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その後の話




――――――あの断罪劇から舞台は変わり、郊外にある魔法具店。






「店長〜っ。また王宮から使者が来てますよ。イレーカー伯爵とか言ってましたけど」



「ごめんなさい、お帰り頂いてアンナ。今レイおじいちゃんの補聴器を修理しているの。補聴器が壊れておばあちゃんと喧嘩しちゃったんですって。早く直してくれって頼まれてるのよ」


アンナはため息をつく。


「はぁ、そんなに王宮からの使者を断っていたら不敬罪でつかまりますよ」


「えぇそうかもね」

笑いながらも手を止めることのない姿は魔法具を愛してやまない信者そのものだ。


ソフィアはこの郊外に店を構えてから3年になる。身分を問わないその店は国内外問わず人気だ。


「あのイレーカーさん、少し怖いんですよねー。何かぶつぶつルワーメのせいだなんて呟いて…」




イレーカーとはあの時、王と一緒にいた宰相だった。


あの断罪劇を主導した4人はあの後すぐ罰せられた。

自分の心の声が筒抜けだった事も知らされず……。


アレクサンダーは幽閉処分とされた。一生、自由を与えられず塔の一室で死ぬまで過ごすのだ。


ルワーメとカバーノは平民となり国外追放。

もちろん子種を断つために去勢された為、男として生きられなくなった2人はどのように生きていくのだろうか……。


エリザベスは規律の厳しい修道院に入れられた。

もちろん子を孕んでいないか検査された後に。


そして、その者達が属していた家は爵位を落とされた。

王も例外なく、今は弟に国を譲り隠居している。

ソフィアの両親は罰則こそ無かったが同じ貴族から鼻つまみ者となっている。


ソフィアは王家や関わった家から慰謝料をもらい、あの日ガーランド男爵が所持していた書類に署名し受理された。

ソフィアは平民となったのだ。

爵位を授けるよう権威ある貴族達は口々に言っていたが、ソフィアにとってそれは苦痛でしかなかった。

何のしがらみも必要としなかった。







ソフィアは試作品が並ぶ棚から筒状の魔法具をアンナに手渡す。


「これを持っていって。帰らないようなら相手に向けてスイッチを入れて。電気が流れるの」


アンナは「また物騒な物を」と苦笑いする。


「お貴族様にそんな事したら、わたしの首が吹っ飛びますよ」


「大丈夫よ。その時は誰もアンナを罰しないように私がこの国を滅ぼしてあげる」


「も〜、店長ってば。ルーカスさんも笑ってないで世間知らずな奥様に身分制度は何たるかを教えておいて下さいよ」


ソフィアが元貴族だった事を知らないアンナは、笑いながら受付カウンターへ戻って行った。手にはしっかりと魔法具を持って。




作業場に残された2人は笑い合う。


「本当にアンナはよく働いてくれるね」


「えぇ、アンナを紹介して下さったレイおじいちゃんには感謝してもしきれないわ」


アンナは数ヶ月前にレイノルドの紹介で雇った従業員だ。

今まで店頭対応を頼んだ従業員はたくさんいたが、ある商品が貴族の間で人気となってしまい、店にまで直接来て購入を希望する貴族の対応に疲弊し雇っても辞めて行ってしまうのだ。

だがアンナは違った。さも最優先されて当然と言う貴族の態度も何なくあしらってくれるのだ。


最近でも混雑している店に傲慢に振る舞う貴族が来店して撃退してしまったのだ。

当然のことながらその貴族は我を優先しろと偉ぶりアンナはソフィアが事前に渡していた魔法具を使った。

その魔法具は貴族だけ店外に出すと言う単純なものではあったが、一緒に締め出された貴族達は、また何週間も待たされるのを危惧し、その貴族を罵り撃退したのだ。

それをニヤニヤと観覧していたアンナに他の客達は拍手したのだ。


怖いと言いながらも、今もイレーカー伯爵に喜喜として対応しているに違いない。






ルーカスはソフィアが目を擦っているのを見て「休憩にしよう」とソフィアをエスコートしテラスに座らせる。


ソフィアが涼しい風が吹く木花に囲まれたテラスを気に入っているのをルーカスは知っていた。



ルーカスはあの断罪劇の時に解雇を言い渡された学院の研究員だ。

あらぬ中傷を受けたルーカスは学院を辞める必要はなかったのだがソフィアの店で働きたいとあっさり辞めてしまったのだ。

将来を有望視されて来たルーカスが辞めるとなった時、その発端を作ったのが王太子だった事を知り魔法関係者は引き留める事も出来なかった。


学院の研究員はなりたくても簡単にはなれない職業だった。研究員になるために幾つもの難関を突破しなければならないのだ。


ソフィアはさほど歳が違わないのに、研究員の職を手にしているルーカスに驚いたものだった。




2人分の茶と菓子を用意したルーカスは席に着く。

ソフィアはすでにマフィンに手をつけ、その甘さに癒やされている。


「そう言えば、新王が新たな政策を立案した話は知っている?あのマージナル国だった場所を人が住める位にまで復旧させるらしいの」


マージナル国はこの国が十数年前に滅した国だった。マージナル国は自国で発展させた産業を融通する代わりにこの国を守ってほしいと取り交わし次々と近隣諸国と平和条約を結んでいった。

