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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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【番外編】(ほぼ)300話到達記念SS・トマティ商会、ある日の社員食堂

※こちらは記念SSという建前の何かです。本編の時間軸とは関係ありません。


 トマティ商会の社員食堂では、本日もT定食が大人気である!

 A定食ではない。B定食でもない。

 ⋯⋯ぶっちゃけ現在、メニューの多様化まで手が回らず、お昼は「T定食」、即ち「トマト様定食」しか出していない。


 それでも「社員食堂」という概念そのものが珍しいためか、社員の皆様には好評だ。

 調理人はメテオラから入社してくれた有翼人さん。日々のメニューは俺も相談に乗っており、開発中の加工品を試験的に出してもらうこともある。


 さて、今日の定食は⋯⋯


「あ、今日はスパゲティ・バロメソースなんですね!」


 お盆を手にしたナナセさんは嬉しそう。ド定番にして大人気! やはり基本はコレである。

 トマト様サラダとコーンスープはセット、あとはフライドポテトやパンもつけられるが、これは量が多くなってしまうので欲しい人だけだ。うちの社食は福利厚生の一環なので、社員(+その子供)は無料である。


 社長の猫と社長秘書(?)のウサギも一緒になってお昼を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると⋯⋯話題がこのバロメソースに及んだ。


「バロメソースって、社長とハズキさん、あとリーデルハイン邸の料理人、ヘイゼルさん夫妻で開発したって聞きましたけれど⋯⋯神様の世界にも元々、あったものなんですよね?」


 ナナセさんの質問に、猫は口元を舐めてきれいにしながら頷いた。人間だとお行儀悪いが、猫だと普通に許される挙動である。もはや本能。


「そうですね。ただ向こうには『バロメの実』がなかったので⋯⋯獣の挽肉を使った『ミートソース』という呼び名が一般的でした」


 こちらでは挽肉をいれず、代わりにバロメの実を代用肉のように加工して使っている。

 コスト削減の意味もあるが、獣肉を使うとなると畜産業が必要となり、トマティ商会の限られた人数で生産を安定させるのが難しいのだ⋯⋯

 かといって肉を輸入するとなるとやっぱりコスト高になるので、生産性が良く挽肉っぽい舌触りを再現できるバロメの実は実に良い作物であった。


 ブラジオスさんが少し不思議そうな顔に転じる。


「ふむ⋯⋯味の基本はトマト様なのに、神々の世界でも『トマト様ソース』という呼び名ではなかったのですね?」


「いえ、『トマト様ソース』というのは、他の料理にも使えるベースとしてちゃんと存在していまして⋯⋯それに他の調味料や挽肉、刻み野菜を加えたのが『ミートソース』という感じです。トマト様を使用したソースには、他にもいっぱい種類があるのですよ」


 そう、「いっぱい」とだけ言って流したが⋯⋯

 トマト様を使ったソース、及びパスタソースには、ガチで結構な種類がある。

 にんにくとバジルを使ったポモドーロ、にんにくに加えてオレガノ、オリーブオイルを混ぜたマリナーラ、唐辛子で辛くしたアラビアータに、豚肉、チーズを併用したアマトリチャーナ⋯⋯あと有名なのは魚介類で出汁をとったペスカトーレだろうか。他にもまだまだある。


 うちで作ったバロメソースと高級品の黒帽子ソースはどちらもミートソースの亜種だが、ゆくゆくは産地に応じて味のバリエーションもつけたい。

 内海に広く接したホルト皇国(南部)ならペスカトーレは作りやすいだろうし、レッドトマト商国では唐辛子や高地の珍しい香辛料がとれそうなので、アラビアータ系のちょっと風味の違うものを量産できそうである。

 両国にはまだトマティ商会として進出していないが、俺が思ってもいなかった方向性への進化だって有り得るのだ。


 ただこれらは将来の話なので⋯⋯今は商品の細かなバリエーションを増やすより、定番の味を広げるべき時期。うちでも研究開発は進めるが、商品化は少し先となる。


 アンナさんが楚々と微笑んだ。


「ブラジオスさんはこちらに来てからまだ日が浅いですし、王都にも行かれていましたから⋯⋯他の種類についてはまだ未体験ですよね? 私は『ペスカトーレ』というソースが好きなんです。レッドワンド⋯⋯いえ、レッドトマトでは海産物がとれないので、あれはまさに未知の味でした」


 旦那のカイロウ君もこの話に乗っかる。


「あれは私も好きですね。それからブイヤベースという⋯⋯あれもペスカトーレの一種なのですか?」


 ⋯⋯またややこしい質問がきたな⋯⋯?


