【第14話】01 屠殺場
うっすらと覚醒し始めたメグルの耳に、金山と木下が話し込む声が聞こえてくる。
「おかしいじゃないか。予定では昨夜、小野寺から納品されるはずだった子どもだぞ。なんで今夜、お前が納品してくるんだ?」
「さあ……。おれと一緒に誘拐した加藤誠司もまだ未納ってことは、小野寺さん、そろそろやばいと思って逃げたんじゃないですか? それで坂田さん、代わりにこの子をおれの所に寄越したんじゃ……」
「まったく根性なしばかりだな、みんな途中で逃げちまう」
メグルはストレッチャーの上に寝かされていた。
体を起こそうとするも、体がロープで括られていて思うように動かない。
肌身離さず抱えていた肩掛け鞄も見当たらなかった。
「気が付いたかい?」
スマートフォンに視線を落としていた金山が、メグルに目を向けた。
「ぼくの牧場、つまり『つながり』で育てられたきみは、その人生の最終目的地である『屠殺場』にいるんだ。わかる? きみはこれからメスとノコギリで体をバラバラに解体されるんだよ」
落ち着いた様子で辺りを見回すメグルを見て、木下が奇妙な笑い声をあげた。
「まだ事態が飲み込めないんじゃないですか。高校生だと目を覚ましたとたんにぶるぶる震えて、お漏らしするほど怖がりますけど……」
金山も歪んだ笑みを浮かべている。
「追加の麻酔薬は必要なさそうだな。『知らぬが仏』とは正にこの事だ。おまえが納品した昨日の女の子も、まったく怖がってなかったもんな?」
その言葉を聞いて、メグルが口を開いた。
「もしかして紬ちゃんのこと? ここにいるの?」
「……あとで会わせてあげるよ」
金山はぶっきらぼうにこたえると、木下に笑顔を向けた。
「しかしお前、雨宮香澄を駄目にしてからツイてるな。今月二人も納品できたじゃないか!」
「あれは金山さんのくれた麻酔薬が薄かったせいですよ。移送するまえに目を覚ましちゃって、すっかり観念してたからトイレにも行かせてやったんですけど、洗面所にあったカミソリで手首を切っちゃって……」
「やっぱりエトレンよりセボフルランの方が良かったか。経費ケチったらいい仕事はできないな。……それで雨宮香澄の死体はどうしたんだ? ……お前また、手を出したんじゃないだろうな?」
木下がおどおどと目を泳がせながらこたえた。
「ああはい、でもちゃんと処理しましたから。大変でしたけど……」
「商品に手を出すなって言っただろ! まぁ後始末さえしっかりしとけば文句はない。小野寺が逃げたいま、お前にはさらに頑張ってもらわないといけないからな。これからも頼むぞ!」
木下の肩をばしっと叩くと、金山は再びスマートフォンの画面に視線を落とした。
「よし、今夜〇時に解体手術を始める。お前はもう帰っていいぞ。金は振り込んでおく」
木下を送り出した金山が、メグルに目を向ける。
「手術の準備が整うまで、きみは特別個室で待機だ」
メグルを乗せたストレッチャーを押して部屋を出る。
月明かりが差し込む長い廊下に、キルキルとタイヤの転がる音が響いている。
「いい夜だな……今夜は満月だ」
窓の外に浮かぶ満月を眺めながら、金山がつぶやく。