しかしこの国だけは違った、その金になる産業を欲して征服しようとしたのだ。しかしその粗雑な行動は失敗に終わり優れていた産業自体が跡形もなく消滅したのだ。

言うまでもなく平和条約を結んだ国々は助けられなかった事に怫然とし、現在この国と交友する国は無い。


「へぇー」


ルーカスは興味無さそうに返事を返す。


「あの魔法科学の国よ。まだマージナル国が残っていたのなら絶対にあの国に亡命したのに…あの国で魔法の研究をしてみたかったわ」


本気で残念がる姿を見てルーカスは思わず笑ってしまう。


「あの国が無くなって残念だけど、君の実力はあの国を超えていると思うよ」


「まぁ!ルーカスったら、マージナル国の文明は消滅してしまったのよ。比べようが無いわ」


「……そうだね」


ソフィアは向かいに座るルーカスの髪を見て昔読んだ文献を思い出す。


「ルーカスの銀髪はマージナル国では多くいたらしいわ。同じ髪色を持つ者として、ありがたくその褒め言葉はいただくわね」


「あぁ、マージナル国の者は君に魔法学を引き継いでもらえて喜ぶだろう」


ルーカスはどこか遠い目をしながら答えた。


「もう、今日のルーカスは冗談ばかりね……」




ソフィアにとってルーカスは魔法学の師であって友人だった。

それが変化したのは卒業してから。


瞬く間に結婚まで至った事にソフィアは銀髪が揺らめくルーカスを見ながら、幾度となく頭の中で湧き上がる疑問について考える。


(あの断罪劇から結婚までルーカスの手の内で転がされていたような…そう感じてならないわ…)


アレクサンダーの婚約者候補にあがったソフィアを心配していたルーカスは「王太子が良からぬ事を企んでいるようだ」と教えてくれた。

あの魔法陣が完成した直後だった。


卒業パーティーで計画を実行しようとした時もルーカスはソフィアに「怖かったら黙っていなさい。近くで見守っているよ」そう言って背中を押してくれたのだった。


そしてガーランド家との絶縁状まで用意してくれた。ソフィアは断罪劇を含む出来すぎた結果を今でも信じられずにいた。



茶を飲むルーカスの姿は優雅で品があった。


それに反してルーカスの見かけは品があるとは言いがたかった。着ているシャツはボタンが掛け違ってる事が多く、癖の強い銀髪は目を隠すほど伸び整えもしない。

しかしソフィアは知っていた。髪に隠れた瞳は宝石のように綺麗な事を。それを知っているのが自分だけだと思うとソフィアは嬉しく思うのだ。



「君はいつまで王家の使いで遊ぶんだい。卒業パーティーで披露した魔法陣を教える気は無いんだろ」


ルーカスは物思いに耽っている可愛らしい女性に目をやる。


「そうねぇ、もう良いかしら…。いえ、もう少し遊ぶわ」


ソフィアの魔法陣で復権を狙うこの国は浅はかだと思った。王が代わって浅はかな考えは収まったのかと思いきや、まだ懇願してくる王家にこの国に嫌気が差してきそうだ。そしてソフィアは王の使いに遠回しな嫌がらせをするのであった。


「君って人は、とんだ悪女だよ」


どことなくルーカスは嬉しそうだ。




ソフィアはあの魔法陣は今後誰にも教える気は無いと決意して神殿で誓約もした。


(あの魔法陣が世に出れば人の理を崩してしまうわ)


破れば死に至る誓約をしたと伝えれば王家も引き下がるだろう。だがもう少し教えるのは後にしようと思うのだった。


「ルーカス、もちろん貴方も口外しないんでしょう?」


ルーカスは手を上げながら何食わぬ顔で言う。


「何の事だい?」


ルーカスは完成が見えた研究を途中で止める癖があった。どんなに素晴らしい研究でも完成をさせないのだ。名誉も金もルーカスにとっては無用なようだ。

あの魔法陣も本来はルーカスの研究だ。僕には完成させる能力が無いと言われソフィアが引き継いだのだ。


ソフィアは「今度、貴方も神殿へ行きましょうね」と伝える。



「ほらソフィー、手が止まっているよ。早く補聴器を直さないとレイノルドさんが帰れないよ。機嫌が悪くなってイレーカー伯爵と騒動を起こしたらアンナが大変だ」


「もう、ルーカスははぐらかすのが上手いんだから」


ソフィアはこの後、本当に店内で喧嘩し始めた2人を引き離すため急いで補聴器を直すのであった。












ある国に少年がいた。

その少年は将来国を背負う王子だった。

しかしある日その平和な国は消滅した。

国の一大産業だった魔法具を狙って大国が攻めてきたのだ。

大国は魔法具を手にしたが設計図までは奪えなかったのだ。

一夜にして大事なもの全てを無くした少年は天に誓った――――もう何も求めないと。


月日が経ち少年はある少女と出会う。

その少女は穢れのない優しい心を持っていた。

その心に触れた少年は天に乞うた――――彼女を守れる力を下さいと。


そして物語は進み出した――――。





頭の中の物語がきちんと文章で表現できているのか不安ですが、最後までお読み頂きありがとうございました。


誤字脱字のご報告くださった皆様ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 ソフィアの書いた魔法陣は凄まじく恐ろしい物ですね。 悪用されたら社会が崩壊するでしょうが、幾つも制約を設けて適切に使えば、冤罪に苦しむ人達を減らせるのではと思うと、道具や手…
[一言] ソフィーはルーカスがその滅亡した国の王子だと気づいているのでしょうか?銀髪がその国では王家だけの色ではなさそうですし。だったらいいな、くらいかな。 暴露大会に使った魔法陣?は、改良すれば犯…
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