【第13話】03
あがった息を整えて、メグルは夕焼けを背に黒く浮かび上がる六階建ての賃貸マンションを見上げた。
いくつかの部屋の窓から明かりが漏れている。
雨宮香澄がくれた地図に書かれた三階の角部屋も、カーテンの隙間から薄い明かりが漏れていた。
「紬ちゃんが部屋にいなかったら、お前さん、そのまま誘拐されるつもりだな?」
モグラが途中のコンビニで買った弁当を、『つながり』で使っていたフードパックに詰め替えながら訊ねた。
三階角部屋の窓明りから目を離さないまま、メグルが小さく頷く。
「たぶん小野寺と同じように夜中に運び出すはずだ。どこかに潜んで、動きがあったら追跡してくれ。もしも見失ったら、試練星一つ、成就星六つの擬星玉を追跡するんだ。レアな組み合わせだから、間違いなくぼくに繋がる」
肩掛け鞄から取り出した『星見鏡』をかけて、モグラに振り返りながら自分の頭上を指さした。
「あぶねえ計画だなぁ……。お前さんはそのあいだ麻酔で気ぃ失ってるんだぜ? 下手すりゃそのまま解体だ」
「だからお前に頼むんだ。ぼくの命はモグラ、お前に懸かっている」
そう言い残すと、心配するモグラを気に留めることもなく、メグルはマンションへ走った。
「……ったく、後先考えずに突っ走りやがって。相変わらず無謀なやつ」
モグラは肩をすくめて独りごちると、踵を返して駅に向かう。
追い出された探偵事務所に忍び込み、デスクトップパソコンの擬星玉検索プログラムをスマートフォン用に組み直して、持ち出すつもりだった。
*
階段を三階まで駆け上がり、突き当たりのドアに向かって廊下を走る。
息を整えインターフォンを押すと、スピーカーからか細い声が聞こえてきた。
「どなたですか……」
「子ども食堂『つながり』です。お弁当を持ってきました」
「ああ……」
薄くドアを開けて顔を出したのは、いかにも大人しそうな眼鏡をかけた太めの青年だった。メグルと目を合わすことなく、終始伏し目がちな視線を床に落としている。
「だけどおれ、今日は頼んでないよ……。どこかと間違ってるんじゃない?」
「坂田さんから、木下さんに追加で持ってきなさいって頼まれたんです」
「追加……? ああ、そうゆうこと……。ちょっと待ってね」
男はいったんドアを閉めると、しばらくしてまたドアを開けた。
一瞬だけ顔をあげて、メグルのつま先から頭の上まで視線を走らせる。
「きみ、まだ小学生だろ? また小学生に手を出すのかよ。世も末だよなぁ……」
「世も末って、どうゆう意味ですか?」
「こうゆうことだよ」
男はドアの隙間からすばやく手を出して、メグルにスタンガンを押し当てた。
もんどり打って倒れたメグルを部屋に引っ張り込んで、慌てたふりをするメグルの口に麻酔液を含ませたタオルを押し当てる。
「まあいいか。今月ちょっと課金しすぎたし、将来のために貯金も……」
木下の言葉を最後まで聞くことなく、メグルの意識は深い闇に沈んでいった。




