第十二話 地下基地
重苦しい沈黙が部屋を包んでいた。
イヴァンは机の上の資料を静かに閉じる。
「……君は疲れている。」
「今日は休んでくれ。」
山田は思わず聞き返した。
「それだけですか?」
「尋問とか……そういうのは?」
イヴァンは苦笑した。
「尋問して何になる。」
「君は自分でも何も知らない。」
「それくらい見れば分かる。」
その言葉に山田は少しだけ肩の力が抜けた。
しかし次の一言で、その空気は消える。
「だが。」
「君が現れた日から、この世界は変わり始めた。」
「その責任だけは理解してほしい。」
イヴァンは立ち上がり、壁の世界地図を指差した。
「ここがサピエス連合。」
赤く塗られた巨大な領土。
「ここがタメリカ合人国。」
青い大陸。
その間には無数の小国が並んでいる。
「そして――。」
イヴァンは地図の右端、海しか描かれていない場所を見つめる。
ほんの一瞬だけ。
何か言いかけてやめた。
「……いや、今はいい。」
山田はその視線が気になったが、何も聞かなかった。
部屋を出ると、リゼが待っていた。
「案内するね。」
「ありがとう……。」
二人は地下基地を歩き始める。
先ほどは気付かなかったが、この基地は驚くほど広い。
武器工房。
診療所。
学校のような教室。
小さな畑まである。
子どもたちは木で作った剣を振り回して遊んでいた。
「ここ……地下なんだよね?」
リゼは笑う。
「そうだよ。」
「この基地は革命のあとも使えるように作られてるから。」
「革命……。」
その言葉を聞き、山田は複雑な気持ちになった。
ここにいる人たちは笑っている。
普通に暮らしている。
でも、その目的は国家を倒すこと。
自分にはまだ、どちらが正しいのか分からなかった。
その頃。
サピエス連合・国防省。
巨大な会議室では軍首脳が集結していた。
壁一面の地図。
赤いランプが点滅している。
「自由戦線の潜伏区域を特定。」
「特殊公軍第一師団、出撃準備完了。」
「航空戦車旅団も待機しています。」
一人の将軍が低い声で言う。
「たかが反乱軍一つに大げさではないか。」
ヴォルコフは静かに首を振った。
「違う。」
「敵は反乱軍ではない。」
会議室が静まり返る。
ヴォルコフは一枚の古い写真を机に置いた。
そこには数百年前に描かれた壁画が写っている。
中央には見慣れない魔法陣。
そして、その中心には――
一人の黒髪の少年。
今の山田によく似た姿だった。
「これは……。」
誰かが息を呑む。
「数万年以上前の遺跡から発見された壁画です。」
「調査隊は全員死亡。」
「しかし壁画だけは回収された。」
ヴォルコフは静かに言った。
「偶然ではない。」
「我々は、ずっとこの日を待っていた。」




