色々と
午後になり、約束の時間が迫ってくる。
「起きるっスよ〜詩音! 閃光のブラックパール!!」
セルイが詩音を叩き起こす。寝相の悪さのせいか、ベッドから落ち、ようやく目を覚ました。
「いたた! ん? ん? なんだ……? もう食べれないぞ?」
寝ぼける詩音にセルイは苦笑いをしながら、
「何の夢見てたんスか? まぁいいや、時間ないっスよ〜!!」
そう言うと、セルイは詩音に着替えを寄越し、
「ほらほら!! 起きた起きた!!」
急かしながら、自分の支度をする。詩音もようやく目が冴えて来たのか、服を着替え出す。
そうして、準備ができると二人は待ち合わせ場所に向かう。
****
「なぁ、思ったんだが」
道中で、詩音がセルイに聞く。
「……お前、王なのだろう? それで狙われているというのはないのか?」
そう言われセルイは、
「……なくはないっスけど、それじゃ詩音の情報もセットで売られる理由がないっス。それに、王って言っても、最初の真祖だからってだけだし」
「な!? お前、簡単によくも言えたな!! かなり重要ではないか!? つまりお前は原初の存在ということか!?」
驚きを隠せない詩音に、セルイは頭をかきながら、
「……まぁ、オレの事は今は置いといて。約束の場所まですぐっスよ? 気合い入れとかないと!」
話をそらされ不服そうな詩音をよそに、セルイが前を行き約束の場所、スラム街にある空き地についた。
「さてと、約束まであと少しっスね!」
「……なんだか緊張してきた」
そう言う詩音の右肩を軽く叩くとちょうどのタイミングで、南部聖司が現れた。付き添いにリセを連れて。
「やぁ、待たせたかな?」
「ちゃんと話すのははじめて? かな? お姉ちゃん!」
呑気な二人に、セルイと詩音は顔を見合わせながら、
「いや、ついさっき着いたところっスよ!」
「……わざわざ出向いて頂き感謝します、父上。……リセ」
そう言うと、セルイ達は事情を説明する。
数十分後、全ての話を聴き終わった聖司は、
「話はわかったよ。そうだね。まず言いたいのだけれど、聖リントの残党はいないはずだよ? ……僕が徹底的に叩いたからね」
聖司の言葉に、詩音が反応する。
「ですが、父上! 実際にJ殿は襲われています!!」
「……そこなんだよね。問題は。……あるとしたら、聖リントの名を騙った何者かもしれないね」
冷静に返す聖司にセルイは、
「その線が濃厚っぽいっスね? でもなんで聖リントを名乗る? 何か理由があるんスかね?」
んーと唸る詩音とセルイに、聖司はにこやかに、
「まぁ、その事は僕達も調べてみるよ。本当に残党だったら、お仕置きしないといけないからね」
「協力感謝するっス」
そう言うと、セルイが立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってくれないか!!」
それを詩音が止める。
「? どうしたんスか?」
そう言われ詩音は緊張がとけたように、聖司に向かいギターケースから、彼の剣を取り出した。
「父上! 私の事は覚えてなくてもいいです! ですが、聖騎士の誇りだけは捨てないで頂きたい!! この剣はお返しします!!」
詩音は剣を聖司に押し付けると、
「それでは失礼します!!」
それだけ言って立ち去ろうとする。
「お姉ちゃん! 待ってよ! 少しは話せないの!?」
リセの静止に、
「……悪いが、話すことは何も無い。失礼する」
そう言って聖騎士のポーズを決めると、今度こそ詩音とセルイは立ち去っていった。
****
「本当によかったんスか? そりゃあ複雑だろうけど、リセと話さなくて」
「……正直まだ心の整理がついていないのだ。それに……今の私は篠楽木詩音だ。それ以下でもそれ以上でもない!」
詩音の言葉に、セルイは頭をかきながら、
「……さっき父上って言ってたじゃないスか……。まぁいいや! とりあえず、隠れ家に帰るっスよ!」
急ぎ足になるセルイにペースを合わせ、詩音も歩く。
そうして足早に路地に入ると、
「何者だ!?」
詩音とセルイがそれぞれに武器を構える。
現れたのは二十代半ばの黒髪に青い目をした青年だった。
青年は両手を上げ、
「……参りました。ボクは和宮斗哉。シーニー様の使いの者です」
「シーニー? なんのようっスか?」
セルイの問いに斗哉が言う。
「お二人に伝言です。『負けたのは悔しいですが、恨んでないので今日のお茶会に来て下さいな? 』との事です。それでは、ボクはこの辺で失礼します!」
斗哉が煙玉のような物をだし、姿を消した。
「ゴホッゴホッ! 今どき忍者っスか!?」
「ゴホッ! にんじゃとはなんだ!?」
しばらく咳き込むと、二人は呼吸を整え、
「……それで? どうするのだ? 以前は、ばくだんが待っていたぞ?」
セルイが頬をかきながら、
「ご丁寧に招待状もらったっス。……情報が欲しい。行くっスよ! シーニーの性格上、この手のイベントで手を出してはこないっしょ! 多分」
「多分とはなんだ! 多分とは!」
「まぁまぁ! とにかくお茶会までもう時間がないっス! 急いで電車に乗って行くっスよ!」
****
二人は招待状に書かれた場所まで電車を降り、歩いてやってきた。
そこは、郊外に佇む和風の屋敷だった。
「見慣れん建物だな……」
「詩音の世界には和風はないんスね!」
「わふう? なんだそれは?」
首を傾げる詩音に、
「後で説明するっス。そんじゃインターフォンを押してと!」
インターフォンを押すと、使用人が応対する。招待状の件を話すと、門が開き、案内役の女性が頭を下げる。
「セルイ様、詩音様。本日はお越し頂きありがとうございます。主、シーニー様にかわってご挨拶申し上げます」
そう言うと、案内役の女性が前を行く。二人はついて行くと、中庭に出た。
「あちらが、会場でございます」
そう促され二人は中庭の中央まで行く。すると、青い和服姿のシーニーが待っていた。
「ごきげんよう。灰色の王。そして異邦の方。先日はお騒がせ致しましたわ」
そう言って丁寧に頭を下げる彼女に、
「それで? オレ達を呼びつけた理由はなんスか?」
セルイの言葉に、
「まぁ焦らないでくださいまし? まずはお茶でも」
そう言われ差し出されたお茶に、
「……何か入っているのではないか?」
疑う詩音にシーニーは笑いながら、
「まさか! ワタクシ、そこまで落ちぶれていませんわよ? 今回お二人をお呼び出し致しましたのは、恩を売って置こうかと思いまして」
「恩を売るだと?」
「……狙いはなんスか?」
二人の疑問に、シーニーが答える。
「ふふふ。ワタクシ気づきましたのよ? お二人を敵にするとデメリットしかない事に。なので味方に付けるべく、お二人の情報を売っている方を、ズバリお教え致しますわ」