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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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298・猫の有休一日目


 ⋯⋯今回のラライナ様のお手紙は、後世、『ネルク王国の王族が猫好きだった証拠』として、きっと重要な史料になるのだろう。大丈夫? 「邪教の芽生えはこの時期に始まっていた」とか、そんな解釈になりません?


 さて、俺はちょっと長めの有給休暇をもらってしまったわけだが、「トマティ商会のお仕事」は休むとしても「ペットとしての業務」はあるし、「トマト様のお世話」は仕事ではなく奉仕活動なので当然なくならない。


 いつもの野良着を着て、久々に朝からゆっくりと庭いじりをさせてもらう。

 リーデルハイン領でやると『休暇って言ったじゃないですか!』とナナセさんから呆れられてしまうので、本日はカルマレック邸。


 トゥリーダ様がいる砂神宮でも作業したいところだが、去年と違って今年は妙に天候に恵まれており、ほぼ国家全域でちゃんと豊作が期待できるらしい。すなわち俺の出番はない。

 現地では「聖女様のご加護」ということで盛り上がっているようだが、逆に不作になった時に「聖女様のせい!」とか言われても困るので、トゥリーダ様ご自身は「たまたまですから!」と必死に抵抗しているそうである。クラウドキャットさんも降雨作業、お疲れ様っしたー!(猫のさりげない暗躍)


 そんなレッドトマト商国の状況はともかく、カルマレック邸の庭先で、猫は今朝も収穫と摘果をちまちま進める。

 ウフフ⋯⋯このトマト様、すっごいツヤッツヤ⋯⋯ぜったいおいしいやつ⋯⋯


 たまらずガブリとかじりついてしまった。

 朝採れ完熟トマト様の濃厚な旨味とさわやかな甘味が喉を潤す。やっぱ畑での直食いは新鮮さが違いますよね! 先日の燻製ミニトマト様も美味だったが、生の完熟トマト様はやはり至高と言って良い。


 これだけ美味しいと野生動物に目をつけられそうなものだが、ラズール学園の校内には猪もいな⋯⋯いや、実は場所によってはいるのだが、とりあえずこのカルマレック邸の近隣には出没しないので、今のところ被害は起きていない。

 来たら来たで猫魔法の猫さん達が対応してくれるだろう。リーデルハイン領ではちょくちょくやられているが、肉として回収させてもらっている。


 朝食前の腹ごなしと今朝の収穫を済ませ、俺は畑から邸内へと戻る。

 まだ早朝なので起きているのは俺だけだ。誰かが買ってきたらしい学内新聞を広げつつ、一足先に朝の紅茶(コピーキャット製)を優雅に味わう。


「ふむふむ⋯⋯ほう。もうじき夏休みか⋯⋯」


 ラズール学園の夏季休暇はちょっと特殊だ。この期間は補講に加えて、「短期集中講義」が設けられる。

 通年で単位を得るタイプの講義はお休みになるのだが、その代わりに学生以外の社会人も有料で受講できる資格系、実学系の集中講義が開催されるのだ。


 たとえば「帳簿の付け方」とか「家庭菜園の始め方」とか「クリーニング基礎知識」、「水彩画入門」みたいな⋯⋯そういうカルチャースクール的な講義を、全一回~六回ぐらいの規模感で短期集中でやってくれる。

 そしてこれらは「一コマ九十分」とかの括りではなく、「午前中ずっと」とか「午後ずっと」とか「丸一日」みたいな、ガチの短期集中である。


 元は「夏季休暇中の空き教室レンタル制度」から始まったらしい。受講料のほとんどがそのまま講師の収入になるため、一部の講師にとっては良い小遣い稼ぎにもなるとか。

 将来的には俺も教壇に立って「初心者歓迎! トマト様栽培実践講座(講師・猫)」をやりたいのだが、諸問題がクリアできそうにないので妄想するだけである。リルフィ様や双子ちゃん達は喜んで受講してくれそう。


