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第二十一話 雪

 ヒロ、フブキは森から出てきたジゴロウと鉢合わせた。

「じいちゃん、なんでそんな血だらけなんだ?」

「ヒロ、フブキ、そっちこそ」

三人はお互いに情報を共有した。そこへミコトとユリが現れた。

「お兄ちゃん、ファイが‥‥って、大丈夫?」

「そう見えるか? ユリ」

「ううん」

「治療を頼む」

「わかった」

ユリはヒロ、フブキ、ジゴロウの傷をすべて治した。

「ありがとうユリ。それでファイがどうしたって?」

「そうだ! ファイが今たいせんし? と戦っているの!」

「早く助けてあげて!」

三人は顔を見合わせた。

(一人では大変だ。早くいかなくては!)

三人はファイのところへ急いだ。時を同じくして、サーガとイアンもファイのもとへ急いでいた。

(さっきの轟音は一体‥‥)

イアンはなぜか嫌な予感がしていた。この感覚はさっき幻覚を見せられていた時、仲間が建物に入って行ったのを見たときと同じ感覚だった。

五人は同じところで再会した。だが誰一人として言葉を発さなかった。なぜなら、五人の見つめる先には目を閉じてうつぶせに倒れている仲間の姿があったからだ。

__リムーブ

ユリが後ろから近づき、イアンとサーガを治療した。そして五人が見ている方向を見て叫んだが、その叫び声は音にならなかった。ヒロはユリの姿を見つけると彼女に聞いた。

「ユリ、死者をよみがえらせることはできるか」

ユリは首を横に振った。

「そうか」

こらえていたユリの感情と恐怖が限界を超え、泣き声が聞こえ始めた。サーガはただ彼を見つめている。イアンは一見無表情のように見えるが握っている刀がぷるぷると震えている。フブキは口元を手で覆い、後ろを向いてしゃがんだ。肩が小刻みに震えている。ジゴロウはユーラのもとへ足を運んでいた。すでに絶命しているユーラ、そしてファイを見た。

(‥また仲間が死んだ)

ヒロはファイを呆然と見つめていた。ヒロの表情は固まったままだった。しばらくしてヒロはどこかへ歩いて行った。朝日がいつもの日常と変わらず輝いていた。だがこの場所は日光に照らされているにも関わらず夜と同じくらい暗かった。


 午前七時頃、ヒロはがれきの上に座り、一切動かずただ森を眺めていた。そこへフブキが歩いてきた。さっきまで泣いていたのか目頭が赤くなっている。フブキはヒロの横にちょこんと座った。二人は同じ場所を眺めていた。

ヒロがうつむきながら独り言のように話し始めた。あいかわらず二人は動かない。

「俺が子供のころ、両親を目の前で殺された。だから俺は軍に入った。もうこれ以上誰かが悲しまなくていいようにさ」

「‥‥違う。俺は‥失うことが怖いんだ。もうファイに会えない‥‥そう思ってしまうことが怖いんだ」

見ていた地面が次第にかすんでいった。大粒の涙が地面に落ちていく。ヒロの嗚咽が止まったころ、フブキはヒロの手を握った。

__雪 ゆき

ヒロの頭に一粒の雪が落ちた。ヒロは空を見上げた。静かに雪が降り始めていた。

「きれいですね。実はこれ、私の能力のひとつなんです」

ヒロはフブキを見た。フブキは微笑んでいた。

「別れは避けられません。でもそれまでの記憶は消えません。今は悲しくても、辛くてもいつか、いつかいい思い出になります。そのときを‥待ちましょう」

ヒロがフブキの手を見ると、その手が少し震えていた。そのときフブキはヒロを抱きしめた。さっきしてくれた時とおなじように。二人の顔がだんだん赤くなっていく。ヒロもフブキをだきしめた。フブキがヒロの耳にささやく。