「いえ、別物です。どちらも『トマト様と海産物を煮込む』という共通点がありますので、近いといえば近いのですが⋯⋯ブイヤベースは『トマト様と海産物のスープ』で、ペスカトーレは『トマト様と魚介類を使ったパスタ』という認識ですかね?」


 あと国も違う。ブイヤベースはフランス料理、ペスカトーレはイタリア料理である。さらにイタリアにあるブイヤベース的な料理として『アクアパッツァ』というものもある。

 ブイヤベースは「海産物の寄せ鍋、メインはスープ」、アクアパッツァは「メインは魚の煮物、他の海産物は添え物」という細かな違いはあるし、スープから作るか水から作るか、みたいな手順の違いもあるのだが⋯⋯日本だと居酒屋あたりで「なんちゃってブイヤベース」的なものが普及して、事態をよりややこしくしていた。


 要するにどちらもトマト様の家来みたいなものなので、料理人とかグルメな人以外はあまり気にしなくて良い。トマト様の煮込み料理を見たら、テキトーに「ぶいやべーすだー」「あくあぱっつぁだー」「トマト様の味噌汁だー」とか言っても法には触れぬ。猫もその程度のことではキレない。ぶっちゃけ俺もたまに混乱している。


 好みのソースに関しては、グレゴールさんも一言あるようだ。


「私はなんといってもバーベキューソースですかね。あれは衝撃でした。今まで食べていた肉の味が、ああも変わるとは⋯⋯塩や醤油のシンプルな味付けとはまた違う満足感があって、しばらくは夢に見たほどです。あれはぜひ焼き鳥の屋台に卸したいですね」


 ネルク王国では、コーカトリー種というバカでかいニワトリ(魔獣)の家畜化に成功しているため、焼き鳥の屋台は都市部で割とよく見かける。

 基本は塩。たまに醤油と水飴を使用した「タレ」を使っているところもあるが、お値段は少し上がる。

 グレゴールさんはこの焼き鳥屋に「バーベキューソース」という新たな選択肢を提案したいようだ。


 社員の皆様も「あー」と納得顔。

 ケチャップやバーベキューソースは、世間一般でよく食べられている「肉料理」への味変としてめちゃくちゃ手軽なので⋯⋯実は「バロメソースより先にそちらを普及させるべきでは?」という案も確かにあったのだ。


 ペーパーパウチとの出会いとか、コストとか、商品の消費速度とか⋯⋯詳しく述べると、「一回では使い切らないバーベキューソースやケチャップよりも、一食ごとに食べ切るバロメソースのほうが商品の回転が速く、リピーターさえ確保できれば売上を伸ばしやすい」という目論見もあった。猫もいろいろ考えてはいたのだ。


 そういった諸事情も考慮して、初手はバロメソースになったわけだが⋯⋯実のところ、最大の決め手は「こっちの世界にある素材だけで、ある程度まで味の再現に成功した」ことである。すなわちレシピ開発者達の努力と研鑽の賜物といえよう。


 そう、開発者達の努力⋯⋯あれは過酷な日々であった⋯⋯

 メテオラに有翼人さん達が移住し、レッドワンド将国がレッドトマト商国となった後。

 コピーキャットで錬成した前世のミートソースをお手本に、みんなで「おいしいねー」と何度も味見をし、失敗作はコピーキャットでまた原料に戻し、お腹いっぱいになったらクラリス様やリルフィ様とお昼寝⋯⋯その間にハズキさんやヘイゼルさん達が次の試作品を作ってくれるので、起きたらまた味見⋯⋯


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あれ? もしかしてあの時期が一番、ペットらしい「食っちゃ寝」の日々に近かったのでは⋯⋯?