 あとは、数日間にわたって校舎外でやるタイプの講義⋯⋯つまり泊りがけの航海実習とかサバイバル訓練とか、そういうのもこの夏季休暇中にやるようだが、クラリス様達はそっち系の授業を選択していないので関係ない。赤点などもとっているはずがないので補習も発生しない。部活動をやっている人はお約束の合宿とかもあるが、これも関係ない。


 そんなわけで、夏休みは気になる短期集中講義をいくつかとりつつ、空いている日々はリーデルハイン領に帰省するつもりだったのだが⋯⋯


 みんなが起床してきた後の朝食の席で、俺はクラリス様からこんなお話を聞いた。


「あのね、ルーク。ポルカ様とマズルカ様が、『もしよかったら、夏休みのうちの一週間ぐらい、みんなでクロム島でバカンスしないか』って、誘ってくれたんだけど⋯⋯」


 あら、すてき!

 クロム島はホルト皇国の南、でっかい内海の中央付近に位置する貿易港である。

 イメージとして「南の島!」とまでは言いにくいが、緯度は前世でいう「地中海」の南側くらいのはずなので、気候的にはリゾート地としてのポテンシャルを秘めていそうな気がする。


 双子ちゃん的には「みんなで遊びたい!」という思いと共に、「みんなで行くなら、宅配魔法で往復させてくれそう!」という狙いもあるのだろうが、こちらも宿泊場所や案内でお世話になるのでお互い様である。そもそも双子ちゃんにはクラリス様達が日々お世話になっている。


 頼る者の少ない異国の地で、いー感じにいろんな助言をくれる同期で現地貴族のご令嬢⋯⋯外交官の娘たるベルディナさんも頼りになるが、彼女は上級生な上に多忙な外交官課程なので、履修済みだったり時間割の都合で別々の授業がけっこう多い。

 双子ちゃんはその点、基礎教養系の講義がほとんど一緒だ。魔導師の卵でもあるので、うちの魔導系留学生たるマリーンさんと帯同することも多く、これはこれでたいへん心強い。


 話は逸れるが、このマリーンさんはルーシャン様からお預かりした大事なお弟子さんであると同時に、近い将来、「宮廷魔導師に出世するアイシャさん」を補佐する優秀な官僚候補生でもある。

「魔導師としての才」より「魔導師系官僚としての才」に期待されているのは、本人としては思うところもあろうが⋯⋯しかし、国家機関としてはむしろこっちのほうが重要なのだ。


 マリーンさん自身は『実家が正妃(寡妃ラライナ様&レナード公爵家)の派閥だから、ロレンス様の護衛役としてちょうどいい』という名目で留学生に選ばれたと思っているようだし、それも事実なのだが⋯⋯それと同時に、今回の留学による『実利的な成長』をもっとも期待されている立場でもある。


 他の留学生⋯⋯

 たとえばロレンス様はある意味、本人の「学校に行ってみたい!」という要望を叶えるモラトリアム期間でもあるし、クラリス様も割とそんな感じ。

 クロード様に至っては「士官学校では有名になりすぎて居づらい⋯⋯! ハニトラも怖い⋯⋯!」というひでぇ理由で逃げてきた。婚約者たるサーシャさんとの楽しい学園生活も成立し、今や我が世の春である。リア充ぅ⋯⋯


 そんなわけで、真面目に「学業面」での成果をもっとも期待されている留学生がこのマリーンさんであり、ルーシャン様からも「どうぞよしなに」としっかり頼まれた。


 ただ御本人はまだ「自分はロレンス様達の留学の添え物」みたいな感覚があるようで⋯⋯真面目な子なので授業はしっかり受けているし、伸びしろも充分、成績も優秀なので問題視することは特にないのだが、ただ一点、「今回の留学はロレンス様とクラリス様のご希望がきっかけでしたが、成果を一番期待されているのは貴方です」という点だけは、まだ自覚が追いついてなさそうである。


