第十七話 衝撃
救急車に運ばれた本間は重体だった。駆けつけた救急隊員は、一目見て「これは―――」と声を失った。
救急車は市内の大学病院に到着し、急いで手術室に担ぎ込まれる。
「狛!小山!」
手術室の前で待っている二人の前に、知らせを受けた鳥山・京田・興亜が走って来る。
「本間先生は?」
「厳しい状況らしい。出血が酷かったから……」
「すまん!」興亜が土下座をする。「儂がいながらこんなことになって……」
「和尚のせいじゃないですよ」
「蘭渓の気配を察することが出来なかったばかりに……。本当にすまん!」
「顔を上げてください。それより……気配って?」
「超能力者は普通の人間が発しない『気配』を発しているのだ。力が強ければ強いほど、その気配も強くなるんだ。昨日の勝又も、気配を察知できたから現場に行くことが出来た。だが、どうやら蘭渓は自分の気配をもコントロールしてしまうらしい……」
「そんな……」
黙り込む五人。重い空気が辺りを包み込む。
六時間後。手術中のランプが消え、執刀医が中から出てきた。
「先生、智恵子は?」興亜が尋ねる。
「幸いにも急所は外れていたので、一命は取りとめました。ですが、大量の出血で体内の血液が不足していて、輸血の必要があります。ただ―――」
言葉を切る執刀医。「ただ、患者さんの血液型はAB型のRhマイナスという、非常に少ない型なのです。大抵の人間の血液は、Rhプラスなんですが……。一応、皆さんの血液も採取して調べてみますが、見込みは薄いですね―――」
「血液バンクには、その、Rhマイナスの血液って無いのですか?」
「一応問い合わせてみますが、期待はしないほうがいいです」
「あの、もし、血液が手に入らなかったら―――」京田が質問する。「血液が手に入らなかったら、本間先生はどうなるんですか?」
「……最悪の事態を想定しなくてはなりません。今後三日間が勝負になるでしょう」
それだけ言うと、執刀医は頭を下げてその場を去っていった。
その後、知らせを聞いて番組収録後に駆けつけた美菜子を加えた六人は血液検査を受けた。結果は全員、Rhプラスだった。
「これで、他人のAB型Rhマイナスの血液を待たなくてはいけないのか……」
興亜がため息を漏らす。「三日で見つけられるだろうか」
「和尚の超能力で治すって出来ないんですか?」
「前にも本間さん言っていただろ。ヒーリングは空想だって」
「あ、そうか。くっそ……」
次の日、四人はそれぞれの学校でAB型の子を中心に血液提供を呼びかけることにした。賛同してくれる子は多かったが、Rhマイナスの持ち主はいなかった。美菜子も、共演者や事務所の先輩・後輩に呼びかけたが、良い結果は出なかった。
そして、あっという間に三日が過ぎてしまった。
「今晩が峠です。それまでに、Rhマイナスが見つかるかどうか―――」
主治医が難しい声で、待合室にいる六人を前にして話す。「我々も今、あちこちの医療機関に問い合わせています。何とか見つかればいいのですが―――」
主治医が席を外した後、重苦しい空気となる。
「本間さん……どうなるのかな……」
「きっと、助かるよ!」小山が無理に明るい声を出すが、それも虚しく響き渡るだけだ。
無言のまま、二時間が経過した。少しずつ、悪い空気が漂い始めた時、主治医がバタバタと部屋に入ってきた。
「見つかりました!」
一瞬、全員何を言っているのか理解できなかった。
「AB型Rhマイナスの血液が見つかったんです!ついさっき、スーツを着た男性二人が持ってきてくれたのです!」
「ほ、ほ、本当ですか⁉」
「はい!すぐにオペにうつります!」
一同に一筋の光が見えた気がした。だが、そこからがまた長かった。手術に成功しないと意味がないからだ。六人は、ひたすら祈った。
三時間後。オペ室から出てきた主治医は、一言、「成功です」とだけ言った。全員、ほっとして床にへたり込んでしまった。
「もう、大丈夫です。今は麻酔で寝ていますが、明日になったら目を覚ますでしょう」
「はぁ……本当に良かった!その、血液提供者にお礼を言わんとな。名前は、何と言っていましたか?」
「それが、名前を名乗らずに去ってしまって―――」
「そうですか……それは残念だな……」
その後、付き添いは興亜がすることになり、五人は帰ることとなった。
「それにしても本当良かったわ」
美菜子が安堵しながら言う。「血液が見つからなかったら、どうしようと思っちゃった」
「俺も。まさに逆転ホームランだったな」
小山が相槌を打つ。「ホント、提供してくれた人に感謝しないと!」
「でも、誰なんだろう。提供者って。どうして名前を名乗らなかったんだろ?」
「あしながおじさんみたいな感じかしら?」
「狛、お前透視で見てみろよ」
「あ、うん……」
良彦は目をつぶって精神を集中する。脳に、ぼんやりとスーツを着た男二人の顔が浮かんだ。一人は柴田恭兵似、もう一人は舘ひろし似の男だ。
「うーん。顔は分かったけど、それがどこの誰かまではちょっと―――」
「そうか。せめて、名前が分かればなぁ……」
******
次の日。良彦は授業が終わった後、すぐに病院に直行した。昼休みに興亜から、本間が目を覚ましたと連絡があったからだ。道を急いでいたら、美菜子の乗った車とすれ違ったので乗せてもらった。
病院に着くと、すでに残りの三人は先に着いていた。
「悪い!遅くなった」
「こ、狛!お前、どうして美菜子と!」
小山が動揺する。「まさか、一緒に来たとか!」
「うん……まぁ」
「この野郎!」
「やめなさい」京田が諌める。「そんなことやっている場合じゃないでしょ。さ、早く本間先生の元へ行きましょう」
病室に行くと、本間は体を起こして興亜と談笑していた。が、良彦たちに気が付くと話を止めて「あら、みんな」と手招きしてくれた。
「ごめんなさい、迷惑かけて」
「そんな……、本当に助かってよかったです!血液を提供してくれた人に感謝ですよ!」
「血液?」キョトンとする本間。興亜が説明する。
「お前さんは、出血多量で輸血が必要だったんじゃが、Rhマイナスという珍しい型じゃろう?なかなか見つかんなくってのぅ。でも、男性二人が持ってきてくれたんじゃ」
「男性、二人?」
「えぇ。透視して見てみたら、あぶない刑事風の野郎でしたよ」
「―――ひょっとして、こいつら、じゃない?」
本間が、スマホを取り出して一枚の写真を良彦に提示する。写真の中の男二人は、透視で見たのと全く同じだった。
「まさに、この人たちですよ!本間先生、知り合いだったんで―――」
「チクショウ!」
最初、このセリフが、本間の口から発せられたものだとは、誰もわからなかった。それくらい唐突で、みんな戸惑ったからだ。
「変な同情しやがって……クソッ……」
涙を流しながら拳をギュッと握りしめる。爪が本間の皮膚に食い込む。
「ほ、本間さん……。誰なんですか、こいつら……」
「―――蘭渓の、蘭渓の部下よ。名前は確か、服部と横島……。そしておそらく、この血液の主は、蘭渓よ」
「ら、蘭渓が⁉でも何で敵に塩を送るような真似を……」
本間はしばらく口を閉ざすが、すぐにフッと息を吐くと「これ以上の隠し立ては無理なようね」と言った。
「動揺されたくないから黙っていたんだけど、みんなに本当のことを話すわ。実は、蘭渓徹は、私の―――私の実の父親なの」




