最終話 パラダイムシフト
「ヒロさん‥‥」
フブキは出血したところを押さえながらヒロに呼びかけたが、ヒロには聞こえていない。
(このままだとヒロさんが死んでしまう、どうにかしないと)
メイレスはヒロに向かって嘲るような口調で挑発した。
「どうした、かかってこい」
それに対しヒロはただ一言、こういった。
「殺す」
__光輝燦然 こうこうさんぜん
ヒロはメイレスに刀を振り上げた。メイレスは態勢を低くし受け身をとった。メイレスはヒロの攻撃をいなした。
(くそっ)
ヒロはまた攻撃をした。
__ストロボ
メイレスはそれを真っ二つにした。ヒロは舌打ちした。
ジゴロウはフブキに話しかけた。
「大丈夫か、フブキ」
「‥‥はい」
フブキはかろうじて生きていた。しかし早く出血を止めなければすぐに死んでしまうだろう。ジゴロウは早速、応急処置を始めた。
「ジゴロウさん‥‥」
「なんじゃ?」
「ヒロさんを‥‥止めて‥ください‥」
ジゴロウはフブキの切実な願いを聞き、うなずいた。
「分かっておる。お前は自分のことを考えろ」
「‥‥ありがとう‥ございます」
フブキはジゴロウに言った。
ヒロは息をきらした。
(殺さなければ。こいつを、絶対に‼)
ヒロは理性を失っていた。今のヒロはただメイレスを殺すためだけに動いている。
__閃光 せんこう
ヒロは一気にメイレスの元へと近づいた。そして刀をメイレスの腹に突き刺した。
__光天 こうてん
メイレスの腹から炎が出た。メイレスは後ろに退いた。間髪入れずヒロは攻撃をつづけた。
__光輝燦然 こうこうさんぜん
__闇夜 やみよ
そしてメイレスはヒロの頭に刀を当てようとしていた。
__万色花蕾 ばんしょくからい
ジゴロウはメイレスの首をはねようとした。だがあと少しのところでよけられた。
「ヒロ! 復讐にとらわれるな! そんなことをしても意味がない!」
「じいちゃんだって殺しにいったじゃないか‼」
「それを後悔しているのだ‼」
ヒロはジゴロウの顔を見た。深い悲しみに包まれた表情をしている。
(じいちゃんはずっと復讐のためだけに生きてきた。いままで。そのために一体どれほどのものを失ったのだろう)
そのとき、フブキの言葉を思い出した。
『私は復讐なんてばかばかしいと思います。そのためだけにすべてを捨てるなんて』ヒロは我に返った。
メイレスは二人の会話を聞き、ふと息子を思い出した。
(こんなことを未だに続けてライズはよろこぶのだろうか)
ライズにとって自身は尊敬する父親だ。そんな父親が自身の保身のために人を殺そうとしているなんて、なんとも恥ずかしいことだろう。
だが彼にとって五人は一緒に苦楽を共にしたかけがえのない大切な仲間だ。その仲間を今目の前にいる奴らに殺されたのだ!
(仇を、取らなくては。たとえライズになんと言われようと。)
__黒炎 こくえん
メイレスの刀から再度黒い炎が現れた。
「そろそろ終わりにしよう、ヒロ」
「あぁ。決着をつけてやる!」
ヒロが刀を構えたと同時に、ジゴロウは傷が治ったメイレスに再度攻撃をした。
__万色花蕾 ばんしょくからい
__暗転 あんてん
二人の攻撃が互いの力を相殺した。少し前に目を覚ましたサーガがチャンスだと悟りメイレスの後ろから襲いかかった。
__デスエアリー
メイレスはジゴロウを蹴り、サーガの間合いに入り体を斬った。サーガが後ろ向きに倒れて行く。しかしサーガの刀でメイレスの肩が少し切れた。メイレスは毒が回り、体をうまく制御できなくなった。ちょうど前にジゴロウから喰らった攻撃の痕がまた開き、血が出る。メイレスはそれに気を取られた。
(私が、やつの技を封じないと!)