 ⋯⋯い、いや! それはこれから! むしろ将来の目標である! トマト様の覇道が成った後の、輝かしい未来の姿が「食っちゃ寝」であるべきで、今はまだその時ではない! あれはトマト様が見せてくれた仮初めの夢、エンディングの先行お試し配信のようなものだ。


 ちなみに期間にすると、俺が安穏と昼寝していたのはせいぜい三日程度であり、その後はトマト様畑の拡張とかこの新社屋の準備とか工場で使う魔道具の設計、発注とかメテオラの住環境整備とかクラリス様への読み聞かせ用絵本づくり等でバタバタしていたのも事実である。おしごとたのしいよね(虚空を見つめるまなざし)

 普通の会社では人が働いて猫は適度にその邪魔をするべきなのだが、うちでは猫も率先して働き範を示しているのだ。


 しかし思えば、あの頃はまだ採用面接をする前だったので⋯⋯ここにいる社員の皆様とも巡り合っていなかった。そう思うといろいろ感慨深い。

 商会の仕事が本格化するにつれ、やはり人材は宝だとしみじみ実感してしまう。


 その中でも特に出色の有能社員たるナナセさんが、カラになったパスタ皿を見つめしみじみと呟く。


「私はやっぱり、このバロメソースですね。最初は魔導研究所のアイシャ様から、試供品としていただいて⋯⋯この赤さにちょっと警戒しながら食べてみたら、あまりに美味しくて、しばらく呆けてしまって⋯⋯その後すぐ、どこの製品かを確認して、トマティ商会のことを調べ回ったんです。結局、『リーデルハイン領にできた新規の商会』『魔導閥のルーシャン様やアイシャ様と関係が深い』ってこと以外は、なんにもわからなかったんですが、商人ギルドで運良く求人票を見つけた時には運命を感じました!」


 なんとも嬉しいことを言ってくれるナナセさんを微笑ましく見守りながら、猫はふと思う。

 彼女にとって我が社のバロメソースは、まさしく「人生を変えた味」であり、これから先、「思い出の味」にもなっていくのだろう。


 このバロメソースは、前世の俺にとっての思い出の味である「近所の洋食屋でよく食べていたミートソース」をベースにしている。

 あの味を再現できたとはさすがに言えぬが、こちらにある素材だけで、現時点で可能な限り近づけるよう努力はした。

 ⋯⋯いや、俺は食っちゃ寝してた気もするが、これはハズキさんやヘイゼルさんが頼りになったからであって⋯⋯!(言い訳)

 ともかく、店主のおっちゃんの境地にはまだ及ばずとも、恥ずかしくないレベルの商品には仕上がっている。

 その上で、このバロメソースがナナセさんをはじめ、これからたくさんの人々の「思い出の味」になっていくことを願ってやまない。


 味とは記憶である。

 それは単に美味しい不味いで済む話ではなく、その当時の感情や出来事と結びついて、それこそ魂に刻まれるがごとく、深く記憶に残るのだ。

 俺が「アカシック接続」を通じて、コピーキャットで過去に食べたものを再現できるのも、この「記憶」があればこそといえる。


 商売として食品を扱う者はなおのこと、その品が誰かの「思い出」になることを胸に刻み、日々精進するべきなのだ。


 ――そんな覚悟を再確認した、その日の夜。


 主たるクラリス様の寝かしつけをしていた猫は、何の気なしにこんな問いを投げかけてみた。


「クラリス様にとって、『思い出の味』といえば何ですか?」


 ウェルテル様の手料理とかかな⋯⋯いやでもやっぱり、トマト様とかミートソースとかオムライスとかお猫様ランチとか、トマト様関連メニューかな⋯⋯などと期待する猫をよそに、我が主はさほど迷う様子もなく、真顔ではっきり答えてくれた。


「ブッシュ・ド・ノエル」


 ⋯⋯⋯⋯先輩ッ! やっぱケーキには勝てねっすわ!


 ⋯⋯あ、ピタちゃんは「ソフトクリーム」でした。うん。それは知ってた。


番外編の記念SSでした。

ちょうどニコニコ漫画でも先日、ルーシャン様がミートソースを食べるお話が更新されてましたね!

それではまた来週ーノシ

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店主のおっちゃんの境地にはまだ及ばないかあ まあミートソースを肉使わずに再現しようってんだから難しいよね それでも恥ずかしくないレベルにまで仕上げる辺り、精進料理でもどき料理を作り上げた坊さんのような…
黒帽子キノコの栽培は成功したのかな?お貴族さまにも売行好調なら材料不足になっていないらしいですが。
>うちの社食は福利厚生の一環なので、社員(+その子供)は無料である。 社外の人も有料で食べられるって事ですか…? じゃあ近隣の住人が食べに来てたり…は猫が会話できなくなるかな?そうでもない? っぱ外部…
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