。
そんなことばかり考えてしまう。
「眠れない?」
リゼだった。
山田は苦笑する。
「まあね。」
「普通じゃないことが多すぎて。」
リゼは山田の隣へ座る。
「私も。」
「最初はそうだった。」
「でも、人は慣れちゃうんだよ。」
その時だった。
基地全体にサイレンが鳴り響く。
「総員戦闘配置!」
「敵部隊接近!」
「繰り返す!敵部隊接近!」
基地の空気が一瞬で変わる。
兵士たちが武器を取り、通路を駆け抜ける。
イヴァンの声が基地中へ響いた。
「第一防衛線へ!」
「市民を地下避難区画へ誘導しろ!」
山田は立ち尽くす。
遠くから地鳴りが聞こえてきた。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
山の向こうから、数百両の化学戦車が迫ってきていた。
鉄槌作戦が、ついに始まった。




