第十九話 挑戦状
次の日。良彦は六時限目の授業が終わると、急いで病院に向かった。蘭渓のことで頭がいっぱいで、パイロキネシスが使えたということを報告し忘れていたのだ。
「それ、本当⁉」
話を聞いた本間は、開口一番そう言った。「確かなの?」
「小山もちゃんと見たって言っています。第一、俺の炎で蘭渓は逃げて行ったんですから。肩から指先まで何かが突き抜けるような感覚の後、炎が発射したんです」
「確かに、それはパイロキネシスの特徴だけど……。しかしまた何で……」
「まぁ、とにかく。一度見てみる必要はあるな」
興亜が話に割って入る。「病室じゃあれだから、外でやろう」
二人は病院に出ると、人気のない廃工場へ向かう。
「よし!じゃあ、蘭渓にやったのと同じように披露してみろ!」
「でも、出来るかな……」
良彦は、右手を広げて前に突き出し精神統一を図る。すると、この前と同じ肩から指先に何かが突き抜けた感じがした―――と思ったら、猛烈な力の炎が掌から発射した。炎はまっすぐ飛んでいき、鉄くずに引火して激しく燃え始めた。興亜が拍手する。
「こりゃあ、凄い!もっと訓練すれば、儂や智恵子並みの力は出せるぞ!」
「本当ですか⁉」
「あぁ。ただ、それだけじゃ蘭渓には勝てんな」
「ど、どういうことですか⁉」
「お前さんの炎は、威力は凄いがスピードに欠ける。儂や智恵子は、威力はそれほどでもないが、どっちかと言うとスピードで補っている部分があったりする。だが、お前さんの威力はピカイチだ。これにスピードを上乗せできたら、さすがの蘭渓もビックリするだろう。さらに、お前さんの独自の色が出せれば文句なしだ。ま、それはさすがに酷だから、今はスピードを磨くことに専念しろ」
「なるほど。それで、スピードを出すには……?」
「よし。儂が教えるのが出来ることは、全て教えてやる」
それから、良彦の猛特訓が始まった。興亜曰く、良彦の炎は大きいが故に重さがあり、早いスピードに乗せるのが容易ではないという。どうしたら早いスピードで出すことが出来るのか。
試行錯誤の結果、炎を出す前に野球ボールを投げる要領で手を動かし、助走をつけることで勢いを出すことにした。事実、そうすることで炎のスピードが格段に速くなった。
「さすが若いだけあって。飲み込みが早いの。大したものじゃ」
「あの、独自の色っていうのは……?」
「普通に炎を出していたんじゃ、相手に技を見破られ、かわされてしまう。そこで、相手の不意をつくような変化球を出すんじゃ。例えば―――」
興亜が人差し指を突き出し、炎を一直線に出した―――と思ったら二手に分かれて一つは上から、もう一つは下から迫ってきた。
「これが、儂が考案した『挟撃』という技じゃ。智恵子もこういう変化球は持っているはずだが、多くの力を消耗するからといって滅多に使わん」
「へぇ~。どうやったら、そんなことが出来るんですか?」
「自分で、こういうのをしたいと頭の中で考えて、その通りになれる様何度も練習することだな。それ以外に方法は無い。長い作業だから、根気が肝心だぞ」
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それから二週間が経ち、本間の退院が正式に決まった。
「驚異的な回復力ですよ。普通だったら、こう簡単にいきません」
主治医が興奮した口調で説明する。「まるで不思議な力が宿っているみたいです」
「そ、それは良かった……」
だが、不思議なことに、蘭渓はこの二週間一度も攻撃を仕掛けてこなかった。まるで、ケガの回復を待つかのように。
「勝者の優越って奴でしょ?」吐き捨てるように言う本間。「一応、あいつも大臣だからそんなに暇じゃないだろうし」
「またいつ襲ってくるか分からないからのぅ。それに、蘭渓がなんでこの子たちを狙っておるのか、皆目見当がつかん」
「そうね。蘭渓のことだから考えがありそうだけど、いったい何を企んでいるのかしら」
多くの不安要素を残しながら、本間は病院を後にする。入り口を出ると、良彦たちが見送りに来てくれた。
「先生、退院おめでとうございます!」
「ありがとう。医者なのに入院だなんて、示しがつかないけど」
少し目を潤ませる本間。「心配かけて……」
「何泣いているの!勝負はこれから!」
「蘭渓の泣き顔を拝むまでは、死んでも負けねぇ!」
「そうよ!徹底的に戦いましょう!」
「おー!」
みんなが一致団結したそのとき、本間のケータイが鳴り響いた。恐る恐る出てみる。
「も、もしもし?」
『やぁ。退院したそうで、ご挨拶をと思ってね』
声の主は、まぎれもない。蘭渓本人だ。
「いったい何の用よ」
『まぁ、そういきりたつな。君に、最高のプレゼントを用意したから』
「プレゼント⁉」
『そうだ。今夜のニュースを見てくれ。おそらくトップニュースとして報じられるだろうから……』
「どういうことよ⁉」
『だから、ほんのプレゼントさ。ま、挑戦状と受け取ってもいいが、な。それでは―――」