 ⋯⋯とはいえこれを正面から指摘すると「えっ⋯⋯!」とプレッシャーがかかってしまうはずなので、楽しい学園生活のためには今くらいで良い。


 話を戻して、バカンスの件。


「いいですね! 同行者は我々留学組全員と、他はどうなんです? つまり、カティアちゃんとか」


 カティアちゃんはアロケイルで保護した女の子である。俺の降誕祭を経て年の近いクラリス様やソレッタちゃんとも仲良くなり、猫神楽にも落星熊役で参加していた。熊耳(※レッパン)かわいかった。


 クラリス様はゆっくりと頷いた。


「ルークが問題なければ、ソレッタとカティアも誘うつもり。あと可能なら、こっそりセルニア様も⋯⋯『僻地への小旅行』みたいな建前にしておいて、御本人にはこっちに来てもらったりできないかな、って」


 降誕祭に続いて揃ってしまうのか⋯⋯この猫力高めな幼女様四人衆が⋯⋯!


「あと、ルークも誘いたい人がいたら連れて来て欲しいかな。クロム島は複数の国から船が集まる、内海で一番栄えている交易港らしいし⋯⋯トマティ商会としても下調べはしておきたいでしょ?」


 ほほう。うちの社員からも誰か連れてきて良いということか。支店を出すとしても数年後、十数年後になるだろうし、あるいは提携商会に任せてしまってこちらの支店は出さないという流れも有り得るが、そういう諸々を判断する上でも現地調査は大事である。出張扱いなら有給休暇も消費しないで済む(悪辣)


「わかりました! 同行者についてはもう少し考えますが、遊びに行くのは賛成です。いやぁ、楽しみですねぇ。あ、リルフィ様は当然ご一緒と思いますが、スイール様やヘンリエッタ様のご予定はどうなんです?」


 この質問にはリルフィ様が応じてくださる。


「まだ話していません。クラリス様達も、昨日の夕方にポルカ様、マズルカ様から誘われたばかりだそうで⋯⋯」


 ふむ。魔族のヘンリエッタ嬢は当然来るだろう。そもそも彼女の今の行動指針は、「亜神ルークやその関係者との縁を深めつつ、関係者の警護も兼ねる」「折を見て、魔王様の側近と亜神ルークの会談をセッティングする」ことなので、同行もまた職務の範囲内といえる。リルフィ様の膝枕を堪能し、お顔と声の美しさに癒やされるために通い詰めているわけでは決してないのだ。役得を満喫していることは否定しない。一応、研究も手伝ってくれているらしい。


 あと宮廷魔導師のスイール様も多忙ではあろうが、今の彼女は『留学生達の保護者』『オズワルド様とヘンリエッタ様への対応係』なので、こちらも「職務として同行しないとまずい」立場だったりする。

 なによりコピーキャット素材と離島の海鮮グルメの組み合わせは体感しておきたいはずなので⋯⋯もしも「来れない」などとなったら、三食出前も検討せねばなるまい。だいぶ甘やかしてんな?


 ちなみにスイール様はしっかり同じ家で同居中なのだが、寝坊助さんなので朝ごはんには間に合わない。みんなが学校に行った後、ゆっくりしっかりがっつり召し上がるのが常である。

 彼女のロングスリーパーぶりは性格や気構えの云々ではなく「生物としての体質」の問題な気がするので、あえて是正は試みていない。


 そもそも必要睡眠時間には個人差もでかいわけだが、スイール様の場合、「成長の遅さ」と「寿命の長さ(たぶん)」、「高い魔力の才能」の代償が、この睡眠時間の長さなのではないか⋯⋯などと俺は推測している。

 スイール様自身も『前世ではここまで睡眠時間が長くなかった』と言っているし、やはり特異な例なのだろう。


 クラリス様達が学校へ向かい、ピタちゃんが朝食後の二度寝を始めたあたりで、やっとそのスイール様が起きてくる。


 ちなみに警護の騎士、マリーシアさんは庭で朝の修練、ペズン伯爵は腹ごなしの散歩中である。どちらも日課なのだが、日によってはこの後、お二人をリーデルハイン領に送ることも多い。


