眷属
「さぁて、着いたっスよ」
一時間程歩き、着いたのは城のような造りをした屋敷だった。
スケールの大きさに、詩音が言う。
「お前は、王か何かなのか……?」
その質問にセルイは頭をかくと、
「まぁ、いいじゃないっスか? 今のオレは商人っス。それ以上でもそれ以下でもないっス!」
そう言って施錠されていた門を開け、中に入っ行ってしまった。
慌てて詩音も続く。
広い庭を抜けて、地下室に入る。
「まるでダンジョンのような造りだな」
「そうっスか? まぁ、確かに侵入者避けで複雑にしたから、そう感じるかもしんないっスね」
そう言うとセルイは侵入者避けを解除し、
「さぁて、着きましたよっと!」
入った地下室には、棺桶が七つ置かれていた。
「ここは……!?」
「オレの眷属達が寝てるっス」
そう言うとセルイは歩いて行き、一つの棺桶のところで止まった。
「あんまり頼りたくないんスけどね……。起きるっスよ〜!」
そう言ってセルイは自分の左腕にクロウダートを当て、血が出る程度まで、突き刺し引っ掻いた。
滴る血が棺桶に落ちていく。すると、棺桶がゆっくりと開き、中から、金髪を肩まで垂らした西洋の貴族風な美男子が起き上がってくる。
ん〜と伸びをし、周りを見渡す。
「レオン、お仕事の時間っスよ!」
レオンと呼ばれた美男子は、セルイに気づくと、
「……セルイ様? なんですかそのお姿は? それにそのキャラも」
開口一番にそう言う彼に、セルイは、
「オレの格好はどうでもいいっしょ! 後、キャラとか言うな! キャラとか!!」
「セルイ、きゃらとはなんだ?」
首を傾げ聞いてくる詩音に、
「気にしなくていいっス!! オレの事より! まず仕事!! レオン! 命懸けの仕事っスよ!」
命懸けと言う単語に反応するレオン。
「おお! 命懸けとは!! 心踊るワードですな! 久々に楽しめそうですね!!」
そう言うとセルイの前に移動し膝を着き、
「セルイ様、私をどうぞお使いください。出来れば殺し合いができると最高なのですが!!」
物騒なワードに、詩音が言う。
「お前の眷属は、皆こんななのか?」
「違うっスよ!? コイツがたまたまこういうヤツってだけ! あと、紹介してなかったけど、コイツはレオンって言うっス。そんで、レオン! こっちの人間は詩音っス! 訳あって今は一緒に行動してる味方っス! わかった!?」
セルイの早口な紹介に、レオンと詩音は顔を見合わせ、
「えっと、詩音だ。よろしく頼む」
「どうも、レオンです。よろしくお嬢様」
ややぎこちない二人を見ながら、
(大丈夫っスかね? この二人)
セルイはそう思ったが、会わせてしまったのだから仕方ないと割り切り、
「二人とも挨拶を終わったっスね? あ、レオンには事情をオレから話すっスから安心して欲しいっス! そんじゃ〜作戦会議開始っス!!」
****
夜になり、地図が書かれていた場所へ向かう。
「ここでいいのか?」
着いた場所は、東部にある港の倉庫の一角だった。
「間違いないっスね。いいっスか? 作戦通りに行くっスよ? レオンは特に!!」
釘を刺されたレオンは、
「了解しましたとも。しかしセルイ様のそのキャラには慣れませんな」
「だからきゃらとはなんだ?」
そんな二人に頭をかくと、
「だーかーらー! オレの事は気にしないでって言ってるっしょ!? ほら、レオンはさっさと行くっス!」
そう言われ、レオンは渋々倉庫へと入って行った。
それを確認すると、セルイがイヤフォンを付け、無線機から指示を出す。
「あーあー、レオン聞こえてるっスか?」
『聞こえています。しかし便利な時代になったものですね。魔法無き今科学の時代ですか。感慨深い』
妙なところで感動するレオンに、セルイは
「呑気な事言ってないで、なにかないっスか?」
『そうですね。あるのは……爆弾程度でしょうか?』
その言葉に、セルイがツッコむ。
『爆弾!? 大事じゃないっスか!! いつ爆発しそうっスか!?』
セルイの言葉にレオンは、
『ええと、あと三十秒程度ですかね? あ、爆発しますね』
その瞬間、倉庫の一角がドゴォンと轟音をたて爆発した。
「のわ!?」
「な!? ばくだんとやらは爆裂魔法のような、恐ろしいものだったのか!」
爆風に驚く詩音を尻目に、セルイが言う。
「相手は殺す気満々だったみたいっスね! オレはともかく、詩音があの場にいたら確実に死んでるっス!」
その言葉にはっ! とした顔をする詩音。
「……もしや、狙いは私の命か?」
「今の段階では何とも言えないっスけどね……。それより、急いでレオンを回収するっスよ! 嫌な予感がするっスから!」
セルイはそう言うと、爆発した倉庫の中へ入って行く。
「レオン! どこっスか!? レオン!!」
そう言うと倉庫の端から、黒焦げになったレオンが現れた。
綺麗な顔や腕は焼け爛れていたが、自己修復が始まったらしく、徐々に元の姿へと戻っていく。
「ああ! 久しぶりの死の感覚!! たまりません!!」
悦びの声をあげながら興奮した様子で言うレオンに、
「全く、これだから死にたがりは嫌なんスよ……。さぁ、行くっスよ!」
そう言われ、久々の死を味わったレオンを連れ詩音の元へ戻る。
「詩音、戻ったっスよ! 詩音?」
そう呼びかけると、詩音が隠れていたコンテナから出で来る。
両手を上げて。
「!? 詩音!?」
詩音の背後から何者かが出てくる。
彼女の頭に銃口を突き付けていたのは、二十代前半の青いロングヘアーに黒のドレスを着た女だった。
「お久しぶりですわね、灰色の王」