それだけ言うと、蘭渓は一方的に電話を切った。困惑する本間。良彦たちが心配そうに声をかける。
「蘭渓からの電話?」
「向こうは何だって?」
「今夜のニュースを見ろ、って。それがプレゼントだし、挑戦状でもあるって」
「どういうこっちゃ?ま、蘭渓のことだから何か考えがありそうだな……」
「とにかく、ニュースを見てみることにしましょう」
ということで、みんなは本間の病院に戻って、そこのテレビでニュースを見ることにする。
「トップニュースって、いったい……」
午後七時。ニュース番組が始まる。だが、画面に映ったアナウンサーの顔はいつもの明るいそれとは違い、こわばっている。
『本日は予定を変更してお伝えします。巨大大津波がブラジルを襲い、現地は大変な被害となっております。現地時間の本日午前四時ごろ、突如謎の巨大大津波がブラジル全土を覆いました。近くに地震の情報は無く、なぜ大津波が発生したのか分かっていません。この大津波によって、ブラジル全世帯で避難勧告が出ております。現地の日本大使館によりますと、この大津波による現地の日本人の死者・行方不明者の数は依然として把握できておりません。被害者の数は今後も増え続けることが予想されます。繰り返し、お伝えします……』
「やだ……なにこれ……」
「大災害じゃないか。国全体に避難勧告って、国を捨てろ、って言っているのと同じだよ」
「悪夢だ……。でも、これと蘭渓が言っていたことと、何の関係があるの?」
「これじゃ無いんじゃない?」
「いや。今日のニュースは全部の時間、このブラジルも災害について報じるから、たぶんこれで合っていると思う、けど……。このニュースが一体何だって言うんだ?」
みんな黙り込んでしまう。が、興亜は何か心当たりがあるらしく顔を少し曇らせている。
「興亜和尚、何か考えでも?」
「うん?あぁ……。しかし、あまりに非現実的だし、成功したという報告も聞いたことがないし……」
「お願いします」
「うん……。儂が考えたのは、拳に力を思い切り送り込んで、それを地面に何度も叩きつけることで、力を日本の裏側に送り込むってやつじゃ。地面に送った力は、途中のマントルなどのエネルギーを浴びて強大になり、何十億倍の力となって裏側に噴出する。『仙渡波』と言って古くから伝わる奥義の一つなのだが、いかんせんパワーをかなり消耗するので、難なく使いこなせるという人物に、儂は会ったことがない。もちろん、儂や本間もそんな大技は使えない。だが、蘭渓の場合となると……」
言葉を切る。「蘭渓なら、もしかしたら出来るかもしれない」
「まさか……。和尚、本気で言っているんですか?」
「智恵子。あいつのことは、お前がよく知っているはずだ。あいつなら、『仙度波』の一つや二つ習得しても不思議じゃないだろう」
「それはそうですけど……」
二人の会話を遮るように、再び電話が鳴り始めた。反射的に受話器を取る本間。
『やぁ。プレゼントは受け取ってもらえたかな?』
「蘭渓!あなた、『仙度波』を使ったの⁉」
『何、軽く地面を二・三度突いただけさ。もし日本の裏側がもろブラジルだったら、大津波じゃなくて大地震だったかもしれないなぁ』
「ふざけないで‼何の罪のない人々をあなたは殺したのよ‼」
『もちろん、防衛省も自衛隊を派遣して力の限り復興に向けて協力するつもりだ。二十三時くらいに会見があるから、そちらもあわせて見てくれ』
「何が協力よ!いったいどういうつもり⁉」
『だから言っただろう。これは挑戦状でもあるって。では、私は会見の準備があるので』
再び一方的に電話を切られる。じっと電話を眺めていた本間は、叩きつけるように勢いよく受話器を置いた。「あの男……絶対に許さない……」
「蘭渓の言った挑戦状というのは、やはりこのことだったのか……。おそらく、やつはこう伝えたかったのだろう。『自分は本気を出せば、国一つ滅ぼす真似も可能だ』と……」
興亜がしみじみ言う。「全く、恐ろしいやつだ。悪魔だ」
「上等じゃない。これ以上の横暴は許せないわ!」
「今度ばかりは、本当に危ない。お前たちは、待機だ!」
興亜が良彦たちに告げる。「蘭渓がお前たちを狙っているのなら尚更だ。最悪、命を落とすことになるぞ!」
「なーに、言っているの?」小山が反発する。「むしろ、俺らが囮になって蘭渓をおびき寄せて、とどめさせばいいんじゃないの?」
「そんな危ないことができるか!」
「そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ」
鳥山も反論する。「もし、和尚も先生もいなくなったら、いったい誰が僕らの治療をするというのですか?」
「そ、それは……」
「だからさ、みんなで力を合わせれば!百人寄ればなんとやら!」
「賛成!」
「一丸となってがんばりましょう!」
良彦・京田・美菜子も賛同する。
「全くお前らは……どこまで頑固なんだか……」
興亜と本間は、顔を見合わせるとフッと互いに笑いあった。