 マリーシアさんの目的はヨルダ様やカエデさんとの稽古。

 ペズン伯爵のほうは、ライゼー様やうちの本社相手の税務指導、経営相談、貴族対応への助言などで⋯⋯実は何気にめっちゃ助けられている。第一線の元官僚は伊達ではないのだ。


 さて、まだパジャマ姿のスイール様は、目をこすりながらダイニングの座椅子に座った。なにせ同居人数が多いので、食卓は掘りごたつ(布団なし)+ローテーブル+座椅子仕様である。このほうが俺もテーブルの上に跳び乗りやすく、コピーキャット飯を用意しやすい。和風の内装は猫に優しい。畳とか爪研ぎに最te⋯⋯やってないですおもっているだけです猫はまだ無罪です。


「むにゃむにゃ⋯⋯おはよぉ⋯⋯」


 十二時間以上寝ておいて、なおあくびまじり。ねるこはそだつ。


 寝癖のついたスイール様の髪を、リルフィ様が背後から櫛で整える。

 その間に俺はスイール様用の朝食をご用意。

 リクエストがあれば聞くこともあるが、彼女は基本、「朝は和食」派なので、俺の好みで用意すればだいたい問題ない。


 まず炊き立てのお米。

 本日はここに焼き海苔、若竹煮、スクランブルエッグ、茄子の味噌汁、蕪ときゅうりの浅漬け、大根おろしと豆腐、オクラの梅肉()え、カツオのたたき、その他いろいろをおかずとして添えた。デザートは苺とキウイだ。


 スイール様は残念ながら「生のトマト様」が⋯⋯というか、生野菜全般が苦手である。

 なので朝にトマト様はあまり出さないのだが、今日は一つ、試してみて欲しいものがあった。


「あのですね、スイール様。実は先日、出張先で『燻製ミニトマト様』を開発しまして⋯⋯これが酒のツマミ的な意味でなかなかの逸品でしたので、もしよろしければ感想をいただけないかと!」


 俺が用意したのは、最初に試食した半生タイプではなく、後日完成した生感のないドライ燻製トマト様。

 スイール様は以前、「ゼリーっぽい部分が苦手」と言っていたが、これは乾物なので水気はもうない。


 寝起きのスイール様は「へぇ」と目を丸くした。


「ミニトマト様の燻製? そんなのあるんだ? ルークさんが作ったの?」


「いえ、私は猫なので作業を見ていただけです。うちのジャルガさんやオズワルド様が中心になって作ってくれたものを、コピーキャットで再現しています。ぜひどうぞ!」


 お皿に載せた燻製トマト様を見て、スイール様はニヤリと笑った。


「いいねぇ。私、乾物って好きなんだよね。みんなはもう食べたの?」


「はい! 朝食にお出ししました。ドライトマト様は前からちょくちょくご提供していたのですが、これはこちらにある植物の煙で燻したものでして、風味が実に独特なのです」


「ほうほう」


 ものは試し。スイール様がミニトマト様の燻製を口に放り込む。ミニトマト様はただでさえ一口サイズだが、それをカラカラに乾燥させているので、これはお子様でも一口で食べられる。


 しばらくもっきゅもっきゅと咀嚼した後⋯⋯スイール様は、満面の笑みを見せた。


「あー、おいしい! これはおいしいよ、ルークさん! なんだろう、けっこうパンチの効いた風味だけど辛くはないし、後味も妙にすっきりだし⋯⋯だけど満足感はある。下味にコンソメとか使ってる?」


 む。コンソメ⋯⋯? そういえば、コンソメ味と燻製もたいへん相性が良いはずだ。コンソメに少し漬けて燻製にしたら、この燻製トマト様もさらに美味しくなりそう!


