市長
「現市長に直接だと? 何か策はあるのか?」
「策というか、正面突破っスかね? このままいいように踊らされてる感じが気に食わないっス! だから、正面から行こうかなぁと!」
「な!? それは無策にもほどがあるのでは!?」
驚く詩音に、セルイは頬をかきながら、
「まぁまぁ。確かに無策感パネェっスけど……だからこそやってみる価値はあるかなと!」
「……本当に無策ではないか!」
呆れる彼女を窘めるとセルイは、
「ま、とにかくやってみるっス! そんなわけで……市長邸に行くっスよ!」
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市長邸につくと、二人は物陰に隠れる。
「それで? ここからどうするのだ?」
「警備が厳重っスね……。さて、抜け道は……と」
一通り観察するとセルイは、
「うん! しょうがないっスね!!」
嫌な予感のする詩音とは裏腹に、セルイは楽しげに言う。
「空を飛ぶ時間っスよ!!」
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「それでは、今日の資料になります。市長」
和宮類が、現市長である獅子堂光にそう声を書ける。
「ん。ご苦労。下がって良いぞ」
「はっ!」
類を下がらせると、資料に目を通す。今日はやけに書類が多い。
さてどうしたものかと思案していた時だった。
コンコンと、三階の執務室のガラス張りの窓がノックされた。慌てて振り向くと、そこには、宙に浮いた不思議な格好をした少年とセーラー服の少女が居た。
再びコンコンとノックされる。
「……良いだろう。そう来るか!」
そう言って獅子堂が窓を開ける。中に入って来た二人と距離をとる。
「いやぁ、理解の早い市長で助かったっスよ! あのままだったら、窓を壊すところだったっス!」
「うう……空を飛ぶどころか宙に浮くなんて……うっ目眩が!」
膝から崩れ落ちる詩音をセルイが支え、
「さてと! 現市長、獅子堂光! 単刀直入に聞くっス! オレ達を狙う理由はなんスか?」
「本当に単刀直入だな。ふふ、良いだろう。その度胸に免じて答えてやる! 貴様らの情報を集めていたのは……僕の先祖である魔族、リリアンヌを元の世界に帰すためだ!!」
獅子堂の言葉に、詩音が驚く。
「なん……だと!? だが、我々は!」
「貴様らは、まだ異世界とこの世界をどう繋げるのか、その術を持っていない……だろう? わかっているとも!!」
そう言うと獅子堂は、ゆっくりと距離を更にあけ、
「僕がほしいのは、貴様らが手にするであろう異世界とのパスだ。貴様らを調べれば、必ずそのパスを手に入れるだろう? なぁ? 吸血鬼の祖、真祖の王、ワ=デクウヌ・セルイよ!!」
「!! オレの真名を知っているっスか! まぁ、シーニーと繋がっているなら当然か!」
(!! セルイの真名……つまりは本名か!)
内心驚く詩音を置いて、セルイが警戒態勢に入る。それをみて、詩音も慌てて同じく警戒態勢をとる。
そんな二人を見ていた獅子堂は、目を細めると、
「ふははは!! どうせこの状況も楽しんでいるんだろう!? 全てを手に入れた男よ!!」
「……それはどうっスかね? 」
セルイが武器を構えるのと同時に、警報がなる。市長直属の精鋭部隊が部屋に入って来る。その中には、類も居た。
「市長!! ここは我々にお任せ下さい!!」
「くっ!! やっぱ人数多いっスね!! 詩音!!」
「ああ!!」
二人は背中合わせになり、攻撃に備える。
その様子をみて、邪悪な笑みを浮かべながら獅子堂が言う。
「さぁ!! ショーの始まりだ!!」