出陣
「申し上げます! 氏顕様が数名の兵を連れてお戻りになられました!」
「何? 一人か? 祖父上と父上はどうした?」
「詳細は不明ですが、間もなくこちらに参られるとの事です」
(まさか、御二人の身に何かあった訳ではあるまいな⋯⋯)
清顕は不安に駆られたが、平静を装って待つ事にした。
そこへ氏顕がやって来て、恭しく平伏した。
「殿、善九郎氏顕、只今戻りました」
兄ではなく殿と呼ぶ弟を見て、清顕もそれに習った。
「うむ、大義。 して、祖父上と父上はどうした?」
弟の顔を見据えると、頭を下げたままで語り始めた。
「御二方は敵を追撃なされておいでです。
それについて御言伝がございます」
「申せ」
「はっ。 御二方は敵を包囲しますので、殿には一軍を率いて後詰をお願い申し上げるとの由」
「どう言う事だ? 此度は城を守るのが目的であったはずじゃが。 それが成った今、何故戻って来ないばかりか城を包囲しておるのだ?」
明らかに清顕は立腹している。
無理もない。 当主である己の預かり知らぬ所で事態が動いていたのだから。
「祖父上様の策にございます。
これから些細を説明させていただきます」
「まず、祖父上様は別動隊を動かし、敵の兵糧を奪いました。 その上で包囲に意図的に穴を開けました」
「敵をそちらに追い立て、城に向けて誘導して追い込み、籠城させるとの事です。
なお、この際民兵は極力殺さず追い払い、自分の命を守る場合のみ殺すよう、将は打ち捨てにするように徹底しました」
「敵は兵糧を奪われて備蓄分しか無い上、民まで入城しておりますし、刈り入れも終わっておりますので新たな収穫も無く、圧倒的に食料が足りません。
更に指揮を執る将もいくらかは減るはずですので、敵は烏合の衆に成り下ります」
「大内はどうした?」
清顕が訪ねた。
「行方がわかりません。 討ち死にしたか逃げ去ったかのどちらかと」
「なるほどな。 どちらにせよ、もう戻っては来るまい。
籠城しても食料も無く、援軍も見込めない。 敵の士気は最悪か。
確かに、良い策ではあるが⋯⋯」
「ここまで完璧に引っかかるとはな。 二階堂はうつけの集まりか」
清顕がそう言って笑う。納得して機嫌を直したようだ。
「よし、わかった。
すぐに出よう。 誰かあるか!」
「はっ」
廊下にて控えていた小姓がすぐにやって来た。
「出陣の下知を出せ。 早急にじゃ」
「かしこまりました!」
小姓が駆け足で去って行く。
清顕と氏顕が戦の詳細を話していると、半刻程して準備ができたと知らせが入った。
「城は月斎様と梅月斎様に任せるよう伝えよ。
参るぞ氏顕」
「はい」
「者共、出陣じゃ─!」




