第十四話 かつての仲間
その後、良彦たちは一緒にご飯を食べてから、各々家へ戻った。四人とも、そろそろテストが近いので勉強にシフトしていかないと、進学に影響が出てくる。
「ええっと、水と酸素で過酸化水素……。水素と酸素で水……。うーん、覚えられない!」
夜中。暗記ノートと睨めっこしながら、良彦が唸る。文系脳の良彦にとって、化学・物理・生物は敵だ。
「こんな調子で、テスト大丈夫かなぁ……」
散々悩んだ挙句、「本番になったら天才になっているかもしれない」という幻想を抱いて寝ることにした。透視は治療したばかりなので使うことは出来ない。
「ったく、化学なんてこの世からなくなればいいのに……」
ぶつくさ言いながら風呂に入る準備をしていると、ケータイにメールが入っていることに気が付いた。見ると、小山からだ。
『問題で分からないのがあったのかな?それなら鳥山とか京田とかに聞けばいいものを』
メールボックスを開いて見てみる。
『敵が現れた!モータウン公園にすぐに来てくれ!』
「何だって!」
急いで身支度をして外に出る。もたつきながらも先を急ぐ。
『みんな……無事でいてくれ……』
公園に着くと、人ひとりもおらず静まり返っている。
『終わった後……なのか?』
「あれぇ。狛じゃないか」
突如後ろから声を掛けられる。鳥山だ。「どうしたんだよ」
「いや……お前こそどうしたんだよ」
「京田に呼び出されて。なんか、敵がいるって」
「えっ?俺も小山から……」
「お、お二人さん」
小山が昼間の恰好で近づいてくる。「どったの?」
「どったのって、お前が呼び出したんだろうが!敵がいるって」
「あぁん?俺そんなの送ってないぜ。てか、鳥山。呼び出すほどの用ってなんだよ!」
「ぼ、僕はそんなメール送っていない!」
「あら、みんな」
言い争いをしている三人の前に京田が現れた。「どうしたの?」
「どうしたって、京田、お前は?」
「私は狛くんに呼び出されて来たんだけど……」
「お、送ってないよ!俺は!」
「????」
はてなマークが四人の頭に浮かぶ。が、四人同時にある恐ろしい結論に至る。
「なぁ、これって……」
「もしかして……」
「……罠?」
「その通り!」
木の上から大きな声が聞こえる。「君たちはまんまと私の罠に嵌ったのさ!」
「誰だ!」
木から素早く地面に着地する。月に照らされて顔がハッキリ見える。鳥山と京田が反応を示す。
「あ、あんた!興亜和尚の寺に現れた!」
「あの時は邪魔が入ってしまった。だが今日は大丈夫。心置きなく攻撃することが出来る」
「そうはさせないわ!」
「……何⁉」
男が後ろに視線を走らせる。本間と興亜が自転車で颯爽と登場する。
「その子たちから離れなさい!」
「ど、どうしてこんなに早く……」
「儂らを舐めてはアカンで!」
動揺する男。だが、フッと息を吐くと「昔から変わっていませんね」と言いだした。
「その正義感の塊みたいなの、ホント、変わっていない」
「……?何を言っているの」
「僕ですよ。本間先輩」
本間は、男の顔をジッと見つめる。そして目をカッと見開いて、「勝又くん……?」と声を絞り出した。
「勝又くん……なの?」
「お久しぶりです。おかげ様で、Aランクになりました」
「智恵子、誰なんじゃ?」興亜が尋ねる。
「自衛隊にいた時の後輩……。私を……よく頼りにしてくれていた……子」
「な、何だって⁉」
五人は驚きの声を上げる。「本間さんの、知り合い⁉」
「どうして……」
「大臣から命令されたんで、やるまでです!」
本間は、勝又の目をジッと見る。「混濁した目……。やっぱり操られている!勝又くん、目を覚まして!あなたは騙されているのよ!」
本間が必死に叫ぶ。だが、勝又は顔色一つ変えない。
「先輩。先輩が部隊を脱退したと聞いた時、正直失望しました。脱走者が出ること自体前代未聞だったし、さらにそれが本間先輩だと聞いて、もっと驚きでした。全ての超能力を操ることが出来て、最速でSランクに昇格した先輩は、当時Cランクだった俺にとって憧れの的でした。その先輩が……まさか裏切り行為するなんて……」
「う、裏切り……?」良彦が引っ掛かりを覚える。すかさず鳥山がフォローする。
