それぞれの道
三日後
人狼Nから連絡を受け、セルイと詩音はシャッター街にやって来た。
電車で甲冑は目立つため、マリの車に積んで来たのだ。二人が降りると、マリが窓から顔を出す。
「それじゃ、私は戻るけど。二人はここでいいのね?」
「そうっス! ありがとうマリ! 助かったっスよ!!」
セルイが素直に言うと、マリは少し視線を逸らし、
「べ、別に大した事ないわ。それより、詩音! あんた帰るんでしょ? 短い付き合いだったけれど、まあまあ楽しかったわ! じゃあね!」
言いたい事だけ言うと、マリは車を走らせた。
静かになるシャッター街。
詩音が甲冑を着込むのを確認してから、二人は静かに目線を合わせ、
「それじゃ、呼びますか!」
「……ああ」
セルイがスマホをかけると、どこからともなくNが現れた。
「お待ちしておりました。それでは、こちらへ」
突然現れるのに慣れた二人は、静かにNの後へ続く。入り組んだ道を抜け、地下へ歩いて行く。しばらくして着いたのは、広く、静まり返った祭壇がある空間だった。
「では、異邦の方よ。祭壇へ」
「あ、あの、その前に! セルイ! このせーらーふくは本当にもらって良いのか? 商品なんだろう?」
Nを制止しそう声をかける詩音に、
「良いって言ってるっしょ! 誰かが来ちゃったセーラー服なんてオレの商売道具にはもうならないっスよ! つーか、別れの挨拶がそれってどうなんスか!?」
セルイの突っ込みに、甲冑から笑いが漏れる。
「ふふふ。それもそうだな! セルイ! 色々と感謝する!! 本当に……本当にありがとう!!」
そう言って詩音は祭壇に上がる。すると、四方から人狼達が現れ、
「それでは異邦の方。別れはもう良いですね?」
Nの言葉に詩音が頷くのを確認すると、
「では!」
N達が何かを持って、呪文を唱えだす。人狼族の言葉らしく上手く聞き取れない。
離れて見ているセルイに、Jが声をかけてきた。
「よう! 真祖の王よ! 俺様が言うのもなんだが、調子はどうだ?」
「ホントっスよ! オレは特になんもないっスけど……」
「別れは寂しいだろう?」
Jの言葉にピクリと反応する。
「……まぁ忙しなかったっスからね……でもコレでいいんスよ! あの子にはあの子の世界がある。それをたかが吸血鬼如きが邪魔しては……な?」
「それもそうだな! ガハハハハ!!」
そんなやり取りをしていると、祭壇が光る。その光はどんどん強くなっていき、詩音の身体を包み出す。
と、彼女が祭壇からセルイに向けて手を振った。それに応え、セルイも手を振る。
そうしているうちに、詩音の、いや、閃光のブラックパールの姿は消えて行った。
****
「……うん?」
ハッ! と彼女が目を覚ますと、そこはどこかの建物だった。
ゆっくりと起きると、見張りだろう男が立ち上がる。
「閃光のブラックパール殿! お目覚めですか!! 良かった!! 本当に良かったです!」
喜ぶ男に、彼女は聞く。
「私は一体? ここは?」
「ここは病院です! 貴女は魔王軍との交戦中に雷に打たれて、意識を失われていたのですよ!」
「雷……」
(と言う事は……アレは……夢?)
困惑する彼女に、男は言う。
「おっと! こうしてはいられません! 直ぐに医者と……それから貴女の母君を呼びましょう!! しばしお待ち下さい!!」
そう言って見張りよ男は出ていってしまった。
「私は……アレは何もかも……!」
上半身だけ起こした彼女は直ぐに気づいた。
「せーらーふく」
自分が着ている者がそれと知った彼女は、全て現実だった事を悟る。
「……父上。私は……戻りましたよ」
そう呟いた後、ドタバタと音がし、扉が勢いよく開かれた。
医者と看護師が直ぐに入り彼女の体調を確認し出す。
それを心配そうに見つめる女性-母親が涙をためながら言う。
「ああ! 神様!! 感謝致します!!」
キョトンとしている彼女に、母親が声をかける。
「よく目を覚ましました。貴女は強い子よ。ハンナ!」
そういえば親族だけは例外として真名を呼んでいい事を思い出す。
(父上……貴方は……)
彼女に、ハンナの目から自然と涙が溢れた。
****
「ふぅ……行ったっスね。んじゃ……」
彼女を見送ったセルイは、横にいたJに重い何かを投げる。
「おっと! コイツはもしや……」
興味なさげにセルイが言う。
「魔剣ノスフェラトゥっス。依頼にあったっしょ? オレはいらないんで、どーぞ」
「さすがは真祖の王だな! 話が早い! そんじゃありがたくいただいておこうか!」
嬉しそうなJをみて、セルイは軽くため息を吐くと、
「そんじゃ、失礼するっス」
「ありがとうよ!」
Jの声を聞き流すと、セルイは足早に祭壇から出ていった。
(さてと、そんじゃ……)
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途中で花を買い、サクヤシティから離れた小高い丘にある、墓所にやって来た。
ゆっくりと歩いていき、目的のところで止まる。
「ここは良いっスね! 空気も綺麗で穏やかっス! いい場所っしょ? ガイア」
花を手向けわまるで彼女と話しているかのように飲み物をのみながら、静かに座る。
しばらくして立ち上がると、
「そんじゃ、また来るっスよ!」
ガイアの墓を後にした。
普段とは違う街並みを歩きながら、セルイはのんびりと伸びをする。
その時、ふと信号待ちをしていた少女に目が止まる。
白いセーラー服で、友人らしき人物と話すその少女の姿が、詩音にそっくりだったからだ。
(まさか……ドッペルゲンガー? マジでか!)
信号が変わり、通り過ぎる彼女達を背にし、セルイは静かに微笑んだ。
そして、彼は彼の日常に戻る。
何かが激的に変わるでもなく、かと言ってあの長いようで短かった日々を確かに胸に刻んで、吸血鬼セルイは今日も商売をする。
変わらぬ日常、だけど確かに彼女と過ごしたあの日々を懐かしみながら。




