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僕が僕であるために。  作者: 大場夜空
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第十八話 忌まわしき真実



―――蘭渓徹が、本間智恵子の実の父親―――。





本間の告白は、みんなに『青天の霹靂』とも言うべき衝撃を与えた。全員、てんでばらばらに騒ぎ立てる。が、興亜はいたって落ち着いた様子だ。




「和尚は、驚かないんですか?」



 本間も不思議に思ったらしく、興亜に尋ねる。「和尚にも知らせてないのに」



「まぁな。お前の超能力を見る限り、父親か母親がかなり強い持ち主なのかなとは容易に想像できたよ。まさか、蘭渓徹だとは想像に及ばなかったが」



「さすがですね……」



 一時間後。五人のテンションがようやく落ち着いたところで、鳥山が切り出した。



「蘭渓が、本間先生の実父って本当ですか⁉」



「本間っていうのは母方の姓でね、生まれてきたときは、蘭渓智恵子って名前だったの。と言っても物心つく前に離婚してしまったから、私は元から本間智恵子のつもりだけどね」



「それで、父親が蘭渓っていつ知ったんですか?」



「三年前に母親が死んだ時。四十九日が済んだあと、母の身辺整理を行ったの。母は、離婚前の写真を一枚残らず捨てていたんだけど、やっぱり少し気になってね。何も考えずにサイコメトリーをしてしまったのよ。そしたら―――」




「蘭渓、だった……?」




「最初は他人の空似だと思いたかった。でも何度やっても、他人の空似だとは思えなかった。だから、本人に問いただしてみようと思って、彼のもとへテレポートをしたの」



「えぇ!凄い行動力ですね!」



「居ても立っても居られなくてね。我ながら浅はかだとは思ったけど、幸い、うまい具合に大臣室に着いたの。さすがの蘭渓も少し驚いていたようだけど、すぐに私が誰か分かったらしいわ」





*******





『君が―――本間隊員だね?だいぶ大人びたがやはり面影があるよ。で、一体何の用だ?』


『聞きたいことがある。正直に答えて』


『なんだ?』



『あなたは、私の実の父親なの?』



『……』



『答えて!どうなの⁉』



『……君の血液型は、AB型のRhマイナス、だね?』



『ど、どうしてそれを……』



『どうして?答えは簡単。私も、AB型のRhマイナスだからだ』



『じゃ、じゃあ。やはりあなたが……』



『だから何だと言うのだ。養育費はいらないと言ってきたのは、君のお母さんなんだぞ。一切子供に関わってほしくないって……』



『私が実の娘だと知っていて、『特殊能力部門』でこき使ったというのね。あの無謀なアフガニスタン遠征も……』



『例え実娘であろうと、君が『特殊能力部門』Sクラスの人間である以上、当たり前のことをしてもらっただけだ。私情は無用だ』



『そんな……。もしそれで死んだりしたらどうするの!』



『私の知ったことじゃない。自分たちの不注意に過ぎん。それに、『特殊能力部門』は公にはされていないから、一人死んだところで責任を問われることは無い。もう、いいかな?これから大事な会談があるんだ。今日のことは、黙っておいてやるから……』





*******





「私は、本当に悔しかった。何が悔しいって、木野さんたちの死を何とも思っていないってこともそうだけど、あんな奴の血が私の体の中に流れているってことが一番悔しかった」




 ポロポロ涙を流す。「あの時、殺してやろうという感情に襲われた。だけど、あいつからは気配が微塵も感じられなかった。こいつは、自分の気配をも消してしまうほど能力があるんだと気づいた瞬間、素直に立ち去るしか私には選択肢は無かった……」




 沈黙がしばらく続いて、本間のすすり泣きが辺りに響く。



「やっぱり、許せねぇ」小山が絞り出すように言う。「人の命を何だと思っていやがるんだ。人の命を踏み台にして、自分はのうのうと生き続けるなんて……」



「自分の生活や金のためなら、実の娘が死んでも構わないなんて狂っているわよ」



 京田も怒りをあらわにする。「そんな奴が大臣をやっているなんて信じられない!」



「僕らで、蘭渓を何としてでも倒さないと!」



「そうだ鳥山!その通り!」



「でも……そんな敵、一体どうやって倒すの?」

 美菜子が呟く。「私たちの超能力は、微々たるものだし。第一、戦いに使えるかどうか」




「美菜子ちゃんの言う通りよ。だから、あなたたちは余計な心配しないで、私に任せてちょうだい」



「智恵子、儂も手伝うぞ。このまま引き下がれるか!」



「ありがとうございます、和尚。でも、前にも言ったように、これは私と蘭渓の問題でもあります。だから―――」




「智恵子!蘭渓はお前を本気で殺しにきたんだぞ!強情をはるな!今回のことは、お前と蘭渓だけの問題じゃない、儂らと蘭渓の問題なんだ。それに、蘭渓はこの子たちも狙っている。もはや、お前だけの問題だけじゃないんだぞ!」




 興亜がきつい口調で一喝する。「自分中心に考えるな!」



「和尚……」



 あっけに取られた表情を見せる。が、すぐに笑みを見せる。




「―――分かりました。私のケガが完治するまで、この子たちの警護をお願いします」




 時間も遅くなってきたので、ここでお見舞いは終了ということになった。主治医の話では、短くて二週間で退院出来るそうだ。




「でもさ、何で蘭渓は本間先生に血液を提供したんだろう」



 帰り道。良彦が何となしにつぶやく。「話で聞く蘭渓像とは、ちょっとかけ離れているような気がするんだよね」




「そりゃあ、勝者の余裕って奴じゃね?」小山が答える。「そんなに深い意味は無いよ」



「そういうもんかなぁ……」



 首をかしげながら、良彦は道を一歩一歩しっかり歩いて行った。




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