「おそらく蘭渓がデマを吹聴したんだ。本当のことを言うわけにはいかないからな……」
「そ、そんな……」
勝又は続ける。
「こうしてまた、先輩と出会えたのも何かの運命。もう、あの頃の自分ではありません。いざ、勝負!」
「勝又くん!やめて!」
本間の制止を聞かず、勝又はパイロキネシスを発射する。が、興亜がこれに応戦する。二つの炎は同時に衝突して拮抗する。
「智恵子!何をしておる!」
「和尚、その子にケガをさせないで!」
「何を言っておる!この子は操られているんだぞ!早く……」
互いの炎が同時に消える。勝又は間髪入れず次の炎を発射させた。
「くっ。これじゃあ、体がいくつあっても足りんわい。智恵子、早くこいつを……」
「で、でも……」
「子供たちを守るんじゃあ、ないのか⁉」
次の瞬間、興亜が勝又の炎に弾き飛ばされてしまった。スキを突かれたらしい。後方十メートル付近のところで尻餅をついて着地する。
「和尚!」
四人が興亜の元へ駆け寄る。「大丈夫ですか⁉」
「儂は大丈夫じゃ……」
それでも痛そうに顔をしかめる。「ったく、智恵子は何を躊躇しておる!」
本間はジッと下を向いている。だが、改めて勝又に向き直ると、右手を広げてパイロキネシスを発射する。その威力は凄まじく、勝又の比ではない。
『勝又くん!お願い!目を覚まして!』
勝又も慌てて力の限り炎を出す。二つの炎は互いにぶつかり合って、譲らない。
「さすが先輩。でも、僕だって負けませんよ!」
「お願い……。もう、やめて……」
この状態が三十分続く。だが、炎の威力はどちらも弱まらない。
「さすが智恵子じゃ……」
「興亜和尚、援護射撃しないんですか?」
「智恵子が言ったじゃないか。これは私の問題じゃと。水を差すような真似はせん」
「でも、このままじゃ……」
不安そうに本間を見つめる四人。そこからさらに三十分が経過する。
先に攻撃を仕掛けてきたのは、勝又だった。
「これでも食らいやがれ!」
空いた手でもう一発炎を発射する。炎はまるで生きているように動き、本間めがけて飛んでくる。
だが、本間のほうが一枚上手だった。
炎は本間の直前で突然跡形もなく消えてしまった。
「な、何……⁉」
焦りの表情を見せる勝又。「ど、どこに消えてしま……」
セリフが言い終わるか終わらないかのうちに、突如炎が勝又を包み込んだ。苦悶の叫び声が辺りに響く。
「ど、どういうこと……?」
四人も状況を理解できない。だが、興亜は一人分かったといった表情を浮かべる。
「和尚、何が起こったのですか?」
「放たれた炎を、あいつの背後にテレポートさせたんだ。凄い技だ。儂でも、あんな芸当は出来ん」
本間は急いで消火を施す。勝又はその場に倒れてしまった。
「勝又くん、勝又くん!」
本間の必死の問いかけに、うっすらと目を開ける。
「良かった……。気が付いたのね。すぐに、医者を呼ぶわ!」
「いえ……いいっす。そんなことしたら、みんなに迷惑をかけてしまう……」
「何言っているの!本当に死んじゃうわよ!」
「負けたとわかったら、すぐに救護班が来るはずです……。だから、このままそっとしておいてください……」
「勝又くん……」
「先輩……。本当は……もう一度会えて……良かった……」
途切れ途切れにそう言うと、勝又は再び瞼を閉じてしまった。気絶したらしい。
本間はしばらく勝又の顔を見つめていたが、やがて吹っ切れたように立ち上がると、四人に向かって「行きましょう」と声を掛けた。
「えっ、いいんですか……?」
「迎えが来るって言っているのなら、いいんじゃない?さ、送っていくわ。興亜和尚もお手伝いお願いします」
「やれやれ。人使い荒いんだから……」
結局、本間は京田と小山を、興亜は良彦と鳥山を送っていくことになった。
「なぁ、狛」歩きながら、鳥山が良彦に呼びかける。「本間先生と勝又って、本当に頼れる先輩と可愛い後輩って関係だけだったのかな?」
「……どういうこと?」
「例えば―――その、恋人同士だった、みたいな……」
「そればかりは、分からんのう」
興亜が口を挟む。「一つだけわかるのは、今回の敵は智恵子にとって、ある意味強敵だったってことじゃろ」
そう言うと、興亜は「カッカッカ」と高笑いした。




