極道令嬢の凱旋、あるいは真実の愛
それから数年。辺境と呼ばれたその地は、今や王国で最も活気にあふれる「独立特区」としてその名を轟かせていた___
辺境領の広大な丘の上に、白亜の美しい校舎と、それを取り囲むように豊かな田畑が広がっている。 かつての荒れ地は影も形もなく、そこには「姉御!」と元気に挨拶を交わす領民たちの笑顔があった。
今日は、領地始まって以来の大博打……いや、大行事。 リリアーヌとカイルの結婚式だ。
「……ったく。ドレスなんて柄じゃないんだけどね」
屋敷の鏡の前で、リリアーヌは純白のウェディングドレスに身を包み、所在なさげに髪を弄っていた。 だが、その背中には変わらず、あの夜の闇のような龍の刺繍が施された特注のコートが羽織られている。ドレスにコートという型破りな格好だが、それが今の彼女の「正装」だった。
「リリアーヌ。……準備はいいか」
扉を開けて入ってきたのは、見違えるほど凛々しい正装姿のカイルだ。 彼は一瞬、リリアーヌのあまりの美しさに息を呑み、それから愛おしそうに目を細めた。
「ああ、カイル。あんたも似合ってるじゃないか。……今日から本当に、私の『身内(夫)』になるんだよ。覚悟はできてるかい?」
「今更なことを。俺の命も、魂も、とっくに君に預けてある。……君がこのシマの姐さんなら、俺は生涯をかけて君を支える若頭になるだけだ」
カイルは膝を突き、リリアーヌの手を取って甲に深く口づけをした。その瞳には、揺るぎない愛と忠誠が宿っている。
「ははっ、頼もしいねぇ。……さあ、行こうか。みんな待ってる」
二人がテラスに姿を現した瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「「「姐さん! 旦那! おめでとうございやすッ!!!」」」
数千人の領民、元野盗、そして今や立派な農夫となった元兵士たちが、一斉に声を張り上げる。その中には、王都で改心し、今やリリアーヌの商売相手となった元教育官ハンスや、没落して一領民として働き始めた元王子の姿もあったかもしれない。
リリアーヌはカイルの手をしっかりと握り、広場に集まった「ファミリー」たちを見渡した。
「いいかい、みんな! 今日は私の人生で一番最高のシマ開きだ! 過去なんて関係ない、今ここで笑ってる奴が勝者だよ! 飲むよ、食うよ! 宴の始まりだ!」
空に放たれた祝砲。 かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、孤独な死を約束されていた少女は、前世の魂と今世の絆を武器に、誰よりも自由で、誰よりも愛される「女王」となった。
カイルがリリアーヌの腰を抱き寄せ、耳元で囁く。 「愛している、リリアーヌ。君のシマに、一生置いてくれ」
「……ふん。逃げ出そうったって、もう遅いよ。……私もだよ、カイル」
二人のキスを合図に、音楽が鳴り響き、炊き出しの煙が空高く舞い上がる。 それは、異世界で一番情に厚く、一番型破りな「家族」の、永遠に続く日常の幕開けだった。