 偶然にもたいへん良いアイディアをいただいたが、しかしコレに関してはコンソメは不使用である。


「いえ、これには使ってないです。あくまで煙の風味と塩だけですね。でもコンソメを使うのは良い案ですよ! 今度、ぜひ試作してみます」


「あ、そうなんだ? 普通に燻製しただけでコレってすごいな⋯⋯これなら王宮への献上品にしてもおかしくないよ。ネルク王国からの親書とセットで渡したら、トマト様の宣伝にもなると思う」


 ククク⋯⋯思いがけずスイール様のお墨付きをいただいてしまった⋯⋯! 高額商品として売り出す以上、その手の箔はつけておいて損はない。

 燻製の試作にはオズワルド氏も参加していたし、なんなら「オズワルド氏からの手土産」としてホルト皇国の王宮に渡っても決して不自然ではないのだ。


「将来的にはそれもありですねぇ。ククク⋯⋯その時はぜひ、スイール様もよしなに⋯⋯」


「⋯⋯言っちゃなんだけど、ルークさんってほんと、悪い顔へったくそだよね⋯⋯かわいさしかないっていうか⋯⋯」


 ⋯⋯⋯⋯それは薄々感づいていた。俺が悪い顔で嗤うと、大抵、ソレッタちゃんとかセルニア様はきゃっきゃと喜んでしまう⋯⋯クラリス様は慣れているからしゃーない。


 リルフィ様も同じ感想のようで、俺の背中を撫でながら楚々と微笑んだ。尊⋯⋯


「悪い顔というか⋯⋯ルークさんのこれは、『未来への希望』と『前向きな嬉しさ』が、隠し切れずに表情へ出てしまっているだけというか⋯⋯一種の照れ笑いのようにも見えますね」


 それはさすがに(信仰心で)心の目が曇りすぎてると思う! 女神リルフィ様の思いを否定する気は毛ほどもないのだが、わたくしめはもっと普通に俗物なので⋯⋯せめて狡猾さは感じとっていただきたい。


 さて、大好評だった燻製トマト様はともかくとして、遅れて朝ごはんを頬張るスイール様には他にも話すべきことがある。クロム島でのバカンスの件だ。


「行くなら夏休みの中盤がいいんじゃない? 序盤はけっこういい集中講義があるし、クロム島はなんていっても8月だよ。あっちは7月後半だとまだ雨が多いから、せっかく行っても外で遊びにくい」


 ずずず、と味噌汁をすすりつつ、スイール様はそんな助言をくれた。


「あれ? もしかして行ったことがあるんですか?」


「いやいや。島までは行ってないから知識だけだけどね。あ、南方には行ったことあるよ? ただ、島まで行くとなると海路が長いからさぁ⋯⋯内海って言っても、ほとんど海みたいな大きさだし」


 双子ちゃんもラズール学園までの旅路は大変だったみたいだしな⋯⋯


「なるべくみんなで行きたいんですが、スイール様も来れますよね?」


「往復はルークさんが宅配魔法で送ってくれるんでしょ? だったら問題ない。移動期間が長すぎると、業務に支障が大きいから許可が降りにくいだろうけど⋯⋯夏の一週間くらいなら休めるよ。それどころか『引率役』ってことで出張扱いにしてくれるかも」


 狙い通りである。スイール様はここで声をひそめた。


「で、ダンケルガ様も来る?」


「お誘いしてみるつもりです。ファルケさん(元フロウガ将爵)も、正弦教団経由で双子ちゃんの警護を担当していますので、いっそこの機会にしっかり旧交を温めてもらおうかな、と」


 ここでスイール様は飯を運ぶ箸を止め、わずかに思案する様子を見せた。


「そっか⋯⋯上位存在に、あんまり甘えちゃいけないとは思うんだけどさ。私も研究者の端くれだから、古い時代の史実とか、確認したいこと、聞きたいことがけっこうあるんだ。この機会に、少し長めに⋯⋯できれば少人数で突っ込んだ話をさせてもらいたいんだけど、頼めるかな?」