フブキはメイレスにこっそり近づいていた。しかし、動いてしまったせいで傷口がまた開いてしまった。血が滴るなか激しい痛みにひたすら耐え、そして最後の力を振り絞り立ち上がった。
__ホワイトアウト
メイレスの視界が奪われた。そこへヒロが追い討ちをかけた。メイレスの視界が晴れたとき、すでに防御する暇もなく刀が肩に当たっていた。
__光輝燦然 こうこうさんぜん
メイレスは袈裟切りにされた。そしてそれが致命傷となり、メイレスはそのまま倒れた。そしてフブキも倒れた。
ミルとエマリスは下にいた戦士を説得してここまで来た。そしてこの現場を目撃した。
ヒロは倒れたフブキを抱いた。ヒロはこれまでにないほど取り乱している。
「フブキ!」
フブキの体からまだ血が出ている。フブキを含めこの場にいる全員がもう助からないことを悟った。だがそのことを言う者はいなかった。
(最期に‥あのことを‥伝えなきゃ‥‥)
「ヒロ‥さん‥私‥」
「フブキ、しっかりしろ!」
「‥前に…いえなかった‥こと」
「分かっているよ。フブキ、君が好きだ」
ヒロは好きだと言った。なぜなら、もう二度と言える機会がないことを悟っていたからだ。フブキの目からヒロの腕まで涙がつたってきた。ヒロもまたフブキの頬に水滴が落ちていく。フブキの白い手がヒロの右手を握り締めた。ヒロもまた握り返した。フブキは笑った。その笑顔はやさしく暖かかった。ヒロもそれに影響され涙を流しつつ笑い返した。
「わたしも‥すき‥‥また‥ね」
「フブキ‥‥」
ヒロの右手を握り締めているフブキの手から次第に力が抜けていった。フブキは目を閉じた。ヒロはフブキを抱きしめ泣いた。彼女の顔は眠っているように思えるほど穏やかな表情だった。サーガは壁によりかかって斬られた箇所を押さえ、座ったまま肩を震わせた。ジゴロウは涙目のまま二人を見つめた。午後十二時五分四十八秒のことだった。
七三九年十月十二日、ヒロは田舎に引っ越そうとしていたエマリスを軍に誘った。最初こそ渋っていたがやがてそれを受け入れた。
その後、ヒロとジゴロウはライズ・フォン・メイレスの家へと向かった。玄関から出てきたライズはヒロから父親であるアーク・フォン・メイレスの死を直接聞いた。ライズにとってたった一人の肉親だった。話を聞き終えると、ライズはヒロを殴った。だがヒロは何もせず立ち尽くした。ライズは泣き崩れた。ジゴロウは二人を見てミコトの言葉を思い出した。
(結局わしは、そっち側の人間だったな)
ライズには親戚がいなかったのでジゴロウが面倒を見ることになった。
七三九年十月十三日、ヒロは革命の成功を発表した。このニュースはたちまち国中に知れ渡った。
サーガはユリに右腕の傷を治してもらった。ジゴロウの右腕もユリの能力で治せるが、ジゴロウは過去の行い、そしてメイレスの変化を気づけなかったこと、ライズを悲しませたことへの贖罪とけじめだとして治療を行わなかった。ジゴロウはメイレスの葛藤を少なからず知っていたのだ。
革命後のパラダイムでは様々な改革が行われた。今まで国軍が政治や裁判をしていたが、それらを分け、国会が開かれることになった。そして国会、内閣、裁判所の三権分立が行われた。ヒロ、サーガ、ジゴロウは大戦士に昇進した。ウェズ、ファイ、イアン、そしてフブキは名誉大戦士に昇進した。ミルは上級戦士官に昇進した。ヒロ、サーガ、ジゴロウは国軍をまとめる司令官の職についた。
七四〇年一月三日、新しく憲法が施行され、法律もできた。国軍は内閣で管理されることになった。
七四〇年一月七日、ヒロはフブキの墓参りに来ていた。線香を焚き、拝んだ。そして近況を話し、その場をあとにしようとしたとき、ヒロの頭に一粒の雪が落ちた。ヒロは空を見上げた。静かに雪が降り始めていた。
『きれいですね』
ヒロは少し微笑んだあと新たな任務地へと歩を進めた。
これにて「パラダイムシフト」完結しました!
1月29日0時に登場人物の能力まとめ 完全版、0時10分にパラダイムシフトの年表を投稿します。
ここまでご愛読いただきありがとうございました!!