「‥ヒロさん、私はあなたのことが‥‥」

一瞬の沈黙の末、フブキはヒロをしずかに突き放した。

「いえ、なんでもありません。ミコトさんが朝ごはんを用意してくれるそうです。食べる気になったら来てくださいね」

そういって少しほほ笑んだフブキは立ち上がって向こうへ行ってしまった。ちょうどそのとき雪が止んだ。ヒロはまたうつむいた。ヒロの気持ちが少し和らいだ。

 歩いてきたフブキにイアンは話しかけた。

「できたか?」

「いいえ、できませんでした」

「それでいいのか?」

イアンは心配しているようだ。

「い、今のヒロさんは憔悴しているので私だけ自分勝手なことは言えません」

「‥そうか」

イアンは否定こそしなかったが少し残念そうだった。

「それに、私だっていつ死ぬかわからないですから」

「‥だからこそ、言っておいた方がいい」

「それも、そうですね」

目もとにかかった髪を手でどけながらフブキがうつむいているのを見てイアンは歩いていった。

 ジゴロウもまたヒロのもとへ訪れていた。ヒロの横に腰を下ろす。

「ヒロ、今からお前にあることを話す」

「あることって」

「わしの過去じゃ」

しばらくしてジゴロウは話し終えた。ヒロはジゴロウを見て言った。

「……大変だったね」

「今、お前は同じ道を行こうとしている‥‥わしの過ちを繰り返すなよ」

ヒロは口を紡ぎまたうつむいた。ジゴロウは立ち上がりすたすたと歩いていった。


 イアンはサーガが座っているところで、壁に寄りかかっている。サーガはミコトにもらったパンをかじりながらイアンに言った。

「今のうちにしっかり休んでおけよ。今日だっていつ敵が来るかわからない」

そしてパンをすべて食べたあと、サーガはうつむきながら低い声でイアンに再度話しかけた。

「‥イアン。お前も大戦士と戦うのか、一人で」

「なぜわかる?」

「分かるさ。俺と同じ目をしている」

「‥そうか。死ぬなよ、サーガ」

「‥死んでやるよ」

イアンは空を眺めた。残酷な現状とは打って変わって空は雲一つない晴天で、太陽は明るく輝いていた。


 そのころ、メイレスは家に帰っていた。中に入ると玄関に座り込んだ。さっきジゴロウにくらった傷が治療してもらったとはいえ痛むのだ。そのとき後ろから中学生ほどの男子が階段を下りてきた。

「おかえりなさい、父さん」

「ただいま、ライズ」

メイレスは振り向くと笑いながら返事をした。ライズはメイレスに巻いてある包帯を見るや否や取り乱した。

「父さんどうしたの! その怪我!」

「あぁ、これは殺人犯との戦いでちょっとな」

「‥痛む?」

「平気だ。それよりこんなに早起きしてまた勉強か?」

「そうだよ」

ライズは自身の気持ちとは裏腹に笑った。メイレスは短いため息を吐いた後立ち上がりライズの頭に手をのせた。

「勉強することも大事だが、睡眠はしっかりとれよ」

「分かっているよ」

それからメイレスは着替えて冷蔵庫へ向い再度ライズに話しかけた。

「少し早いが朝食にしよう。何が食べたい?」


 やがて、ヒロが戻ってきた。そして、ミコトからパンをもらい食べた。パンしか用意できないのは食器がほとんど割れたり行方不明になったりしたからである。

午前八時五十分頃、五人はミコトとユリに別れを告げたあと、再び歩き出した。いくら回復が便利だからと言ってもユリを戦場には連れてはいけなかった。ユリの能力は他者の傷は治せるが、死者とユリ自身の傷は治せないのだ。自分が生きるためにユリを死ぬかもしれない危険に巻き込むことをよしとする人間はここにはいない。二人は五人の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。


 ヒロたちが歩いているとき、二人の人間がヒロたちに出会った。

「ウェズ先輩と、エマリス?」

「よ! みんな、とサーガ、ジゴロウさん」

「誰だ?」

ジゴロウがヒロに聞く。ウェズは困った様子で頭をかいた。

「ヒロ、あとで説明を頼む」

「はい」

「それで、俺の隊は今まで何があった?」

ウェズはヒロたちからサーガたちの村のことや刑務所襲撃のいきさつ、そしてファイの死を聞いた。そして、ウェズは五人が指名手配犯になっていることとエマリスが軍を辞めたことを話した。

「そうか。ファイはもう‥」

ヒロたちの上を雲が通った。数秒間日光がとどかず少し暗くなった。やがて雲が通り過ぎるとまた晴れて明るくなった。

「で、これから国軍指令省に乗り込む気か」

「はい。そして大戦士を倒し、今まで行った悪事を暴きます」

ウェズはため息を吐くと髪をかきながら話し始めた。

「実は俺はイヴァイアが嫌いだ。あの妙に見下している感じが」

「だから俺も陰ながら協力しよう。大戦士の信用を落とすためにエマリスを使う。彼女は故、エカム大戦士に殺されかけたからな、証人だ」

「そして、俺が国軍指令省のセキリュティーを解除してやろう」

ウェズは満面の笑みで言った。エマリスが少し下がって凛としている。ヒロたちは顔を見合わせて笑った。ヒロがウェズに手を差し出した。

「よろしくお願いします。ウェズ先輩」

おう、といいヒロの手を握り返した。エマリスがジゴロウにそっと話しかけた。

「あの時は助けてくださり、本当にありがとうございました。これは私なりの恩返しです」

「そうか。ありがとう」

エマリスはジゴロウにお辞儀した後、足早に去っていった。

「じゃあ三十分後に決行だ。準備しておいてくれ」

「分かりました」

ウェズとエマリスが背中を向けて歩いて行った。ウェズは手を振っている。見えないにもかかわらずヒロはウェズに向け手を振った。そして、エマリスはウェズが手配したラジオの緊急特番にて大戦士に殺された件について話し始めた。ウェズは国軍指令省のコンピューター制御室へ入った。

「さてと、始めるか」

__デバイスハック

ウェズは空中にあるキーボードをたたき、青い画面がウェズの眼鏡に反射している。もちろんほかの人にはそれは見えていない。そしてエンターキーを押した瞬間国軍指令省の門やドアがすべて開いたまま動かなくなった。青い画面とキーボードが消えた後、ウェズは腕時計を見た。

「時間通りだ」

七三九年十月十一日午前九時二十分六秒、ヒロ、フブキ、イアン、サーガ、ジゴロウは国軍指令省の門をくぐった。このとき、残りの大戦士たちはこの国軍指令省に集まっていた。ヒロたちを全員ここで殺すために。

次回は1月10日21時に公開です。

1月9日0時にここまでの登場人物の能力まとめを投稿します。

これからもいろんな能力や技が出ていてややこしいですが寛大なお心でお許しください。

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