目覚め
幼くなったシーニーと、リセを縛り拘束する。
「コレではワタクシだと気付いてもらえませんわ……うぅ」
「私にこんな事して、許さないから!」
対象的な二人をみながら、セルイが言う。
「さてと、んじゃ、まずシーニーのとこから片付けますかねっと!」
セルイがシーニーに近寄り、
「これ、オタクのスマホっス。これで今から眷属達に連絡してハンナ教団から手を引くように指示するっス。……わかってるっスね?」
威圧感を放つセルイに、シーニーは項垂れながら、
「……わかりましたわ。灰色の王」
そう言うと、スマホを渡され、素直に連絡をする。
「……ワタクシですわ。……みんな……ハンナ教団から手を引きます。……えぇ、ワタクシ、灰色の王に負けましたの。コレはケジメですわ。……いいですわね?」
それだけ言うと、通話を切った。
「コレでよろしいですわね?」
「百点満点っス」
そう言うと、セルイはシーニーの拘束を解き、
「もう帰っていいっスよ」
セルイの言葉に、シーニーは
「用無しという事ですわね……。貴方様を巻き込んだのが間違いでしたわ。お詫び申し上げますわ」
そう言って頭を下げると、シーニーは教会から出ていった。
「さてと、次はハンナ教団の方っスけど」
セルイがリセの前に立つ。
「オタクの裏にいるのは誰っスか?」
「答えるわけないでしょ!」
「ですよね〜」
そんな二人のやり取りに、詩音が口を開く。
「リセ、父上は……剣聖のホワイトパールはどこにいる? 」
詩音の必死な表情にリセは、
「……たとえお姉ちゃんでも、教えられないの! もう! いい加減離して!! 私にコレ以上酷い事をしたら、どうなっても知らないんだから!!」
詩音とセルイは顔を見合わせると、
「どうするっスか?」
「……仕方ない。血を吸ってくれ」
詩音の言葉に頷くと、セルイがリセに噛み付いた。その様子を見てレオンが、
「あぁ! 若い娘の血を吸うだなんて、羨ましい限りです!! 香りを嗅ぐだけで、もう! たまりません!!」
一人興奮するレオンに詩音はドン引きしながら、
「何かわかったか?」
血を吸い終わり、気絶したリセを床に降ろすと、
「バッチリっスよ。どうやら、黒幕は、巫女様がこんな事になっているのに、まだ隠れてるみたいっスね!!」
そう言って、セルイがチィトゥィリ・アルージェをボウガンモードにセットし、教会の懺悔室の方向に矢を放った。
「ヒィィ!!」
情けない悲鳴を上げながら、中年の男が出てきた。身なりは白い神父のような格好で頭が禿げている。
「わ、わし無関係な神父だ! そんな娘は知らない!!」
そう言うと男は慌てて外に出ようとする。
「レオン!」
セルイの指示で、レオンがあっさりと男の前に立ち、
「動かないで下さい。出ないと、命、ありませんよ?」
そう言って、男を脅す。
項垂れた男は、床にペタリと座り込むと、
「……こんな、こんな事が……何年も苦労して、この地位までのぼりつめたのに! 元はといえば、小娘に巫女などさせるからいけないのだ!!」
責任転換する男に、詩音が侮蔑の表情を浮かべる。
「まだ幼い子供を利用するだけして、それか! なんて醜い!!」
吐き捨てるような詩音の言葉に、
「ふん! わしがどれだけ神さまに、いや、南部に尽くしたと思う!? 貴様らには分かるまい!!」
「小物丸出しの発言っスね……。詩音、どうするっスか?」
話を振られた詩音は少し考えてから、
「父上の元まで案内してもらいたい」
そう提案した彼女に、男は顔を歪めながら、
「案内したら、命の保証はしてくれるんだろうな!?」
尚も自分の保身ばかり気にする男に、セルイは呆れながら、
「命だけは助けてやるっスよ。さぁ、案内してもらうっスよ!」
****
気絶しているリセと、甲冑と男、そして詩音とレオンとセルイは、信者達が乗って来たワゴンカーに乗り、待機していたマリが運転席に座る。
「どれだけまたせたと思ってるのよ! 心配したんだからね! レオン!」
「それは申し訳なかったです。マリ。後でご褒美をあげましょう」
「!! ……本当に?」
「えぇ本当ですとも」
「……なら許すわ」
二人のやり取りを見ていた詩音が、セルイに言う。
「お前の言う通り、仲良くなっているな! そして、この乗り物、くるま? というのか! 楽しみだ!」
詩音の純粋さにセルイが頬をかきながら、
「まぁ、そう言う事で! 出発するっスよ!」
****
セントリリア教会があった中央部から南部に移動し、スラム街から少し離れた所にある、寂れた廃病院に着いた。
「ここに……父上が!」
緊張と期待が入り交じった詩音の様子をみながら、
「さてと、おっさんにはリセちゃんを抱えてもらってと!」
リセを男に持たせるとセルイが、
「レオンとマリはここで待機っス! あ、ご褒美タイムは程々に!」
そう言い残すと、セルイ達は廃病院の中に入って行った。
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暗い病院内をスタスタとスマホのライトで照らしながら進んでいく。
そしてある一角にたどり着くと、男が言う。
「ここに南部はいる。怪我をおった状況から、この廃病院に匿っている。もういいだろう! 解放してくれ!!」
男の言葉に、セルイが言う。
「じゃあ、オタクをここに縛ってと!」
「!? 何故縛る!! わしはもう用無しだろ!?」
喚く男に、
「オタクがハンナ教団を実質仕切っていた事はわかってるんスよ? そんなヤツを、そうやすやすと解放するわけないっしょ?」
「そ、そんな!!」
一気に項垂れる男とリセを置いて、詩音とセルイは妙な緊迫感をかんじながら、病室内に入っていく。
ゆっくりとベッドまで向かっていくと、一人の男性が眠っていた。
沢山の医療機器に囲まれた男性を見て、詩音が言う。
「……父上?」
反応のない男性の近くまで寄り、じっくりと顔を見ると詩音は、
「年老いているが、間違いない。父上だ……」
そう言うと、詩音はセルイと顔を見合わせ、
「作戦通り、回復魔法をかけてみる。で、いいっスね? 詩音?」
「ああ。無論だ」
詩音が剣を取り出すと、呪文を唱え始める。
(さてと、オレの予想が正しいなら、詩音の魔法は効くはず……起きてもらうっスよ!)
光に包まれ、男性の身体が中に浮く。そして、ドクンと心臓の音がなり、男性の身体が起き上がる。
ゆっくりと、ベッドに降ろすと、起き上がった男性は、目を覚ました。
「!!」
ゆっくりと周りを見渡すと、男性が詩音に向かって言う。
「君は……誰かな?」