表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻と土竜(メグルとモグラ) 芝蘭結契篇  作者: ひろみ透夏
第12話 坂田佐和子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/61

【第12話】02(挿絵)

 

「なんてくだらないの……本当にあなたは何もわかってないっ……!!」



 目に涙を浮かべながら、坂田佐和子が訴えた。


「わたしはこの『つながり』を誇りに思っている! 不幸にも愛情に飢え、健康的に育っていない不憫な子を、わたしが代わりに育てられるなら、金山になんかいくらだって尻尾を振れる!」



「子どもの命を売りさばいて、それがあなたの正義ですか?」


「正義なんて言うつもりないっ! すべての業はわたしが背負います!

 でも人間だって同じゃないですか? 牛や豚だって小さな頃から愛情をかけて育てた子は、目に入れても痛くないほど可愛いでしょう?! うちの子を出荷するときは、わたしだって心のなかで涙を流すんです!

 人間と家畜、どこに違いがありますか?」


 沸き立つ鍋の音だけが、食堂の中に響いている。

 モグラの小さな呟きが、ふたりを包む沈黙を破った。



「わたしも畜生界からの越界者です」


「…………!」



「人間界でわたしの仲間が切り刻まれ、余興のために飾り付けられ、食べることなくゴミとして捨てられていく姿を、わたしは何度も目にしました……。

 わたしはあなたの気持ちに共感はできない。だが人間のがわに立ち、あなたを断罪する理由もない」


 モグラはシルクハットを目深に被り直し、佐和子の正面になるようつま先を揃えると、壁に立てかけられたステッキを手に取り、佐和子に語りかける。


「坂田佐和子、あなたは本来、その罪深さゆえ『地獄界』へ送られるが、わたくしに与えられた特別な権限において、もとの『畜生界』へ戻します」


 シルクハットのつばからわずかにのぞいた瞳が、銀色に輝いている。



「それがわたしが出来得る、最大の譲歩です」



 坂田佐和子は震える手で包丁を強く握りしめ、声を振り絞って叫んだ。



「情けなんていらない……わたしはっ……!」



 狐のような耳が髪をかき分け立ち上がり、腕は逆立つ金色の毛で覆われ、スカートの中からも毛に覆われた尻尾が垂れる。



「わたしの可愛い子どもたちとの『つながり』を捨てるくらいなら、ここであなたと戦い、死ぬことも厭わないっ!」



 坂田佐和子が包丁を突き出し、モグラに飛びかかってきた。

 即座にモグラがステッキで床をつく。

 その直後、波打つような巨大な揺れが子ども食堂を襲った


 唸るような鳴動と共に、厨房の壁に並んだ三つの蛇口が根元から弾け飛ぶ。

 刺すほどの勢いの水が噴き出し、坂田佐和子の体を壁に叩きつけた。

 その体に、容赦無く凍るような冷たい水が降り注ぐ。



「わたしは……まだ……」


 教会の鐘のような低い音を響かせ、沸騰した大量の湯をたたえた大鍋が床に落ちた。

 爆ぜるが如く立ちのぼる湯気で、厨房が真っ白に包まれる。


「まだ……子どもたちの……」



 白いもやの中で坂田佐和子の影が立ち上がり、よろめきながら床に散らばった野菜や肉を拾い集め、調理台に向かって歩き出す。


 濡れそぼった毛だらけの体でまな板の前に立ち、折れて外側に向いた手首のまま包丁を握った。



「子どもたちのために、温かい料理を…………」



 しだいにその体は小さく縮み、獣の姿になって水浸しの床に倒れた。

 白くけぶるなかをモグラは静かに歩み寄り、その小さな体を抱きしめる。



 やがて水の勢いが弱まり、湯気が収まったとき、坂田佐和子の体はモグラの腕の中から消えていた。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