「ダンケルガ様はお話し好きっぽいので、たぶん大丈夫だと思いますよ。私も同席していいんですよね?」


「もちろん。ただ⋯⋯他の同席者は、クロードとヘンリエッタまででお願い」


 この囁きは、お茶の準備をするリルフィ様に聞こえぬよう、俺の耳元にだけ届けられる。

 ⋯⋯つまり「ダンケルガ様+転生者での密談」ということか。


 友人だったひらたん(亜神ビーラダー様)をはじめ、ダンケルガ様は過去の転生者や亜神について、おそらく現人類の誰よりも詳しい。スイール様が確認したいのは、そうした人達とダンケルガ様が過去にどんな話をしたのかとか、前世絡みの諸々かもしれぬ。


「⋯⋯スイール様はもしや、ビーラダー様のことを調べたいのですか?」


 俺が確認を求めると、スイール様はまたしばし考えて⋯⋯


「それも一応あるけど⋯⋯ビーラダー様が『本当はどこに行ったのか』とか、他の亜神についてとか。あと、『今の世界に、ルークさん以外の亜神がいるのかどうか』とか、聞いてみたいことは山ほどあるよ」


 ふむ。

 これらは俺も気になりつつ、「気にしてもしょーがない!」「トマト様の覇道が優先!」と思い、放置していた部分である。


 特に、俺以外の「亜神」にまだ遭遇していない件は気になっている。


 たとえば「現世に亜神は一柱だけ」みたいな法則は特にないようで、歴史を振り返れば複数の亜神がいた時代もあったようだし、不在の時代もあった。ただし、本当に「不在」だったのか「隠れていただけ」だったのかは議論の余地がある。


 あとですね⋯⋯そもそも亜神関係の史料を読むと、確かに神っぽい力は持っていたようなのだが、なんかこう、一部の伝説的な誇張表現を除いて『信頼性の高い史実』ベースで情報を整理すると、現在の俺と比べて、魔法の威力とか影響範囲がそんなに大きくなさそうというか⋯⋯?


 大爆発とか大洪水とか大噴火とか、そういうわかりやすいのは結構あるのだが、ぶっちゃけ『ガイアキャット』さんとか『ハイパーネコ粒子砲』的なぶっ壊れ魔法の気配がないというか⋯⋯


 い、いや! 迷宮クリエイターだったビーラダー様のように、特定分野の業績では間違いなく「人の領域」を超えているはずなのだが、しかし「猫の領域」にまでは達していないというか⋯⋯猫の領域ってなんだろう。猫はいぶかしんだ。


 コピーキャットもアカシック接続も、超越猫さんいわく「新技術」「俺が実装第一号」とのことだったし、そもそも過去の亜神達は超越猫さんとは別ルートから送り込まれた人間だったっぽいので、仕様の基礎部分に大きな違いがありそうだ。こちとらキジトラである。

 俺自身にその認識があればこそ、「気にしてもしょーがない!」などと開き直っていた。


 実は以前、このあたりの疑問というか曖昧な違和感について、ルーシャン様と雑談をしてみたことがある。

『過去の亜神の記録を読むと、なんか私とは傾向とか雰囲気が違いますよね?』と⋯⋯


 この時、ルーシャン様は迷いのない目でこう応じた。


『それは当然でしょう。人と猫様の間には明確にして歴然たる差がございます。本質的な意味で、猫様は人類ごときよりもずっと上位の存在であるはず⋯⋯ならば神々の世界においても、この点は同じなのでは?』


 反射的に「いや、なんでやねん!」とツッコもうとして、猫は躊躇ちゅうちょした。


 ⋯⋯ルーシャン様の、キラキラのお目々が⋯⋯まるで深遠なる宇宙に浮かぶ星々の光のように、あまりに深く澄んでいて⋯⋯

 その純粋すぎる狂信を前に、(亜)神は怯んだのだ。


 ⋯⋯人類ごときに怯えるとか、ぶっちゃけ亜神なんてたいしたことなくね?(錯乱)


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― 新着の感想 ―
何気にサラッと戦略級の気象操作猫(クラウドキャットさん)が新規実装されていて猫草生える。 こんなんもはや神の諸行では?…いや神だったわ
本格的に新章突入&情報開示がありそう。楽しみ
ルークさんは狡猾さんに謝るべきであるw
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